リビドーの鍵

柄木

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初日 ―非日常へ―

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 「いいか、これからお前は“家畜一号”だ。人間の名前は糞より価値がねえ。それに家畜に言葉はいらねえはずだが“はい”と“ご主人様”、あとは家畜のみっともねえ鳴き声くらいは許してやる。分かったか」

 芝生の上で裸で土下座する賢人けんとの後頭部を踏みながら、男は支配者然とした口調で傲慢に言い放つ。

「はい。ご主人様」

 “賢人”と言う名前は、鍵が開いてしまったここでは必要なかった。それは人間らしい日常に置いてきた単なる記号だ。
 後頭部に感じる靴裏の重みに肌を震わせながら、賢人は“主”の言葉を待つ。
 
「家畜一号、家畜に相応しい格好をさせてやるから顔を上げろ」

 靴底の圧迫が消えておそるおそる顔を上げれば、“変態家畜”のタグが下がった赤いエナメル質の首輪が目の前にある。

「……あ、ぁ……」

 鼻面にあるタグの文字を見て、だらりと唇が緩んで艶めかしい声が出てしまう。

「首輪を見ただけで涎垂らして鳴きやがって……この豚が! 首輪が嬉しいのか! 引き摺り回されてぇのか!?」

 賢人の首に赤い首輪を装着しながら、男は蕩けた表情の賢人を罵る。軽く首が絞まる圧迫感と荒い言葉の数々。
 だがそれすらも嬉しい。

「はい、ご、ご主人様……」

 首に掛かる負荷に全身から喜びが芽生えてきた。
 ずっと正しく、人の規範となるように生きてきた三枝賢人という人間。尊敬され、見上げられる存在になるように律してきた鍵を開ける前の自分。

 でもここはそんな息苦しい規律は無用だ。
 ただ獣になり、家畜になり、蔑み、見下される生き物でいいのだ。

 教師である三枝賢人は、ただの家畜になった。




「んひぃィッ、ひ、ひぐッ、う、うぅぅぅぅッッッ」
「ほら、もっと鳴け! 不様に泣き叫べ、豚が!」

 リビドーの鍵を開けてからかなりの時間が経ったのに、賢人は家に入ることなく未だに庭に居た。
 正確には庇の下にある二人掛けのデッキチェアに居るのだが、デッキチェアには誰も座っていない。
 デッキチェアに顔と上半身を預け、綺麗に磨かれたデッキチェアを涙と涎で汚しながら賢人は泣き喘いでいる。
 賢人が来ていたスーツを膝の下に敷き、四つん這いに似た格好でデッキチェアに縋って尻を突き出す惨めな格好。それだけではない。男は賢人の背後に立っていきり立った陰茎を賢人の尻に押し込みつつ、長い片足を上げて賢人の頭を踏み躙っているのだ。
 片足で立つ格好でも男の姿勢はしっかりとしていて崩れることはなさそうだが、さすがに自分が片足立ちのせいか賢人に尻を振ることを強要している。

「もっとケツを振れ、ケツを! ご主人様のチンポを気持ち良くさせるんだよ! ゆるゆるで締まりが悪い穴だと使うのをやめちまうぞ!」
「あ、ひぃ、ッッ、んぇッ、んんぅぅぅっっ」

 頭を踏まれなから、家畜の交尾のように地面に近い格好で犯されながら自分で尻を振る――堪らない非日常が始まった。
 牝豚のように鳴きながら媚びて尻を振り、極まった賢人は授業でも来ていたスーツに精液をぶっ掛けていた。
 
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