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第4章 ゆいなの歩く世界
25 祭りの前日
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その日の夜の21時半頃、ゆいなのケータイに太陽から電話がかかってきた。
『もしもし?』
『柳川さん、俺です。翔斗に電話したら、武楽器はホルンしかないらしいので、ローリに電話したんです。そしたら余っている武楽器のチェロの一部はあるって言ってました。明後日渡すそうです』
『翔斗君はお祭りに来るの?』
『来ませんよ、翔斗には言わないでくださいね』
『そっか、わかったよ』
『じゃあまた明後日! 9時20分頃に』
『はい』
通話が途切れた。
(お祭り楽しみだな)
ゆいなは風呂に入り歯を磨き、眠りについた。
家に帰り、充実した1日が過ぎようとしていた。
『月影の情報です』
テレビで報道されている各地での月影の姿と武楽器所持者。
(あの大穴事件でまだ月影がこの日本に存在しているのか)
『大きな月影が姿を現しました』
テレビに映るのは大きな白黒の牛の月影だ。もう夜なのでライトで照らしていて、見づらいが、4メートルはある。
『牛の月影のようです。おっと、ここで武楽器所持者が男女2人助けに来てくれました。カメラさん大丈夫ですか? 少し地鳴りと地震が起きています』
武楽器所持者の男性は鶴の半月のようで翼に身を任せ、空を翔び、周囲の人は空を仰ぐ。口が『ウォレスト』と動くとソプラノサックスであったらしく、槍のように先端が鋭利なものを手に出して見せる。牛の月影の背中に乗り、刺して刺して刺しまくる人の様子が目に入った。彼はシルバーの髪に、顔の上半分は仮面をつけている。
ヴァーーー!
もう1人の女性はアルトサックスで音を出して牛の月影の足場を鋭利なものに変えていた。彼女の顔にも鼻から上は仮面だ。
牛の月影は横に倒れて、鋭利な刃が胴体に刺さった。
モォーーー!
牛の月影はジタバタと最期の力を出して起き上がろうとする。
鶴の半月の男性の方は空を舞い、牛の月影からズレたところに着陸する。どうしたものか考えあぐねいている様に見える。
もう1人が何かを話すと、2人は曲を演奏し始めた。
♪
「モーリス・ラヴェルのボレロだ」
サックスのデュオは趣のあるものだった。
牛の月影の血や肉などは金貨、銀貨、銅貨、貴金属、装飾品、宝石などに変わり、情緒豊かに武楽器の中に入っていく。
ゆいなはテレビに釘付けになっていた。
牛は白骨化すると、男性は鶴風の半月に、女性はハムスター風の半月に身体を変化させた。そして、鶴の半月の足がハムスターの半月をつかみとり、空高く消えていった。
その場には牛の骨だけが残された。
『今2人の半月が、牛の月影を見事に倒して、キャスターも唖然としております。鶴になれる男性、ハムスターになれる女性がいることがわかりました。居処不明です。現場からは以上です』
コメンテーターと月影専門家が話し合っている。
「驚きましたね、暗いので追跡は不可能のようですね」
「それにしても彼と彼女はヒーローとヒロインですね」
「これで12件目ですね、日本はどうなってしまうのか?」
「武楽器所持者がいる限り、安全管理を徹底すれば被害は少なく済むでしょう。一体何にひかれて出てくるのか、考えられるのは世界樹の存在です」
「世界樹?」
「詳しくは言及しないでもらいたいのですが、彼らを産んだものの一つだと考えられています」
「何故、健全で真面目に働く市民が襲われているのか、隠すことなく教えていただきたい」
「リコヨーテの現状で伝えていいものか判断に悩ませられますね」
「というと、リコヨーテができた要因こそが月影の存在理由なのですか?」
「いや、そうではないのですが。あちらがたてればこちらがたたぬと言った状態ですね。来週はリコヨーテの長、ローレライ・スターリングシルバー氏に質疑応答をお願いする予定で会談を用意しております。それではまた来週」
テレビのリモコンでチャンネルをまわすも、同じような内容のものばかり。
「じゃあ、ローリ様が民衆の前に出てくるの?」
ゆいなはケータイを持ってアドレス帳からローリの番号にかけようとしたが、この時間には無作法だと思い、そのままケータイを充電器にさした。
◇
次の日
ゆいなは8時の時計のアラームで目覚める。
(バイトに行こう)
そう思って支度する。
(あ、バイト先、壊れてるんだっけ!)
