サブカルからのリアル調教

柄木

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幕間④

義兄ガチ勢・下

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 声でなら雄哉ゆうやをコントロールできる自信がある。
 雄哉がりんを認識したのは、しょうゆ顔で細身の姿形ではなくサディスティックなタチの声からだった。 
 始まりは倫がゲームキャラを通して雄哉を見たように、雄哉が最初に惚れてくれたのはキャラクターを演じる声優としての倫の声からだ。
 けれど自惚れてもいいならば、今は倫の声を含めて自分を好いてくれていると思う。……たぶん。
 うちわの持ち手を強く握り締めてしまったのは、わずかな疑念が混じってしまったせいだった。
 倫は今日、一言も雄哉に言葉を発していなかった。雄哉は倫の声と、その声に操られる言葉に弱い。声から始まった出会いだからこそ、声がなくとも大丈夫だろうかと考えてしまうのだ。

「……っ、……ッ!」

 ぶるっと大きく震えた雄哉の腰に力が入る。一瞬、倫の“ストップ”よりも自分の欲を優先したのかにみえてしまう。
 だが四つん這いが崩れて顔を浴室の床に押し付けても雄哉はそれ以上腰を振らない。筋肉の緊張が離れてもわかるほどに雄哉が体を震わせている。
 よく見れば鏡に映る尻尾付きの尻はえくぼができるくらいに力を込めて強張っていた。

「……、っ、……ッ」

 必死に自分の肉体に蔓延った重たい熱の流れを堰き止め、千切れた理性を留めて堪えるその姿。
 声を出さない倫が止めたから、止めろと伝えたから、雄哉は自分の欲を捻じ曲げても従おうとしてくれているのだ。

 義兄さん。
 義兄さん。
 義兄さん義兄さん義兄さん義兄さ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ん゛ン゛ン゛!!

 ぶわっと湧き上がるクソデカ感情。推しに愛される自分、全世界で優勝。
 倫は何枚もうちわを手に取った。

 “義兄さんLOVE♡” “義兄めちゃすこ♡” “好き♡” “大好き♡” “大♡大♡好き♡”

 “メスイキしろ” “尻でイケ” “淫乱メス豚” “ケツイキ奴隷”

「――ッ、ッッ……っ……ッッッ!!!」

 高く掲げた雄哉の尻が大きく円を描いた。そのままプラグが前立腺を刺激するようにカクカクと腰を振っては尻を振りまくる。
 陰茎からぶら下がった“調教済みメス豚”のタグが揺れて敏感になった内ももや睾丸を叩くが、その小さな痛みすらも快楽に変換しているようだ。
 焦らすとか無理。無理無理の無理。さっきまでの自分が敗北して全面降伏して居るのがわかった。
 直に触れられる普段なら焦らしてやる間も耐えられたのに、お互いに触れられないからこそ、もどかしいからこそ、我慢が効かなくなっている。
 もはや倫は自重しなかった。
 
“イケ♡” “ケツでイケ♡” “無様アクメ晒せ♡” “メス豚アクメ♡“”けつまんこキュン♡”

 床に顔をつけたまま、健気にうちわの文字を追うたびに雄哉の腰の動きは淫らに激しくなる。それは普段、倫に責め立てられてきゅうきゅう締め付けてくる動きなんだと遠目に分かった。
 倫も雄哉の痴態に煽られて痛いくらいの勃起を感じたが、我が身を犠牲にして推しを推すのが紳士の努め。
 雄哉が派手にメスイキするまでじっと耐えきった倫は、ガチ勢に相応しい姿だった。


 アナルプラグでメスイキした雄哉は四つん這いを保てなくなったのか、床に崩れ折れて体を震わせながら痙攣している。
 イッたばかりの雄哉の中は、揉んで吸い付くような蠢きを持つと倫は知っている。いつもならあの熱く蕩けた肉を縦割りにして存分に抉ってやれるのに。

