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第三章 逃げる者と追う者
27ホッと一息
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「エヴァン・シルドバードか」
エヴァンさんは、その声で初めて気づいたみたいに、赤髪の男を見た。
そして、嫌そうに顔をしかめる。
え、お知り合いですか?
「ランド・ジーゼルグ」
「……エヴァン、その腕」
ランドと呼ばれた赤髪の強面くんは、エヴァンさんの手首の辺りを、目を見開きながら見つめていた。
……腕?
そういえば、ヘルセミーナの人たちも、エヴァンさんの腕がどうとか言ってたような。なにもないけど……。
「見ての通りだ。この方は、俺のだ」
えっ。なにそれ、びっくりした。
心臓が勝手にキュンッと反応しちゃった。俺が連れていくんだ、ですよね。危ない危ない。私の頭の自動変換機能こわいな。
「ふん、なら、目を離さないことだな。美しい黒──ぜひ、魔道協会にほしい」
ランドさんが、キュッと目を細めて私を見た。こいつにどれほど利用価値があるだろうかと、見定めるような目だった。
嫌な感じだなぁ……。
そんなことを思ってると、エヴァンさんが大きな体でぎゅっと私を抱きしめ、その視線から隠そうとしてくれる。心臓がギュンッと反応する。
もー、エヴァンさんといると、心臓がギュンギュンして虚しい勘違い女が誕生しちゃうんですけど! どうしてくれるだ!
「おまえも一緒でも構わんぞ、エヴァン」
ランドさんはニヒルに笑って、そう言い放つ。
「あいにくと、俺は自由に動くほうが性に合ってるんで」
「惜しい男だな。なら、また王都で」
そう言って、赤髪の男は長い足で歩いて行き、夜の闇に消えた。
なんだったんだ。エヴァンさんと知り合いみたいだったけど。
強面くんが消えたほうをじーっと見ていると、エヴァンさんが眉を下げながら私の顔をのぞきこんできた。
「ミツキさん」
捨てられた子犬のように、頼りない紫の瞳と目が合う。
「よかった、いる、ミツキさん──」
紫の瞳から、ハラハラと涙が溢れてしまうのではないかと、ギョッとした。
そのくらい、哀愁のようなものがエヴァンさんから漂っていたからだ。
うわぁ、やっぱり勝手に出たのはまずかったか……。
「え、と、ごめんなさい……」
「抱いたこと、怒ってます? 嫌でしたか? それとも俺、下手でした?」
えっ。
なにそれ、どんな勘違いっ!?
あなたのえっちが下手くそだったら、日本人の男なんてポンコツしかいませんけどぉっ!?
「いやいやいや、百戦錬磨のエヴァンさんが下手とかありえません。勝手に出たのはすみませんでした」
「百戦錬磨?」
百戦錬磨の男は無自覚なのか。恐ろしいな。無自覚に女を誘惑して食べてポイしたのか?
いや、これだけイケメンで優しいんだ。女の方がふらふらーと誘われるんだ。気持ちはわかる。すっごく。
「いえ、なんでもありませんよ。それよりゴメンなさい。異邦人は、最初に見つけた人が王都に連れて行くんですね。知らなくて……エヴァンさんの立場悪くするところでした、本当にすみません」
「ああ、もう、本当にかわいいな、ずるい……」
いや、ずるいのあなたですが?
そんなホイホイとかわいいとか言っちゃダメなんですからね? わかってます?
「でも勝手に居なくなったのは、俺、怒ってますからね」
怒ってると言ってはいるけど、あまりこわくない……。
形容するなら「ぷんぷん」て感じだ。どちらかというと、悲しみの割合が大きいみたいで、拗ねてるようにも見える。砂があったら指先で砂いじりをしそうだ。
間違っても、「テメェ! この野郎!」とビンタをする感じではない。
「すみません、もうしませんよ」
ふわふわのシルバーの髪を撫でながらそう言うと、エヴァンさんはしばらく固まって、またぎゅうっと抱きしめて来た。
「……どうして居なくなったんですか」
「えっ、それは……」
「それは?」
えー。えっちが気持ちよすぎてハマって彼女面しちゃいそうだったからですー。
言えない。無理だね。言えないね。
「えーと、その、お金とか、えーと、いろいろ……」
「お金の心配はしなくていいんですよ。王都までの旅費とかは、国から支払われますので」
「えっ! そうだったんですか?」
なんだ、そうか、よかった。
エヴァンさんが生活苦にならないなら安心だ。急な百万の出費とか、痛すぎるからね。
「本当に、それだけですか?」
「え? ああ、はい。そうです」
笑顔で嘘をついた。
う、ごめんよ、でも言えないよ。ハマっちゃいそうなんて。いい男すぎるのが悪いんだ、このイケメン優男めっ!
「……そうですか。よかった……」
エヴァンさんが、泣きそうに笑った。そして強く抱きしめてくる。
急に居なくなったもんね。心配したよね。エヴァンさん優しいから。
自分が連れて行く義務のある異邦人が行方不明。絶対胃が痛い。
せめて、書き置きとか言付けとか頼むべきだったよね。気が回らないなぁ、私。
「ごめんなさい……」
その体に身をあずけると、エヴァンさんがさらに強く抱きしめてくれた。
腕の中、あったかい。
エヴァンさんの甘い良い香りもしてきた。
リラックス効果のある香りなのかな。真冬に温かい紅茶を飲んだみたいに、ホッとする。ほわぁっと全身に熱が回るみたいな。
「もう遅いですから、宿に移動しましょうか」
髪を指先で梳かれながら、穏やかな声でそう声をかけられて、私は小さくうなずいた。
エヴァンさんは、その声で初めて気づいたみたいに、赤髪の男を見た。
そして、嫌そうに顔をしかめる。
え、お知り合いですか?
