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第5章 美優の歩く世界
2 いざ、ダンジョンへ(挿絵付き)
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「では行ってくるよ」
ローリはにこやかに振り返ると、後退りしながら赤い膜へ入っていった。
ネニュファールも空から降りて、赤い膜に入ってきた。
太陽は固まったまま動かないので、美優は太陽の腕を掴んで赤い膜に引きずり込んだ。
城の召使いたちが歪んで見える。
「ウォレ!」
ローリは赤みの帯びたバイオリンを出現させた。
「さあ始めよう、僕が合図を出すからね」
「……おう!」
「うん!」
美優はトランペットを構える。
太陽はドサッと座ってピアノを膝の位置に置く。
そしてローリはアインザッツと呼ばれている合図をした。ちなみにアインザッツとは1拍前に空中で弓を動かすという、楽節の出だしである。
♪
グリーンスリーブス。太陽の音がなんとなく固い気がした。なので美優はアレンジをする。すると、太陽はびっくりしたかのように美優を見た。
(音楽はその1人1人が織りなす自由な行為なんだよ)
美優はそういう意味で太陽にウインクする。
太陽の弾いていたピアノは自信がついたように軽やかなものに変わっていった。
ローリは2人を迎合するような音を出す。
気づけば3人は息を合わせていた。
美優は大いに満足した。
「赤い濁流、これは岩山地帯に向かう印だ」
太陽はピアノを消して、立ち上がった。
「ほう、では僕が」
「いや俺から入る。危険生物がいるかも知れないから。ネニュファールを頼んだぜ、ローリ」
「そうだね。ではネニュファールと最後に入ろう」
ローリはバイオリンを消失させ、片手を腰に当て、もう片方の腕でネニュファールを止まらせる。
「太陽、好きだよ!」
美優は太陽の手を取って赤い濁流に入った。
世界が真下に落ちていく。
テイアに来た。
(誰かの魔法曲と合わさると、1度戻らずともその場所に行けることがわかった。大樹の特徴かもしれない)
美優は受け身をとり、太陽は派手に転んで、落ちた。
この場所は岩山の中腹辺りだった。美優はここに来たことがあった。太陽と出会う前に兵士として突撃した場所だ。
「帰りは美亜に頼むか」
「いてて、おい美優、いきなり引っ張って、消えるなんて、あんまりだぞ」
「ん、ごめんね。パース」
美優は太陽に頭を下げると、薄い箱を真上に出して、ローリとネニュファールを待った。
ストン。
ローリとネニュファールは問題なく来れたようだ。
美優は箱を消す。
「わわっ」
ローリが危なげに着地した。
ネニュファールは相変わらず空を舞う。
皆、一息ついたところで太陽は口を開く。
「で、ここらへんはいつもの岩石地帯と違うんだけど、どうする?」
「確か……岩峰に大きな洞穴があった気がする」
「そこだよ! ガーさんの向かった場所だ。岩山の方は、同じ岩石地帯でも、あまり月影が出ないと言われているのだよ」
ローリが空に向かって指を立てる。
「ええ、ここ登るのか、はあ」
「30分くらいだよ」
美優は持ち前の脚力を、肺活量を鍛えるために、日々走っていることを言い出そうとしたが、やめた。
「そうなのか? じゃあ歩くよ」
「誰が1番早くつけるか勝負しようよ! 負けたら、勝った人全員にアイスおごりね」
「美優、お前なあ」
「いいよ、やろうではないか」
ローリは案外乗り気だ。
その時、上空が大きく輝いた。
「パース」
鴇色の髪をしたネニュファールだった。光の後にも後光がさしているような表情をしている。箱を出して、アーガイルチェックのケープをメイド服の上から羽織った。
「ネニュファール、君も参加したいというのかい?」
「はい、わたくしも日本のアイスが食したいですわ。それに足には自信がありますの」
「なんか俺か美優が負けるようなことを言うなあ」
「よーい、どん!」
美優は追い風をかっさらって勝手にスタートした。
「おい! ずるいな!」
太陽とネニュファール、そしてローリも走り出した。
ローリは息も上がらずに美優を軽々と抜いた。
「嘘だろ!」
太陽はネニュファールと一騎打ちの状態で10分程走った。美優は横目で2人の姿を確認する。
多くのカーブがあるので流石の美優も少し疲れて減速した。
ネニュファール膝より下くらいの長いメイド服の裾をあげるように両手で抱えて走っているようだ
