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一章
四十八話・火鼠会議
しおりを挟む「さ、このままダラダラ雑談してても仕方ないし始めようか」
「はぁーい」
恋華が居候になった翌日。
本来直属班などで集まる際は長屋敷やその周辺の警備の行き届いた里の施設を使うのが普通だが、特例として俺ん家…立花の屋敷にある普段は使っていない一室に火鼠は集まっていた。
まあウチは里の中心である家系なのもあり、長屋敷並かそれ以上に安全な場所だ。特に問題は無い。
対梯班では、それぞれ別に配属された火鼠。今日行うのは、各々の班のことや任務成果などを互いに共有しようという会だ。
「それじゃあ誰から話してもらおうか」
「怪我が気になりすぎるしらっくんから聞きたいかな」
「え、俺?」
「ああ、そうだな。俺も詳しく聞きたかった」
「えぇ~……わかった」
とはいえ話せることなんて特にない。なぜなら本当に記憶が無いからだ。
「え~と……俺が入ったのは里冉班。法雨家次期当主と言われてる里冉が班長の班な。班員は俺と、里冉の弟の樹」
「へえ、あの二人兄弟だったんだ」
「俺もびっくりした。言われてみたら似てるような気もしなくないんだよな」
俺が言うと、どう見ても似てるだろというツッコミが飛んできた。そうか?性格真逆なの知ってるからそうでもないように見えてるだけ?
「それにしても立花の跡継ぎと法雨の跡継ぎを同じ班にするとは、長達も大胆なことするよな」
「あーそれなんだけど、多分互いに監視し合う目的もある」
里冉が上に掛け合ったときに言っていたらしいことをふと思い出し、しれっとパクって話す俺。
「まあ俺も里冉も家の名前使って好き勝手やろうとかそういうタイプじゃないし、案外うまくやれてるよ。変なことしたら速攻上に言いつける気だしな、お互い」
「なるほどな」
ま、本当に言いつけるかはわかんねえけどな。と心の中で舌を出す。
俺らが仲良いということが伊賀者に知れるのは今はまだ避けておきたいからな。
「そんでこの怪我だけど……俺にもわからん。以上だ」
「いやいやいやそれで流せると思ったの?おかしいでしょ、何?わからんって」
そりゃそうなるよな。でもこうとしか言えないんだよな。
「茶紺には既に言ったけど……寝て起きたらこうなってたんだよ、俺。何があったかは俺もよく知らない。マジで。でも樹がすぐに応急処置してくれてたみたいだし、本部戻ってから杏子にも治療してもらったからもう大丈夫。見た目より全然大したことない」
「うぅ~ん…」
全然納得できない、といった表情の恋華。まあそうだろうな。正直俺もだよ。知らない間にこんな傷だらけになってみ?なんで?ってなるよそりゃ。
「どうやら本当に知らないみたいなんだよなぁ……」
「だから言ってんじゃんマジだって。むしろ俺が聞きたいんだよな~も~~アイツら何も教えてくれなくてさぁ!あの口ぶりだと樹とかばっちり見てたんだぜ?おかしいよなぁ」
「それは怪しいね」
「ま~見てたアイツらにも何があったかよくわかんなかったみたいなんだけどさあ……にしても俺が一番わけわかんねーっつの。もうちょい説明してくれても良かったよなあ。おかげで『知らない、わからない』しか報告できることがない俺の身にもなってほしいぜ…」
「えぇ~本当に何があったんだろう…気になるなあ……」
法雨兄弟が何かを隠しているような流れに持っていく。ま、嘘ではないしな。
「任務では特に成果はなかったのか?」
「俺がこうなっちまったせいで予定より早く終わったしな、特になかった。構成員にも特に出くわさずに帰ってきた。ほんと何しに行ったんだろうな俺…」
続行してたら拠点見つけるくらいは出来てただろうけどな。里冉の術の範囲内に拠点が入るくらい接近出来なかったのが心残りだ。
「そうか……今話せることはそんなところか?」
「だなぁ。特に戦闘したわけでもなかったから班員についても……あ、演習のときにちらっと見たな」
そう言うと、茶紺が「お、それは聞きたい」と食いつく。
「いってもまあ、流石法雨!って感じの実力だった、くらいしか言うことねえな。里冉は結構茶紺と似た戦闘スタイルっつか、周りにあるもんなんでも使って相手に合った有効な手段を都度判断しつつタイプ…な気がする。なんかもう俺の出る幕ないくらい強くて一瞬で片付いちまったから、まだ全然情報不足だけどな。あくまで初見の感想」
「へえ、案外観察力あるんだな楽」
「俺バカにされたな今」
「褒めたんだよ、一度見ただけでそこまでわかれば十分だってな。素直に受け取れ」
笑う茶紺。俺は「にしたって案外は余計じゃ…」と口を尖らせたが、すぐに切り替える。
「…まあいいや、そんで、樹は暗器使いだ。相手にバレる前に片付けんのが得意っぽい。演習では先に敵役に見つかっちまったみたいでちょっと苦戦してた。あと猫手使ってんのを見た」
「あの羽織の中に色々隠してたのか、なるほどな」
こんなもんだな~と俺の番を終わらせると、次は恋華の番になった。
「僕の班はね~、白班だよ。班長は法雨白、班員は法雨英樹と僕」
昨日言ってた女嫌いの班長と上手く繋いでくれてるもう一人、か。
「やっぱあの二人も法雨だったんだな」
「詳しくは聞いてないけど白班長はらっくんとこの二人とは従兄弟?だと思う。あやっきーはちょっと遠いけど親戚であることは確か」
「待てもうあだ名で呼んでんのか」
「まーね。班長はまだあんまり打ち解けられてないけど、あやっきーは明るくて話しやすかったから」
「へぇ…」
恋華、友達少ないタイプだし甲賀者と仲良くなるの時間かかると思ってたんだが、意外とそうでもないのか…?それかその英樹って奴がフレンドリーすぎたとかそういう…?
