リビドーの鍵

柄木

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オマケ

錠前破りでもう一度 ② 

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 一ノ瀬晴いちのせ はるは実弟だ。
 両親の離婚で名字は変わってしまったが、月に何度かは会う“仲が良くて”“仲が悪い”、少し年の離れた弟だった。
 仲が悪いのは所謂、同族嫌悪と言うヤツだ。兄弟揃ってサディストで男が好きで、そして惚れたらやたらと執着心が強い。
 好みも似ているため、その辺りは弟ながら要警戒の相手でもある。
 なによりも以前は子供だからと安心できた部分が、18歳ともなれば昊にとって下半身的な意味でも驚異となる年齢である。――この際、未成年という部分はそらのアドバンテージにならないのだ。

 その晴が言う“三枝先生”とは?

 晴が手にしていたのは、ポラロイドの試し撮り写真で、まだ服を着ている状態の“彼”。

「は? 三枝先生? ――って、彼のこと?」
「そうだけど……うちの学校の数学の先生」

 ……あー……らしいわー……。
 一瞬そう納得してから、弟の晴は金持ちや有名人の子息が多い有名な私立学校だと気づく。
 なるほど。生真面目そうな彼は、教師だったのか。それも弟の私立校なら給料も名声も高いし、十分なエリートコースだ。

「ストイックで厳しくて……でも優しいから男女問わず人気あるんだよね」
「待て、弟。おにーちゃんは情報過多でこんらんしている」
「意味が分からないよ。――でも三枝先生ってけっこうタイプだし素質有りそうだから狙ったのに、生徒には見向きもしなくてさー。禁断の生徒と教師の秘密の情事は無理みたい」

 だろうな、と、思った。
 いくら秘めた場所でもどうしても譲れない、あるいは嫌悪さえ及ぼす関係性は何かしらある。教師としての彼は生徒との一線だけは、どうしても越えられなかったのだろう。
 ある意味、自分にとってはラッキーだったが。

「晴……、お前、俺の背中を思いっきり押したんだから、責任取れ」
「……は?」

 会いたいと思った。
 けれど会わないつもりだった。

 自分の執着で彼を壊すつもりはない。
 名前も知らず、居場所も分からず、そうして気持ちが風化するのを待つつもりだったのに。

 名前も居場所も分かってしまったなら、自分は動くしかない。
 
 ただし動くだけ。
 もう一度だけ彼に会う。
 偶然を装って、出会いを作って、そして彼に決断して貰う。

 彼が、三枝という名のお堅い教師が仮に、そう仮に、だ。

 規律に満ちた世界からほんの少し、たとえば夜の間だけでも背を向ける勇気があるのなら、その夜の海を漂うホストに熱を籠もった目で見たのなら――全力で囲って、逃がさない。




 涼やかな目元が昊を見た瞬間に瞠目した。
 強張った体と一瞬だけ止まった呼吸。彼は、三枝賢人さえぐさけんと教諭の驚きは当然だっただろう。
 施錠した鍵の向こう側、別の世界で快楽に耽溺した相手が居たのだから。

 ――昊は、ああ、と嘆息する。

 可哀相に。
 なんて可哀相に。

 目の奥に潜む情念を隠す器用さも持ち合わせていないなんて。

 弟の晴を利用して、まるで偶然を装った再会。
 彼の瞳に恐怖だけ、あるいは焦燥だけ、もしくは困惑のみなら昊は身を引くつもりだったのだ。
 仕事用の妙に凝ったデザインの名刺にペンを走らせる。
 
「もし生徒さんなにかあったら、きちんと証言しますのでこちらへ連絡して下さい」

 けれど、それでも、昊は最後の一歩だけ踏みとどまった。此処が最後の橋頭堡きょうとうほとばかりに。

 名刺の裏に走らせたのは、SM倶楽部名無しノーネームの会員なら誰もが知るSM専用のホテルと、その部屋番号と、時間。
 それを渡して微笑む。

 優しく、優しく、いやらしく。



 「先生がこんな場所に来てもいいのか?」

 部屋に入るなり、鍵を掛けた――しっかりと。
 背後から抱き締めるように腕を回し、一部の乱れも無かったスーツの上から胸の辺りを鷲掴む。肩に細い下顎を乗せれば甘すぎない爽やかな匂いがした。

「ねえ、三枝賢人先生?」
「……あ、ッ、……あぁ、ッ、ああぁあぁッ」

 がくがくと四ヶ月ぶりに触れた賢人の体が痙攣した。膝が震え、昊が背後から抱えてやらなければ立っていることもままならない。
 ふー、ふー、と呼気が乱し、震える膝と内腿で堪える賢人の耳朶を食みながら囁く。

