52 / 72
コスプレ調教はじめました
1話
しおりを挟む
この空気感をなんと表現すればいいのだろう?
自分を注視する周囲の、押し寄せる好奇や興奮の反応に雄哉は表情を凜と保ちながらも困惑している。
昔からスクールカーストのトップに君臨していた雄哉だ。注目されることも熱い視線で見られることも慣れっこのはずだった。
だが違う。
この場所の、この人間達の視線の熱量は違う。
例えるなら同じ熱でも、熱湯と煮えたぎった油くらいに絡みつく熱量は違うのだ。
きゅっと密かに尻が締まった。
形の良い尻たぶに『牝』『豚』、下腹には『淫乱奴隷』のタトゥーシールを貼られていたが、その文字が熱を産むように気になってしまう。まさかそれが透けて見えるのかと雄哉は肝を冷やされる思いだった。
卑猥な文字を隠すのは、義弟である倫が用意した、まるで宝塚を彷彿させる豪華で高雅な衣装。
中世の騎士をさらに華美にし、サーコートを羽織った衣装は自分でもよく似合うと自負できる。
長身に加え、引き締まった体は豪奢な衣装に負けることなく、雄哉の端正な顔と相乗効果となってまるで本物のゲームキャラのようだった。
倫に見せて貰った“ジュリアス”と自分は確かに似ていたのだ。
雄哉は今、コスプレ広場からさらに熱量が増したサークルが並ぶ建物内に移動していた。それも倫から“お買い物”ミッションを命じられたからだった。
倫がリスペクトする漫画家――というか、雄哉が嵌まったBLボイスドラマの漫画原作者でもあるのだが――のスペースへジュリアスの新刊を買ってくる簡単ではないミッションだ。
なにしろ初めての場所なので、お目当てのサークルは配置表を見ても分かりにくいし、コスプレ衣装で迷えば迷うほどサークル内外から黄色い声と熱視線が増える。
いつもなら微笑んで分からないことを尋ねれば、頬を染めてにこやかに応じてくれる女性も『え?』『ほほう?』『ニヤニヤ』みたいな感じで応対されるし、男に至ってはイイ笑顔でサムズアップされる始末。
たぶん、ここは異次元なのだと思う。
羞恥プレイの変化球というか、そもそも別ベクトルの羞恥というか、とにかく動揺している事だけは悟られないようミッションをこなすのみである。
そしてようやく見つけたスペースは壁際に配置されていた。
雄哉にしてみれば建物の中心ではなく、追いやられたように壁際に配置されたスペースは人が来ない場所なのだろうと勘違いしていた。不慣れな雄哉に倫が気を遣ってくれたと解釈さえしていたくらいだ。
甘い。
めちゃくちゃ、甘い。
午後を過ぎた時間なら壁配置といえども長蛇の列はなく、むしろ整然と列があるだけ、島中の混雑よりは空いていると感じるがこれは錯覚だった。
壁配置。
つまりは大手。しかもジュリアス受の最大手である。
その大手のスペースには大きなポスターが貼ってあった。
それは雄哉そっくりのゲームキャラであるジュリアスが、コスプレと同じ衣装も破かれてぼろぼろの半裸状態にされ、ザーメンだらけになりながら首輪に繋がれている。それだけではない。トロ顔で背後から本物の豚にのし掛かられているという、いろんな意味でアウトなポスターが凄まじい主張を示していたのだ。さらにそれを表紙にした本が並ぶスペースは圧巻というか、ジュリアスそっくりゆえに注目を浴びる雄哉には悲惨状態。
なのに卑猥なポスターに自己投影してしまい、ぞくぞくと背中に甘い痺れが這い上がってしまうほど、淫らな肉体に躾けられてしまっている。
ゲームキャラなのに、まるで自分がそうされているような錯覚と、豚に犯される自分そっくりなゲームキャラの本を買う行為に興奮してしまうのだ。
今まで経験したことのない羞恥だった。
震える足でスペースに行けば、阿鼻叫喚の事態となってしまった。ゴスロリ衣装の女性は奇声を発するし、メイドと執事服の売り子も騒ぐし、壁際でひたすら空の段ボールを潰していた地味な青年なんかは加速装置を発動し、雄哉の前に来て握手を求めるし。
周囲に視線もひたすら熱く、ひたすら粘っていて、ひたすら――いかがわしい。
なんだこの世界?
