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第四章 王都での出会い
40異世界の友だち
しおりを挟む「だからね、もうあれはぜーったい元カノ! だって空気が違ったもんっ。なんかちょっと気まずい空気って言ったらいいの? でもさぁ、エヴァンさんちょっと面食いすぎじゃない? あんなに美人だなんて聞いてないよっ。私月とすっぽんだよ、恥ずかしいっ。ねえ、聞いてる? エレーナ!」
さっきから返答がないことに気づいて、むーっと顔をあげる。
「ええ、聞いてますわ。手、止まってますわよ」
おっと、今は一応勉強中だった。
ノートに答えを書きつつ、またおしゃべりと言う名の恋の相談をする。
「そのあとね、二人して見つめ合っちゃって。で、美人の元カノ、ルシアさんが私を見て、あって顔してお辞儀して行ったの。それで去り際なんて言ったと思う? またね、エヴァン、って」
「……そうですか」
「エヴァンさんってやっぱりモテモテだったんだなぁ。でも美人すぎない? スタイルもすっごいよかった。背高くてウエストくびれてて、胸がおっきい!」
力を込めたら紙にインクがにじんでしまった。
「あなた……本当にミツキなんですの?」
「ええっ? 光希だよ? なんで自分の名前嘘つかなきゃいけないの?」
「いえ、ちょっと思っていたのとイメージが……」
「ええ、なにそれ、どんなイメージ? 黒で神秘的だからさぞかし本人も神秘的で清楚で、可憐なんだろうみたいな?」
「……まあ、それに近いでしょうか」
「うそ、無理無理。そういう柄じゃないよ。え、もしかしてエヴァンさんも私のことそんなだと思ってるのかな。うわ、それはちょっとなぁ、無理あるよ」
なんたって私は干物でヒモ女だ。
だっさいジャージで日中ウロウロしちゃうような女だぞ。神秘的とは無縁もいいとこだよ。
能面のような顔をしていたエレーナが、ちらりと私を見た。
誰もが振り返るような、お人形さんみたいな美少女、エレーナ・カストラーナ。
王宮にいたときに、唯一いた女の子だ。なんと、王子様の婚約者らしい!
しかも成績優秀で魔法にも詳しいと。
これはぜひお友だちになっておかないと! ということで、私から猛アプローチをかけて、学校の図書館で居残り勉強中だ。
エレーナは高貴な方らしく、気軽に話しかけてはいけなかったらしい。
学校で話しかけたらみんなギョッとしてたけど、黒の異邦人様がだからいいのか……みたいな反応してた。
いやいや、そういうのは、もっとはやく言ってほしいよね。そもそも私、王宮で会ったときに気安く話しかけちゃってたよ。「かわいい!」って。
でもおかげで、こうして気にかけてくれるようになったんだけど。結果オーライだよね。
しかも、学校がお休みの日は、こうして勉強を見てくれるらしい。優しいよね!
ふふふ、美少女の友達ゲット!
「ミツキは、本当にエヴァン様がお好きなんですね」
「ん……そう、なのかな。たぶん好きだと思うよ。でもね、なんか、ちょっと今までと違う感じで、変な感じなの」
元カノの出現でこんなに心がザワついたのははじめてだ。
百戦錬磨のエヴァンさんだ。これから先また何人もの美女を見ることになるかと思うと、ちょっと心配だ。私の心が。美女にけちょんけちょんにされないだろうか。大丈夫か。
「エレーナ、私、おうち帰りたくないよ」
「……なら、わたくしの家に来ます?」
……え?
えっ!
「いいのっ?」
「部屋ならいくらでもありますもの。それにわたくしも、もっとミツキとお話してみたいと思いまして」
ええっ、なにそれっ、すっごく嬉しいっ!
だってお人形さんみたいな美少女からの愛の告白だよ。胸がときめかない方がおかしいよね。うわぁ、どうしようっ。顔にやけて止まらない。
「あっ、でもエヴァンさんに連絡する方法が……」
そう言うと、エレーナが少し顔をしかめた。
「通信石と、転移の石はお持ちではないのですか?」
……なにそれ?
エレーナの話によると、魔石と呼ばれる石と術式を組み合わせて、簡易的な魔法が使えるようになる石だとか。
いくら魔力があると言っても、人それぞれ魔力保持量は違うから、移動や通信なんかは魔石を使う人が多いんだとか。
「それ、私にも使えるの?」
「使えるはずですよ。ミツキは、魔力は持ってますから」
「そうなのっ? 知らなかったよ」
うーん? つまり、私は術式が書かれている魔法道具なら使えるってこと?
あ、でも魔石が必要なんだっけ。なんだかややこしいな。
でも、移動も通信も私にもできるのなら、どうしてエヴァンさん教えてくれなかったのかな。知らなかったとか?
「たぶんわたくしは、エヴァン様に恨まれてしまいますわね」
「ええ、なんで?」
「ミツキを独占する権利を、無理やり引き剥がしてしまいましたので」
クスクス笑うの、かわいいなぁ。お花みたい。かわいい。
ぽーっと見惚れていると、エレーナがにこりと笑う。
「あとで街に行って通信石と転移の石を買いましょうか」
「うんっ」
「では、今日はこの本一冊終わらせてくださいね」
「……スパルタだね。鬼教師」
「……なにか言いまして?」
「ううん、なんにも」
慌てて机に向かった。
勉強を終えて外に出ると、エヴァンさんが門のところで待っていた。
いや、転移の石があるならこんなに待たせることもなかったのに。もっと早く教えてほしかったよ。
エヴァンさんに今日はエレーナの家に泊まるから帰らないと伝えると渋い顔をされた。
友達ができたからとなんとか丸め込むと、エヴァンさんは寂しそうにこちらを振り返りながらも帰って行った。
飴と鞭は必要だよね、うん。
「エレーナ、行こう」
そしてこの世界ではじめてできた友達と、街に繰り出す。
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