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第四章 王都での出会い
45今はこの世界に
しおりを挟む手になにか触れてる感覚がして目が覚めた。
ふと手を見ると、エヴァンさんが私の手首あたりをスリスリしていた。なんならたまに唇を寄せてる。なにしてんだ。
「エヴァンさん?」
「すみません、起こしてしまいましたか?」
それはいいけれどえっちしたあとの記憶がない。失神したのだろうか。
ソファに寝かせてくれていたようで、裸の上に薄い毛布がかかっていた。
「なにしてたんです?」
腕なんて見てもいいことないでしょうに。あんまり見られるとムダ毛大丈夫かなとか違うこと気になっちゃうじゃん。
「幸せだなって浸ってたんです」
言いながらまたエヴァンさん、腕をすりすり。
もしかしてルシアさんのことで振られることを覚悟していたのだろうか。
うーむ。ここは一応ビシッと躾けておいたほうがいいよね。
「エヴァンさん」
「はい」
「今回は不意打ちだったのがわかっていたので許しましたけど、ほかの人とエッチなことしたらお別れしますからね」
エヴァンさんはビシッと体をこわばらせて、でも何度も首を縦に振った。
「わ、わかっています。今回だって、ミツキに振られるかと……。俺だって、ミツキさんがほかの男とキスしたら嫉妬で狂います」
エヴァンさん、私の魔力供給嫌がってたもんね。
というか、全然関係ないし今さらですけど、私たち、付き合ってたってことでいいんですね?
とりあえずエヴァンさんと正真正銘お付き合い中のようなので、私の中の認識もきっちり書き換える。となると、やっぱりこれはほぼ同棲……。
そんなことを思ってると、私のお腹がぐるぐると呻いた。腹が減ったらしい。空気を読まない正直者だ。
「ミツキさん、なにか作りますね」
「ん……ありがとうございます」
たぶん深夜だけど。真夜中だろうけどね。でもお腹すいてるんだよ。食べないでえっちしたからね。しかたないね。運動したからね、セーフだよね、セーフ。
エヴァンさんが片手を振ると、台所がにぎやかになる。
すごいなぁ。私もそれやってみたい。ふっ、って腕を振ると、台所でフライパンたちがダンス踊るの。いいよねぇ、魔法の国。
「そうだ、エヴァンさん。私、通信石買ったんですけど、エヴァンさんも持ってます?」
起き上がって、今日買った荷物の中から貝殻の石を取り出して、エヴァンさんを見る。
ん? なになに、どしたのその微妙そうな顔。私の通信石見てる? え、もしかして私に連絡先教えたくないとか?
うわ、それはショック。でも嫌だと言うなら無理には聞かないよ。連絡いつでも取れるの嫌な人とかいるもんね。
「えーと、一応買ったんですと報告を、と思って……」
ちょっと引きつったかもしれないけど笑って、貝殻の石を閉じてテーブルの端っこに置く。
エヴァンさんは嫌でも私は欲しいよ、エヴァンさんの連絡先。だからアピールはしとくよ。ほらほら、置いてあるでしょう、通信石。さあ、いつでもどーぞ?
「もしかしてミツキさん、転移の石も買いました?」
「え? ああ、はい。これからは毎日送っていただかなくて大丈夫ですよ。街も一人で行けますし」
服と一緒に床に落ちていた赤い石を手に取ってエヴァンさんに見せつける。キラキラしててかわいいでしょう。
赤い石を凝視したエヴァンさんが、グッと詰まって、やがて深い息を吐き出した。
「……俺が、わざと教えなかったというの、わかってしまいました?」
へ?
「通信石のことも、転移の石のことも。俺がわざとミツキさんに言わなかったって……。怒ってます?」
ええっ、わざと教えてくれなかったのか。なんでっ?
「怒ってはない、ですけど……そうだったんですか?」
「あ、気づいてませんでした? うわぁ、やらかした」
エヴァンさんエヴァンさん、心の声、漏れてますよ。
「心、狭いですけど。通信石で王子とかと連絡取られるのが、嫌で。転移の石も、そんなの持ったら、ミツキさん一人でどこか行ってしまうでしょう?」
ええ、そんな理由?
エヴァンさん本当に独占欲強いのね? ちょっと意外性あるよ。びっくりだよ。いや、そんなとこもエヴァンさんならいいなぁとか思った私は末期だけどね?
「特に、転移の石は──知らない間に、いなくなって。元の世界とか」
エヴァンさんの眉が、ぎゅぅっと寄る。
エヴァンさん、自分で異邦人は帰れないって言ってたのに、一番その話を信じてないよね? やっぱり童貞奪ってポイしたから? 心のダメージすごかったのかな。人間不信になっちゃった? それは本当にあやまるよ。責任取るから許してね。
「異邦人は、元の世界に帰れないんでしょう?」
「……そう、聞いてますけど。なんだか、不安になるんです、ミツキさんを見てると。いつか、消えてしまいそうで」
エヴァンさんが手を伸ばしてきた。擦り寄る猫のようにスリスリしてくる。
かわいいな。胸キュンキュンするよ。
エヴァンさんのふわふわの髪を撫でる。ちょっと髪にチューしてみたり。うわぁ、もう私絶対やばいよね。ちょっとエヴァンさん依存性になりそうだよ、なにそれこわい。
「どこかに行ったりしませんよ」
たぶん。
「……もし、元の世界に帰ったとして。また、この世界に戻ってきてくれますか?」
「いやぁ、それは……」
この世界への行き方、そもそも知りませんよ、私。小指? 足の小指ぶつけたらいいんですかね。
「……わかってます、すみません。嫌なこと聞きましたね。ごはん、もうすぐできるみたいです。準備しますね」
エヴァンさんが立ち上がって台所へと歩いていく。その後ろ姿を見送って、小さくため息。
もしも。もしも仮に元の世界に戻れたら。
私は──どっちの世界にいたいって思うのだろう。
いっそのこと、「永久に戻れませんっ!」て、どでかい紙をバシーンっと顔に貼って欲しいくらいだよ。
でもやっぱり今は、ここにいる間は、エヴァンさんのそばにいたいと思うんだから、やっぱり私は末期だと思うんだ。
私も立ち上がって、服を着ると台所へと向かう。そしてピタリとエヴァンさんの背中に張り付いた。
振り返ったエヴァンさんが、ちょっと驚いた顔をして、でも嬉しそうに笑って私に唇を落とした。
「エヴァンさん。私はここにいますよ、この世界にいる間は、エヴァンさんのそばに」
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