しかしながら、ネニュファールは足を裾に引っ掛けて転んだ。
太陽は立ち止まってネニュファールに何か話している。
ネニュファールはのろのろとした走りで、頂を目指している。
対する太陽は大きな石にどっかり座り込んでピアノを出した。
遠くから見ていた美優はネニュファールと相対した。
「ネニュファール、さっき転ばなかった?」
「まあ、見られていたのですか、お恥ずかしい」
「太陽、何しているの?」
「少々ピアノを弾いてみるそうですの。太陽と雲より、12月 地に平和。パルムグレンの曲ですわ」
「まったくもう、勝負にならないじゃない。ありがとう、……ぶん殴ってくるね」
美優はふくれっ面で引き返していった。
♪
太陽は目を閉じて、ピアノを弾いている。
儚いメロディに心は痛くなる。それでいて、純粋な太陽のイメージと合っている。
美優は弾き終えるのを待ってから太陽の肩を掴んだ。
「美優! お前、なんでこんなところに?」
「まったくもう、あなたが遅いから様子を見に来たの」
美優は太陽の手に手を添えた。
「行こう、皆待ってる」
「おう」
太陽はピアノを消して、美優と再び小走りをし始める。
ランニングの終りが見えてきた。
ローリとネニュファールは何か話している。
美優は速度を急変して、太陽を追い越してゴールした。
「遅いですわよ」
「ん、ごめん! アイスは太陽が奢ってくれるから」
美優は手を合わせた。
「それはいいとして、わたくしがあの洞穴リサーチしてきましたの!」
ネニュファールが説明に入る。
「一階のフロアだけしか見れませんでしたの。恐竜の月影は岩と一体化して眠ってましたわ。ガー様はいらっしゃいませんでしたわ」
「中に入ってみようぜ」
「待ってください。生命体がまだいますわ」
キャウ!
なにかの鳴き声が洞窟から聞こえた。
「鹿の鳴き声だ」
「なんで分かるの?」
「生物部だからね」
太陽は意に介さない態度で洞窟の中に足を踏み入れた。
突然の暗闇に目がなれずに立ち止まっている4人。眼の前には段差がある。
目がなれると同刻、同頭長110センチメートルくらい、尾長8センチメートルくらいの鹿が段差の下に現れた。
「なんで、鹿がいるんだ?」
「誰が連れてきたんだろうね」
「ガーさんが視線をそらす目的で入れたのかも」
キャウ!
鹿が鳴いた、次の瞬間鹿に何かがタックルした。
ギャ!
鹿は車にはねられたかのように吹っ飛んでいった。その先は段差のある美優達がいる場所だった。
「2メートル、ありそうだね」
体に岩がついているアルワルケリアの月影が顔を見せた。
ネニュファールが少し小さくなると様子を見に行った。
ホッホッホ
ネニュファールが鳴くとその方向にアルワルケリアの月影が向かっていった。
「音に反応しているのね。ウォレスト」
美優はトランペットを構える。
パーーー!
炎がエリアを照らす。そして、炎の球がアルワルケリアの月影に猛進していった。
全く効いていない様子だ。
「ウォレスト」
太陽はピアノを出現させるとグリッサンド奏法をして針を出した。また、反対にグリッサンド奏法をして針を飛ばした。白鍵と黒鍵両方とも弾いたので60センチほどの針だ。
しかし、硬い岩が防いで。炎の攻撃も針の攻撃も効かない。
アルワルケリアの月影は顔も背中もお尻も岩で包まれている。
ネニュファールが戻ってきた。
「鹿の骨が多く見受けられましたわ。しかし、足元が見えてないらしく時折、骨につまずいて転んでいますわ」
アルワルケリアの月影は耳が良いらしく、前が見えないようだ。
ギャウ!
鹿が鳴いた。
その瞬間太陽はひらめいた様子で前を向く。
「そうだ! ローリ釣り竿は出せるか? マグロロッドだ」
「ほう、鹿を餌にして釣る気かい? パース」
ローリは大きなロッドを出した。
太陽はロッドの針に、鹿を餌につけて、更にピアノで作った針で固定する。
「美優、釣り上げたら、武楽器魔法を頼む」
「わかったよ。その代わり絶対に落ちないでね」
「わかってる。パース」
太陽は鹿を持ち上げ段差から落とす。自分が落ちないように、箱で隔たりを作っている。
鹿の足がすでに折れている様子だったため、引き強くなるのは、アルワルケリアの月影が食いつく時だ。
「微力ながら僕も手伝うよ」
ローリはロッドに手を触れた。
次の瞬間。
食らいついた!
パーーーーー!
アルワルケリアの月影を鹿を餌に一本釣りさせて、お腹の辺りに火を放つ。
美優の炎はジェット噴射のように発射している。
ギャアギャア!
