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5話
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怒りというものには種類がある。
燃え盛る大きな炎で焦土するほど舐め尽くす怒りもあれば、今のロベールのように灰の中でぶすぶすと燻る怒りもある。
強制的な身体変化を齎された日から、再び訪れた満月の夜。
魔術研究なのだと周囲を納得させて魔塔に籠もったロベールは、黒い鏡の前で魔力を出しかけては戻すということを何度も繰り返している。
魔力が異世界にも通りやすい満月の夜だ。
黒い鏡に魔力を流しこめば、異世界の映像も音声も明瞭に感じ取ることができるだろう。
けれどロベールの燻る怒りが魔力の放出を躊躇わせる。
あの魅了魔法は危険だ。
精神への干渉に対処法を受けたはずのロベールでさえ感化され、自制も効かずに肉体が操られる辱めを受けたのだ。精神干渉に耐性のあるアイテムを身に着け、自らに精神力を上げるバフをかけて今度こそ二度目はないと思っているのに、どこかで信じきれない自分も居た。
人間は変化を恐れる。
技術であれ、教養であれ、新しいものを受け入れるには勇気が必要だ。
ロベールは自分が怯懦だとは思っていなかった。実兄と玉座を競うような男が弱腰のはずがない。
それなのにロベールは恐れていた。
黒い鏡に魔力を通すこと。魔力を通して映る異世界を見ること。それを感じること。
それらを知った後の変化が怖いのだ。
幸いにも異世界に干渉できるのはロベール側だけで、異世界からこちらに干渉はできない。ロベールが魔力を流さなければ繋がりは絶たれ、異世界の鏡は黒く塗り潰されたまま何も映したりしない。
何事も無かったと、ロベールは目を瞑って立ち去ることだってできるのだ。
自分の中の理性と呼ばれる白い部分が立ち去れと執拗に警告してくる。同時に自分の中の黒い欲望が留まれと囁いてロベールの動きを止めてしまう。
悩んだはどれくらいの時間だっただろう。
ロベールは細く息を吐いた。
這いずるような鈍い決断。
白絹の手袋に包まれた手が黒い鏡に翳され、そして月の輝きに合わせてゆるりと魔力が満たされていった。
……なーんか、見られている気がするんだよなぁ……。
中世の村人Aに扮した瑠音は汚れを塗装した鎖を掴んで引きながら、ここ最近、意識の隅に感じる視線を思う。
むろん、石牢を模したプレイルームには除き穴も配信カメラもない。
覗きという破廉恥行為に興奮する客のために覗き穴付きの部屋もあるし、見られる興奮する客のために配信サービスもある。だが今日の客はそのどちらも好まない、どちらかと言えば身バレを極端に嫌う秘密主義タイプの客だ。
この石牢モチーフにしたプレイルームは、その客と瑠音以外は居ないはずなのだが――。
なぜか気配を感じてしまう。
だが瑠音はプロだ。SM倶楽部名無しの社員であり人気キャストだ。
瑠音にとって大切なのは視線の違和感を精査することではなく、客の要望に寄り添い快楽を操作することである。
今日の客は、身分が下のモブに陵辱されるイメージプレイを希望しているのだ。プロの矜持にかけてもやりきらねば。
手の中にあった鎖を引くと、天井に備え付けられた滑車が軋んだ音を立てて回った。
汚れを塗装した太い鎖が振動し、中世の貴族を思わせる衣装を来た若い客を引き上げていく。
ちなみにこの衣装は店のオプションで非常に破れやすい。レイプや打擲プレイなどの最適の素材である。
客は後ろ手に手枷を嵌められ、両膝を肩幅より少し大きく開いた状態で拘束されていた。
股が閉じないように左右の膝の間には錆塗装された鉄の棒があった。左右の膝裏に固定し、閉じることもできずに見無防備にさせた股間を見て野卑に鼻を鳴らす。村人役の瑠音はアンティークな鉄製のハサミを取り出し、客の白いズボンの上からゆっくりと撫でてやった。