そう思ったが、目覚めて覚醒してしまったので、二度寝する気が起きなかった。
(ローリに電話すべきか? でも、会合の前でピリピリしてそうだ。太陽君にそれとなく聞いてみよう)
ゆいなは太陽に電話をかける。
『もしもし』
『太陽君、柳川です』
『柳川さん?』
『実は昨日テレビでローリ様が来週会談をするって言ってて、どういうことなのかなって思ったんだけど』
『あー、ローリのことはよくわからないんですよねー』
『そっか、明日は』
ピンポーン
玄関の方でインターホンがなった。あいにく両親は仕事に行って不在だった。
『ごめん、誰か来たみたい。親が今いないから出るね、じゃあありがとう、また連絡します』
ゆいなは移動しながら急いで電話を切ると確認もしないで、玄関のドアを開けた。
そこに扉の前にいた人は、翔斗だった。
「翔斗君。なんでうちに?」
「美亜ちゃんから聞きましたよ。お祭り行くんですよね?」
「そうだけど、何?」
「このお祭り男が黙ってないぞ! と思って」
「お祭りは明日なんだけど……」
「明日の何時頃ですか?」
「いや、太陽君達に勝手にメンバー増やすみたいなのすると怒られるの私なんだけど」
「だったら、ここで大便して、それを木の棒につけて、追いかけ回しますよ。ここで出待ちして、明日中」
翔斗はカチャカチャとベルトを外している。
ゆいなは真剣な目でこちらをみる翔斗と目があった。
「やめてくれる? 警察に捕まりたいの?」
ゆいなは不快な顔で言う。
翔斗の下半身は膨れている。
「なんで興奮してるの?」
「いやうんこしてるの見られると思って」
「きもいけど?」
「それでどうなんですか? 俺は今していいよと言うなら出せるくらいですけど? それが嫌ならお祭りに一緒に行ってもいいか太陽に聞いてください」
「脅迫!?」
「10、9、8」
「わかったから、聞くから、その地獄のカウントダウンやめて」
「今かけてください」
(こんなことなら居留守決め込むべきだった)
ゆいなは後悔先に立たずと言った様子でポケットからケータイを取り出す。
「スピーカーオンにしてください」
「はあ、なんで美亜ちゃん教えたんだろう」
「美亜ちゃんがお祭りに誰が来るか分からなくて、俺が太陽にサプライズで登場するのに何時集合か、俺がわからないと分かるやいなや高速で電話切りされたんですが」
翔斗は言いながら鋭い目線でゆいなのケータイを見る。
ゆいなは再び太陽に電話をかけた。
『もしもし』
『太陽君、大変な自体に陥ったの』
『なんすか』
「よっ、太陽!」
『うげ、その声は翔斗?』
『翔斗君もお祭り行きたいらしくて、断ったら玄関先汚されそうなの』
『うーん、……そういうことなら翔斗も来ていいぞ』
『嘘の時間教えるなよ』
『わかったから、変なことするなよ。明日の9時20分に柳川さんの家に集合な』
『了解だぜ。誰が来るんだ?』
『美亜も来るから、俺、桜歌、美優、美亜、柳川さん、ビオ、ガーさん、ローリ、ネニュファール、マッサー、チカさん、レンシさん、と、翔斗だな』
『マッサー?』
『あー、テイアに家出してた少年だ。正幸って名前の子』
『チカさんは?』
『ビオのお母さんだよ』
『可愛い?』
『知らねえよ、もう切るぞ』
太陽はそう言い残して電話を終了した。
「太陽のやつ、最近調子乗ってるよな、今度、焼き入れとくか」
「いいから、頼むから私の家の敷地内から出て」
ゆいなは翔斗を退けると、家に入り、後ろ手でドアを閉めた。鍵も忘れない。
「ゆいなちゃん、また明日な!」
あとから来る翔斗の発言をゆいなは全く無視した。
しばらくしてから2階のベランダから玄関の方を見る。