バタン!
アルワルケリアの月影は太陽の真後ろに仰向けで倒れた。
「まだ死んでないね、ウォレ」
ローリはバイオリンの剣を出すと、アルワルケリアの月影に向かった。刺さって箇所から赤紫色の血がほとばしり出る。
数分の格闘の末、4人は完全な勝利を収めた。
「さてなんの曲にしよう?」
ローリはアルワルケリアの月影の残骸から少し離れていた2人と1羽の元へ戻ってきた。
「エリック・イウェイゼンのトランペット、バイオリン、ピアノのためのトリオ。1番まででどうだ? ウォレスト」
「ウォレスト、パース! 私はいいけど、弾けるの?」
美優はトランペットと箱と消音器を出した。
「構わないよ、ネニュファールは見ていてくれたまえ、ウォレ、パース」
ローリに答えるかのようにネニュファールは鳴いた。
ホー。
「じゃあ僕が合図出すよ」
ローリはアインザッツを出して弾き出した。
♪
綺麗な3つの音の重なり。息をつく暇もないけれど、それがまた自分に負荷を与えている。それも心地良い調べに身を任せて。
血や肉片が金貨、銀貨、銅貨、装飾品、宝石、貴金属などにに変わっていく。それは、皆の出した箱に入っていく。
美優はどきどきしていた。最近はトランペットの調子がいい。
太陽はピアノの椅子に座り、台に載せたキーボードピアノを演奏していた。
気がつけば演奏はピアノの音で幕を閉じた。
アルワルケリアは岩が剥がれて、化石のように白い骨が露出していた。
「しゃあ! 先を急ごう!」
太陽はガッツポーズしてピアノと箱を消した。
美優とローリも武楽器と箱を消す。
「次はどんな敵がいるんだろう、拍子抜けだといいんだけど」
「ほんとそれ! そんなことよりお宝があるかもしれないのってワクワクしない?」
「俺のお宝はこれだけどな」
太陽はショルダーバッグから、下手な字で書いてある肩たたき券を見せびらかした。
「私も妹がいればよかったよ」
「太陽君、美優さん、ここは慎重に行こう、さあネニュファール、おいで!」
ローリは瞳をキラキラさせながらネニュファールを腕に止まらせた。
そして横に割れたダンジョンの先に進むのであった。
ローリはにこやかに振り返ると、後退りしながら赤い膜へ入っていった。
ネニュファールも空から降りて、赤い膜に入ってきた。
太陽は固まったまま動かないので、美優は太陽の腕を掴んで赤い膜に引きずり込んだ。
城の召使いたちが歪んで見える。
「ウォレ!」
ローリは赤みの帯びたバイオリンを出現させた。
「さあ始めよう、僕が合図を出すからね」
「……おう!」
「うん!」
美優はトランペットを構える。
太陽はドサッと座ってピアノを膝の位置に置く。
そしてローリはアインザッツと呼ばれている合図をした。ちなみにアインザッツとは1拍前に空中で弓を動かすという、楽節の出だしである。
♪
グリーンスリーブス。太陽の音がなんとなく固い気がした。なので美優はアレンジをする。すると、太陽はびっくりしたかのように美優を見た。
(音楽はその1人1人が織りなす自由な行為なんだよ)
美優はそういう意味で太陽にウインクする。
太陽の弾いていたピアノは自信がついたように軽やかなものに変わっていった。
ローリは2人を迎合するような音を出す。
気づけば3人は息を合わせていた。
美優は大いに満足した。
「赤い濁流、これは岩山地帯に向かう印だ」
太陽はピアノを消して、立ち上がった。
「ほう、では僕が」
「いや俺から入る。危険生物がいるかも知れないから。ネニュファールを頼んだぜ、ローリ」
「そうだね。ではネニュファールと最後に入ろう」
ローリはバイオリンを消失させ、片手を腰に当て、もう片方の腕でネニュファールを止まらせる。
「太陽、好きだよ!」
美優は太陽の手を取って赤い濁流に入った。
世界が真下に落ちていく。
テイアに来た。
(誰かの魔法曲と合わさると、1度戻らずともその場所に行けることがわかった。大樹の特徴かもしれない)
美優は受け身をとり、太陽は派手に転んで、落ちた。
この場所は岩山の中腹辺りだった。美優はここに来たことがあった。太陽と出会う前に兵士として突撃した場所だ。
「帰りは美亜に頼むか」
「いてて、おい美優、いきなり引っ張って、消えるなんて、あんまりだぞ」
「ん、ごめんね。パース」
美優は太陽に頭を下げると、薄い箱を真上に出して、ローリとネニュファールを待った。
