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エキストラ・ストーリィズ
#Ex.06 二つの言葉
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男がふるまった料理はピラフに似ていた。伝統料理なんだ、と彼は云った。故郷のね。侵略され。併合され。そして世界の終わりの道連れになった。成す術もなかった。子どもと老人以外はみんな列車に乗せられて出来たばかりの線路の上を走って地平線の向こうに消えちまった。枕木とレールが並べられたのは戦争が始まるほんの数年前だった。線路の向こうから便利なものがたくさんやってくると長老たちは制服を着た連中に説得された。フエリもサヌークも必要なくなる。文明こそが諸君を照らす光になるとね。
話をうなずいて聞いていたトフィーが手を挙げる。
フエリ、サヌーク? 何それ。
わたしらが飼っていた家畜だ。フエリの毛と肉は生活の糧。サヌークは農耕にも運搬にも欠かせないまさに家族だった。戦争で一匹のこらず徴用されちまったがね。あいつらが貨車に押しこまれて地平の彼方に連れていかれるのを一族で見送った。その日の夜はみんな眠れなかった。
男は顔を上げずにそう云った。彼は干し肉を角切りに。根菜を細切りに。ハーブの葉をつぶし果実を割り入れた。そのハーブが咲かせる花はまるで幼い子どもが集まってピンク色の手を広げたかのような見た目をしていた。成熟すると香油を思わせる匂いが鼻孔をやさしくなでていった。
彼は云う。わたしは肉を焼くよ。スカベンジャーのお嬢さんは豆のほうを頼む。
りょうかい。――トフィー、降りて。
アリサは答えてトフィーの頭をなでた。少女は不平をこぼしながらアリサの膝に置いていたお尻を持ち上げた。そして横になっているスヴェトナの額に浮いた汗を布で拭ってやった。男が椀に注いだ米のとぎ汁をトフィーに渡す。トフィーはこぼさないよう少しずつ椀の中身を従者の少女に飲ませる。スヴェトナは咳き込む。脚には真新しい包帯が巻かれており先ほど出血がおさまったばかりだった。
男は云った。ぜんぶ飲ませてやれ。栄養がある。
彼はフライパンに植物油をひたしフエリの肉を両面揚げ焼きにした。それから切り分けた根菜類につぶした香辛料の種を数種類くわえた。屋外だというのにたちまちその場は油とスパイスで整えられた肉の香りが充満した。アリサとトフィーはもちろんスヴェトナも目を開けて男のフライパンを凝視した。
男は肉に目を落としながら微笑んだ。
……正直なお嬢さんたちだな。
□
ずいぶん無茶な旅をしているな。男が通りがかってスヴェトナを診てくれた際の第一声がそれだった。傷口が完全に塞ぐまで出発を待てなかったのか。
アリサはうつむいて云った。……留まるのは危険だったんだ。撃退した連中の仲間が復讐に来るかもしれなかったから。
略奪者どもか。
ううん。たぶんちがう。うまくいけば殺し合いにならずに済んでた。
わたしたちを守ってくれたのよアリサは。トフィーが口を挟む。声もかけずにいきなり撃ってきたんだもの。
どこで。
アリサは男の顔をちらりと見た。紅い外套の中のサイドアームである拳銃の銃把に親指で触れた。そして云った。
――ここから一日の距離にある商業施設。
ああ。あのでかいとこか。男はあごに指を当てて云う。よくもまあ助かったな。さすがはスカベンジャー。背中に負った大砲は伊達じゃない。
アリサは悟られないようそっと息をついた。
……どうも。
男は笑いながら不意に云った。――君が殺した連中とは何度か取引をさせてもらっていた。埋め合わせをしてもらわないといけないな。
