リビドーの鍵

柄木

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二日目 ―道具に―

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 嬲られ、犯され、玩ばれ――ただ、ただ、狂気にも似た快楽に浸った、リビドーの鍵を開けた初日。

 艶めかしい色気を持つ“あるじ”は、その甘く整った顔と裏腹に賢人けんとを日常や常識から引き剥がしてくれるサディスティックな男だった。彼は賢人の望みを熟知している。
 この家で賢人は教師でも男でも人間でも無い。

 “主”である男に飼われる、性欲処理のためにだけ存在を許される家畜であり道具だ。
 そう扱われたい願望を満たしてくれる男だった。

「ん、ふ、ッ……うぅ……」

 被虐志向が強い賢人には最高の相手なのだが、どんなにのめり込んでも、己の欲望のみを強制はしないちゃんとしたSMプレイの一環だ。
 プレイ後に私生活に支障を来したり、病院沙汰になるような真似はしないと予め取り決めがある。
 本当に賢人が無理だ、イヤだと思ったら、事前に取り決めしたセーフティワードを口にすればいい。そうすればどんなハードなプレイでもそこで中断するのがマナーなのだ。

 庭でさんざんに玩ばれ、暗くなってからは牢獄のような地下室に場所を移して嬲られ、賢人は泣きながら許しを乞うて悶え狂ったが、セーフティワードは言わなかった。
 男の責めと匙加減は絶妙だったし、枷や首輪の裏は肌を着付けないようにクッション生地が貼られていた。責め具も鞭は音が大きく響くがミミズ腫れさえ残らないように調整され、全てが安全に使用できるように配慮されていた。
 きっと責めることに手慣れているのだろう。

 初日の期待と興奮から賢人の疲れを察した男は、あまり負担にならないように早めに休ませてくれ、プレイ以外は気遣いを見せてくれる人だった。

 だが体力が回復したであろう夜明け前に賢人は男に起こされ、二階にあるトイレへと連れて行かれた。
 昨日首に提げられた“変態家畜” のタグを取った男は、賢人の前に別のタグをひらひらと翳して見せる。
 そこにある文字は、“肉便器”だった。

 昨日と同様、その文字を見ただけで腹腔が熱くなってくる。

「今日は俺の精子便器として働けよ」

 ぞくぞくと震える賢人に、男は男性用の小便器に座るように命じる。
 実は排泄用では無くプレイ用に設置された清潔な物とは言え、ちゃんとした本物の小便器だ。
 受け口に尻を着け、本物の便器を椅子代わりに座った賢人は興奮で息が上がってしまう。

 小便器に座り、両手足を拡げて鎖で繋がられた賢人の姿は、引っ繰り返って腹を晒すカエルにも似ていた。
 もっとも惨めな格好も便器と一体化させられるのも、今の賢人には興奮の材料でしか無かったが。

 最後に男は賢人に口枷を嵌める。
 それは円状のシリコン製リングがあるタイプで、賢人の歯に当たるように口に嵌めれば、丸く開いた口はシリコンリングで閉じれなくする口枷だった。
 しかも口腔部分の丸い穴にはそれを塞ぐ栓があり、使用するためだけの道具感が嫌でも増す。

 最後は首輪に付け替えられた、“肉便器”のタグ。
 便器に固定され、体を開き、口を開かされる、まさに肉便器だ。

 興奮する賢人をよそに、男はもう一眠りするとさっさとトイレから去ってしまった。
 小便器に固定され、放置された賢人はくぐもった呻きを漏らす。

 ――ひどい。
 ――ヒドイ。
 ――あんまりだ。

 ――使ってくれないなんて。

 興奮で勃起した賢人の陰茎から、たらたらと先走りが溢れてうまい具合に小便器の中に垂れていく。
 違うと思った。
 自分は便器を使いたいのでは無く、肉便器として使って欲しいのだ。

 早く、早く、俺を使って貶めて欲しい。
 頭の中は肉便器になる期待感でいっぱいだった。
 
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