ストン。
ローリとネニュファールは問題なく来れたようだ。
美優は箱を消す。
「わわっ」
ローリが危なげに着地した。
ネニュファールは相変わらず空を舞う。
皆、一息ついたところで太陽は口を開く。
「で、ここらへんはいつもの岩石地帯と違うんだけど、どうする?」
「確か……岩峰に大きな洞穴があった気がする」
「そこだよ! ガーさんの向かった場所だ。岩山の方は、同じ岩石地帯でも、あまり月影が出ないと言われているのだよ」
ローリが空に向かって指を立てる。
「ええ、ここ登るのか、はあ」
「30分くらいだよ」
美優は持ち前の脚力を、肺活量を鍛えるために、日々走っていることを言い出そうとしたが、やめた。
「そうなのか? じゃあ歩くよ」
「誰が1番早くつけるか勝負しようよ! 負けたら、勝った人全員にアイスおごりね」
「美優、お前なあ」
「いいよ、やろうではないか」
ローリは案外乗り気だ。
その時、上空が大きく輝いた。
「パース」
鴇色の髪をしたネニュファールだった。光の後にも後光がさしているような表情をしている。箱を出して、アーガイルチェックのケープをメイド服の上から羽織った。
「ネニュファール、君も参加したいというのかい?」
「はい、わたくしも日本のアイスが食したいですわ。それに足には自信がありますの」
「なんか俺か美優が負けるようなことを言うなあ」
「よーい、どん!」
美優は追い風をかっさらって勝手にスタートした。
「おい! ずるいな!」
太陽とネニュファール、そしてローリも走り出した。
ローリは息も上がらずに美優を軽々と抜いた。
「嘘だろ!」
太陽はネニュファールと一騎打ちの状態で10分程走った。美優は横目で2人の姿を確認する。
多くのカーブがあるので流石の美優も少し疲れて減速した。
ネニュファール膝より下くらいの長いメイド服の裾をあげるように両手で抱えて走っているようだ
しかしながら、ネニュファールは足を裾に引っ掛けて転んだ。
太陽は立ち止まってネニュファールに何か話している。
ネニュファールはのろのろとした走りで、頂を目指している。
対する太陽は大きな石にどっかり座り込んでピアノを出した。
遠くから見ていた美優はネニュファールと相対した。
「ネニュファール、さっき転ばなかった?」
「まあ、見られていたのですか、お恥ずかしい」
「太陽、何しているの?」
「少々ピアノを弾いてみるそうですの。太陽と雲より、12月 地に平和。パルムグレンの曲ですわ」
「まったくもう、勝負にならないじゃない。ありがとう、……ぶん殴ってくるね」
美優はふくれっ面で引き返していった。
♪
太陽は目を閉じて、ピアノを弾いている。
儚いメロディに心は痛くなる。それでいて、純粋な太陽のイメージと合っている。
美優は弾き終えるのを待ってから太陽の肩を掴んだ。
「美優! お前、なんでこんなところに?」
「まったくもう、あなたが遅いから様子を見に来たの」
美優は太陽の手に手を添えた。
「行こう、皆待ってる」
「おう」
太陽はピアノを消して、美優と再び小走りをし始める。
ランニングの終りが見えてきた。
ローリとネニュファールは何か話している。
美優は速度を急変して、太陽を追い越してゴールした。
「遅いですわよ」
「ん、ごめん! アイスは太陽が奢ってくれるから」
美優は手を合わせた。
「それはいいとして、わたくしがあの洞穴リサーチしてきましたの!」
ネニュファールが説明に入る。
「一階のフロアだけしか見れませんでしたの。恐竜の月影は岩と一体化して眠ってましたわ。ガー様はいらっしゃいませんでしたわ」
「中に入ってみようぜ」
「待ってください。生命体がまだいますわ」
キャウ!
なにかの鳴き声が洞窟から聞こえた。
「鹿の鳴き声だ」
「なんで分かるの?」
「生物部だからね」
太陽は意に介さない態度で洞窟の中に足を踏み入れた。
突然の暗闇に目がなれずに立ち止まっている4人。眼の前には段差がある。
目がなれると同刻、同頭長110センチメートルくらい、尾長8センチメートルくらいの鹿が段差の下に現れた。
「なんで、鹿がいるんだ?」
「誰が連れてきたんだろうね」
「ガーさんが視線をそらす目的で入れたのかも」
キャウ!
鹿が鳴いた、次の瞬間鹿に何かがタックルした。
ギャ!