アリサは目を見開いて銃を抜きかけたが男は素早かった。気づいたときには手首をつかまれていた。トフィーがきょとんとした顔で二人の顔を見比べた。
男は笑みを浮かべたまま云った。
…………これでも戦争中は野戦軍医だったんだ。君の筋肉の動きひとつだって見過ごしちゃいないよ。穏便にいこうじゃないか。――どれ、患者を診てやろう。今なら格安だ。なんなら我が民族のおもてなしもさせていただこう。
そうしてアリサは埋め合わせをすることになったのだった。
□
夜の荒野の暗がりの中を焚火がぽつんと浮かんでいた。トフィーはアリサの膝の中でうつらうつらしていたがやがては眠ってしまった。少女は男が振る舞った民族料理を腹いっぱい平らげた。魔鉱石の欠片以外に食事は必要ないと云っていたのが信じられないくらいの食欲だった。
スヴェトナは毛皮でこしらえた寝袋から半身を起こしていた。温めた米のとぎ汁を注いだコップを両手に持って焚火を見つめていた。藤色の瞳に赤々とした焔の揺らぎが映っていた。
フライパンについた焦げを落としながら元軍医の男は云った。
――気に入ってもらえたかね。
うん。最高だった。
とアリサ。スヴェトナもうなずいた。本当に美味しかったな。
それはよかった。男は云った。わたしがこの料理を会う人ごとに振る舞うのは名前を覚えてもらうためでもあるんだ。むかしはプロフと呼ばれて親しまれていた。今この料理を知っている者は地上でもそう多くはないだろう。
男はインクペンで紙に何かを書きつけてちぎり取りアリサに渡してきた。アリサにも分かる言語でプロフと書かれていた。日記帳を取り出して最新の頁を開きそのかけがえのない紙片を大事に閉じ込んだ。
男はフライパンを片づけて焚火を見つめながら彼の物語を続けた。
……君がいま受け取ったのは失われつつある無数の名前のひとつだ。信じられないことだが今われわれの頭上にある星々の一つひとつに昔は名前がついていたんだ。発見者の名前を取ったり番号をつけたりしてね。地上だってそうだ。この大平原はもちろん丘のひとつにだって現地の人びとがあるいは国家が固有の名前をつけていた。涸れてしまった幾筋もの河だってそうだ。風景の中にある模様のようにしか見えない小さなものにだって専門家たちは名づけの儀式をおこなっていたかもしれない。そのほとんどが喪われてしまった。ジーンズの中に大事な紙片を入れっぱなしのまま人類は洗濯をしてしまったんだ。ようやく服が乾いたときには紙片は粉々になっていてもはや書かれていた文字を読むことはできなくなっていた。
男は眠りにつくかのように目を閉じた。
この星はあるいは休息を取ろうとしているのかもしれない。それが我々にとっていちばんマシな結末なのかもしれん。わたしたちが歩んできた足跡もわたしたち自身の骨さえも歴史の地層のひとつになる。かつて人類以前に世界を支配していた生物よりも一段上の堆積層になるってだけの話だ。
アリサとスヴェトナは顔を見合わせた。トフィーはすやすやと眠っていた。スヴェトナは団子にしていた髪を解いており背中におろしていた。彼女は云った。
それでもあんたは伝えたいんだな。自分たちのことを。
生き残ってしまったからな。
あんたの故郷は、――それからどうなったんだ。
土地ごと接収されて何かの研究施設になったらしい。魔鉱石に代わる戦術兵器を開発するためにね。魔鉱兵器はあまりに強力で汚染がひどい。それで生物兵器に目が付けられた。後から知ったんだがその施設で作られていたものにはアンスラクスという名前がついていた。まるで古代の神様みたいな名前だがもたらすのは禍ばかりだ。
それで?