「お貴族様の股ぐらってヤツは、俺らみたいな下々のモノと違って光り輝いているのか見せてくれよ」
燃え盛る大きな炎で焦土するほど舐め尽くす怒りもあれば、今のロベールのように灰の中でぶすぶすと燻る怒りもある。
強制的な身体変化を齎された日から、再び訪れた満月の夜。
魔術研究なのだと周囲を納得させて魔塔に籠もったロベールは、黒い鏡の前で魔力を出しかけては戻すということを何度も繰り返している。
魔力が異世界にも通りやすい満月の夜だ。
黒い鏡に魔力を流しこめば、異世界の映像も音声も明瞭に感じ取ることができるだろう。
けれどロベールの燻る怒りが魔力の放出を躊躇わせる。
あの魅了魔法は危険だ。
精神への干渉に対処法を受けたはずのロベールでさえ感化され、自制も効かずに肉体が操られる辱めを受けたのだ。精神干渉に耐性のあるアイテムを身に着け、自らに精神力を上げるバフをかけて今度こそ二度目はないと思っているのに、どこかで信じきれない自分も居た。
人間は変化を恐れる。
技術であれ、教養であれ、新しいものを受け入れるには勇気が必要だ。
ロベールは自分が怯懦だとは思っていなかった。実兄と玉座を競うような男が弱腰のはずがない。
それなのにロベールは恐れていた。
黒い鏡に魔力を通すこと。魔力を通して映る異世界を見ること。それを感じること。
それらを知った後の変化が怖いのだ。
幸いにも異世界に干渉できるのはロベール側だけで、異世界からこちらに干渉はできない。ロベールが魔力を流さなければ繋がりは絶たれ、異世界の鏡は黒く塗り潰されたまま何も映したりしない。
何事も無かったと、ロベールは目を瞑って立ち去ることだってできるのだ。
自分の中の理性と呼ばれる白い部分が立ち去れと執拗に警告してくる。同時に自分の中の黒い欲望が留まれと囁いてロベールの動きを止めてしまう。
悩んだはどれくらいの時間だっただろう。
ロベールは細く息を吐いた。
這いずるような鈍い決断。
白絹の手袋に包まれた手が黒い鏡に翳され、そして月の輝きに合わせてゆるりと魔力が満たされていった。
……なーんか、見られている気がするんだよなぁ……。
中世の村人Aに扮した瑠音は汚れを塗装した鎖を掴んで引きながら、ここ最近、意識の隅に感じる視線を思う。
むろん、石牢を模したプレイルームには除き穴も配信カメラもない。
覗きという破廉恥行為に興奮する客のために覗き穴付きの部屋もあるし、見られる興奮する客のために配信サービスもある。だが今日の客はそのどちらも好まない、どちらかと言えば身バレを極端に嫌う秘密主義タイプの客だ。
この石牢モチーフにしたプレイルームは、その客と瑠音以外は居ないはずなのだが――。
なぜか気配を感じてしまう。
だが瑠音はプロだ。SM倶楽部名無しの社員であり人気キャストだ。
瑠音にとって大切なのは視線の違和感を精査することではなく、客の要望に寄り添い快楽を操作することである。
今日の客は、身分が下のモブに陵辱されるイメージプレイを希望しているのだ。プロの矜持にかけてもやりきらねば。
手の中にあった鎖を引くと、天井に備え付けられた滑車が軋んだ音を立てて回った。
汚れを塗装した太い鎖が振動し、中世の貴族を思わせる衣装を来た若い客を引き上げていく。
ちなみにこの衣装は店のオプションで非常に破れやすい。レイプや打擲プレイなどの最適の素材である。
客は後ろ手に手枷を嵌められ、両膝を肩幅より少し大きく開いた状態で拘束されていた。
股が閉じないように左右の膝の間には錆塗装された鉄の棒があった。左右の膝裏に固定し、閉じることもできずに見無防備にさせた股間を見て野卑に鼻を鳴らす。村人役の瑠音はアンティークな鉄製のハサミを取り出し、客の白いズボンの上からゆっくりと撫でてやった。
「お貴族様の股ぐらってヤツは、俺らみたいな下々のモノと違って光り輝いているのか見せてくれよ」
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