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そのあとは【国王レオナルド】
しおりを挟む「・・・クリスティア・・・」
国王であるレオナルドは、王宮の裏に位置する静かな庭に佇んで、一人の女性を想い出していた。クリーム色の髪をした、とても愛らしい女性だ。
昨夜の夜会で、娘である王女ミシェリアが罪を犯した
人を害なしたり、命を奪ったりという事ではないが・・・
あまりにも欲にまみれていた
幽閉されている元王妃のカサンドラにそっくりだ
さすがは娘といった所か
ミシェリアはちっとも私に似ていない
似るはずもないのだ
私の子ではないからな・・・
カサンドラにちっとも情がなかったわけではない
愛する女、クリスティアが亡くなってから、妃を娶れと前王である父上に急かされた
妃など娶るつもりもなかった
クリスティア以外など愛せる気がしなかったからだ
輿入れしてきたカサンドラには、ちっとも興味がわかなかった
だが、必死になって短期間で王子妃教育をこなしてみせた
もしかすると、私を愛してくれている故かと自惚れるほどには感心した
それから義務的ではあるが、婚約者として過ごし、結婚し夫婦になった
カサンドラとの初夜は・・・決して良いとは言えなかった
義務だから
仕方がないからと自分に言い聞かせた
これがクリスティアだったら、どれほど良かっただろうか
そんな事を思いながら閨を行っていたものだ・・・
「あれからもう・・・20年以上経つのだな・・・今でもクリスティアの笑顔が脳裏に浮かぶよ・・・」
庭には小さな池がある
ここは、クリスティアと逢瀬を重ねた思い出の場所
誰からも穢されたくなくて、カサンドラを連れてきた事も、ましてや子ども達も使用人も立ち入らせない
クリスティアが生きていた時からこの庭を手入れしている老齢の庭師のみだ
「クリスティア・・・私は頑張ったよな?これまで・・・耐えたよ?」
その言葉に風が応えるように頬を撫でていく
「・・・褒めてくれているのか?」
だが、風は何も応えない
「・・・クリスティア・・・私もそちらに行きたいな・・・」
それまで静かだった風が、突然向かい風となってレオナルドに向かって吹いた
「・・・そうか・・・まだ来るなと言っているのか?でも、ずっと先にそちらに行くことになれば、私はおじさんになってしまうぞ?もうすでにおじさんか・・・そちらに行く頃にはお爺さんだな・・・」
ふっと、何もない空虚に笑顔を向けるレオナルド
「君に拒まれたら、私はそちらにも行けないのか・・・仕方ない・・・この命が尽きるまで、君と共に生きるはずだったこの国を、良くすると誓うよ・・・」
そう言葉を残してレオナルドは踵を返し、静かに去っていった
ーーーーーーーーーーーーーーー
次回
これ以上可愛くなってどうするつもりだい?
僕を困らせたいのかな?
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