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僕の彼氏が家畜になった夜①
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午後九時より少し前。
大学生である一ノ瀬晴はスマホで無料トークアプリを起動させた。相手は遠距離に居る彼氏への定期連絡だ。
遠距離恋愛あるある光景だった――この辺りまでは。
出張中の彼氏は晴より年上で、世間一般的には外資系企業のエリートコースを邁進するサラリーマンだった。
バイト先で彼に出会ったのは今から半年前で、相思相愛となった今、本来ならばどろどろネチョネチョな蜜月期間なのだが、エリートサラリーマンである彼氏は現在出張中で、学生の身ではおいそれと会うことができないのである。
健全な肉体に不健全な精神を宿す晴にとってもはや地獄。
やりたい盛りの時期に強制お預けとか、なにそれ若く奔放な下半身が爆発してしまう。
ごく親しい友人の間で春の日差しに似た容姿の晴は、ロールキャベツ男子と呼ばれていた。もしくはサヨリ。
柔らかな癖のある栗毛に、白い肌。垂目がちの瞳に泣き黒子という、ほんわりした中性的で優し気な見た目に反し、晴は草食系に擬態したガッツリ獰猛肉食系男子なのは疑う余地がない。さらに魚のサヨリのように腹が真っ黒なのである。
ああ、早く会いたい。
会って抱きしめて、キスして、可愛がって、首輪をつけて引きずり回してヒィヒィ泣かせたい……晴の心は遠く離れた彼氏のことでいっぱいだった。
いっぱいの内訳八割が首輪の件なのが残念な部分だったが。
その悲しみを癒すようにスマホにハンズフリー型のイヤホンマイクを取り付ける。両手はフリー。男の子にこれは大事。
おそらく彼氏も同じようにイヤホンマイクを着けているだろう。
今日の約束は午後九時。
この前ネットショップを経由して送り付けたプレゼントも届いているだろうと、わくわくしながら彼氏に声をかけた。
ちなみにプレゼントのセレクトは天啓を受けた晴だが、その支払いは彼氏持ちである。
逸る気持ちを抑え、努めて興味なさそうな口調で語りかける。
「ねえ、僕にご挨拶は? 挨拶もできない子なの、僕の可愛いドMちゃん?」
舌なめずりしそうな晴の声が届いたのか、数秒間の沈黙の後にイヤホンから途切れがちの低い声が鼓膜に届く。
『……こんばん……は……、ご主人、さま……ッ』
低い声だ。普段の彼氏の声は重低音で色っぽいのだ。
イヤホンのおかげで、まるでじかに耳元で囁かれたような声に晴のスイッチが入った。
「返事が遅くない? なに、僕と話したくないの? だったら今日はやめよっか? 別に僕はどうでもいいし」
わざとらしい冷淡な声で吐き捨てる。それが嘘なのは、ご主人様と呼ばれただけで股座が熱くなり、ベッドに仰向けに寝転がって手を伸ばしている事でわかるというもの。
ただしビデオ電話ではなく、普通のトーク電話のために晴の様子は向こうに分からないだろう。
『いや、です……っ、ご主人様ッ!』
「じゃあなんで返事が遅れたの? ねえ僕が相手してあげてるのにふざけてる?」
普段は低音で落ち着きのある声が慌てふためく様子に、可愛いねと心で呟いて満足そうにしながら、作った声は冷淡なまま。
言葉を躊躇えば寒気に触れるとわかってるのか、今度の返事は早かった。
『ご、ご主人さ、まの……贈りものを着けていて……ッ』
「へえ? ちゃんと着けたんだ? 偉い偉い。じゃあその自撮り画像を見せてよ。ちゃんと似合うか確かめないとね?」
『は、はい……』
何を贈ったか、それを選んだ晴は当然知っていた。晴が選んだ荷物のパッケージをどんな気持ちで破き、それを見たときの顔はどうだったのか。彼氏の表情が拝めなかった事が本当に悔やまれる。
あの生真面目そうな顔をどんな風に歪めたと想像するだけで、一発は抜ける自信があった。
相手の顔を想像するだけで股間が張り詰め、贈られる画像が楽しみで楽しみで堪らない。
固くなりつつある股間を撫でさするうち、軽快な着信が響く。急いでスマホを見て画像を確認し――後悔した。
画像にあるのはいかにも仕事ができそうな怜悧な顔つきの三十路前の男。彼氏である各務圭樹の普段はきっちり整えた髪が少し乱れ、一重の切れ長の目じりは赤く染まっている。
尻と背中をカメラ側に向け、振り向きざまに見せる表情は羞恥と肉欲に塗れていて。
その蕩けかかった表情に相応しく、カメラに向けられる引き締まった尻からは、毒々しいピンク色の捻じれた物体がぶりゅんと食み出している。
ぐりぐりと捻じれて螺旋を描くそれは、豚の尻尾を模した、アニマルテール型のアナルプラグだった。
――しまった。失敗した。
その引き締まった豚の尻尾付きの尻を強調するような画像に晴は心底悔やみ抜いた。
――豚の耳と、鼻フックも一緒に送るべきだった!!!