「戦闘スタイルは?」
「白班長は鎖鎌が主な武器だけど、どっちかというと自分が戦うよりはあやっきーに指示を出して戦わせるのが得意な頭脳担当って感じかな。あやっきーは見たまんまのパワー型。我流っぽい体術と怪力、そして白班長の指示に即座に対応できる運動神経と反射神経の良さで敵を翻弄してた。あの二人は元々バディっぽいし、僕いなくても良さそうなくらいのコンビネーションだったなぁ。ま、僕としては楽できてラッキー、って感じだけど」
「おいおい…楽しようとするなよ……」
法雨が強いってのは知ってたが、里冉と樹以外も相当な実力を持ってるみたいだな。楽できるほどってことは、恋華が無闇に危険に晒されることもそう無さそうで安心した。
……完治したとはいえ入院後だし、体力は多少なりとも落ちているだろうから、すぐに任務に参加すんのちょっと心配してたんだよな。
ま、恋華にとっちゃ余計なお世話だろうけど。
「任務成果はね……ふふ、拠点の場所、見てきたよ」
「マジで!?」
「まじまじ。まあ複数あるらしい中の一つだけなんだけど、それでも大収穫だよね。構成員にも見つからず帰って来れたんだもん」
「恋華の班も梯との戦闘はまだなのか」
俺らだって任務続行できてたら絶対拠点見つけてたし……とついつい考えてしまい、俺意外と負けず嫌いなのかもしれないな、と思った。
でも、だって、誰より優秀な里冉がいて、全力で戦う俺らを止めれるくらい冷静で実力のある樹もいるのに、大した成果持ち帰れなかったって……俺……やっぱアイツらの足引っ張ってるんじゃ……
「なにさぁらっくん。そんなに僕より成果あげられなかったの悔しいの~?」
「なっ……べっつにぃ!」
「あははっ絶対悔しいって反応じゃんそれ」
素直に煽られてしまう俺。悪い癖だなと思いつつ、つい言い返してしまう。
「つーかそれお前の成果ってより白さん達の成果だろぉ絶対!」
「は~~?僕の班の成果なのは確かですけど~~??」
「はいはい二人とも喧嘩しない。楽は張り合う前にまず怪我を治そうな」
「む……はぁーい……」
このときからだった。恋華の機嫌が見るからに悪くなったのは。
この後続いた恋華の班の成果の話や、茶紺班の話の間、恋華はずっとどこかイライラしてるような態度で話していた。
会議が終わるまでは俺も釣られてあまり冷静になれていなかったのだが、もしかしたら俺の言った「白さん達の成果だろ」が思いの外恋華に刺さったのかもしれない。
よくよく考えてみたら、アイツは俺なんかよりずっと負けず嫌いだ。楽できてラッキー、は恋華の強がりで、本当は活躍できないことを誰より悔しがっていたのかもしれない。
……だとしたら、悪いことしちゃったな。
***
さあ、『長月先生に話を聞く』を実行しよう。
実は寝る前はそれだけ考えて、どういう流れで茶紺の話に持っていくか等は全くのノープランだった。が、会議が終わってふと思いついた。
「恋華ちゃんと喧嘩した?」
「喧嘩っつかまあ…うん……機嫌損ねちまったっつーか……」
卯李の勉強が休憩に入ったところへと乗り込んだ俺は、飛びついてきた卯李を膝に座らせながらそんな話を切り出した。
「先生さあ、いつメン?とずっと仲良い……じゃん?」
「まあねー…確かに喧嘩はほとんどしないかな」
「参考になる話聞けないかなって」
「そうだなー……」
そう、思いついたのは俺自身の相談と見せかけて茶紺との話を聞き出す、という作戦。これなら茶紺の話が聞きたくて来た、というのがバレずに済みそうだし実際恋華の機嫌は損ねてしまっているのでいいアドバイスが貰えたら一石二鳥である。
「そもそもなんで機嫌損ねたの」
「……煽られて言い返したら地雷踏んだっぽい」