(帰ったか)
ゆいなは人気がないので、ホッとして1階に降りた。テレビをつけて、冷蔵庫をあさる。そして、 適当に朝食を済ませる。
「太陽君にお詫びのメール送っておこう」
ゆいなは10分位時間を使って、ケータイに文字を打ち込んだ。
『太陽君、今日はごめん。翔斗君が太陽君に焼き入れるとかなんとか言ってたよ。多分、美優ちゃんの手前何もしないと思うけど。明日はよろしくね。楽しみにしてるね』
ゆいなはケータイの送信ボタンを押す。
この日は明日のために服と靴を買いに行った。可愛い黒のワンピースと厚底スニーカーだ。寒いので電車で移動する。車の免許がないためだ。
お昼ご飯はデパ地下のお弁当をイートインコーナーで食べる。ハンバーグ弁当はそれなりに美味しかった。
デパ地下街を出る。なんのけなしに公園をぶらつき、ベンチに腰掛けた。ケータイがなり、着信を知らせていた。
『太陽です。びっくりしましたが美亜に確認取ったら、キモいこと言われたそうです。柳川さんは大丈夫でしたか?』
『うん、なんか汚い話しなんだけど、うんこを玄関先にしてやると脅されたよ。キモかった。ところで、美亜ちゃん出かけるのお母さんにバレないかな?』
『部屋にある靴で2階の木に飛び移って出ていくそうです。帰りもバレないようにお母さんが買い物の隙に帰ると言ってました』
『そっか、それならいいんだけど』
『そうですね、明日はなるべく動きやすい服装でお願いします』
『ワンピース買っちゃったよ』
『デニムパンツで来てくれると助かります』
『了解でーす』
『それじゃあ』
『はい』
ゆいなは一息つくと公園のベンチから立ち上がる。そしてその足はデパートへと再出発していた。
そして、デパートで安価なデニムパンツと青いパーカーに白いニット帽と白いショルダーバッグを買った後、家路につく。
何事もなく家に帰るとまず、洗面所へ。着ているものを脱いでお風呂に入った。一段落する。
(温かいというより熱い)
浴槽に張ったお湯加減は寒空を歩いてきたゆいなにとって途方もないくらいの熱さだった。
「あちち、実家ぐらし最高ぅ」
ゆいなは気持ちよくなり、独りごつ。そしてお風呂からあがると、パジャマに着替えた。ドライヤーで髪の毛を乾かした。
洗面所を後にすると、自室にこもり、ファッション雑誌を読み始めた。
少し時間が立つと呼ばれた気がした。
「ゆいなー、今日はすき焼きよ」
「はーい」
ゆいなは返事をする。晩ごはんはゆいなの母親が作る役割だ。
「あんた、また散財したの?」
「いいでしょ、私の働いたお金だし」
「浮かれてると無一文になってここから出されることになるよ? 勤め先の弁当屋潰れたんでしょう?」
「潰れたというか、まあ物理的に潰れたけど、新しく建て直されたら、働くよ」
「なんだ、穀潰しか?」
「やめてよ、ご飯が不味くなる」
「お父さん、この子、ニートにならないかしら?」
「心配だな」
「余計なお世話。いただきます」
ゆいなは食卓につき、すき焼きを食べ始めた。普段は食べない春菊も食べ終えると、食器を流しに運んだ。ついでに歯も磨く。
「あの」
ゆいなはあらたまった声を出す。
『もしもし?』
『柳川さん、俺です。翔斗に電話したら、武楽器はホルンしかないらしいので、ローリに電話したんです。そしたら余っている武楽器のチェロの一部はあるって言ってました。明後日渡すそうです』
『翔斗君はお祭りに来るの?』
『来ませんよ、翔斗には言わないでくださいね』
『そっか、わかったよ』
『じゃあまた明後日! 9時20分頃に』
『はい』
通話が途切れた。
(お祭り楽しみだな)
ゆいなは風呂に入り歯を磨き、眠りについた。