 憎むべきはソーシャルディスタンス。

 雄哉にうちわの文字を中止させうために柄で床をリズミカルに叩いた。
 のろのろと顔を上げた雄哉に、“こっち見て”のうちわ。
 Tシャツの裾を捲くってズボンを下げる。ぶるんと腹を打ちそうに現れたのは、浮いた血管すらよく見える若い肉の凶器だ。
 雄哉が目を見開いた。固く勃起した、本来なら自分が従うべき象徴を蕩けた顔で見つめたまま目が離せない。
 見られていることを強く意識しながら、倫は先走りを絡めて手のひらに固くなった肉の竿を握り込む。ずくんと恥骨を殴られた気かした。
 他の刺激も小手先のテクニックも必要なかった。欲情に塗れた雄哉の貪婪な視線だけで体中が滾ってくる。ただ自分の手のひらで扱いているだけなのに、雄哉が必死に見てくるだけで細胞が歓喜して快楽が駆け上がってくる。
 くちゅくちゅと音が大きくなったのは、雄哉の視線で先走りがさらに溢れたからだ。

「……ん、きもち、い……」

 シームレスマスク中で呟く。自慰より雄哉のナカほうが気持ちいいのは当たり前だが、雄哉の視線が舐めてくるようで過敏になってしまった。
 もっと見て、もっと記憶して、もっと欲しがって、もっと悶えればいい。
 今、触れることも感じることもできない欲望に。

「……ん、ッ」

 まばたきを忘れた雄哉が見つめる中、腰を突き出して勢いよく射精した精液は、放物線を描いて廊下に幾つものシミを作っていた。

 
「……義兄さんの、次くらい……気持ちよかった」

 マスクの内側で呟いた声は雄哉には届かないだろう。けれど廊下に点々と落ちた精液に釘付けになっていた雄哉が、内股を擦りながら倫の動向を見守っている。
 ああ、と、倫は気がついた。

“ぺろぺろして” “ザー汁舐め豚”

 そんなうちわをかざすと、わざと尻を振ってプラグの刺激を味わいながら、雄哉が四つん這いで浴室から這い出てくる。
 四足で動くたびにプラグが感じる場所に当たるのか、尻尾が生えた尻のうねりは大胆で淫らだ。しかもその格好は胸を下に向けるため、尖りきった乳首やタグをぶら下げた陰茎がよく見える。
 廊下に落ちた精液の前に来た雄哉は輪を見て阿るように視線で伺う。輪は“舐めろ、メス豚”のうちわで応えてやった。
 雄哉が口元のファスナーを開けると、金属の歯の狭間から真っ赤に熟れた舌が突き出される。唾液を滴らせる舌は実にいやらしい。
 ぢゅ、ぢゅる、と卑猥な音を鳴らしながら雄哉が倫が飛ばした精液を、嬉しそうに豚のしっぽを振って舐めとったり吸い取ったりして清めていく。
 最後の飛沫を前にした雄哉はことさら丹念に廊下を舐め、床板に口付けて口淫するみたいに唇の位置を何度もずらしながらしゃぶり続けていた。

“エロかわ” “最高♡” “エモの極み” “エロの極み”

 だめだ。
 義兄が尊すぎて語彙が溶けるのを感じる倫だった。
 推しの前に語彙が溶ける、常識だ。





 「あー。楽しかったけど、やっぱり義兄さんに直に触れたいなぁ」

 大量に作ったうちわを片付けてから二日。
 明日の夜には両親が帰宅するのだから、雄哉に触れないままでちょっと残念だ。しかし創意工夫でなんとかなるものだ……代替え行動を考えた自分を納得させていた倫だったが、強い視線を感じて階段を見上げた。
 階段の中ほどに今日も顔面偏差値・爆上げ中の雄哉が倫を見ている。
 偏差値が上がった理由、それは雄哉が照れたような顔で小さく笑っていたからだ。

 そら上がるわ、こんなん。
 顔面優等生、自覚して?

 訝る倫の目の前に、白地のうちわにパソコンからプリントアウトしたと思われる黒い文字が貼られてある。

“隔離期間終了” ――なんですと? 倫の表情を確認してくるりと裏返されるシンプルなうちわ。
“生で種付けして” ――なんですと!? 立ち上がった倫に向けられる新たなうちわ。

“声とおちんぽで犯して” “マゾ豚と遊んで” ――なぁぁあんでぇぇえぇすぅぅうぅとぉおぉぉぉ!?!?

 そうだ。
 忘れていた。

 雄哉は倫の推しだが、雄哉は義弟としても声優としても倫のファンなのだ。声優の熱狂的なファンの俗称をなんというか。

 そう、声豚だ。

 基本的にファンサは塩っけがある倫だが、雄哉は別。
 豚にはしっかりたっぷりねっとりみっちりファンサしなくてはならない。


 
                              終
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