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第四章 王都での出会い
42懺悔
しおりを挟むエレーナが「どうぞどうぞ。はやくお戻りになって!」と急かしてきたが、身分の高い美少女を放って帰ることはできない。
ということを伝えると、エレーナは気遣う素振りを見せつつ転移魔法で帰っていった。いや、魔法本当に便利。
駆け寄ってきたエヴァンさんが言い訳を考えているのかあわあわと口と手を動かしているなかで、後ろからあのルシアさんがエヴァンさんの腕を引いた。
その手をエヴァンさんが突き放すように払う。
「触るな。俺の用件は言った通りです。もう付きまとわないでいただきたい」
凍えるような紫の目だった。
蔑むようにルシアさんを見ている。
ルシアさんはビクリと手を引っ込め、うつむくそぶりをしてさりげなく私を睨んできた。
うわ、こわ。この人未練たらたらだよ! やっぱり優男だから女の子に未練が残っちゃうんだよ。付き合ってたときあんなに優しかったのにって!
なんて罪な男なの!
口も挟めずにいると、エヴァンさんが私の手をとった。そして、一瞬で自宅に戻る。
広いリビングで、私たちは沈黙をした。
うーん、なにから話したらいいんだろう。
この浮気者! とか?
だれよあの女! とか?
うーん、でもよく考えたらエヴァンさん不意打ちでキスされてたし。
女の子が未練たらたらになるくらい優しくしないで! とか?
でもそれはエヴァンさんの性格の問題だし……。私も優しくされるとうれしいしね。
あれ、話すことない!?
「み、ミツキさん」
エヴァンさんが震える声で話しかけてきた。視線を向けて、困惑にゆれる紫の瞳とバチッと目が合う。
エヴァンさんはその場で素早く頭を下げた。腰が九十度に曲がっている。
「す、すみませんっ!」
じぃっとエヴァンさんの背中を見て、キュッと目を細める。
「エヴァンさん、浮気したかったんですか?」
エヴァンさんの背中がびくりと震えた。頭を下げたまま首を横にふっている。銀色の髪がひらひらと揺れた。綺麗でかわいい。
「たしかにすっごく綺麗な方でしたし。あの人とまたエッチなことでもしたくなっちゃったんですか?」
ちょっと意地悪な問いかけをしてみる。
「な、なんの話ですか……。俺は、ミツキさん以外としたことありません」
「え」
……えっ。えっ!?
「めちゃくちゃ女々しいですけど、言い訳、してもいいですか?」
「え? あ、はい。どうぞ」
混乱したままうなずく。
エヴァンさんが頭を下げたまま懺悔するように話し出した。
「あんな場面を見せてすみませんでした。俺の注意力のなさが原因です。でも、ルシアと付き合ってたとか、そういうことはありません。というか、恥ずかしい話、俺、誰とも付き合ったことないんですよね」
……は?
「えええっ! うそぉっ!」
「いや、ほんとです。恥ずかしいからあんまり言いたくなかったんですけど」
頭を下げてるエヴァンさんの耳が朱色に染まる。
いやいやいや、嘘でしょ。百戦錬磨じゃん。こんなにイケメンじゃん。さぞおモテになるでしょうっ?
というか、もう頭上げていいですよ?
普通に話すようにうながすと、エヴァンさんがおずおずと顔を上げた。
「俺が術式作っているのは知ってますよね?」
「エヴァンさんのお仕事ですよね」
「俺、昔から魔法を作るのが好きで、色事とかそっちのけでひたすら魔法を作ってたと言いますか……」
エヴァンさんがちょっと恥ずかしそうにモゾモゾした。いや、かわいいなっ? 今すぐ襲って食べちゃいたいけどっ。
「でも、モテますよね?」
モテないはずがない。絶対モテる。優しい、イケメン、優秀、これがそろってるんだ。モテないはずがない。
エヴァンさんは気まずそうに眉を下げて、視線を左右に動かし、観念したのか小さく息を吐いた。
「……自分で言うのもアレですが、まあ、はい、声をかけられることはありますね。ルシアもそれです」
ああ、なるほど。
「今日たまたま会ったので、もうそういうことは辞めてくれと言ったんです。ミツキさんに誤解とかされたくなかったんで……でもそれを見られたとは、俺、情けなくて泣けてきます」
うわ、泣かないで。ごめんよ、タイミング悪く見ちゃって。ごめんってば。私もたまたま通りかかっちゃったんだよ。
それよりエヴァンさん。私、とっても気になるんですが、まさかあなた童貞だったんですか?
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