雄哉が困惑するのも無理はなかった。
なにしろ豚に犯された本人が、その記録を買い求めているようなものなのだから。
熱く絡む視線を全身に感じながら、背後から『なんか降りてきたーッッッ次の新刊決まったーッッッ』と叫ぶ声がする。
それを振り切って歩けば、内ポケットに振動音を感じ、慌ててスマホを取り出した。
誤爆を防ぐためにLINEではなくメール画面を開くと、雄哉にコスプレ姿で買い物をさせた、この光景をどこかで見ているだろう倫からの言葉は熱を孕んで目に入る。
『メス豚がメス豚の買い物ご苦労様。――ご褒美に豚泣きさせてあげる』
******************************************************************
コミケ中止になりましたね。行く予定はなかったけど残念です。
残念だけど英断だと思うので早く事態が収まりますように
自分を注視する周囲の、押し寄せる好奇や興奮の反応に雄哉は表情を凜と保ちながらも困惑している。
昔からスクールカーストのトップに君臨していた雄哉だ。注目されることも熱い視線で見られることも慣れっこのはずだった。
だが違う。
この場所の、この人間達の視線の熱量は違う。
例えるなら同じ熱でも、熱湯と煮えたぎった油くらいに絡みつく熱量は違うのだ。
きゅっと密かに尻が締まった。
形の良い尻たぶに『牝』『豚』、下腹には『淫乱奴隷』のタトゥーシールを貼られていたが、その文字が熱を産むように気になってしまう。まさかそれが透けて見えるのかと雄哉は肝を冷やされる思いだった。
卑猥な文字を隠すのは、義弟である倫が用意した、まるで宝塚を彷彿させる豪華で高雅な衣装。
中世の騎士をさらに華美にし、サーコートを羽織った衣装は自分でもよく似合うと自負できる。
長身に加え、引き締まった体は豪奢な衣装に負けることなく、雄哉の端正な顔と相乗効果となってまるで本物のゲームキャラのようだった。
倫に見せて貰った“ジュリアス”と自分は確かに似ていたのだ。
雄哉は今、コスプレ広場からさらに熱量が増したサークルが並ぶ建物内に移動していた。それも倫から“お買い物”ミッションを命じられたからだった。
倫がリスペクトする漫画家――というか、雄哉が嵌まったBLボイスドラマの漫画原作者でもあるのだが――のスペースへジュリアスの新刊を買ってくる簡単ではないミッションだ。
なにしろ初めての場所なので、お目当てのサークルは配置表を見ても分かりにくいし、コスプレ衣装で迷えば迷うほどサークル内外から黄色い声と熱視線が増える。
いつもなら微笑んで分からないことを尋ねれば、頬を染めてにこやかに応じてくれる女性も『え?』『ほほう?』『ニヤニヤ』みたいな感じで応対されるし、男に至ってはイイ笑顔でサムズアップされる始末。
たぶん、ここは異次元なのだと思う。
羞恥プレイの変化球というか、そもそも別ベクトルの羞恥というか、とにかく動揺している事だけは悟られないようミッションをこなすのみである。
そしてようやく見つけたスペースは壁際に配置されていた。
雄哉にしてみれば建物の中心ではなく、追いやられたように壁際に配置されたスペースは人が来ない場所なのだろうと勘違いしていた。不慣れな雄哉に倫が気を遣ってくれたと解釈さえしていたくらいだ。
甘い。
めちゃくちゃ、甘い。
午後を過ぎた時間なら壁配置といえども長蛇の列はなく、むしろ整然と列があるだけ、島中の混雑よりは空いていると感じるがこれは錯覚だった。
壁配置。
つまりは大手。しかもジュリアス受の最大手である。
その大手のスペースには大きなポスターが貼ってあった。
それは雄哉そっくりのゲームキャラであるジュリアスが、コスプレと同じ衣装も破かれてぼろぼろの半裸状態にされ、ザーメンだらけになりながら首輪に繋がれている。それだけではない。トロ顔で背後から本物の豚にのし掛かられているという、いろんな意味でアウトなポスターが凄まじい主張を示していたのだ。さらにそれを表紙にした本が並ぶスペースは圧巻というか、ジュリアスそっくりゆえに注目を浴びる雄哉には悲惨状態。
なのに卑猥なポスターに自己投影してしまい、ぞくぞくと背中に甘い痺れが這い上がってしまうほど、淫らな肉体に躾けられてしまっている。
ゲームキャラなのに、まるで自分がそうされているような錯覚と、豚に犯される自分そっくりなゲームキャラの本を買う行為に興奮してしまうのだ。
今まで経験したことのない羞恥だった。
震える足でスペースに行けば、阿鼻叫喚の事態となってしまった。ゴスロリ衣装の女性は奇声を発するし、メイドと執事服の売り子も騒ぐし、壁際でひたすら空の段ボールを潰していた地味な青年なんかは加速装置を発動し、雄哉の前に来て握手を求めるし。
周囲に視線もひたすら熱く、ひたすら粘っていて、ひたすら――いかがわしい。
なんだこの世界?
雄哉が困惑するのも無理はなかった。
なにしろ豚に犯された本人が、その記録を買い求めているようなものなのだから。
熱く絡む視線を全身に感じながら、背後から『なんか降りてきたーッッッ次の新刊決まったーッッッ』と叫ぶ声がする。
それを振り切って歩けば、内ポケットに振動音を感じ、慌ててスマホを取り出した。
誤爆を防ぐためにLINEではなくメール画面を開くと、雄哉にコスプレ姿で買い物をさせた、この光景をどこかで見ているだろう倫からの言葉は熱を孕んで目に入る。
『メス豚がメス豚の買い物ご苦労様。――ご褒美に豚泣きさせてあげる』
******************************************************************
コミケ中止になりましたね。行く予定はなかったけど残念です。
残念だけど英断だと思うので早く事態が収まりますように
50
お気に入りに追加
1,443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる