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小さな騎士

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「ダメです!」


勢いよく駆けてきたルシアンが、レティシアの前に立って対峙していたヴィンセントに向かって、大きく手を広げ唇をへの字に曲げ、精一杯の虚勢を張って見せた。


「お義姉様はお妃様にはなりません!たとえ王子様でもお義姉様はあげません!」


レティシアは驚いて目を見開いていたが、次第に頬が緩んだ。怖いのだろう。大きく伸ばした腕の手先がほんのちょっと震えている、後ろ姿で見えないが、きっと泣くのを我慢してる。そう思うとルシアンが可愛くてしょうがなかった。後ろからそっとルシアンを抱きしめる。


「お義姉・・・様?」

「私には騎士様が二人もいたのね。ありがとうルシアン」


レティシアはニッコリ微笑むとルシアンの頭を撫でた。


「お前は・・・ウィルフレッドの弟か・・・大きくなったな」

「殿下、お義姉様はあげません。もちろん兄上のお嫁さんになるからですが、僕のお義姉様でもあるんです。だからあげません!」

「ルシアン、ありがとう。とっても心強いわ」


レティシアは抱きしめる手を緩めると、
ルシアンの身体を自身に向ける。そして、再度抱きしめ直した。


「・・・うっ・・・ひっく・・・」

「怖かったわね。でも、ありがとう。嬉しかったわルシアン」


レティシアは胸に顔を埋めながら、泣き出したルシアンの頭をそっと撫でた。


「シア!・・・って、なんでルシアンが抱きしめられているんだ!!」


慌てて駆けつけたのだろう、肩で息をするウィルフレッドが部屋の入り口に立っていた。


「あら?ウィル、早かったのね?」

「あぁ、ちょっと、抜け出してきたんだ・・・ってそうじゃなくてっ!何故ルシアンを抱きしめているんだ!?羨ましすぎるだろうが!」

「あぁ、もっともだ。私も羨ましい」

「殿下は黙っていてください!」

「なっ!?」

「ウィル、褒めることはあっても、ルシアンを怒ることはないと思うわよ?」

「どういう事だ?」

「小さな騎士様が、攫いにきた王子様から守ってくれたんですもの。怖かったと思うわよ?こんなに震えて。でも、果敢に立ち向かってくれたわ」

「・・・そう・・・だったのか。ルシアン、すまん」


ウィルフレッドは申し訳なさそうな表情になった。だが、すぐにその表情は変化する。


「それはそうと、殿下、どういうおつもりです、こんなところまで押しかけて」

「・・・お前達の結婚式をどうにか阻止できないかと・・・」

「まだ、シアの事諦めてなかったんですか・・・」

「諦め切れるはずがないだろう・・・俺に擦り寄って媚を売ってこない女など初めてだったんだ・・・悪いところは悪いと言ってくれる・・・初めてだったんだ・・・」


ヴィンセントは静かに項垂れていた。








ーーーーーーーーーーーーーー

次回

殿下、先ほどの質問に答えますわ




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