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いつも通りではない朝
しおりを挟むそして翌朝、眠りから覚めたレティシアは、ウィルフレッドを起こしてしまわないように、腕からそっと抜け出し、屋敷の調理場にいた。朝食を準備するコックやメイドに混じって、お弁当を準備していた。後は何が必要かなどと考えていると、外が急に騒がしくなった。何かあったのかと、気になり廊下に出てみると、勢いよく何かが胸に飛び込んできて、そのまま床に押し倒されてしまった。
「いったぁぃ・・・?」
「・・・しあぁぁ・・・いなぐっ、なったがどっ・・・思っだぁぁ!!かっでに・・・いなぐっ・・・なるなっ!」
嗚咽を漏らしながら、ぎゅうぎゅうと抱きついてきて、ウィルフレッドが胸に顔を押し付けている。
「ウィル?・・・おはよう?」
「・・・おは、よう・・・うっ、ぐすっ・・・」
「いなくなってないわ?屋敷からは出てないもの」
「でもっ!起きたらっ、目が覚めたらっ、シアが・・・いなかったぁぁぁっ!・・・うぁぁぁんっ!!」
まるで身体だけ大きな子どもだ。使用人達も何が起きているんだと驚いている。普段レティシアは、ウィルフレッドが離すまで寝台から出ることはない。なので、目が覚めて、目の前にレティシアがいない事に気付くと、ウィルフレッドは寝台から転げるように飛び起きたまま、屋敷中を探し回っていたのだ。
「なんで・・・先に起きたんだ?」
「お弁当用意してたの」
「弁当?・・・あぁ・・・そうか」
「もう、何を心配しているの?」
「・・・だって・・・シアが俺の嫁になるのが嫌で・・・出て行ったのかと・・・思った・・・」
「何でそうなるのよ・・・」
「・・・昨日あんな事したから」
「あんな事?」
「・・・勝手にシアの」
昨晩の事を思い出し、レティシアは顔を真っ赤に染める。それと同時に、ウィルフレッドが、昨晩の事を口に出そうとしているのに気付く。周りには不思議そうな顔で状況を見守っていた使用人達がいる。
「き、気にしてないから!いいの!全然大丈夫だから!ね?ウィル?大丈夫よ?」
「本当・・・か?」
早口で捲し立て、言葉を遮ったレティシアを、涙目でウィルフレッドが見上げてくる。
「えぇ、大丈夫・・・それに、私の帰る家はここで、帰る場所はウィルの腕の中なんでしょう?勝手に追い出さないでくれるかしら?」
「・・・もう離さない・・・」
「離れるつもりもないわ」
見守っていた使用人達も安堵の表情へと変わった。長年見てきた公爵家の跡取り。騎士団長も務める聡明な子息が、ここまで一人の女性に弱い姿を曝け出し、さらには甘え倒している。こんな姿を見るような事が起きるなど思ってもみなかった。しかし、裏を返せば、弱音を吐くことができない環境で育ってきたウィルフレッドに、癒しを与えてくれ、さらには情けない姿を晒そうとも、甘えさせてくれる存在ができた事を、使用人一同あたたかな目で見守っていた。レティシアの存在は公爵家の人々にも、使用人達にも慕われ歓迎をされていた。
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次回
遠慮しないって言っただろう?遠慮してたら、求めてくれないって俺の愛しい婚約者がむくれてしまうからな
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