スイセイ桜歌

五月萌

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第4章 ゆいなの歩く世界

27 祭りの最中で

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 青い膜の景色は薄い水色に変わった。
 ゆいなはまるで世界が変わった気がした。

「たこ焼き、唐揚げ、焼きまんじゅう♪」

 美優が歌い出す。

「ケバブ、クレープ、かき氷♪」

 翔斗も続く。

「焼きそば、ベビーカステラ、チョコバナナ♪」

 美亜も歌った。

「焼き鳥、イカ焼き、お好み焼き♪」

 ガウカも乗っかってきた。言い終わった瞬間、4人は打ち合わせでもしたかのようにくっついてポーズを決めた。

「それなんちゅう歌なん?」

 正幸はやんわりとツッコむ。

「私達、出店バスターズ! に、何か文句ある?」
「屋台壊す気か! つうか、だせえ名前だなおい」

 太陽はバッサリと切る。

「今日は食べつくすぞ!」
「「「おー!」」」
「あ、もちろん、費用は太陽持ちでねっ」
「「「よろしくお願いしゃーす」」」
「だから、桜歌はいいけど、他は2000円までって言ったろ?」
「桜歌ちゃんにお願いすればいいのね?」
「桜歌は真面目だから許しちゃだめって分かってると思うよ、な、桜歌?」
「桜歌はお兄ちゃんのお金をもらっちゃいけない気がする。お年玉の使う時が来た!」
「真面目ね」
「よしよし、いい子」

 正幸は桜歌の頭をなでる。

「あ、だから触るなよ」
「えへへ、ありがとう」
「てか、桜歌のお年玉、お母さんに回収されてただろ」
「こんな時のために1万円、隠してとっといた」
「どこに?」
「アンコパンコマンピアノに!」
「そっか、すぐには家に帰れないけど?」
「太陽の持ってるピアノの一部渡して出せばいいじゃない?」
「そっか、はい、桜歌」
「ウォレット・ストリングスって言ってみて」

 美優の前にトランペットが現れる。

「ウォレット・ストリングス」

 子供用のピアノが出てきた。それを真っ逆さまにひっくり返すと小さな封筒が貼られていた。
 桜歌の手は一生懸命細かなテープを剥がそうとしてガリガリとピアノの底を引っ掻いた。

「貸してみ」

 太陽はその封筒をゆっくり剥がす。

「桜歌のお金!」
「ほら」

 太陽は封筒の中身を桜歌に渡した。1万円札だ。

「武楽器の一部返して。交換だ。いいか、消えろって考えるんだ」
「消えろ!」

 桜歌が言うと鍵盤の1つに変わった。
 太陽はそれをポケットに仕舞う。

「ビオはお金持ってるの?」
「持ってない、無一文です」
「ローリは?」
「僕は……日本円はカード以外もたない主義でね?」

 ローリはニッコリと笑う。

「なんや、結局、太陽の総おごりやんけ」
「お前らー、後で返せよ」
「ゴチになります」

 美優は軽く手を合わせた。

「まあ、悪くないな、そう言われると」
「ママに見つかるから早く出なさいよ」
「はいはい」

 翔斗は先立って小走りをする。
 この場の全員がついていく。

「ビオ、代わるよ、俺が押した方がいい」
 太陽は健気なビオを慮った。

「あ、ありがとうございます。お気をつけてください」
「いいえ」

 太陽はチカの乗った車椅子を押し始めた。アスファルトをスイスイと進んだ。

「駅の近くだったよね? 翔斗」
「そうそう、毎年恒例だよな」
「あと、このメンバーで16時頃にリコヨーテに来ていただきたいのですが」

 レンシは固い口調でそういった。

「リコヨーテになにかあるの?」
「見てほしいものがあります」
「わかった」
「ママは17時くらいに買い物に行くからちょうどいいわね」
「そういえば、ローリ様、日本でなにか語るらしいけどどこまでぶっちゃけるの?」
「世界樹のことは話すけどテイアについては黙っているつもりだよ」
「どう話すの?」
武楽器所持者プレイヤーのための移動手段ということを、それ以外は答えない」
「そんなこと言っても、噂がたって、半月狩りが増えるだけだよ」
「半月狩りの疑いがあるものは、時の手帳で記憶を見ていき、判断を見定めている。やはり半月を狩ることは許さないと厳しく取り締まる予定だよ」
「そう」
「ローリなら、事件でも匂いで追跡できるだろうしね」