「ランド・ジーゼルグ」
「……エヴァン、その腕」
ランドと呼ばれた赤髪の強面くんは、エヴァンさんの手首の辺りを、目を見開きながら見つめていた。
……腕?
そういえば、ヘルセミーナの人たちも、エヴァンさんの腕がどうとか言ってたような。なにもないけど……。
「見ての通りだ。この方は、俺のだ」
えっ。なにそれ、びっくりした。
心臓が勝手にキュンッと反応しちゃった。俺が連れていくんだ、ですよね。危ない危ない。私の頭の自動変換機能こわいな。
「ふん、なら、目を離さないことだな。美しい黒──ぜひ、魔道協会にほしい」
ランドさんが、キュッと目を細めて私を見た。こいつにどれほど利用価値があるだろうかと、見定めるような目だった。
嫌な感じだなぁ……。
そんなことを思ってると、エヴァンさんが大きな体でぎゅっと私を抱きしめ、その視線から隠そうとしてくれる。心臓がギュンッと反応する。
もー、エヴァンさんといると、心臓がギュンギュンして虚しい勘違い女が誕生しちゃうんですけど! どうしてくれるだ!
「おまえも一緒でも構わんぞ、エヴァン」
ランドさんはニヒルに笑って、そう言い放つ。
「あいにくと、俺は自由に動くほうが性に合ってるんで」
「惜しい男だな。なら、また王都で」
そう言って、赤髪の男は長い足で歩いて行き、夜の闇に消えた。
なんだったんだ。エヴァンさんと知り合いみたいだったけど。
強面くんが消えたほうをじーっと見ていると、エヴァンさんが眉を下げながら私の顔をのぞきこんできた。
「ミツキさん」
捨てられた子犬のように、頼りない紫の瞳と目が合う。
「よかった、いる、ミツキさん──」
紫の瞳から、ハラハラと涙が溢れてしまうのではないかと、ギョッとした。
そのくらい、哀愁のようなものがエヴァンさんから漂っていたからだ。
うわぁ、やっぱり勝手に出たのはまずかったか……。
「え、と、ごめんなさい……」
「抱いたこと、怒ってます? 嫌でしたか? それとも俺、下手でした?」
えっ。
なにそれ、どんな勘違いっ!?
あなたのえっちが下手くそだったら、日本人の男なんてポンコツしかいませんけどぉっ!?
「いやいやいや、百戦錬磨のエヴァンさんが下手とかありえません。勝手に出たのはすみませんでした」
「百戦錬磨?」
百戦錬磨の男は無自覚なのか。恐ろしいな。無自覚に女を誘惑して食べてポイしたのか?
いや、これだけイケメンで優しいんだ。女の方がふらふらーと誘われるんだ。気持ちはわかる。すっごく。
「いえ、なんでもありませんよ。それよりゴメンなさい。異邦人は、最初に見つけた人が王都に連れて行くんですね。知らなくて……エヴァンさんの立場悪くするところでした、本当にすみません」
「ああ、もう、本当にかわいいな、ずるい……」
いや、ずるいのあなたですが?
そんなホイホイとかわいいとか言っちゃダメなんですからね? わかってます?
「でも勝手に居なくなったのは、俺、怒ってますからね」
怒ってると言ってはいるけど、あまりこわくない……。
形容するなら「ぷんぷん」て感じだ。どちらかというと、悲しみの割合が大きいみたいで、拗ねてるようにも見える。砂があったら指先で砂いじりをしそうだ。
間違っても、「テメェ! この野郎!」とビンタをする感じではない。
「すみません、もうしませんよ」
ふわふわのシルバーの髪を撫でながらそう言うと、エヴァンさんはしばらく固まって、またぎゅうっと抱きしめて来た。
「……どうして居なくなったんですか」
「えっ、それは……」
「それは?」
えー。えっちが気持ちよすぎてハマって彼女面しちゃいそうだったからですー。
言えない。無理だね。言えないね。
「えーと、その、お金とか、えーと、いろいろ……」
「お金の心配はしなくていいんですよ。王都までの旅費とかは、国から支払われますので」
「えっ! そうだったんですか?」
なんだ、そうか、よかった。
エヴァンさんが生活苦にならないなら安心だ。急な百万の出費とか、痛すぎるからね。
「本当に、それだけですか?」
「え? ああ、はい。そうです」
笑顔で嘘をついた。
う、ごめんよ、でも言えないよ。ハマっちゃいそうなんて。いい男すぎるのが悪いんだ、このイケメン優男めっ!
「……そうですか。よかった……」
エヴァンさんが、泣きそうに笑った。そして強く抱きしめてくる。
急に居なくなったもんね。心配したよね。エヴァンさん優しいから。
自分が連れて行く義務のある異邦人が行方不明。絶対胃が痛い。
せめて、書き置きとか言付けとか頼むべきだったよね。気が回らないなぁ、私。
「ごめんなさい……」
その体に身をあずけると、エヴァンさんがさらに強く抱きしめてくれた。
腕の中、あったかい。
エヴァンさんの甘い良い香りもしてきた。
リラックス効果のある香りなのかな。真冬に温かい紅茶を飲んだみたいに、ホッとする。ほわぁっと全身に熱が回るみたいな。
「もう遅いですから、宿に移動しましょうか」
髪を指先で梳かれながら、穏やかな声でそう声をかけられて、私は小さくうなずいた。
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