わりとどうでもいい後悔である。
大学生である一ノ瀬晴はスマホで無料トークアプリを起動させた。相手は遠距離に居る彼氏への定期連絡だ。
遠距離恋愛あるある光景だった――この辺りまでは。
出張中の彼氏は晴より年上で、世間一般的には外資系企業のエリートコースを邁進するサラリーマンだった。
バイト先で彼に出会ったのは今から半年前で、相思相愛となった今、本来ならばどろどろネチョネチョな蜜月期間なのだが、エリートサラリーマンである彼氏は現在出張中で、学生の身ではおいそれと会うことができないのである。
健全な肉体に不健全な精神を宿す晴にとってもはや地獄。
やりたい盛りの時期に強制お預けとか、なにそれ若く奔放な下半身が爆発してしまう。
ごく親しい友人の間で春の日差しに似た容姿の晴は、ロールキャベツ男子と呼ばれていた。もしくはサヨリ。
柔らかな癖のある栗毛に、白い肌。垂目がちの瞳に泣き黒子という、ほんわりした中性的で優し気な見た目に反し、晴は草食系に擬態したガッツリ獰猛肉食系男子なのは疑う余地がない。さらに魚のサヨリのように腹が真っ黒なのである。
ああ、早く会いたい。
会って抱きしめて、キスして、可愛がって、首輪をつけて引きずり回してヒィヒィ泣かせたい……晴の心は遠く離れた彼氏のことでいっぱいだった。
いっぱいの内訳八割が首輪の件なのが残念な部分だったが。
その悲しみを癒すようにスマホにハンズフリー型のイヤホンマイクを取り付ける。両手はフリー。男の子にこれは大事。
おそらく彼氏も同じようにイヤホンマイクを着けているだろう。
今日の約束は午後九時。
この前ネットショップを経由して送り付けたプレゼントも届いているだろうと、わくわくしながら彼氏に声をかけた。
ちなみにプレゼントのセレクトは天啓を受けた晴だが、その支払いは彼氏持ちである。
逸る気持ちを抑え、努めて興味なさそうな口調で語りかける。
「ねえ、僕にご挨拶は? 挨拶もできない子なの、僕の可愛いドMちゃん?」
舌なめずりしそうな晴の声が届いたのか、数秒間の沈黙の後にイヤホンから途切れがちの低い声が鼓膜に届く。
『……こんばん……は……、ご主人、さま……ッ』
低い声だ。普段の彼氏の声は重低音で色っぽいのだ。
イヤホンのおかげで、まるでじかに耳元で囁かれたような声に晴のスイッチが入った。
「返事が遅くない? なに、僕と話したくないの? だったら今日はやめよっか? 別に僕はどうでもいいし」
わざとらしい冷淡な声で吐き捨てる。それが嘘なのは、ご主人様と呼ばれただけで股座が熱くなり、ベッドに仰向けに寝転がって手を伸ばしている事でわかるというもの。
ただしビデオ電話ではなく、普通のトーク電話のために晴の様子は向こうに分からないだろう。
『いや、です……っ、ご主人様ッ!』
「じゃあなんで返事が遅れたの? ねえ僕が相手してあげてるのにふざけてる?」
普段は低音で落ち着きのある声が慌てふためく様子に、可愛いねと心で呟いて満足そうにしながら、作った声は冷淡なまま。
言葉を躊躇えば寒気に触れるとわかってるのか、今度の返事は早かった。
『ご、ご主人さ、まの……贈りものを着けていて……ッ』
「へえ? ちゃんと着けたんだ? 偉い偉い。じゃあその自撮り画像を見せてよ。ちゃんと似合うか確かめないとね?」
『は、はい……』
何を贈ったか、それを選んだ晴は当然知っていた。晴が選んだ荷物のパッケージをどんな気持ちで破き、それを見たときの顔はどうだったのか。彼氏の表情が拝めなかった事が本当に悔やまれる。
あの生真面目そうな顔をどんな風に歪めたと想像するだけで、一発は抜ける自信があった。
相手の顔を想像するだけで股間が張り詰め、贈られる画像が楽しみで楽しみで堪らない。
固くなりつつある股間を撫でさするうち、軽快な着信が響く。急いでスマホを見て画像を確認し――後悔した。
画像にあるのはいかにも仕事ができそうな怜悧な顔つきの三十路前の男。彼氏である各務圭樹の普段はきっちり整えた髪が少し乱れ、一重の切れ長の目じりは赤く染まっている。
尻と背中をカメラ側に向け、振り向きざまに見せる表情は羞恥と肉欲に塗れていて。
その蕩けかかった表情に相応しく、カメラに向けられる引き締まった尻からは、毒々しいピンク色の捻じれた物体がぶりゅんと食み出している。
ぐりぐりと捻じれて螺旋を描くそれは、豚の尻尾を模した、アニマルテール型のアナルプラグだった。
――しまった。失敗した。
その引き締まった豚の尻尾付きの尻を強調するような画像に晴は心底悔やみ抜いた。
――豚の耳と、鼻フックも一緒に送るべきだった!!!
わりとどうでもいい後悔である。
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