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悪夢(さくはる)⚠️R18
しおりを挟む*2018/12/27に書いていたさくはるの短編を一部登場人物を変えてリメイクしたものになります。
*R18(BL)です。苦手な方は飛ばしてください。
*内容が内容なので短編集に置いていますが本編世界であった話…かもしれない。本編で言うと『五十話・春待つ桜』より前の話となります。
『好きだ……はる……っ』
────ぱちり
(……どんな悪夢だよ)
夢だと悟った瞬間、そんな言葉が頭をよぎった。
俺のことを抱きながら好きだなんて言葉をかけてくる黒髪の同僚。夢の中のその表情が鮮明にフラッシュバックして、思わずもう一度眠りに落ちてしまいたい気分になった。
(ばかだな俺……)
俺の同僚のことを思う気持ちが、恋心とかいうソレと同等のものだと気づいたのが数ヶ月前。
ただの同僚だと思いたくて、恋心が気の所為だと思いたくて友達という名のセフレになったのがそれから少しあと。
悪化する気持ちに歯止めが利かないことに気づいたのが更にあと。
こうして、流石にここまで悪化してしまっては自分でも手が付けられない、という域にまで来てしまった。本当に、困ったものだ。改めて振り返ってみてもただの馬鹿である。
櫻夜のことなどどうでもいい、と半ば無理やり思考を切り上げて、とりあえず支度を始めるために布団を抜け出した。
着替えるために服を脱ぐと、ふと鏡に映る自分が目に留まる。鏡の中の俺の首元では、アイツにつけられたキスマークが妙な存在感を放っていて。
……アイツのモノになれたらどれほどよかったか、そんな複雑な気持ちでそれを撫でた。
きっとこのまま伝えずに別れが来て、抱えた気持ちと共に死んでいくんだ。もう既にそんな気がしている。そして、伝えたところで別れが早まるだけな気もしている。
だってアイツは、俺の心に興味なんてない。
そう、ここ数ヶ月で思い知らされたアイツの恋愛への無関心さは、思いのほか俺にダメージを与えていた。
元から好きになる気も、好きになったとしてそれを叶えようという気も全く無かったはずなのに、ただの同僚でセフレ、それ以上でもそれ以下でもないことを実感する度に何故か酷く心臓が痛む。
仲間、悪友、同僚────ハッキリと奴の口から言われると気持ちが黒く濁る言葉達。
何一つ間違っちゃいないけど、何一つ望み通りではない。
────ズキン
ほら、思い出しただけでこれだ。いい加減にして欲しいものである。
あーあ、こんなことなら本家になんて来なきゃよかった。でも、だって、大好きなはずの里冉様のお側がこんなにも苦しい場所になるなんて思いもしないじゃないか。 バカさく。全部お前のせいだ。
……いやわかってる。それでも嫌いになれないだなんて、バカは俺の方だ。
結局思考を切り上げられないまま、支度中はアイツのことばかり考えていた。最近は以前にも増して気がついたらアイツで頭がいっぱいになっているので、恐ろしい。
本当、どんだけ好きなんだよ。どうせ叶わないのに。と自らを嘲笑し、その調子でいつも以上にセルフでメンタルをズタズタに傷つけながら支度を終えた。いやいやアホか俺は。これから仕事で、それもアイツと顔を合わせるんだぞ。こんな状態で足でまといにならないわけがないだろ。
「切り替えなきゃ……」
仕事に支障は出してはいけない。絶対にだ。
なぜなら俺は法雨の使用人で、憧れの里冉様の護衛だから。
しっかり、俺!と両の頬を叩いて部屋を出た。
────最悪だ…。
「あれはるるん~おっはよ~」
「う、さく……」
せめてもう少し心の準備時間が欲しかった……一番会いたくない時ほど真っ先に会ってしまうアレだな、勘弁してくれ。
勝手に出鼻をくじかれた気分になり思わず、本当に無意識で小さくため息を漏らしてしまう俺。慌てて訂正(何を?)しようとするが当の櫻夜は不思議そうな顔で俺の全自動百面相を見ていただけだった。く、意識してるのが俺だけなのがよくわかるぜ畜生。
「はは、なにやってんの。つか顔色悪いねはる。またなんかあった?」
「へ?…そうか?ん~…なんもねーよ、多分」
まあ心当たり無いわけじゃないけど言えねえよ、お前に好きだと言われながら抱かれる悪夢見た~なんてな。正夢なら悪夢なんて思わずに済んだんだけど、そう都合よくこいつが俺に惚れるなんてないだろ。ないない。あぁくそまた自分で傷口抉る……。
「ふーん…」
「んだよその顔は」
「や、なんか隠してそうだなって」
