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9話
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泥が沈殿している深い水底に沈むような感覚。
どんなに透明度の高い湖でも水の底には泥が堆積しているものだ。
だが水の表面は泥の色や汚さを感じさせず、きらきらと光さえ弾いて輝く。その輝きを深い深い水の底で泥に埋もれながら眺めている感覚をロベールは味わっていた。
むろん王族であるロベールが水に沈むなどあり得ないことだ。魔道士の頂点に立つロベールは水を操ることは合っても、水で溺れた経験があるはずもない。
泥に沈む感覚は、異世界で得た衝撃が強かったせいだ。
ガスが溜まって浮き上がる溺死死体のごとく、ゆっくりと眠っていたロベールの意識が泥の中から輝く水面に向かって浮上する。
もう泥の臭いと味を知っているのに、澄んだ水面に向かうなんて滑稽だ――そう自嘲する自分が居る。
それはロベールの心が、自分の醜悪な部分を受け入れつつある気持ちの変化だ。
異世界に行ってはならなかった。そうすれば光り輝く王子として立つことが出来た。
異世界に行って良かった。そうしたからこそ、本来の自分と向き合うことが出来た。
名前も知らない異世界の男。
誰かに憑依した状態ではなく、ロベールとして会いたかった。
「私は……何者なのだ?」
至高の玉座さえ望める貴人なのか、椅子より低く這いつくばる奴婢なのか。
この日からロベールは自分で自分を探ることとなる。
母は由緒正しい公爵家を後ろ盾に正妃となり、その母から生まれた第一王子のセヴランは、長子としても血筋としても文句なく玉座に座るべく生まれたはずの継嗣だ。
そのはずだった。
幼い頃は仲良く遊んだ異母弟が魔道士の頂点に君臨し、野望を抱く周囲から持ち上げられなければ。
幸いに異母弟のロベールは野心はあるが王位の簒奪まで考えていないようだ。
ロベールの後ろ盾は新興貴族を取りまとめる武勇に優れた伯爵家だ。貴族の数は正妃の実家である公爵家を筆頭に旧王政派が多いが、単純な武力勝負なら魔法や剣を極めた振興貴族派が勝る。ロベールが玉座を望むとしたら武力を持って制圧するだろう。
……つまりは、国を二つに割る内戦だ。
セヴランは王位を望むが内戦は望んでいない。玉座は血で贖うものとはいえ、血が多すぎては玉座そのものが腐ってしまう。
一年前ほどからロベールはたびたび魔導の塔に籠もるようになった。王座を得るために新たな魔法を開発しているのではないかと一時は疑われたが、魔法の研究はしているものの、国を揺るがすような危険なものではないらしい。
セヴランが噂に過ぎないそれを感じたのは、数ヶ月前に思いつめたような顔で「兄上は民をどのようにお考えですか?」と尋ねてきたときだ。
天才肌のロベールは自分の血筋の劣等感もあってか、民を軽視する傾向に合ったのは否めない。決して民を虐げたりはしないが、人間の質を自分とそれ以外という括りで見ていたように思う。
そんな異母弟へセヴランの答えは簡明だった。
「民有ってこその王。我らは民に生かされている」
その言葉にロベールは子供のように瞳を見開き、そして頷いた。
なにかに納得したように。
私の言葉は通じますか? と、流暢な日本語でSM倶楽部・名無しに訪れた青年は、童話の中から抜け出た王子様みたいに気品が有り麗しかった。
日本円を持たなかった彼はオーナーを介して純金を換金し、その金で一人のキャストを予約した。
一ヶ月後の満月の夜に、と。
そのキャストはの名は、特徴のないモブ顔の_瑠音だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ロベール一本豚釣りか、セヴラン込みの異母兄弟豚丼にするか悩んでいる…
どんなに透明度の高い湖でも水の底には泥が堆積しているものだ。
だが水の表面は泥の色や汚さを感じさせず、きらきらと光さえ弾いて輝く。その輝きを深い深い水の底で泥に埋もれながら眺めている感覚をロベールは味わっていた。
むろん王族であるロベールが水に沈むなどあり得ないことだ。魔道士の頂点に立つロベールは水を操ることは合っても、水で溺れた経験があるはずもない。
泥に沈む感覚は、異世界で得た衝撃が強かったせいだ。
ガスが溜まって浮き上がる溺死死体のごとく、ゆっくりと眠っていたロベールの意識が泥の中から輝く水面に向かって浮上する。
もう泥の臭いと味を知っているのに、澄んだ水面に向かうなんて滑稽だ――そう自嘲する自分が居る。
それはロベールの心が、自分の醜悪な部分を受け入れつつある気持ちの変化だ。
異世界に行ってはならなかった。そうすれば光り輝く王子として立つことが出来た。
異世界に行って良かった。そうしたからこそ、本来の自分と向き合うことが出来た。
名前も知らない異世界の男。
誰かに憑依した状態ではなく、ロベールとして会いたかった。
「私は……何者なのだ?」
至高の玉座さえ望める貴人なのか、椅子より低く這いつくばる奴婢なのか。
この日からロベールは自分で自分を探ることとなる。
母は由緒正しい公爵家を後ろ盾に正妃となり、その母から生まれた第一王子のセヴランは、長子としても血筋としても文句なく玉座に座るべく生まれたはずの継嗣だ。
そのはずだった。
幼い頃は仲良く遊んだ異母弟が魔道士の頂点に君臨し、野望を抱く周囲から持ち上げられなければ。
幸いに異母弟のロベールは野心はあるが王位の簒奪まで考えていないようだ。
ロベールの後ろ盾は新興貴族を取りまとめる武勇に優れた伯爵家だ。貴族の数は正妃の実家である公爵家を筆頭に旧王政派が多いが、単純な武力勝負なら魔法や剣を極めた振興貴族派が勝る。ロベールが玉座を望むとしたら武力を持って制圧するだろう。
……つまりは、国を二つに割る内戦だ。
セヴランは王位を望むが内戦は望んでいない。玉座は血で贖うものとはいえ、血が多すぎては玉座そのものが腐ってしまう。
一年前ほどからロベールはたびたび魔導の塔に籠もるようになった。王座を得るために新たな魔法を開発しているのではないかと一時は疑われたが、魔法の研究はしているものの、国を揺るがすような危険なものではないらしい。
セヴランが噂に過ぎないそれを感じたのは、数ヶ月前に思いつめたような顔で「兄上は民をどのようにお考えですか?」と尋ねてきたときだ。
天才肌のロベールは自分の血筋の劣等感もあってか、民を軽視する傾向に合ったのは否めない。決して民を虐げたりはしないが、人間の質を自分とそれ以外という括りで見ていたように思う。
そんな異母弟へセヴランの答えは簡明だった。
「民有ってこその王。我らは民に生かされている」
その言葉にロベールは子供のように瞳を見開き、そして頷いた。
なにかに納得したように。
私の言葉は通じますか? と、流暢な日本語でSM倶楽部・名無しに訪れた青年は、童話の中から抜け出た王子様みたいに気品が有り麗しかった。
日本円を持たなかった彼はオーナーを介して純金を換金し、その金で一人のキャストを予約した。
一ヶ月後の満月の夜に、と。
そのキャストはの名は、特徴のないモブ顔の_瑠音だった。
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ロベール一本豚釣りか、セヴラン込みの異母兄弟豚丼にするか悩んでいる…
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