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不躾な視線

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姉マリーリアは、アルベルトに支えられ去っていった。姉の素直になれない所も含めてアルベルトが愛してくれているのだと思うと嬉しくなる。ふとウィルフレッドを見ると、何かを気にしている様子だった。


「ウィル、どうしたの?まだ令息達の視線が気になってるの?」

「・・・それの方がまだいいな」

「?」


第二王子アルベルトと、レティシアの姉マリーリアが仲睦まじい姿を見せる中、ウィルフレッドは誰かの視線に気付いていた。不躾で敵意を含んだ視線だ。近衛騎士の騎士団長として普段から王族や要人の警護なども行う。気配や視線など、普段から察知するのに長けている。それゆえに、素人の気配など容易く気付ける。その視線の相手は、そんな事を知るよしもなく。


「シア、俺から離れるな」

「離れないと相手も攻撃の隙がなくなるわ」

「・・・不本意だが仕方ないか・・・だが、できるだけ危険な事はするんじゃないぞ?」

「わかってるわ」


そこへ近衛騎士、副騎士団長のレイバンが近寄ってくる。


「団長」

「あぁ」


レイバンはウィルフレッドの目を見据え、口を開く。


「陛下がお呼びです」

「そうか・・・シア、ちょっと離れるぞ。気をつけるんだ」

「えぇ」

「レイバン、頼んだ」

「はい、承知しました」


ウィルフレッドは、表情を引き締めると、レティシアとレイバンの元を離れた。


「副騎士団長、付き合わせてしまって申し訳ありません」

「いいえ、これも膿を出すためです。自分の欲だけで他人を駒のように使ってはなりません。そんな人間が、王家の一端を担っているなどと嘆かわしいものです。近衛騎士の仕事かと言われると・・・範疇ではないのかもしれませんが、全てはお二人の幸せのためですよ」

「ご協力感謝します」


そして2人はフロアを進み、壁際へと寄った。レイバンはそっと距離をとる。それを見計らうように1人の令息が近付いてくる。


「ベルモンド辺境伯令嬢、お一人などと珍しいですね。よければ私と一曲いかがでしょう?」

「申し訳ありませんが、婚約者ともまだ踊っておりませんので、ご遠慮させて頂きますわ」

「そうですか、それは残念。普段はアバンス団長が番犬のように側にいらっしゃるから、中々誘えないもので・・・チャンスかと思ったのですがね?ダンスがダメなら休憩室でお話しでもしませんか?」

「それもご遠慮しますわ。こちらで待っていると伝えているものですから」

「・・・つれないなぁ・・・」


令息はレティシアの髪を一束掴む。


「結婚したらこんな事許されないんです。一時の夢を見せてはくれませんか?」

「その辺にしておいたら?」


中々引き下がらない令息の背後から、不躾な視線の相手が、敵意を隠し静かに現れた。




ーーーーーーーーーーーーー

次回

たったそれだけで酔ってしまったのかしら?随分と弱いのね。





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