それで? ――分からん。もう危険すぎて故郷には戻ってないからな。だが魔鉱兵器の砲弾が直撃してアンスラクスがまき散らされたのだとしたらもう人が住める環境じゃない。何十年、ひょっとしたら百年だって土壌に残るかもしれない。兵器としては魔鉱兵器とどっこいどっこいの欠陥品だ。
スヴェトナはうなずいた。
男は云った。君たちは今夜、――二つの言葉を知った。プロフとアンスラクスだ。わたしは善い名前だけでなく悪い名前も残さなければならないと考えている。結局のところ人が希望のありがたみを知るには絶望を味わう必要があるというのがわたしの意見だ。ひとつの言葉に善悪両方の意味が宿ることもある。お嬢さんの散弾槍や再生機に使われているものがまさにそれだ。そこに秘められている悪の可能性を少しでも昔の人びとが知っていれば君達ふたりはハイスクールや大学のキャンパスにでも通って朽ち果てた屍とは無縁の人生を送れていたかもしれない。
アリサはつぶやいた。
……でもそれだと、――スヴェトナにもトフィーにも逢えなかった。
スヴェトナが焚火からこちらに視線を向けた。アリサはそっぽを向いて顔を隠そうとした。従者の少女がくすくすと笑う声が聞こえた。トフィーは穏やかな顔で眠り続けていた。少女の名前の由来となったお菓子をたらふく食べる夢でも視ているのかもしれない。
元軍医の男も顔を上げていた。目を細めていた。口元には微笑みがあった。
□
翌朝に男とは別れた。スヴェトナの治療費を受け取った彼は振り返らずに手を振った。男は馬車に乗っていた。戦前の車の前半分を切り落として要らないエンジンを取っ払い二本のタイヤと後部座席とトランクのみにしていた。左右に足場用のパイプを二本溶接して轅とした即席の運搬車だった。馬車をひいているのは彼が話していたサヌークだった。あと何頭がこの世界に生き残っているのかしら。トフィーがそう訊ねてきたがアリサは首を振った。
三人の少女は二輪車とハーフ・トラックで旅をつづけた。道路にはいくつかの標識が今も倒れずにその役目を果たし続けていた。かろうじて読み取れる戦前の町の名前などが書かれていることもあった。その日アリサはまだ生きている看板が目に入る度にスピードを緩めた。文字を読み取れればそこに書かれている名前を記憶してあとで日記帳に書き写した。見つけた場所の特徴も併記した。そして世界から喪われつつある言葉の残骸をそっと胸の中に閉じこめたのだった。
ご読了に感謝いたします。
次の章の舞台がハイウェイ(邦間高速道路)になる予定なので、その習作を書かせていただきました。久しぶりにこの三人を書くことができて楽しいです。
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ご読了に感謝いたします。久しぶりにこの三人を書くことができました。
話をうなずいて聞いていたトフィーが手を挙げる。
フエリ、サヌーク? 何それ。
わたしらが飼っていた家畜だ。フエリの毛と肉は生活の糧。サヌークは農耕にも運搬にも欠かせないまさに家族だった。戦争で一匹のこらず徴用されちまったがね。あいつらが貨車に押しこまれて地平の彼方に連れていかれるのを一族で見送った。その日の夜はみんな眠れなかった。
男は顔を上げずにそう云った。彼は干し肉を角切りに。根菜を細切りに。ハーブの葉をつぶし果実を割り入れた。そのハーブが咲かせる花はまるで幼い子どもが集まってピンク色の手を広げたかのような見た目をしていた。成熟すると香油を思わせる匂いが鼻孔をやさしくなでていった。
彼は云う。わたしは肉を焼くよ。スカベンジャーのお嬢さんは豆のほうを頼む。
りょうかい。――トフィー、降りて。
アリサは答えてトフィーの頭をなでた。少女は不平をこぼしながらアリサの膝に置いていたお尻を持ち上げた。そして横になっているスヴェトナの額に浮いた汗を布で拭ってやった。男が椀に注いだ米のとぎ汁をトフィーに渡す。トフィーはこぼさないよう少しずつ椀の中身を従者の少女に飲ませる。スヴェトナは咳き込む。脚には真新しい包帯が巻かれており先ほど出血がおさまったばかりだった。
男は云った。ぜんぶ飲ませてやれ。栄養がある。
彼はフライパンに植物油をひたしフエリの肉を両面揚げ焼きにした。それから切り分けた根菜類につぶした香辛料の種を数種類くわえた。屋外だというのにたちまちその場は油とスパイスで整えられた肉の香りが充満した。アリサとトフィーはもちろんスヴェトナも目を開けて男のフライパンを凝視した。
男は肉に目を落としながら微笑んだ。
……正直なお嬢さんたちだな。
□
