スイセイ桜歌

五月萌

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第5章 美優の歩く世界

4 遠くからの願い

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第4フロア。

階段を美優が最初に降りていく。念のために武楽器であるトランペットを出している。
「あれー?」

美優は驚いた。眼の前に自分がいた。

「どうしたんだ?」
「これは凄い、鏡の迷路かい?」

ローリの言う通り、鏡がいたるところにある迷路のようだ。天井ギリギリにまで鏡が配置されている。空中を翔んで出口まで行くことはできないようだ。もちろん天井に明かりを出す黄色の花が咲いていてフロアを照らしている。

「ガーさんの匂いがする」

ローリと太陽は顔を見合わせる。

「ガウカを回収しよう。地下深くまで行くのはそれからだ」
「ねえ、ローリ、ガーさん1人だけなの?」
「そのようだね、後は血の匂いがかすかにある」
「怪我しているのかな?」
「僕が先行くからついてきてくれたまえ。ウォレ」

ローリはバイオリンの剣を出した。

「ネニュファール、危ないから肩貸そう」

ホー!

ネニュファールは太陽の肩に止まる。
美優は面白くなさげに目を伏せた。
ローリは背を低くして進んでいく。
キラーン!
ローリのはめている指輪が光った。

「今のって?」
「死ぬ予言だ、しかし今ので状況は掴めた」

ローリが小走りで角を曲がると、麻縄で縛られているガウカに会うことができた。
「ムググ」

ガウカは口に猿ぐつわを咬ませられていた。
ローリは剣でその布の留め具を切っておとした。
美優は忍び寄る足音に気づき、強い力で太陽の手を掴んで、離れようと曲がった。

「ロー君、フェルニカ兵が爆弾を!」

ガウカはローリの後ろを見ていた。

「危ない! 後ろ!」

太陽の眼の前で惨劇が起きようとしていた。戻っていこうとして黒色と白色のハウンドトゥース柄のお面を被った人にぶつかった。その脇の方からアンダースローで黒い何かを、ローリに向かって投げるハウンドトゥース柄の仮面の人がいた。

カキーン!

ローリがバットを振るうように剣で打ち返した。

ボン! パリン!

高い天井の方へ投げられた爆弾。幸運にも割れたガラスの破片は付近に落ちてこなかった。爆風で反対側に落ちていった。

「たあ!」

美優の飛び膝蹴りが仮面の男に炸裂した。
仮面の男は吐瀉物を吐いた。うずくまり、ぜえぜえ息をする。

「美優さん、離れた方がいい! 彼の体にはダイナマイトが付いている」

ローリの言葉に美優は一瞬離れてトランペットを口に当て、武楽器魔法でダイナマイトに火をつけようとした。
パーーー!

しかし仮面の男は焦った様子で、走って逃げていった。

「ぅおおおおおおお」

太陽はもう一人の仮面の男に殴りかかっていた。一発当てた。続けざまにみぞおちを狙ったが体格差が同じくらいなのでうまく当たらなかった。しかし、彼は大量の爆薬をサコッシュから落とした。そして、それには気にもとめず逃げて、曲がっていった。

「何だったんだ」

太陽は不思議そうに呟いた。
「大丈夫かい? ガーさん」


ローリはガウカの体にぐるぐる巻きにしてあった麻縄を切った。

「ロー君、悪いことをしたのじゃ。ゴメンなのじゃ」

ガウカは涙ながらに素直に謝った。

「無事なら良かったよ」
「それにしても油断していたのじゃ、実はフェルニカの奴らを仲間に入れていて、リコヨーテの人は皆死んでしまった。それにじゃ、ゴールまでの道は箱で塞がれているはずじゃ」
「平気だよ。あの吐瀉物の匂いと、この爆薬で攻略できる、吐いた男は、3時の方向に逃げているよ」
「じゃあ、どんどん爆破して道を作ろうぜ」

太陽の足元に転がるのは、7個の小さな手榴弾だ。手榴弾は安全ピンを外して、投げられて4秒後に爆発が起こる爆弾だ。
太陽は自分のショルダーバッグに入れた。

「奴らは最後のフロアまで進んだのじゃが攻略できなかったのじゃ。だから、誰かに謎を解かせて、宝だけ奪うつもりなのじゃ。ロー君とわしを殺れば、3人はわしらを生き返らせようとして、先を進むと読んでいたようじゃな」
「どれくらい縛られていた?」
「ここまで来たのは数時間前じゃ、時間は正確には分からないのじゃが1時間以上はこの状態だあったのじゃ」
「風のステージで皆死んだんだろう?」
「わしが半月化して5人と進んだのじゃ。3人は騙し討ちにあって死んでしまったのじゃ」
「ということは、敵は2人ということか」
「そうなのじゃ、元々ひょっとこのお面と小面のお面をしていて、面白そうなやつだから仲間にしたのじゃがの」
「とりあえず僕が匂いを辿って案内するよ。ガーさん立てるかい?」
「ロー君、背負ってもらえるのじゃな?」
「私が背負うよ」

