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義兄弟になりました
1話
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「これ……」
大学のコンパから帰宅すれば、半年前に義弟になったばかりの倫が小さな声で呟いて、雄哉宛に今日届いたらしい通販サイトからの荷物を差し出す。
「あ。あぁ。その、さんきゅ、な?」
「……ん」
互いに交わす言葉はぎこちない。
それも無理のない話だった。
雄哉の父親と倫の母親が再婚して二人は義理の兄弟となったわけだが、雄哉が5月生まれの21歳、倫が12月生まれの同級生になるのだ。
20歳も過ぎれば今さら義理の兄弟に反発するほど子供ではないが、仲睦まじく接するほど無邪気でもいられない。
それゆえに二人の間には、微妙な距離感と空気が半年経っても漂っていた。
もっとも二人の性格にも問題は少しはあるだろう。
人好きのする端正な容貌を持つ雄哉は交友関係が広く社交的なアウトドア派。反対に倫は無口で眼鏡とマスクが常備な非社交的なインドア派だ。ちなみにマスクは喉が弱いかららしい。
20歳を過ぎて共通の話題も趣味もない。同い年とはいえ似たような価値観の友人達とは違う。
これで義理以上に仲良くなれと言われても無理な話だ。
緩衝材役の両親がいればマシなのだが、ただいま再婚半年でラブラブ中の両親は有休を取って長期旅行中。穏やかで天然の入った父親と、明るくハキハキとした母親のぞんざいがこれほど有り難く思ったことはないくらいだった。
それでも自立した社会人なら適度な距離感で付き合えただろうし、親に依存する年齢なら仲良くなる努力もしたかもしれない。
だが大学生と専門学生というのは、同じ屋根の下で暮らすには微妙な年齢と立場なのだ。
大学が自宅から通えるから自宅に住んでいたが、そろそろ一人暮らしを考えた方が良いのかも知れないと雄哉は思う。
個人的に少し――かなりこの環境は勿体ないが。
それに……と内心で言葉を続けながら、雄哉は倫を盗み見た。
癖のない艶やかな髪と一重で切れ長の瞳の倫は、歌舞伎役者の女形に似た無性の印象がある。決して女に見えないが、どこか男臭さを感じさせないのだ。
そして、密かにそんな倫に懸想している自分がいる。
隠しているが雄哉はゲイだった。
金褐色に染めた髪や派手な顔立ちは異性に人気があるものの、彼女たちは友人になれても性欲の対象にはならない。
しかも雄哉の趣味は冷たい雰囲気を持つサド気質な男という、なかなか厄介でレアな存在がタイプだった。
漫画などでは受け入れるネコ側はモテモテだが、現実はネコは供給過剰で責める側のタチの方が少ないものだ。そこに加えてサド気質のタチと来ればさらに数は少なくなってしまう。
現実的に理想のタチを探す気も無い雄哉は、せいぜいが自慰で自分を誤魔化すくらいだ。
最近の自慰ブームは“声”だった。
たとえば義弟の倫のような。
無口で言葉数も少ない倫だったが、その声は雄哉が“オカズ”にしている声優によく似ているのだと、それに気づいたのはいつだったか。
現実で理想の相手に巡り会えない雄哉が行き着いた先は、非現実的なサブカルチャーの世界だった。漫画や小説、アニメやボイスドラマなら容易く理想の相手に出会う事が出来る。
中でも最近のお気に入りは、一年前に出たボイスドラマの声優だ。
始めは原作の漫画からそのボイスドラマを知ることとなる。
たまたまネットで見かけたBL漫画の主人公が、なんとなく雄哉と通っていてシンパシーを感じたのだ。
女の子にみたいな可愛い感じの主人公ではなく、筋肉質な青年で描かれた主人公の目つきと良い、雰囲気といい、雄哉がコスプレしてるのかと思うほどだった。
自分に雰囲気が似てるということで買ったのだが、そのネコハーレムのハーレム要員の一人として登場したキャラが雄哉が理想とする男との出会いだった。
役どころはメインではなくサブキャラだったが、とにかく冷ややかでサディスティックな口調が本物のSなのでは? と信じたくなるくらいにその声優の嵌まり役で悶えてしまったほど。
迫真の演技はとても新人声優とは思えなかった。有名どころの声優を食ってしまうくらい、そのサディスティック声優は素晴らしかった。
そう感じたのは雄哉だけではなかったらしく、後にそのキャラをメインに据えた続編がでるほどの嵌まりぶり。もちろん雄哉は購入済みで使用済みだった。ちなみに一番よくオカズにするアイテムだったりする。
『跪いて尻を差し出すんだよ。お前は今日から俺のオンナだ』
『俺のものが欲しければ発情したメスブタのように鳴いて強請ってみろよ』
『ほら、俺のものを食い締めて離さないな、淫乱野郎が』
などなど。
一般流通する商品だけ有って表現は雄哉の好みからすれば幾分マイルドだが、その代わり口調などからサディスティックな響きがこれでもかと溢れ出る。
この声優の言葉責めの部分をだけを抜きだし、再編集したものが雄哉のオカズだった。
その声優に少し似た声の義理の弟から荷物を渡されて気分が上がる。
正直なところ義弟は雄哉のタイプだが、さすがに男同士な上に義理の兄弟にリアルでどうこうするつもりはない。――妄想なら別枠判定だ。
倫が渡したのは通販アダルトショップの荷物だ。義弟から手渡されたそれを使って、ちょっと義弟に似た声優の台詞を聞きながら今夜は自慰に耽ろうと足早に二階へ上がっていた。