家に帰り、充実した1日が過ぎようとしていた。
『月影の情報です』
テレビで報道されている各地での月影の姿と武楽器所持者。
(あの大穴事件でまだ月影がこの日本に存在しているのか)
『大きな月影が姿を現しました』
テレビに映るのは大きな白黒の牛の月影だ。もう夜なのでライトで照らしていて、見づらいが、4メートルはある。
『牛の月影のようです。おっと、ここで武楽器所持者が男女2人助けに来てくれました。カメラさん大丈夫ですか? 少し地鳴りと地震が起きています』
武楽器所持者の男性は鶴の半月のようで翼に身を任せ、空を翔び、周囲の人は空を仰ぐ。口が『ウォレスト』と動くとソプラノサックスであったらしく、槍のように先端が鋭利なものを手に出して見せる。牛の月影の背中に乗り、刺して刺して刺しまくる人の様子が目に入った。彼はシルバーの髪に、顔の上半分は仮面をつけている。
ヴァーーー!
もう1人の女性はアルトサックスで音を出して牛の月影の足場を鋭利なものに変えていた。彼女の顔にも鼻から上は仮面だ。
牛の月影は横に倒れて、鋭利な刃が胴体に刺さった。
モォーーー!
牛の月影はジタバタと最期の力を出して起き上がろうとする。
鶴の半月の男性の方は空を舞い、牛の月影からズレたところに着陸する。どうしたものか考えあぐねいている様に見える。
もう1人が何かを話すと、2人は曲を演奏し始めた。
♪
「モーリス・ラヴェルのボレロだ」
サックスのデュオは趣のあるものだった。
牛の月影の血や肉などは金貨、銀貨、銅貨、貴金属、装飾品、宝石などに変わり、情緒豊かに武楽器の中に入っていく。
ゆいなはテレビに釘付けになっていた。
牛は白骨化すると、男性は鶴風の半月に、女性はハムスター風の半月に身体を変化させた。そして、鶴の半月の足がハムスターの半月をつかみとり、空高く消えていった。
その場には牛の骨だけが残された。
『今2人の半月が、牛の月影を見事に倒して、キャスターも唖然としております。鶴になれる男性、ハムスターになれる女性がいることがわかりました。居処不明です。現場からは以上です』
コメンテーターと月影専門家が話し合っている。
「驚きましたね、暗いので追跡は不可能のようですね」
「それにしても彼と彼女はヒーローとヒロインですね」
「これで12件目ですね、日本はどうなってしまうのか?」
「武楽器所持者がいる限り、安全管理を徹底すれば被害は少なく済むでしょう。一体何にひかれて出てくるのか、考えられるのは世界樹の存在です」
「世界樹?」
「詳しくは言及しないでもらいたいのですが、彼らを産んだものの一つだと考えられています」
「何故、健全で真面目に働く市民が襲われているのか、隠すことなく教えていただきたい」
「リコヨーテの現状で伝えていいものか判断に悩ませられますね」
「というと、リコヨーテができた要因こそが月影の存在理由なのですか?」
「いや、そうではないのですが。あちらがたてればこちらがたたぬと言った状態ですね。来週はリコヨーテの長、ローレライ・スターリングシルバー氏に質疑応答をお願いする予定で会談を用意しております。それではまた来週」
テレビのリモコンでチャンネルをまわすも、同じような内容のものばかり。
「じゃあ、ローリ様が民衆の前に出てくるの?」
ゆいなはケータイを持ってアドレス帳からローリの番号にかけようとしたが、この時間には無作法だと思い、そのままケータイを充電器にさした。
◇
次の日
ゆいなは8時の時計のアラームで目覚める。
(バイトに行こう)
そう思って支度する。
(あ、バイト先、壊れてるんだっけ!)