鹿は車にはねられたかのように吹っ飛んでいった。その先は段差のある美優達がいる場所だった。
「2メートル、ありそうだね」
体に岩がついているアルワルケリアの月影が顔を見せた。
ネニュファールが少し小さくなると様子を見に行った。
ホッホッホ
ネニュファールが鳴くとその方向にアルワルケリアの月影が向かっていった。
「音に反応しているのね。ウォレスト」
美優はトランペットを構える。
パーーー!
炎がエリアを照らす。そして、炎の球がアルワルケリアの月影に猛進していった。
全く効いていない様子だ。
「ウォレスト」
太陽はピアノを出現させるとグリッサンド奏法をして針を出した。また、反対にグリッサンド奏法をして針を飛ばした。白鍵と黒鍵両方とも弾いたので60センチほどの針だ。
しかし、硬い岩が防いで。炎の攻撃も針の攻撃も効かない。
アルワルケリアの月影は顔も背中もお尻も岩で包まれている。
ネニュファールが戻ってきた。
「鹿の骨が多く見受けられましたわ。しかし、足元が見えてないらしく時折、骨につまずいて転んでいますわ」
アルワルケリアの月影は耳が良いらしく、前が見えないようだ。
ギャウ!
鹿が鳴いた。
その瞬間太陽はひらめいた様子で前を向く。
「そうだ! ローリ釣り竿は出せるか? マグロロッドだ」
「ほう、鹿を餌にして釣る気かい? パース」
ローリは大きなロッドを出した。
太陽はロッドの針に、鹿を餌につけて、更にピアノで作った針で固定する。
「美優、釣り上げたら、武楽器魔法を頼む」
「わかったよ。その代わり絶対に落ちないでね」
「わかってる。パース」
太陽は鹿を持ち上げ段差から落とす。自分が落ちないように、箱で隔たりを作っている。
鹿の足がすでに折れている様子だったため、引き強くなるのは、アルワルケリアの月影が食いつく時だ。
「微力ながら僕も手伝うよ」
ローリはロッドに手を触れた。
次の瞬間。
食らいついた!
パーーーーー!
アルワルケリアの月影を鹿を餌に一本釣りさせて、お腹の辺りに火を放つ。
美優の炎はジェット噴射のように発射している。
ギャアギャア!
バタン!
アルワルケリアの月影は太陽の真後ろに仰向けで倒れた。
「まだ死んでないね、ウォレ」
ローリはバイオリンの剣を出すと、アルワルケリアの月影に向かった。刺さって箇所から赤紫色の血がほとばしり出る。
数分の格闘の末、4人は完全な勝利を収めた。
「さてなんの曲にしよう?」
ローリはアルワルケリアの月影の残骸から少し離れていた2人と1羽の元へ戻ってきた。
「エリック・イウェイゼンのトランペット、バイオリン、ピアノのためのトリオ。1番まででどうだ? ウォレスト」
「ウォレスト、パース! 私はいいけど、弾けるの?」
美優はトランペットと箱と消音器を出した。
「構わないよ、ネニュファールは見ていてくれたまえ、ウォレ、パース」
ローリに答えるかのようにネニュファールは鳴いた。
ホー。
「じゃあ僕が合図出すよ」
ローリはアインザッツを出して弾き出した。
♪
綺麗な3つの音の重なり。息をつく暇もないけれど、それがまた自分に負荷を与えている。それも心地良い調べに身を任せて。
血や肉片が金貨、銀貨、銅貨、装飾品、宝石、貴金属などにに変わっていく。それは、皆の出した箱に入っていく。
美優はどきどきしていた。最近はトランペットの調子がいい。
太陽はピアノの椅子に座り、台に載せたキーボードピアノを演奏していた。
気がつけば演奏はピアノの音で幕を閉じた。
アルワルケリアは岩が剥がれて、化石のように白い骨が露出していた。
「しゃあ! 先を急ごう!」
太陽はガッツポーズしてピアノと箱を消した。
美優とローリも武楽器と箱を消す。
「次はどんな敵がいるんだろう、拍子抜けだといいんだけど」
「ほんとそれ! そんなことよりお宝があるかもしれないのってワクワクしない?」
「俺のお宝はこれだけどな」
太陽はショルダーバッグから、下手な字で書いてある肩たたき券を見せびらかした。
「私も妹がいればよかったよ」
「太陽君、美優さん、ここは慎重に行こう、さあネニュファール、おいで!」
ローリは瞳をキラキラさせながらネニュファールを腕に止まらせた。
そして横に割れたダンジョンの先に進むのであった。
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