くず鉄拾いのアリサ

Cabernet

文字の大きさ
上 下
8 / 80
モーテル

#08 空っぽの瓶 ★

しおりを挟む



 郊外に佇むモーテルの廃墟で酒瓶を見つけた。中身は空だった。照明の失われた部屋は薄暗い。そして埃にまみれている。多少なりとも感受性を残したスカベンジャーならそこからかつての時代のうらぶれた残り香を嗅ぎ取るのかもしれない。アリサは酒瓶を手にしたままベッドの縁に腰かけた。そしてゴーグルを外してふうっと息を吐きだした。ラベルからはかろうじて文字が読み取れる。かつて父が好んで飲んでいたブランカ酒の銘柄だった。

 ベッドには先客がいた。干からびて黒ずんだ遺体が安らかに眠っている。再生機を使って初めてそれが女性だと分かった。生前の時分でさえおぞましいほどに痩せこけており髪はとうの昔に手入れを放棄されて乱れている。彼女は小瓶に入っていた丸い錠剤を栄養ドリンクか何かのように一気に口の中に流しこむと酒をあおって飲み下した。そして布団にくるまるとそのまま二度と動かなくなった。
 アリサは再生機の電源を落として布団を引き上げ頭まですっぽりと遺体を覆ってやった。それから立ち上がって煙草を一本吸って部屋を後にした。

 他の部屋にも自殺した遺体がいくつかあった。バスルームで拳銃を使ったらしき男のむくろがあったが肝心の得物はすでに誰かに持ち去られていた。壁に残った弾痕だけが起こった事実を伝えている。
 再生機を使うと拳銃を持ち去った同業者の姿が映し出された。彼はバスタブの底に落ちていた拳銃を拾い上げると撃鉄を起こし何のためらいもなく死体の側頭部に向けて一発撃った。乾いた銃声が狭い室内で反響を残さず消えた。スカベンジャーはうなずいた。少なくとも銃の性能に関しては人を殺すという目的を達成しうるくらいには劣化していなかったわけだ。彼はシリンダーから残りの銃弾を抜き取ると満足気にバスルームから立ち去った。遺体は頭に穴をひとつ増やされた状態で虚ろな目を壁に向け続けていた。
 アリサは再生機の電源を落として首を振った。

 探索を途中で切り上げて外に出たアリサを禿鷲たちが出迎えた。役目を終えた電信柱の上に留まってじっとこちらを見下ろしている。アリサは舌打ちしてから呼びかけた。――これじゃ遺品を漁りにきたのか死体を探しにきたんだか分からんぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...