そう思ったが、目覚めて覚醒してしまったので、二度寝する気が起きなかった。
(ローリに電話すべきか? でも、会合の前でピリピリしてそうだ。太陽君にそれとなく聞いてみよう)
ゆいなは太陽に電話をかける。
『もしもし』
『太陽君、柳川です』
『柳川さん?』
『実は昨日テレビでローリ様が来週会談をするって言ってて、どういうことなのかなって思ったんだけど』
『あー、ローリのことはよくわからないんですよねー』
『そっか、明日は』
ピンポーン
玄関の方でインターホンがなった。あいにく両親は仕事に行って不在だった。
『ごめん、誰か来たみたい。親が今いないから出るね、じゃあありがとう、また連絡します』
ゆいなは移動しながら急いで電話を切ると確認もしないで、玄関のドアを開けた。
そこに扉の前にいた人は、翔斗だった。
「翔斗君。なんでうちに?」
「美亜ちゃんから聞きましたよ。お祭り行くんですよね?」
「そうだけど、何?」
「このお祭り男が黙ってないぞ! と思って」
「お祭りは明日なんだけど……」
「明日の何時頃ですか?」
「いや、太陽君達に勝手にメンバー増やすみたいなのすると怒られるの私なんだけど」
「だったら、ここで大便して、それを木の棒につけて、追いかけ回しますよ。ここで出待ちして、明日中」
翔斗はカチャカチャとベルトを外している。
ゆいなは真剣な目でこちらをみる翔斗と目があった。
「やめてくれる? 警察に捕まりたいの?」
ゆいなは不快な顔で言う。
翔斗の下半身は膨れている。
「なんで興奮してるの?」
「いやうんこしてるの見られると思って」
「きもいけど?」
「それでどうなんですか? 俺は今していいよと言うなら出せるくらいですけど? それが嫌ならお祭りに一緒に行ってもいいか太陽に聞いてください」
「脅迫!?」
「10、9、8」
「わかったから、聞くから、その地獄のカウントダウンやめて」
「今かけてください」
(こんなことなら居留守決め込むべきだった)
ゆいなは後悔先に立たずと言った様子でポケットからケータイを取り出す。
「スピーカーオンにしてください」
「はあ、なんで美亜ちゃん教えたんだろう」
「美亜ちゃんがお祭りに誰が来るか分からなくて、俺が太陽にサプライズで登場するのに何時集合か、俺がわからないと分かるやいなや高速で電話切りされたんですが」
翔斗は言いながら鋭い目線でゆいなのケータイを見る。
ゆいなは再び太陽に電話をかけた。
『もしもし』
『太陽君、大変な自体に陥ったの』
『なんすか』
「よっ、太陽!」
『うげ、その声は翔斗?』
『翔斗君もお祭り行きたいらしくて、断ったら玄関先汚されそうなの』
『うーん、……そういうことなら翔斗も来ていいぞ』
『嘘の時間教えるなよ』
『わかったから、変なことするなよ。明日の9時20分に柳川さんの家に集合な』
『了解だぜ。誰が来るんだ?』
『美亜も来るから、俺、桜歌、美優、美亜、柳川さん、ビオ、ガーさん、ローリ、ネニュファール、マッサー、チカさん、レンシさん、と、翔斗だな』
『マッサー?』
『あー、テイアに家出してた少年だ。正幸って名前の子』
『チカさんは?』
『ビオのお母さんだよ』
『可愛い?』
『知らねえよ、もう切るぞ』
太陽はそう言い残して電話を終了した。
「太陽のやつ、最近調子乗ってるよな、今度、焼き入れとくか」
「いいから、頼むから私の家の敷地内から出て」
