BLエロゲーをDLしたら、ゲイなレアキャラがヤりに来た

幕間

かみのけ座より愛を込めて

扇理せんりは髪を長く伸ばす男が嫌いだった。
 男は髪は短く整えるべきだと思っているし、長髪の男を見ると気分が悪くなるほどだ。

 扇理は特に体育会系という訳でもないのだが、子供の頃から 髪が襟足にかかるのさえ苦手だった。
 長髪嫌いには理由がある。
 その理由は鏡を見れば一目瞭然だ。長い髪は単純な話、自分で引くくらいに似合うからだ。
 扇理はいわゆる女顔というやつだった。顔の輪郭は線が細く、瞳も鼻梁も唇も何もかも繊細に作られた上で絶妙に配置され、まつ毛に至っては影が落ちるほどに長かった。
 これに髪など伸ばそうものなら、漫画かアニメに出てくるキャラクターそのものではないか。
 そもそも漫画やアニメで髪の長いキャラクターが女に間違われると、高確率で「俺は男だ」と宣うのもどうなのかと思っている。そんなことを言い返すのなら、まずはその鬱陶しい髪を切れと子供心にも白けた気持ちになったものだ。 
 ましてや扇理の性的嗜好は男性に限られる。
 扇理は男性の固い身体に興奮を覚えるし、柔らかな乳房より盛り上がった胸筋が好ましいのだ。
 男性でありながら、肉欲も恋愛対象も男性に固執しているとも言える。
 女顔の扇理が女性的に髪を伸ばせば、女の身代わりや下位互換にされているようで嫌だったのだ。

扇理の凝り固まった主義は、“ 黄道十二性座 ” というゲームを前にしても変わらない。
 ゲイ向けのゲームとして評価の高いゲームをダウンロードしてみたが、 やはりと言うか、要らないと言うか、ご丁寧にもこういったゲームには必ず長髪のキャラがパッケージの中に悠々と居たりする。

 髪の長いキャラクターなど プレイアブルキャラとしても使わないし、NPCに居ても攻略はしたくない。
 そんな気持ちを込めて ゲームをダウンロードした扇理だったが、 チュートリアルを 勧めるうちにガチャに触れる機会があって深く考えずに回してみたのだ。

 まさかの 虹色 演出に驚いたのも束の間だ。 虹色の光の残滓を纏いながら、小さなスマホからぬるりと人間と大きさの変わらない、得体の知れない何かが現れて呆気に取られる。
 それは一言で言うなら、素のマネキンだった。
 髪はなく、眉毛も睫もない。体毛というものが無いのだろう。肌はセルロイドのようにつるりとしていた。
 現代風のマネキンのくせに、なぜか格好は絵本で見た牛若丸のような水干姿だ。

 そのマネキンに似た、マネキンでない何かは語る。 

「おやまあ。まあ、まあ……、ほんに射干玉ぬばたまのごときみどり髪よ――が、長さが足りぬのう？」
 
 何が？ と思う暇もなかった。
 気がつけば床につくほどに黒い髪が伸びていたのだ。

「ささ、射干玉の君。拙めと遊ぼうぞ？ そのいと麗しき髪で、いと艶かしき髪で、拙めに乱れ髪を見せてたも？」