「無駄に鋭い上にデリカシーない男はモテねえぞ」
「え~?はるだから聞いてんだけど。これでも心配してんだからね」
「……はあ?何言ってんだお前」
そういうちょっと特別扱いっぽい言い方、反射的に喜んでしまうから心底やめてほしい。持ったところで叶いやしない期待持たせんなばか。
タートルネックに手をやり、心做しか熱を持った首筋を、キスマークを、恋心と一緒に隠した。
「はは、まあ話す気ないならいいけどさ。りっくんに迷惑かけんなよ~?」
「うるさい、言われなくても」
「愛想ない男もモテないぞ~」
「愛想だけの男よかマシだろ」
「え、誰のことそれ」
「………」
「なんで俺見るのさ!?」
「あーでも愛想もそんなねえか」
「ひどくない!?」
思ったよりいつも通りに話せている俺達が並んで大部屋に入ると、朝食の準備を手伝う雪也の姿が見えた。
「おはよう二人共。あ、杳己あとでちょっといいか」
「お……?おう」
「んで、これがそれ」
「へえ~…見た目は普通っていうか…」
「小春様から預かったのはその一瓶だけだから、大事に使えよ?」
「……つかなんであのお方俺の趣味知ってんの」
「さあ」
「まさかお前…」
「俺そんなことするように見えるか?」
「……はぁ、まあいいか…」
飯のあと雪也に呼ばれたと思ったら、小春様から預かったという開発した媚薬の治験()を任されてしまった。
何故俺……いやまあ確かに中の人間で一番一般人の体質してそうだし適役かもしれないけど……。
「とにかくデータが欲しいからいろんなケースで使えって言ってらしたけど、どうする?やれる?」
「は!?いろんなケースってどういうこと…」
「一人で、二人で、三人で……あとは……好きな相手と?とか?いる?」
「……いない」
「ダウト。何今の間」
「いないったらいねーの!つかなんで好きなやつと」
「好意を持った相手との場合どこまで効果跳ね上がるのか~的なあれだろ、多分」
「……なるほど」
真っ先に浮かんだのがアイツの顔な時点でもうだめだ俺……手遅れもいいとこだ……そんで雪也にはきっとバレてる……。じゃなきゃこんな珍しい笑顔で媚薬渡してこねーよ……(?)
「じゃあまあやるかどうかは別として渡したから。あとは頼んだ」
「はいはい……」
とんだ任務が舞い込んだな……。
そんなこんなで悪夢を一時的に忘れるくらいにはインパクトのある任務を受けてしまったおかげか、今日一日は仕事に支障を出さずに乗り切れた。
さてどうするか。まず一人で試すか?なんて思いながら自室で小瓶と睨めっこする。
…そういやどのくらいの強さなのか全く聞いてないんだよな……。が、察するに……この小瓶でそんな何回もデータ取れってんだからおそらく少量で十分なほどのキツめのやつだと見ていい。ちなみに副作用はこれといってないらしい。雪也曰く法雨開発班の中じゃ歴代最高に安全なものらしい。そこまで言われるともはや逆に怖い。
覚悟を決めて小瓶を開けて、口へ────
「やっほーはるるん」
「!?!」
げほ、ごほっ、変なとこ入っ……ていうかびっくりして一気に半分くらい飲んじゃったじゃねーかばかさく!!!てめえコノヤロウ!!!急に現れるんじゃねえ!!!
「あれ何その瓶」
「なんでもな…つかなんの用だよこんな時間に!夜這いか!?夜這いにでも来たか!?」
「大正解」
思わず「ひっ……」と声が漏れる。
「ってのは冗談で、まああわよくばとは思ってるけど」
「素直か」
「顔色悪かったの気になってさ~たまには櫻夜兄ちゃんが話聞いてあげなくもないぞ~?と」
「いやいやいや…れいくんが言うならまだしも……つか俺話す気ないって言」
「この瓶ラベル貼ってないけど何、飲んで大丈夫なやつなの?顔色悪かったのと関係ある?」
「話を聞けよ」
「なんかの薬…?うちの開発班のやつだったよなこのデザイン」
「だから話を……うっ」
やばい、そうだ、さっき半分飲んだとこだった……。う……ぁ……腰…熱……
「どした……ってもしかしてこれ…え?まじで?」
「あぁもう…ばか…早くどっか行けばか……」
俺にそう言われて、黙り込む櫻夜。なんだその無言は…つか急に真顔になるなこえーよ。
って、え?なんか視界が天井……あれもしかして押し倒されてる俺……?
「こんな美味しそうな据え膳食わないで男名乗れないっしょ」
「はぁぁ……?」
「あー、やっぱはるの涙目クるわー…いい」
「何言って……んッ」
「感度良好♡流石こはるんだね」
「ぁ、ちょ、触っ……そこやめ……」
どこまで察したんだコイツ!ていうか手つきが相変わらずえっっろいなこのどスケベ大魔王め!