俺がぼそりと答えると、先生は「あ~なるほどね」と苦笑する。
「素直に謝る気は?」
「……煽ってきたのあっちだし」
「あはは、楽も楽で怒ってんのな」
別に怒ってるわけじゃないけど……俺から謝んのもなんか癪っつか……。
「で、なんで茶紺じゃなく俺のとこ来たの」
それ聞かれると思ったんだよな。
「え、だって茶紺に話してもド正論で返されそうっつか、とりあえず謝るしか解決策出て来なさそうだし」
「ふはっ、確かにな」
俺もあんまし変わんないと思うけどな~、と笑う先生。
「まあほんとは裕威さんに聞きたかったけど」
「おい」
「へへ、冗談」
先生にこのやろ~と頬を抓られ、いてて…とわざと痛がる。すると卯李が心配してくれた。おかげで痛みは一瞬で飛んでった。
「……んで、仲直りの参考にするために俺らの話が聞きたいわけか」
「うん。あの四人ってすげーバラバラっつか、それぞれに個性強いし、そもそもどうやって上手く付き合ってんのかなって」
俺がそう聞くと、先生は少し考えて、言った。
「あー…あれだ、バラバラだからこそ押し付け合わない、みたいな」
「押し付け合わない?」
「価値観とか、常識とか、絶対違うってのが初めからわかるから逆に寛容な心になれるんだよ。だから余程じゃないと喧嘩にならない。察してくれる、って期待しないから言いたいことは言うし」
「なるほど……?」
先生は続ける。
「俺達の場合はただの同期で、仕事とか班とか関係なく好きで一緒にいるからさ。好きな距離感で気楽に付き合えるんだよ。深く踏み込んだりは滅多にしないしな…今でもアイツらのことで知らないこと多分いっぱいあるよ」
「茶紺のことも?」
「あ~…何気に茶紺が一番知らないかも」
「へえ、意外」
「アイツ、昔から自分のことはあんまし話さないんだよなー」
本家に勘当されたことも後から知ったし、と付け足す先生。その言葉に驚く俺。
「えっ勘当」
「あれ、知らなかった?だから一人で…あーいや、卯李と二人で暮らしてるんだよなー?」
「んー?うん!」
…勘当の意味わかってないんだろうな、卯李。
ていうかマジで知らなかった。確かに秋月の当主とかと不仲なイメージはあったけど、勘当までされてるとは……。
「秘密主義なのかわかんないけど、俺達ですら頼らないからなぁ、茶紺。その分屍木さんにベッタリっていうか…上司と部下だけど親子みたいでしょ、あの二人」
「…俺からしたらどっちも父親っぽい」
「あっはは、そっか」
「まあでも兄貴っぽいとも思ってるし…言われてみればそうかも……」
……てことはやっぱあの二人の間にある任務や秘密に関して、周りは微塵も知らないって思った方が妥当かな。あの記憶を見た時から何となく気付いてはいたが、他に関係者…いなさそうだよな。秋月調べれば、と思ってたけど本家に勘当されてるなら何も出て来なさそうだしなぁ。
いよいよ直接調べるしかなくなった感じか~……?
いやでも直感を信じてみるのも有りだろうし、とりあえず秋月本家に詳しそうな人も当たってみよう。あくまでも茶紺を調べている、とはバレないように…。
それから先生はいくつか昔の茶紺の話をした後、そろそろ休憩終わり~と言って卯李と再び机に向かった。
俺は勉強頑張れ~と言い残して部屋を出ていこうとしたが、先生の声で振り向く。
「参考になった?」
ん、と頷いて言う。
「卯李に癒されたから素直に謝る気になった」
「え~俺の話関係ないじゃ~ん」
「へへ、冗談!」
ニッと笑ったあと俺は襖を開けて、もう一度振り向いた。
「助かったっす、長月せんせ」
茶紺のこと、聞けたんで。
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