「名前を呼ばれただけでイッった?」

 まさかとは思った。だが耳を真っ赤にしながら小さく頷く姿に股間が熱くなる。熱く凶暴な怒張が尻に当たったのが分かるのか、賢人はまた呻き声を漏らして震えている。
 なんて可愛い生き物だろう。
 昊に抱き締められて、昊の匂いで、体温で、声で発情し、名前を呼ばれただけでイッてしまうのだから。

「……なぁ三枝先生……あんた、どうしたい? 俺とシたい?」

 背後から回した手でスーツのボタンを外す。そのままYシャツ越しに下腹から胸を撫で上げれば、Yシャツの生地を押し上げてぷつりと乳頭が勃起していた。

「……ん、ッ、ん……ぅ……っ」
「ほら、返事」
 
 答えなどこの熱く火照った肉体を見れば分かる。そもそもこのホテルに来た時点で、お互いに欲しい答えは分かっていたのだ。
 Yシャツの上から両方の乳首を捻るように摘まむと、昊の股間に尻を擦りつけるようにして身悶えていた。

「……し、した……ッ、したい、です……ッ」
「へえ? どんなふうに? 俺は優しくも甘くも出来るけど……三枝先生はどんなふうになりたいの?」

 摘まんだ乳首をYシャツの生地で扱き、耳たぶを噛んでは耳穴に舌を差し込む。
  胸を弄る昊の手に自分の手を添えた賢人は、息を吸っては吐き出し、吐き出しては吸い込むことを何回か繰り返す。
 昊の手の甲に賢人の切り揃えた爪が食い込んだ。

「……まえ、みたい、に……ッ、俺、を……あなた、の、……精液、便器……に、して……ください……ッ」

 ――もちろん、その答えを昊は知っていた。
 この四ヶ月、夢を見るようにその言葉が賢人の声で聞きたかった。




 浅くソファに座った昊の足下に膝を揃え、両掌を床につけて賢人が正座している。
 服を着た便器など聞いたことがないため、賢人が身に着けてるのは赤い首輪とそれにぶら下がった“精液便所使用中”のタグだ。
 熱で蕩けていた賢人の顔だったが、今はそれに必至さが加わっているのは、丸く開いた賢人の口に昊の亀頭のみが押し込まれているせいだ。

「いいか、咥えさせてやるだけだ。それ以上咥えるのも舐めるのも吸うのも禁止だ。分かったな?」

 昊の亀頭だけを咥えさせられ、正座した状態で賢人は涙を浮かべている。屈辱からではない。そこに自分を犯してくれるはずのモノがありながら、先端を咥えることしか許されないからだ。

 舐めたい。しゃぶりたい。吸いたい。頬肉で扱きたい、喉肉で搾りたい。

 その欲求が発情し切ったメス顔に浮かび、媚びるように昊を見上げてくるが昊はこれを無視し続けている。

「久しぶりのご主人様のチンポだ。ゆっくり味わえ」

 返事の代わりに動いたのは、正座した股座から腹を打つほどに勃起した賢人の亀頭の揺れ具合。

「なんだ、尻尾の代わりにメスチンポを振ってご挨拶か? 感心だな。ほら、ご褒美だ」

 爪先で揺らすように賢人の亀頭を蹴れば、堪らず賢人の口から昊のモノが外れてしまった。

「へえ? 口から外すとはどうやら俺のチンポは要らないようだな?」

 ぐっと今度は賢人の陰茎を腹に押しつけるように踏んでやれば、前屈みになって賢人が蕩けた苦悶の表情を浮かべる。昊の膝に額を押しつけた賢人は、ビクビクと痙攣しつつ昊の爪先を先走りで汚し、発情期の獣のようにみっともなく喘いでいた。

「なんだ? この便器は故障したのか? 便器ごときの我慢汁で俺の足が汚れたんだが?」

 物憂い表情で足を上げ、先走りで濡れた革靴の先を賢人の目前に差し出す。

「……も、申し訳、ありま……せ……」

 言葉が途切れたのは、自分の先走りで濡れた革靴を見たから。その瞳は次の言葉を期待してるのが昊には分かった。
 だから言ってやろう。望みを叶えてやろう。
 賢人の為に。


 「舐めろ」



*********************************************************************
生真面目エリートタイプをぐっちょぐっちょにしたい兄弟
昊は可愛い肉便器ちゃんを弟に自慢し
晴は愛らしいメス豚ちゃんを兄に自慢する
どっちも自分の自慢ばかりで相手の話を聞かない、似たもの兄弟

夜の更新でオマケ終わりです
 
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