ずいぶん無茶な旅をしているな。男が通りがかってスヴェトナを診てくれた際の第一声がそれだった。傷口が完全に塞ぐまで出発を待てなかったのか。
アリサはうつむいて云った。……留まるのは危険だったんだ。撃退した連中の仲間が復讐に来るかもしれなかったから。
略奪者どもか。
ううん。たぶんちがう。うまくいけば殺し合いにならずに済んでた。
わたしたちを守ってくれたのよアリサは。トフィーが口を挟む。声もかけずにいきなり撃ってきたんだもの。
どこで。
アリサは男の顔をちらりと見た。紅い外套の中のサイドアームである拳銃の銃把に親指で触れた。そして云った。
――ここから一日の距離にある商業施設。
ああ。あのでかいとこか。男はあごに指を当てて云う。よくもまあ助かったな。さすがはスカベンジャー。背中に負った大砲は伊達じゃない。
アリサは悟られないようそっと息をついた。
……どうも。
男は笑いながら不意に云った。――君が殺した連中とは何度か取引をさせてもらっていた。埋め合わせをしてもらわないといけないな。
アリサは目を見開いて銃を抜きかけたが男は素早かった。気づいたときには手首をつかまれていた。トフィーがきょとんとした顔で二人の顔を見比べた。
男は笑みを浮かべたまま云った。
…………これでも戦争中は野戦軍医だったんだ。君の筋肉の動きひとつだって見過ごしちゃいないよ。穏便にいこうじゃないか。――どれ、患者を診てやろう。今なら格安だ。なんなら我が民族のおもてなしもさせていただこう。
そうしてアリサは埋め合わせをすることになったのだった。
□
夜の荒野の暗がりの中を焚火がぽつんと浮かんでいた。トフィーはアリサの膝の中でうつらうつらしていたがやがては眠ってしまった。少女は男が振る舞った民族料理を腹いっぱい平らげた。魔鉱石の欠片以外に食事は必要ないと云っていたのが信じられないくらいの食欲だった。
スヴェトナは毛皮でこしらえた寝袋から半身を起こしていた。温めた米のとぎ汁を注いだコップを両手に持って焚火を見つめていた。藤色の瞳に赤々とした焔の揺らぎが映っていた。
フライパンについた焦げを落としながら元軍医の男は云った。
――気に入ってもらえたかね。
うん。最高だった。
とアリサ。スヴェトナもうなずいた。本当に美味しかったな。
それはよかった。男は云った。わたしがこの料理を会う人ごとに振る舞うのは名前を覚えてもらうためでもあるんだ。むかしはプロフと呼ばれて親しまれていた。今この料理を知っている者は地上でもそう多くはないだろう。
男はインクペンで紙に何かを書きつけてちぎり取りアリサに渡してきた。アリサにも分かる言語でプロフと書かれていた。日記帳を取り出して最新の頁を開きそのかけがえのない紙片を大事に閉じ込んだ。
男はフライパンを片づけて焚火を見つめながら彼の物語を続けた。
……君がいま受け取ったのは失われつつある無数の名前のひとつだ。信じられないことだが今われわれの頭上にある星々の一つひとつに昔は名前がついていたんだ。発見者の名前を取ったり番号をつけたりしてね。地上だってそうだ。この大平原はもちろん丘のひとつにだって現地の人びとがあるいは国家が固有の名前をつけていた。涸れてしまった幾筋もの河だってそうだ。風景の中にある模様のようにしか見えない小さなものにだって専門家たちは名づけの儀式をおこなっていたかもしれない。そのほとんどが喪われてしまった。ジーンズの中に大事な紙片を入れっぱなしのまま人類は洗濯をしてしまったんだ。ようやく服が乾いたときには紙片は粉々になっていてもはや書かれていた文字を読むことはできなくなっていた。
男は眠りにつくかのように目を閉じた。
この星はあるいは休息を取ろうとしているのかもしれない。それが我々にとっていちばんマシな結末なのかもしれん。わたしたちが歩んできた足跡もわたしたち自身の骨さえも歴史の地層のひとつになる。かつて人類以前に世界を支配していた生物よりも一段上の堆積層になるってだけの話だ。
アリサとスヴェトナは顔を見合わせた。トフィーはすやすやと眠っていた。スヴェトナは団子にしていた髪を解いており背中におろしていた。彼女は云った。
それでもあんたは伝えたいんだな。自分たちのことを。
生き残ってしまったからな。
あんたの故郷は、――それからどうなったんだ。
土地ごと接収されて何かの研究施設になったらしい。魔鉱石に代わる戦術兵器を開発するためにね。魔鉱兵器はあまりに強力で汚染がひどい。それで生物兵器に目が付けられた。後から知ったんだがその施設で作られていたものにはアンスラクスという名前がついていた。まるで古代の神様みたいな名前だがもたらすのは禍ばかりだ。
それで?