大学のコンパから帰宅すれば、半年前に義弟になったばかりの倫が小さな声で呟いて、雄哉宛に今日届いたらしい通販サイトからの荷物を差し出す。
「あ。あぁ。その、さんきゅ、な?」
「……ん」
互いに交わす言葉はぎこちない。
それも無理のない話だった。
雄哉の父親と倫の母親が再婚して二人は義理の兄弟となったわけだが、雄哉が5月生まれの21歳、倫が12月生まれの同級生になるのだ。
20歳も過ぎれば今さら義理の兄弟に反発するほど子供ではないが、仲睦まじく接するほど無邪気でもいられない。
それゆえに二人の間には、微妙な距離感と空気が半年経っても漂っていた。
もっとも二人の性格にも問題は少しはあるだろう。
人好きのする端正な容貌を持つ雄哉は交友関係が広く社交的なアウトドア派。反対に倫は無口で眼鏡とマスクが常備な非社交的なインドア派だ。ちなみにマスクは喉が弱いかららしい。
20歳を過ぎて共通の話題も趣味もない。同い年とはいえ似たような価値観の友人達とは違う。
これで義理以上に仲良くなれと言われても無理な話だ。
緩衝材役の両親がいればマシなのだが、ただいま再婚半年でラブラブ中の両親は有休を取って長期旅行中。穏やかで天然の入った父親と、明るくハキハキとした母親のぞんざいがこれほど有り難く思ったことはないくらいだった。
それでも自立した社会人なら適度な距離感で付き合えただろうし、親に依存する年齢なら仲良くなる努力もしたかもしれない。
だが大学生と専門学生というのは、同じ屋根の下で暮らすには微妙な年齢と立場なのだ。
大学が自宅から通えるから自宅に住んでいたが、そろそろ一人暮らしを考えた方が良いのかも知れないと雄哉は思う。
個人的に少し――かなりこの環境は勿体ないが。
それに……と内心で言葉を続けながら、雄哉は倫を盗み見た。
癖のない艶やかな髪と一重で切れ長の瞳の倫は、歌舞伎役者の女形に似た無性の印象がある。決して女に見えないが、どこか男臭さを感じさせないのだ。
そして、密かにそんな倫に懸想している自分がいる。
隠しているが雄哉はゲイだった。
金褐色に染めた髪や派手な顔立ちは異性に人気があるものの、彼女たちは友人になれても性欲の対象にはならない。
しかも雄哉の趣味は冷たい雰囲気を持つサド気質な男という、なかなか厄介でレアな存在がタイプだった。
漫画などでは受け入れるネコ側はモテモテだが、現実はネコは供給過剰で責める側のタチの方が少ないものだ。そこに加えてサド気質のタチと来ればさらに数は少なくなってしまう。
現実的に理想のタチを探す気も無い雄哉は、せいぜいが自慰で自分を誤魔化すくらいだ。
最近の自慰ブームは“声”だった。
たとえば義弟の倫のような。
無口で言葉数も少ない倫だったが、その声は雄哉が“オカズ”にしている声優によく似ているのだと、それに気づいたのはいつだったか。
現実で理想の相手に巡り会えない雄哉が行き着いた先は、非現実的なサブカルチャーの世界だった。漫画や小説、アニメやボイスドラマなら容易く理想の相手に出会う事が出来る。
中でも最近のお気に入りは、一年前に出たボイスドラマの声優だ。
始めは原作の漫画からそのボイスドラマを知ることとなる。
たまたまネットで見かけたBL漫画の主人公が、なんとなく雄哉と通っていてシンパシーを感じたのだ。
女の子にみたいな可愛い感じの主人公ではなく、筋肉質な青年で描かれた主人公の目つきと良い、雰囲気といい、雄哉がコスプレしてるのかと思うほどだった。
自分に雰囲気が似てるということで買ったのだが、そのネコハーレムのハーレム要員の一人として登場したキャラが雄哉が理想とする男との出会いだった。
役どころはメインではなくサブキャラだったが、とにかく冷ややかでサディスティックな口調が本物のSなのでは? と信じたくなるくらいにその声優の嵌まり役で悶えてしまったほど。
迫真の演技はとても新人声優とは思えなかった。有名どころの声優を食ってしまうくらい、そのサディスティック声優は素晴らしかった。
そう感じたのは雄哉だけではなかったらしく、後にそのキャラをメインに据えた続編がでるほどの嵌まりぶり。もちろん雄哉は購入済みで使用済みだった。ちなみに一番よくオカズにするアイテムだったりする。
『跪いて尻を差し出すんだよ。お前は今日から俺のオンナだ』
『俺のものが欲しければ発情したメスブタのように鳴いて強請ってみろよ』
『ほら、俺のものを食い締めて離さないな、淫乱野郎が』
などなど。
一般流通する商品だけ有って表現は雄哉の好みからすれば幾分マイルドだが、その代わり口調などからサディスティックな響きがこれでもかと溢れ出る。
この声優の言葉責めの部分をだけを抜きだし、再編集したものが雄哉のオカズだった。
その声優に少し似た声の義理の弟から荷物を渡されて気分が上がる。
正直なところ義弟は雄哉のタイプだが、さすがに男同士な上に義理の兄弟にリアルでどうこうするつもりはない。――妄想なら別枠判定だ。
倫が渡したのは通販アダルトショップの荷物だ。義弟から手渡されたそれを使って、ちょっと義弟に似た声優の台詞を聞きながら今夜は自慰に耽ろうと足早に二階へ上がっていた。
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