異世界にきたら天才魔法使いに溺愛されています!?

猫山みぶ

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第一章 出逢い

4sideエヴァン

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 魔法の発展と共に成長してきた世界、エストラーナ。

 この世界には、そこかしこに魔力のたまり場が存在し、魔力の影響を受けた自然界のものは、独自の進化を遂げる。


 俺の住む街、ヘルセミーナの近くにも、そこそこ大きな魔力のたまり場があった。
 魔力の影響を受けた生き物は、通常の生き物と比べて強い。魔法を使う動物もいる。

 だから、ある程度の力を持つ魔道士たちが順番に見回りをし、異状がないことを確認して結界を張る。

 そうすることで、街はよくやく安全を手に入れることができる。


 そして、俺が見回り担当だった、真っ赤な月が輝く、紅月の夜。

 結界が、大きく揺れた。

 外からとも、中からとも言える不思議な揺れ方に、慌てて転移の魔法を使って、結界が揺れた場所へと向かった。

 そこにいたのは……。

 この世界では神の色とされる、漆黒をまとった、小さな少女だった。



 元々この場所は魔力のたまり場となっていたが、今は少し異常だ。魔力量が狂っている。
 そしてそれに触発されたのか、一匹の獣が興奮したように唾液を垂らして唸っていた。

 とにかくその獣を結界で縛り付け、転移させる。

 そして、震えて目を閉じている少女に声をかけると、その少女はこわごわと顔を上げた。

 髪と同じ、真っ黒の瞳に息を飲む。
 すっと通った鼻筋に白い肌。目はこぼれ落ちそうなほど大きく、華奢な体は簡単に折れそうだ。


 震える彼女に上着をかけようと、かすかに触れた瞬間、ぐっと心臓が縛られたような痛みが走った。
 次の瞬間、手首にぐるりと浮び上がる、仄白い光と漆黒の紋様。


 噂には聞いたことがあった。

 この世界には、魔力同士が共鳴する、対偶と呼ばれる運命のパートナーがいると。
 出会った瞬間、お互いの体に印が浮かび上がると。


 ただ、この広い世界、出会う確率は無に等しく、それは伝説に近いものになっていた。今ではただの噂話みたいな扱いだ。

 それでも、運命のパートナーに憧れる者は、世界を旅して周ったりもするらしい。
 だが、あいにくと俺は、そこまでしてパートナーを見つけたいと思ったことはなかった。

 眉唾物だろうと鼻で笑っていた。


 でも。
 今、ハッキリとわかる。
 そこまでして追い求める者がいる理由が。

 心が縛り付けられたようなこの感覚。
 じくじくと切なく痛むのはなぜか。

 胸の奥が苦しくて、抱きしめて泣いてしまいたくなる。


 甘い香りが彼女から発せられ、辺りに満ちる。

 頭の奥がクラクラした。

 花に誘われる虫のようだ。嗚呼、これが、運命というやつなのか。
 一目惚れよりもずっと強力だと聞いたことはあったが、身をもって実感している。

 なくしていたものが、ようやく見つかったかのような、満たされていく気持ち。

 存在を主張するように、お互いの手首に浮かんだ紋様は、眩く光る。魂が共鳴しているかのよう。

 ただ、こんなにも光って主張しているというのに、彼女はチラリと見ようともしない。

 なんとなく、嫌な予感がした。

 同じように運命を感じてくれているような気配もない。ソワソワと周囲を気にしている。

 昔読んだ文献では、その後、存在を確かめあうために、とにかく求め合うと書かれていたはずだが……。

 チラリと彼女を見る。

 なんだか普通だ。
 普通に不安そうにしている。

 まさか、この紋様が見えてないし、運命も感じてない……?


 燃え上がっていた気持ちが急に落ち着いてくる。次に湧き上がってきたのは、恐怖と不安。

 この世界の者なら、この紋様を見ただけでわかる。何も言わなくとも、それがなんなのか伝わる。

 だけど、その存在すら知らない人に、「あなたは俺の運命のパートナーです」って、どうやって説明したらいいんだ?

 一歩間違えたら、狂言者になりうる。

 唯一の決定的な証拠であるこの紋様は、彼女には見えていないというのに。


 考えてみれば、パートナーが異邦人というのは、これまで一度たりとも耳にしたことがなかった。




 ひとまず宿に彼女を連れて行き、簡単に異邦人について説明をすると、彼女はその美しい黒の瞳からポロポロと涙を流した。

 帰りたい、と泣くのを見て、胸の奥がぎゅうっと痛む。

 この胸の痛みは、なんの痛みだろうか。

 彼女が泣いているから、共鳴して帰してあげたいと思っているのか。
 それとも。

 彼女が帰りたいと泣くから、離れるのが苦しくて、胸が軋んでいるのか。

 後者な気がする。
 彼女が無事に帰れたらいいのにと思う気持ちは、もちろんある。その反面、何をしても失いたくないという願望が込み上げてくる。


 帰したくない。


 ハッキリとその意思が心の中に渦巻いて、自分に驚く。俺って、こんな女々しい執着心を持っていたのか。
 わりと淡白だと思っていたが、どうやらそれは誤りだったようだ。

 帰したくない、帰したくない。

 見つけた、俺の、俺だけの、パートナー。


 彼女の何もかもが欲しいと、心の内側から叫び出す。腕の紋様がかすかに光った。
 こんなに光ってるのに、見えない?
 嘘だろ?

 小さくて、華奢で、さらには黒を持つ少女。
 この世界の男が目の色を変えないはずがない。なんなら女もちょっと怪しい。いや、やっぱり男だ。

 だって、この世界は、圧倒的に男の数が多い。


 せっかく出会えたパートナーなのに、パートナーの証が見えないとか、喜んでいいんだか悲しんだらいいのか、わからない。

 世界という目で見れば、俺よりも優れた男なんてゴロゴロいる。なんと言っても、俺は攻撃魔法が使えない、欠陥品だ。
 神の色を持つ彼女と釣り合うかと問われたら、否と答えるほかない。

 それでもパートナーの証を持つ彼女を手放したくないのなら、自力で彼女を振り向かせなきゃいけないってことだろ?

 自分のいいところを思い浮かべてみたものの、なにひとつ思いつかなかった。

 強いて言うなら、魔法が好きなことか。

 いいや、それは長所には入らない。なんなら短所だ。魔法ばかり、とよく呆れられていた。


 冷静に考えを巡らせて、胃の奥がヒヤリとする。

 異世界から来た、元の世界に未練がある彼女を振り向かせるの、普通に考えて、無理じゃないか?
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