それで? ――分からん。もう危険すぎて故郷には戻ってないからな。だが魔鉱兵器の砲弾が直撃してアンスラクスがまき散らされたのだとしたらもう人が住める環境じゃない。何十年、ひょっとしたら百年だって土壌に残るかもしれない。兵器としては魔鉱兵器とどっこいどっこいの欠陥品だ。
スヴェトナはうなずいた。
男は云った。君たちは今夜、――二つの言葉を知った。プロフとアンスラクスだ。わたしは善い名前だけでなく悪い名前も残さなければならないと考えている。結局のところ人が希望のありがたみを知るには絶望を味わう必要があるというのがわたしの意見だ。ひとつの言葉に善悪両方の意味が宿ることもある。お嬢さんの散弾槍や再生機に使われているものがまさにそれだ。そこに秘められている悪の可能性を少しでも昔の人びとが知っていれば君達ふたりはハイスクールや大学のキャンパスにでも通って朽ち果てた屍とは無縁の人生を送れていたかもしれない。
アリサはつぶやいた。
……でもそれだと、――スヴェトナにもトフィーにも逢えなかった。
スヴェトナが焚火からこちらに視線を向けた。アリサはそっぽを向いて顔を隠そうとした。従者の少女がくすくすと笑う声が聞こえた。トフィーは穏やかな顔で眠り続けていた。少女の名前の由来となったお菓子をたらふく食べる夢でも視ているのかもしれない。
元軍医の男も顔を上げていた。目を細めていた。口元には微笑みがあった。
□
翌朝に男とは別れた。スヴェトナの治療費を受け取った彼は振り返らずに手を振った。男は馬車に乗っていた。戦前の車の前半分を切り落として要らないエンジンを取っ払い二本のタイヤと後部座席とトランクのみにしていた。左右に足場用のパイプを二本溶接して轅とした即席の運搬車だった。馬車をひいているのは彼が話していたサヌークだった。あと何頭がこの世界に生き残っているのかしら。トフィーがそう訊ねてきたがアリサは首を振った。
三人の少女は二輪車とハーフ・トラックで旅をつづけた。道路にはいくつかの標識が今も倒れずにその役目を果たし続けていた。かろうじて読み取れる戦前の町の名前などが書かれていることもあった。その日アリサはまだ生きている看板が目に入る度にスピードを緩めた。文字を読み取れればそこに書かれている名前を記憶してあとで日記帳に書き写した。見つけた場所の特徴も併記した。そして世界から喪われつつある言葉の残骸をそっと胸の中に閉じこめたのだった。
ご読了に感謝いたします。
次の章の舞台がハイウェイ(邦間高速道路)になる予定なので、その習作を書かせていただきました。久しぶりにこの三人を書くことができて楽しいです。
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ご読了に感謝いたします。久しぶりにこの三人を書くことができました。
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