美優は元気に言うと、しゃがみ込む。

「疲れとるのじゃな、致し方ないのじゃ」

ガウカはつぶやくと、美優の背中に抱きついた。

「意外と軽いね」
「なんじゃと! 意外とってどういう意味じゃ」

ガウカはもぞもぞと暴れるように動く。

「桜歌ちゃんよりも軽かったってことだよ、まったくもう」
「そうじゃろう、そうじゃろう、わしは軽いのじゃ」

ガウカは落ち着きを取り戻した。
ローリは鼻をこすると、姿勢を低くしてまた追跡し始めた。
美優達はローリの後を追う。
鏡が反射して自分の姿が映る。
そのうち、自分の姿を移さない壁があった。

「箱だね」と美優。
「箱か、よし、あれを使うか」

太陽はショルダーバッグから手榴弾を取り出した。

「箱は壊せないからこっちの小道から爆破しよう。ここがいいかな」

ローリは横道に入り一点を集中して見つめる。

「皆、耳をふさいでくれ」

太陽は横道に手榴弾を投げてローリと一緒に離れた。そして全員耳をふさいだ。ネニュファールはどこか遠くへ避難しているようで姿が見えない。

ドン! パリーン!

激しい音と衝撃が美優達に見舞う。
ガラスの鏡は簡単に割れ2人分くらいのスペースで中に入ることができるようになった。
ローリは鋭利な、飛び散ったガラスの破片と壁のガラスに気をつけて足を踏み入れた。美優達はローリの後へ続いた。
小さなネニュファールがはるか遠く、上から来て、その開いた通路に入っていった。そして、ローリの肩に止まった。

「おい、どこ行ってたんだよ、ネニュファール!」
「ネニュファールは偵察に行って来たと思うけれど」

ホホッホホ!

ローリにネニュファールが返事する。

「うまくいかなかったようだね」
「なんでわかるんだ」
「はっはっは」

ローリは笑ってごまかす。

「静かに! 向こう側から話し声が聞こえるの」

美優は口元に人差し指を持っていく。

(宝を取ったら、奪って逃げよう。終えたら願い石で我々の記憶を消そう)

美優は聞き逃さないように、目をつぶって聞き耳をたてる。

「宝を取ったら、奪って逃げよう。終えたら願い石で我々の記憶を消そう、だそうね」

(そうなんだね。それじゃあ僕は対抗策を。3時間、ローレライ・スターリングシルバーとネニュファール・ラインコットを半月化して)

美優が聞こえた女性の声を話そうとした瞬間、ローリとネニュファールに光が包んだ。フェレットとミミズクになった。
クゥクゥクゥ!

フェレットが鳴いた。スターリングシルバーらしいシルバーの毛が体のあちこちに見られる。屈辱の鳴き声とわかりやすかった。

「あいつら、願い石を使ったわね。というか、ローリの本名とネニュファールの本名を知ってる人ってあんまりいないんじゃない?」
「わしらより先に入っていったフェルニカ人じゃろうか?」
「フェルニカの人結構いそうだね。3時間も半月化したら溜まったもんじゃないよ。へい、太陽、タクシー!」

美優は太陽に顎で示す。

「はいはい、俺が乗せますよ」

太陽はローリとネニュファールを負う。

「ローリがこんな風だと匂いで追えないね」

美優は困ったことに気がついた。
美優達は手こずる事を承知しながら3時の方向へ参る。
ときには、手榴弾を使って(ローリをネニュファールが足でつかみ上から隣の鏡の道に移動して)突破した。

「ほとんど運ゲーだな」

太陽は残り2つの手榴弾を両手に持っている。
少し歩く、近くに風が流れているのがわかる。終りが見えてきた。

「お腹すいたな」
「わしも腹が減ったのじゃ」
「まったくもう、パース」

美優は3段のお弁当を取り出した。それとは別におにぎりが5個も巾着から出てきた。そしてレジャーシートも一緒だ。

「こんな時のために昨日からお弁当を用意していたの」
「用意周到だな。そういえば昨日クライスタル行った時、父親に何か持たされてたな」
「元々、太陽と食べる予定だったから少ないかもしれないけど、どうぞ」

美優はお弁当の蓋を開ける。
1段目は唐揚げとタコさんウインナー、2段目は卵焼きと野菜炒め、3段目はいちごとオレンジとさくらんぼ。

「いや、この量多いよ!」
「「いただきます」」

美優とガウカは座って手を合わせた。太陽も渋々座ると、お弁当の爪楊枝をとって食べ始める。

「いただきます。ローリとネニュファールに悪いな」
「お城で食べてきたでしょ」
「そうじゃな。出かける前は食べてくるはずじゃな」

ガウカはタコさんウインナーを食べた。

「ガウカって肉食べれるんだ」
「ロー君と違って、昔から肉食べているからのう」
「ベジタリアンの肉が食べれないバージョンなんだね」
「わしの知る限り肉と卵だけじゃ」
「何かあげる?」
「フェレットには野菜も果物もあげてはいけないんだ」

太陽は唐揚げを頬張って答えた。
3人は急いで食べ、少しの間休憩した。ローリとネニュファール以外は皆腹がふくれた。

「また行き止まりかー」

美優はだんだんと鏡に映る自分に慣れてきた。風で飛ばされている何かが反対側の鏡の壁に当たっている。

「後2個だけどいっちゃう?」
「よし、いってしまえ」

美優の承諾を得た太陽は全員のの防衛を待って安全ピンを抜いた。そして軽く投げ、耳を塞ぎ、曲がり角に縮こまる。

ドン! バリン!

美優は恐る恐る近寄った。
陽の光が見えて、風が吹き込んでいる。
やっと出口にたどり着いた。

「何だここ」
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