 美優は横目でローリを見た。

「レンシの奥さん可愛いなあ」と、翔斗。
「チカさん、今日はご足労いただきありがとうございます」

 太陽は綺麗な黒い目をしたチカをみやった。

「いえいえ、むしろ呼んでいただいて嬉しいわ」
「俺たちは貴女を守るよ」
「僕はもう昨日、時の手帳で見たから、不意な出来事が起きないように対処するよ」
「時の手帳?」
「時間を飛ばして、過去や現在や未来の様子を見ることができるものです。実際にローリの記憶を見せたらどうですか? それとも恥ずかしくて見せられませんか?」
「ビオさんの口は達者なものだね。そんな使い方してはもったいないよ、1日に3回まで限度だからね」

 ローリは多くの仲間がビオから目をそらして早歩きになったりしているが、悠然たる足取りだった。

「それなら俺の見る?」
「こいつ露出狂だから、いいともとか言わないほうがいいわよ」
「合法で見せようとしてんとちゃう?」
「静かにしなさいよ、うるさいわよ」
 町行く人の数が増えてきた。浴衣を着ている女性や甚平の男性が混じっている。
 ゆいな達彼らには特異的なものを見るかのように見られた。そして大勢の人混みの中に入っていく。
 あちらこちらでいい匂いがする。強いて言うなら、唐揚げの油の匂いやお好み焼きの匂いやケバブの匂いなど、色々だ。

「浴衣着てくればよかったわね」
「まあまあ、月影にあったら大変だろう?」
「またそういう事言う。まったくもう」
「お兄ちゃん、かき氷食べたい」
「いいぞ、奢ってやる」
 
 太陽はショルダーバッグから財布を取り出す。

「いいの、自分のお金で買うから」

 桜歌は1万円札をくずしに出店に行く。

「イチゴ味で!」
「はい、お嬢ちゃん」

 出店の店長からかき氷を桜歌は買った。

「すみません、メロン味1つ。太陽、ほら出番!」

 美優は太陽から財布をぶんどると硬貨をいくつか出して、かき氷を買った。

「あたし、たこ焼きね」
「いいよ、じゃあ、これで」
「俺のセリフ! そして俺の財布返せよ」
「私とお母さんに、焼きまんじゅうお願いします、あっちの広場に出ていますので」

 ビオは居心地悪そうにしているチカを運びながら人混みから離れた、木の切り株に腰掛けた。その木は大樹だ。

「太陽君、私も桜歌ちゃんとその広場にいるから、お金は後で返すから適当に買ってきてくれる?」

 ゆいなも桜歌と手を繋いで、ビオに近づく。

「私が買いに行きますのでお金ください!」
「はい。どうぞ」

 太陽が5000円札を渡すと、レンシは一目散に駆けていった。

「じゃあ俺等は待ってるか」
「あれ? 翔斗と美優は?」
「マッサー君もいない」
 ここにいるのはゆいな、太陽、桜歌、ビオ、チカ、美亜、ローリ、ネニュファール、ガウカ。

「俺が探しに行ってくる。見つけたら美亜に電話するから」

 太陽は走って人だかりに混ざって行った。

「ちょっと待ちなさいよ」

 その時だった。

「誰か来て!」
「月影だ」

 何人かの叫ぶ人が流れるように反対方向へ逆流している。

「なんじゃ、何者がいたのじゃ?」
「ローリ様、匂いは?」
「ここでは散乱した飲食物の匂いに混ざっていて判別は不可能だよ。時の手帳が正しければ、騒ぎ始めたのはハクビシンの月影だね。混乱に乗じて僕はネニュファールと空から行く」

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