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消えた女神
しおりを挟むレティシアは、寝息を立て始めた騎士の様子をしばらく伺っていた。
「勃たなくなったわね・・・もう、大丈夫かしら。目が覚めて再度したくなっても、自制が効く程度には薄れていると思うけど・・・あなたも可哀想ね・・・そうんな綺麗な顔しているだけで被害にあってしまうものね・・・」
レティシアはもう一枚あった綺麗なハンカチで騎士の額の汗を拭き、服を整え静かに部屋を出て行った。騎士の手元にはレティシアのハンカチが落ちていた。
「・・・ん・・・はっ!・・・彼女は!?・・・いない・・・」
騎士は目を覚ますと、夢であったのだろうかと思ったが、その考えはすぐに否定された。手元にハンカチが落ちていたのだ。レティシアが最後に汗を拭いた際に置き忘れたハンカチ。
「これは・・・彼女のハンカチ・・・」
騎士は身なりを確認すると、勢いよく部屋を飛び出した。夜会の会場であるホールに行き、彼女の姿を探すが見つからない。
「アバンス団長様、警備の方はお手すきですの?よかったら、二人きりでお話がしたいですわ」
真っ赤なドレスの女性が声をかけてきた。
「人探しをしている最中で、失礼する」
去っていく背中を見つめ、ぼそっと呟いた。
「媚薬・・・効かなかったのかしら?」
アバンス団長と呼ばれたこの男は、この国の近衛騎士団の騎士団長、ウィルフレッド・アバンスその人だ。筆頭公爵家の嫡男でもある。
ウィルフレッドは、庭園や王宮の中、馬車を停めてあるエリアもくまなく探すが、レティシアを見つける事はできなかった。手に握りしめていたハンカチを広げてみるも、手がかりになりそうなものはない。暗がりでしか見ていないレティシアの姿はぼんやりとしか思い出せなかったが、銀の髪とアメジストのような紫の瞳はしっかりと脳裏にやきついていた。
「せめて・・・名前を聞けばよかった・・・」
ウィルフレッドは盛大に後悔していた。このままでは名前も知らない令嬢に、ただただ奉仕してもらっただけ。彼女に対して無理に何かをしたわけでもないが、誰にも知られることのないように、ウィルフレッドが気にしないようにとするその気遣いが素晴らしいとさえ思っていた。初めは拒んでいた自身が、彼女の言葉をすんなり受け入れた。意志が強い凛とした彼女の瞳に魅入られ、彼女に惹かれていた。そして彼女が欲しいと言う感情と共に、彼女の言葉をしっかりと受け入れた自分がいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回
【ウィルフレッドside】
必ず見つけて、彼女の心を手に入れる
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