紅雨短編

法月

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10.01(十誕生日話/十哀)

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十様は、お祝い事や宴会が好きだ。
何も無くても定期的に傘下のものを集めて宴会を開くし、いつもとても楽しそうにしてらっしゃる。

しかし、何故かご自身の誕生日は盛大に祝ったりはしない。
そもそも大声でアピールをしないし、毎年知っている一部の者が勝手に祝って、終わりなのである。

確かにご自身だけでなく誕生日自体をあまり盛大に祝う印象はないが、あんなにお祝い事が好きなのにどうして、とずっと疑問だった。
外の人間から見たらきっと盛大に祝え!と祝わせているような御人に見えるであろう十様が、どうして誕生日だけはあまり触れないのか。


今年もこの日がやってきた。
十様はたまに本家の人間からお祝いの言葉や贈り物を受け取ったりはしていたが、それ以外は相変わらずいつもと変わらない一日を過ごしておられた。

僕も毎年ささやかながらも贈り物をしているが、他の方同様に「受け取っておく。ありがとな」と淡白な返事を頂くだけで、それ以上は触れない。
慣れてきてはいたが、やはり違和感はあった。

「……十様」
「なんじゃ」
「一つ、お聞きしても…?」
「どうした」

機嫌は、悪くはないが良くもない、といったところか。

「何故、ご自身の誕生日は祝われないのでしょうか」

返事がない数秒。やらかしたか?と内心不安になりつつ言葉を待つ。
すると十様はゆっくり口を開いて、仰る。

「祝うような日ではない、というだけじゃ」

淡々としたその声からは、心情を読むことができない。僕には分からなかった。

「……どういう、意味でしょうか」
「お主、聞きたいことは一つと言っておったじゃろ」
「は、申し訳ございません」
「……まあよい」

少しの間。僕が静かに待っていると、十様はいつもの不敵な笑みではなく、微笑みを浮かべて、仰った。

「そのままの意味じゃよ。祝うようなめでたい日ではない、本当にそれだけなのじゃ」

そう言った十様のお顔は微笑んでいるのに、どうしてか悲しみの色が強く見えた気がした。
直ぐにいつもの十様に戻ってしまったので、僕の気の所為だったかもしれない。それでも滅多に見ることの無い表情に、胸が締め付けられた。

「……十様」
「今度はなんじゃ」
「我々は…いえ僕は、めでたい日だと思っております」
「……そうか」
「僕にとってはこれ以上ない程、めでたい日でございます」

ほんの少しだけ驚いたようにこちらへと視線をやる十様。僕は続ける。

「これからも、お祝いさせて頂きます故」

十様は、ふは、と笑う。

「お主、それでわしが気分を悪くするとは考えぬのか」
「悪くなされるのでしょうか」
「いや、恐れぬのかという話じゃよ」
「なされないのであれば尚のこと祝い続けます」
「案外強情じゃの」

ツボに入ったのかくふふ、と笑う十様の無邪気なそのお顔を眺める。

十様は祝うようなめでたい日ではないと仰った。それでも、僕にとっては確かに世界で一番めでたい特別な日。
心酔する主がこの世に生を受けた日なのだから。
ただの側近である僕等の世界一なんかじゃ、足りないかもしれない。
でも、それでもいい。

「お誕生日おめでとうございます、十様」

「ああ、ありがとう、哀」

今までこの日には見せなかった、嬉しそうなその笑顔。
僕にはそれで十分すぎるから。
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