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3話
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顎関節が疲れて痺れるほどの、長い長い口腔への蹂躙。小さな蛇が口腔いっぱいに這い回る錯覚さえしてしまった。
呼吸も食われて息が上がった大巳は、辛うじて開いていた瞳で男の様子を伺う。
金属製の人形の眼窩に生きた目玉を押ムリヤリし込んだような、無機質と有機質を混ぜ込んだ奇妙な作り物を見ている気がした。
劣情などしない。肉欲など知らない。そんな表情と温度のない瞳なのに、絡みついた舌はしつこく快楽を求めて卑猥に蠢く。
ふ、ふ、と細切れになった呼吸が漏れ、唾液で濡れた唇を男の親指の腹が這い、過敏になった唇は失った男の舌の味をもう欲しがっていた。
「……ッ、あ……っ……!」
唇から顎に、顎の舌を爪が擽り、喉仏の形を指の腹が辿って行く。
服の上から胸を揉み込むように撫でられて呼気だけではなく甘い声まで漏れてしまった。
シャツの硬い生地がまだ柔らかい乳頭をこねる摩擦に知らずに体が跳ね上がって揺れる。乳頭も乳輪もひりつく熱を持って疼きが止まらなかった。
この程度の刺激など、普段ならなんともないはずだ。乳首に感じる刺激と愛撫は誰がやっても同じだと思っていた。
体が跳ねた衝撃の負荷に耐えきれなかったスツールの足がぎしぎしと軋む。そのとこが周囲に聞こえてしまいそうで、身の置きどころをなくして臓腑が締め付けられた。
大巳はここがホテルや個室ではなく、バーの店内だと分かっていた。見知らぬ客だって何人もいる。顔を覚えられたら、写真や動画を撮られたら、それをネットに晒されたりしたらアイドル生命は始まる前に終わりだ。
たった一つの言葉で「やめろ」と叫び、たった一つの動作で相手の手を振り払う――そんな簡単な対処で済むはずが、拒絶への行動が初めて立つ赤子のように難しかった。
「……あ、……や……ぁ……あぁッ……っ」
男の手のひらが股間に伸びた。すでに形を示していた緩やかな膨らみを押さえつけられて大きな声が出る。
大巳の派手な声にバーテンダーも客も何をしているのかバレてしまうだろう。
込み上げる羞恥が心臓を跳ねさせ、どんな目で見られてしまうのか想像して喉が締め付けられる。自分を見る目は――嘲笑か嫌悪が呆れか。
回転式のスツールがぐるりと回った。カウンターの方に向いていた大巳の顔と体が、半回転したことでボックス席側の客たちに向き合う格好にさてしまい、咄嗟に俯いて顔を隠したが意味がある行動だとは思えない。
顔を伏せても四方から視線を感じるのだ。
「顔を上げると良い。見られることがあんたのためになる」
耳朶に男の唇が触れる。言葉を発することで動く唇の動きが耳朶の裏側を擽り、それだけで全身の肌が歓喜に震えてしまっていた。
見られている。観られている。視られている。
人の視線を集めることを生業にしようとしているアイドル未満の大巳は他人の視線に敏感だ。店内の誰もが舐めるように自分を視姦してるのが分かった。
「……は、ッ、ぁ……っ……み、見られ、て……あぁあぁぁぁッッ」
歓喜で過敏になった肌を這う視線が剥がれない。脳が痺れるのは視線の意味を悟ったのせいだ。
アイドル未満とはいえ、人に見られる職業の一旦を知る大巳は、視線が持つ意味をよく分かっていた。
大巳を視線で犯す熱量は、欲情の含みながらも軽蔑や侮りのような悪意は微塵もない。
あるのは欲情を含む崇拝――偶像を見る目だった。
呼吸も食われて息が上がった大巳は、辛うじて開いていた瞳で男の様子を伺う。
金属製の人形の眼窩に生きた目玉を押ムリヤリし込んだような、無機質と有機質を混ぜ込んだ奇妙な作り物を見ている気がした。
劣情などしない。肉欲など知らない。そんな表情と温度のない瞳なのに、絡みついた舌はしつこく快楽を求めて卑猥に蠢く。
ふ、ふ、と細切れになった呼吸が漏れ、唾液で濡れた唇を男の親指の腹が這い、過敏になった唇は失った男の舌の味をもう欲しがっていた。
「……ッ、あ……っ……!」
唇から顎に、顎の舌を爪が擽り、喉仏の形を指の腹が辿って行く。
服の上から胸を揉み込むように撫でられて呼気だけではなく甘い声まで漏れてしまった。
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この程度の刺激など、普段ならなんともないはずだ。乳首に感じる刺激と愛撫は誰がやっても同じだと思っていた。
体が跳ねた衝撃の負荷に耐えきれなかったスツールの足がぎしぎしと軋む。そのとこが周囲に聞こえてしまいそうで、身の置きどころをなくして臓腑が締め付けられた。
大巳はここがホテルや個室ではなく、バーの店内だと分かっていた。見知らぬ客だって何人もいる。顔を覚えられたら、写真や動画を撮られたら、それをネットに晒されたりしたらアイドル生命は始まる前に終わりだ。
たった一つの言葉で「やめろ」と叫び、たった一つの動作で相手の手を振り払う――そんな簡単な対処で済むはずが、拒絶への行動が初めて立つ赤子のように難しかった。
「……あ、……や……ぁ……あぁッ……っ」
男の手のひらが股間に伸びた。すでに形を示していた緩やかな膨らみを押さえつけられて大きな声が出る。
大巳の派手な声にバーテンダーも客も何をしているのかバレてしまうだろう。
込み上げる羞恥が心臓を跳ねさせ、どんな目で見られてしまうのか想像して喉が締め付けられる。自分を見る目は――嘲笑か嫌悪が呆れか。
回転式のスツールがぐるりと回った。カウンターの方に向いていた大巳の顔と体が、半回転したことでボックス席側の客たちに向き合う格好にさてしまい、咄嗟に俯いて顔を隠したが意味がある行動だとは思えない。
顔を伏せても四方から視線を感じるのだ。
「顔を上げると良い。見られることがあんたのためになる」
耳朶に男の唇が触れる。言葉を発することで動く唇の動きが耳朶の裏側を擽り、それだけで全身の肌が歓喜に震えてしまっていた。
見られている。観られている。視られている。
人の視線を集めることを生業にしようとしているアイドル未満の大巳は他人の視線に敏感だ。店内の誰もが舐めるように自分を視姦してるのが分かった。
「……は、ッ、ぁ……っ……み、見られ、て……あぁあぁぁぁッッ」
歓喜で過敏になった肌を這う視線が剥がれない。脳が痺れるのは視線の意味を悟ったのせいだ。
アイドル未満とはいえ、人に見られる職業の一旦を知る大巳は、視線が持つ意味をよく分かっていた。
大巳を視線で犯す熱量は、欲情の含みながらも軽蔑や侮りのような悪意は微塵もない。
あるのは欲情を含む崇拝――偶像を見る目だった。
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