ゆいなは翔斗を退けると、家に入り、後ろ手でドアを閉めた。鍵も忘れない。
「ゆいなちゃん、また明日な!」
あとから来る翔斗の発言をゆいなは全く無視した。
しばらくしてから2階のベランダから玄関の方を見る。
(帰ったか)
ゆいなは人気がないので、ホッとして1階に降りた。テレビをつけて、冷蔵庫をあさる。そして、 適当に朝食を済ませる。
「太陽君にお詫びのメール送っておこう」
ゆいなは10分位時間を使って、ケータイに文字を打ち込んだ。
『太陽君、今日はごめん。翔斗君が太陽君に焼き入れるとかなんとか言ってたよ。多分、美優ちゃんの手前何もしないと思うけど。明日はよろしくね。楽しみにしてるね』
ゆいなはケータイの送信ボタンを押す。
この日は明日のために服と靴を買いに行った。可愛い黒のワンピースと厚底スニーカーだ。寒いので電車で移動する。車の免許がないためだ。
お昼ご飯はデパ地下のお弁当をイートインコーナーで食べる。ハンバーグ弁当はそれなりに美味しかった。
デパ地下街を出る。なんのけなしに公園をぶらつき、ベンチに腰掛けた。ケータイがなり、着信を知らせていた。
『太陽です。びっくりしましたが美亜に確認取ったら、キモいこと言われたそうです。柳川さんは大丈夫でしたか?』
『うん、なんか汚い話しなんだけど、うんこを玄関先にしてやると脅されたよ。キモかった。ところで、美亜ちゃん出かけるのお母さんにバレないかな?』
『部屋にある靴で2階の木に飛び移って出ていくそうです。帰りもバレないようにお母さんが買い物の隙に帰ると言ってました』
『そっか、それならいいんだけど』
『そうですね、明日はなるべく動きやすい服装でお願いします』
『ワンピース買っちゃったよ』
『デニムパンツで来てくれると助かります』
『了解でーす』
『それじゃあ』
『はい』
ゆいなは一息つくと公園のベンチから立ち上がる。そしてその足はデパートへと再出発していた。
そして、デパートで安価なデニムパンツと青いパーカーに白いニット帽と白いショルダーバッグを買った後、家路につく。
何事もなく家に帰るとまず、洗面所へ。着ているものを脱いでお風呂に入った。一段落する。
(温かいというより熱い)
浴槽に張ったお湯加減は寒空を歩いてきたゆいなにとって途方もないくらいの熱さだった。
「あちち、実家ぐらし最高ぅ」
ゆいなは気持ちよくなり、独りごつ。そしてお風呂からあがると、パジャマに着替えた。ドライヤーで髪の毛を乾かした。
洗面所を後にすると、自室にこもり、ファッション雑誌を読み始めた。
少し時間が立つと呼ばれた気がした。
「ゆいなー、今日はすき焼きよ」
「はーい」
ゆいなは返事をする。晩ごはんはゆいなの母親が作る役割だ。
「あんた、また散財したの?」
「いいでしょ、私の働いたお金だし」
「浮かれてると無一文になってここから出されることになるよ? 勤め先の弁当屋潰れたんでしょう?」
「潰れたというか、まあ物理的に潰れたけど、新しく建て直されたら、働くよ」
「なんだ、穀潰しか?」
「やめてよ、ご飯が不味くなる」
「お父さん、この子、ニートにならないかしら?」
「心配だな」
「余計なお世話。いただきます」
ゆいなは食卓につき、すき焼きを食べ始めた。普段は食べない春菊も食べ終えると、食器を流しに運んだ。ついでに歯も磨く。
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