紅雨短編

法月

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SSまとめ(楽、里楽、探偵組)

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*ついったーでひっそり投げていたSSのまとめです。セルフ二次創作風味。



そういえば、里冉の髪すげえ伸びてたよなあ​──そんなことを、鏡に映る〝今〟の自分を見ながら思う。
俺はたいして長さや髪型は変わってないし、唐辛子といじられるこの赤メッシュも健在だ。変わったことといえば襟足も赤くなったことくらいか。梳かしても梳かしても定位置に戻るくせっ毛に苦戦しつつせめて寝癖は直そうと櫛を動かす。
んでもって話は戻るんだけれど里冉の髪​───いや昔も十分長くて上の方でポニーテールにしてたけど、アイツ更に伸びてたな。よくこの仕事しててあんな綺麗なまま伸ばせるよな。絶対邪魔だし手入れも大変だし、それこそこうやって梳かすのですら大変だと思うんだが。使用人がやってんのかな、なんて考えたところでその絵面を想像してしまい、ちょっと笑ってしまった。滑稽とかそういうんじゃなくて、むしろ逆に似合いすぎるのが面白くてつい。

笑いと同時に、いいなあ、なんて謎の感情が湧き上がった。
そのことに気付き、え、何が?と思う。

いいなあ…?

髪を梳かす手が止まる。

すっかり覚醒しきった意識で鏡の中の俺と見つめ合って、何が?ともっかい聞くように思うと、俺が目を逸らす。
それを見て、あ、これ結構気持ち悪いこと考えたな俺、なんて自覚してしまって。男相手に抱く感情じゃねえだろ、なんて一応セルフでツッコんで、身支度を再開した。

目を逸らした鏡には、ほんの少し照れた俺が映っていた気がした。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「なんの匂い?」

匂いに敏感な君にはすぐに気付かれると思っていた。とはいえ、部屋に入った瞬間にもうツッコまれるとは思ってなかったな。
くすくす笑いながら俺は両手を顔の前に持っていく。らっくんはその大きくて丸い目で俺の手を見つめたあと、ああと声を漏らした。

「匂い付き使うの珍しくね?」
「まあね。って言ってもこれもそんなに匂い強いほうじゃないんだけど」
「俺の鼻は誤魔化せなかったな」

ふふ、そうだね。言いながら、隣に座る彼の手を取った。
はてなを浮かべつつも素直に手を触らせてくれる警戒心の足りないらっくんに(まさか誰にでもこうじゃないよね…?)と内心心配になる。

「さてはまた手のケア疎かにしてるね?桜日ちゃんにも言われたでしょ、女装してもバレないくらい綺麗にしとけって」
「いやそこまでは言われてないが…?つかなんで怒られたこと知ってんだよ」
「俺のらっくんアンテナは誤魔化せなかったの」

ふふん、と俺がドヤ顔すると、はいはい。と呆れ気味の返事が返ってきた。ストーカーめ…とか思ってるのかな。間違ってないけど。
そんなことを考えながら片手でらっくんの手をにぎにぎしつつ、もう片方で机の上に置いてあったハンドクリーム(小春から貰った)を少しだけ手に取った。

「え、塗んの」
「だめ?」
「だめじゃないけど」

強すぎないしいい匂いの部類でしょ、と俺が言うと、まあ…うん。と微妙な返事をするらっくん。
お気に召さなかった?と思うが、どうやらちょっと上の空なだけらしい。

「何考えてんの?」
「ちょっとえっちだなって」
「そんなことだろうと思ったけど」
「どうせ狙ってんだろそれ」
「へへ、ばれた?」

態とらしく塗り込む手つきをやらしくしてみせると、やーめーろーと軽く身を捩り嫌がる素振りだけ見せるらっくん。
本気で逃げようとしないあたりがあざとかわいい、流石、とちょっと感心してしまう。俺が調子乗る前にちゃんと止めて欲しいけど​───なんて考えながら両手を握り、彼の指の間に指を滑り込ませ、恋人繋ぎのような繋ぎ方をしてみる。
ちらと表情を窺うと、らっくんはちょっとだけ照れたように繋がれた手を見つめていた。

指で指を扱いてみる。
ぴく、と反応するらっくんに俺は気分を良くしてしまう。手も結構気持ちよくなっちゃうんだよねぇ、と内心でニマニマしつつ反応の可愛さについ止められなくなり愛撫を続けていると、今度は本気で照れたらっくんが「…やめろ」と小声で漏らした。
これ以上続けるとやばい、と目の前の想い人が可愛すぎて逆に冷静になった俺はぱっと手を離す。

「ご、ごめん」
「ん…」

解放された両手を恥ずかしそうに胸の前で握り、改めて自分でクリームを塗り広げるような仕草をしたあと、らっくんはぽつりと零すように言った。

「…お前に触られんの弱いんだって」

「…………………誘ってる?」
「ばか」

耳まで真っ赤にしてそう言った彼の可愛さにあてられながら、俺は心の中でこっそり(ここが本部じゃなければ…)と悔やんでいたのだった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



無理だ。絶対に。これは無理だ​─────そう確信した密は真っ赤になった手で今しがた開けようと奮闘していたジャムの瓶を机にコトリと置いた。

これでも忍びだ。非力なわけがないし、瓶の開け方のコツくらいは心得ている。それでも数分格闘したソイツはまるで最初から溶接されているかのごとくぴくりともしなかった。

仕方ない、温めるか。
自力で開けることを諦めた密がお湯を沸かそうとしたそのとき、本来キッチンは出禁になっていたはずの相棒が「なにしてんのー」なんて呑気な声で言いながら姿を見せた。

「メイド長様に怒られても知らないぞ」
「料理しなきゃセーフセーフ」

そっか、と軽く流し、千暁の視線を机の上の瓶へと誘導した。

「理解した」
「助けてちーちゃん」
「任せろ密さん」

いつもは密のフラッシュバックが起こった時くらいしか呼び合わない昔の呼び名をこんなタイミングで呼んでいいものかと二人して苦笑するが、ある種今も密が助けを求めていることには変わりない。
腕まくりをした千暁がジャムの瓶を前に深呼吸し、「よっし」と気合を入れる。

「がんばれ」
「ッッッ!!!!」

ふん!と千暁が力を入れた瞬間、

「えっっ」
「あれっ」

ぱかり。
先程まであれほど頑なだった蓋があっさり瓶から離れた。

「なんでえ!?!」
「なるさんもしかして握力落ちた?」
「いやいやいや、いやいやいやいや…」

とりあえずお湯は沸いたらコーヒー入れるのに使おう。そう考えながらもええ…?と困惑する密。
まさかそんな、非力になってしまったなんてそんなことは、と必死で千暁の言葉を否定しようとするがよくよく考えると最近探偵業ばかりで忍びとしての鍛錬を怠っていたことに気が付いてしまった。

思えば千暁は毎日早くから走りに行っているし、風呂の順番を待つ間に何かしらのトレーニングをしたり灯璻の買い出しに荷物持ちでついて行ったり仕事の合間を縫って日常的に鍛錬をしている。

「…日向、ちょっと」
「なにー?」

傍に呼び寄せ、じっとしててねと伝えてから密は千暁の肩周りを鷲掴みにした。
エッナニ!?と擽ったがる千暁をよそに腕や背中や手をさんざん触り倒したと思ったそのとき、背後からお湯が沸いた音がし始めた。

「…な、なるさん?」

一先ず火を止めに、千暁から離れた。

(そういや昔からコイツは筋肉質で俺は落ちやすい体質だったな…)

もはやジャムなど、どうでもよくなっていた。
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