「もうこんなんなってるのにやめちゃっていいわけ?」
「くそ……一人でなんとかすっから…お前は手出すなどっか行け……」
「え、一人でやってるとこ見せてくれるって?やった~」
「頼むから後半も聞いて、出てけっつってんの」
「見られてる方が興奮するんじゃないのはるるん」
「うっさいセクハラだぞそれ」
「いいからほら、見ーせーて♡」
「…………っ」
あぁだめだ……もうあちこち触りたくて仕方ない……頭がぼーっとして…何も考えられな………
────くちゅ、ちゅく、くちっ
ついに媚薬の効果に負けた俺は、櫻夜がいるにも関わらず己のモノ(と後ろ)を弄り始めてしまった。
ばっか…もう……最悪だ……媚薬効果かいつもの数倍気持ちいいのが余計悔しい……。
口に手を当て目を細めて、それはもうこの世の色気という色気を集めて一緒くたにしたようなどえろい顔で俺の自慰を眺める櫻夜。視線を落とすと勃ってるのが見えて、少々複雑な気持ちになる。興奮されてるじゃんかよなんだこれ……。
ていうか……好きなやつにこんなとこ……見られるとか……死ねる……
好き……?そう……うん……俺はこいつが……あ、やば気持ちい………そうだ俺ここ最近…こいつに触られること想像して…………
「さくぅ……っ…、」
「…!」
見られてる羞恥とその見てるのが好きな奴だという複雑な気持ちと桁違いの気持ちよさとで、わけがわからなくなって泣きながら喘ぐ。
我ながら死ぬほどみっともないな。マジで明日死んでないだろうか俺。つかこんなとこ見られたらどの道死ぬしかないだろ。
「っ、ふ、ぁ、さくやぁっ……あっ、」
はは、どうせ死ぬなら、なんて
「さくっ、ぁ、すき……っ、すきだ……ぁ」
もはやなんの涙なのかわからない涙で濡れるみっともない顔を空いてる手で隠しながら名前を呼んで、何度も、すきだと、隠しきれなかった感情を零す。
すきだ。すきだったんだ、ずっと。許してくれ。何度も勘違いだと思おうとした。だめだった。気の所為だったらよかった。違った。すきになっちゃってたんだ。気づかないうちに。手遅れなほど。ごめん。すきだ。ごめん。
もはや櫻夜のリアクションなんて見る余裕もなくて、その後も止まらなくなった自分でも驚くほど重い感情の吐露をしながら目先の快楽を追い続けた。
途中からなんだか櫻夜もノってきて、結局セックスになっていた気もするが、もはやそこからの記憶など曖昧もいい所とでも言うべきか……
……翌日の朝。俺の頭には、最中の記憶は砂粒ほどにも残っていなかった。
小春様には報告できないな、こんなの。記憶飛ぶ程……いやでもそれは半分一気に飲んだ俺が馬鹿だったんだよなわかってる。櫻夜のせいだけど。そう全部コイツのせいだ。
「うぅ……」
頭が痛い。これは薬の副作用というより単なる消耗と脱水だろう。泣きながらとか馬鹿じゃねーのマジで。途中から覚えてないからなんとも言えないが、目が腫れてる気がするので大方ずっと泣いてたんだろう。よくもまあ枯れないもんだ。つか本当に記憶ねえ……
……あ…でもそういや夢は見た気がする。
昨日の悪夢の続きのような、そうでないような。
『────春己……』
この世のものに向けてるとは思えないくらい愛おしそうに、それなのに今にも泣き出しそうに、俺の名を呼ぶ櫻夜。もちろん俺を抱きながら。
よくもこう自分に都合のいい夢ばかり見られるものだ。呆れるな。媚薬の力とはいえ自分からぶっ壊しにいったくせに。
後悔と絶望の中、あぁこれでもう隠す必要もなくなるんだ、と逆に少しスッキリしている自分がいる。
散々吐いたもんなあ。
本当に、言う気なんてなかったんだけど。馬鹿だし自己制御が下手すぎるから、一度タガが外れると抑えが効かなくなる。流石俺と言ったところか。馬鹿野郎。
本当……馬鹿だ……。何やってんだ俺……。
こんなに早く終わりを迎えるなんて思わなかった。
もう少し、もう少しだけでいいから隣にいたかったな。
でももう、お終いだ。
(あーあ、生き延びちゃった。)
そんな案の定を改めて思いながら起きあがり、己の首筋を、キスマークがあったそこを指でなぞる。
それからまだ隣で寝ている櫻夜の寝顔に顔を近づけ、呟いた。
「ごめん」
涙はまだ枯れそうになかった。
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