異世界にきたら天才魔法使いに溺愛されています!?

猫山みぶ

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第一章 出逢い

3ひとりぼっちの世界

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 エヴァンさんが取ってくれた宿。なんていうか、いろいろ変だった。いろいろ。

 部屋に入るとパッと、明かりが自動でついた。
 まぁ、コレは地球にもあるからね。センサーでつくやつ。


 エヴァンさんが私を床に下ろすと、どこからともなくスリッパがやって来て、私の足元に鎮座した。
 いや、本当にやって来た。そこになにもなかったはずなのに、いきなりスリッパがビュンッと駆けてきた感じだった。
 足元にいきなり現れたから、かなりビビった。
 ゴから始まるカサカサするやつかと思ったよね。


 他にも、テーブルに置いてあったコップに、勝手に水が湧いたり。カーテンがひとりでに閉まったり。
 いやなにこれ、ホラー映画の中に迷い込んだ?

 背中がゾワゾワして、エヴァンさんの上着に慌てて袖を通した。お祓いお祓い。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。

「ミツキさん、どうぞ」

 木の椅子をエスコートするように引いてくれるエヴァンさんにお礼を言いつつ、腰かける。
 反対側に、エヴァンさんが座った。

「何から話しましょうか」
「えーと、私は、殺されたり実験されたりとか、するんでしょうか」

 兎にも角にもこれが知りたい。うなずいたら逃げるけどね。脱兎のごとく逃げ出すけどね。なりふり構わず逃亡逃亡。

「ありえません。まずは異邦人について話しますね」

 エヴァンさんの話によると、この世界にはたびたび異邦人──つまり別世界の人が迷い込むらしい。

 明確な理由はわかっていないそうだけど、この世界に魔法があるから、何かしらの歪みで引っ張られてきてしまうのではないか、と。

 やっぱりというかなんというか、この世界には魔法があるらしい。

 そして、異邦人はなぜかみんな膨大な魔力量を持っていて、しかもそれを人に分け与えることができるそうな。

 だからこの世界では、異邦人というのはとんでもなく丁重に迎えられて、神の使いと呼ばれているらしい。
 それでエヴァンさんは神の使いと言っていたのか、納得納得。

「それと、ミツキさん、その容姿も」
「容姿? カオ?」
「黒は魔力の色とされていて、この世界では憧れの色なんです。俺も、ここまで綺麗な黒は見たことがありません」

 エヴァンさんが私を見ながら、うっとりと目を細める。
 私は自分の髪を引っ張ってながめた。

 こんな、日本にはたくさんいる色が? 金髪や茶色に染める人がたくさんいるくらいなのに?
 黒が魔力の色?

 まぁ、考えてみれば、魔王とかの色って、黒が定番だけど。つまり魔族の色ってことか。


「そうですか。なんとなくわかりました。それで、私は、帰れるんですよね?」
「……」
「帰れるんですよね?」

 エヴァンさんの表情が曇った。
 え、いやいやー、まさかそんな。はは。

 冗談ですよね?


「これまでの異邦人で、元の世界に戻ったという記録は、ありません」
「……そんな」
「ですが、この世界では異邦人は神の使い。悪いようには決してしません」
「そういう問題じゃ、ない」

 そうだ、そういう問題じゃない。
 だって私、明日学校だよ。課題やってないよ。コーヒーだって飲みかけ。洗い物も。あ、洗濯も。
 ちょっと小指をぶつけただけじゃん。ガツンって、それだけ。それだけなのに。

 もうココは別世界です、なんて。

 そんなの、受けいれられないよ。


「ミツキさん、ミツキ、泣かないで」

 エヴァンさんがオロオロしながら私のそばにやってきて、背中をさする。

 優しくされたら、さらにボロボロと涙がこぼれた。

「私、家族いるよ。お母さんも、お父さんも、心配してる。帰らなきゃ。友達も、明日、学校で。帰らなきゃっ」

 帰らなきゃ、帰らなきゃ。
 でも、どうやって──。

「……帰る方法は、今のところわかってはいません」
「でも、帰りたい」
「帰りたいですか?」

 そりゃ帰りたい。
 いきなり別世界とか、頭が追いつかない。
 知らない世界に放り出されるって、こんなに怖いことはないよ。

 だって、ここでは、私の今までの常識が通用しないってことでしょ?
 友達もいない。どんな人がいるかもわからない。
 帰りたいと思うのが当たり前だよ。

「俺は──」

 なにかを言いかけて、エヴァンさんは振り切るように首をゆるく振った。

「すみません。あなたは、帰りたがっているのに。今日はもう遅いので、また明日話しましょうか。ミツキさんのことは、国にも報告しなければなりませんし」


 国に報告?
 うわ、そこで実験とか? ついに解剖とかっ? やだやだ怖い。

 断固拒否! と手でバツを作って首を振る。エヴァンさんが、私の背中に手を置いてふわりと微笑む。

「大丈夫ですよ。異邦人に傷をつけることはありません。決して」

 バツを作る私と、微笑むエヴァンさん。

 なんだか、私が駄々をこねている子どもみたいだ。私はしぶしぶ折れた。

「……わかりました。では、また明日」

 エヴァンさんは簡単にお風呂やトイレ、生活用品の使い方を説明して帰っていった。たぶん、自分の家に。


 そういえば、なにしてる人なのかとか、聞きそびれちゃったな。
 エヴァンさんがいなくなったとたん、ひとりぼっちになった寂しさがじわりと胸に広がっていく。

 不安が膨らんできて、ベッドの上で膝を抱えた。


 エストラーナ、かぁ。

 いきなり知らない世界に来て、明日生きれるのかも不安だなんて。

 あーあ、人生山あり谷ありて言うけど、これじゃ谷しかない。どん底だよ。どん底人生。

 こんなのあり?
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