スイセイ桜歌

五月萌

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第4章 ゆいなの歩く世界

22 二ヒモ楽団

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「ありがとう、兄ちゃん」
「俺の名前は太陽、この美人な子は美優、あと多分この中で一番優しい方だろうこの人は柳川ゆいなさん」
「優しいって、別に私優しくないよ」
「誰も帰ってこない、食料もないときはどうすればいいんですか?」
「大丈夫、美味しい物食べれる働き口あるよ」

 美優は両手でグッドマークを作った。

「お前の父親にまだ許可とってないよな? 平気か?」
「お父さん、私に甘いから大丈夫」
「いいのか悪いのかだな」
「早いところここから逃げようか。フェルニカ兵と戦いに発展することになったら大変だよ」

 ネムサヤに言われて皆は急ぎ足で移動することになった。クライスタルに少し遠回りをしながら向かう。誰かか、なにかに踏みしめられた、道を進む。

「待って、20m先に月影がいるかも」
「なんの月影だよ?」
「ムカデの月影のようだけど。私は無理だから、太陽よろしく」
「俺も得意じゃないから避けていく?」

 太陽は美優の手を握る。

「俺は様子を見るかな、柳川さんは?」
「私もムカデは嫌だよ」
「わいが倒す、ここで待ってろ」
「だめだよ。君はまだ子供でしょ! あ、ちょっと」

 美優は諭すも正幸は聞かずに走っていった。

「まったくもう! 来れる人だけでいいから来て」

 そういいながら美優も走り始めると、共鳴するかのように太陽も駆けていく。
 ゆいなは怖がりつつも追いかけていった。

「柳川さん、美優の足速くてどこ行ったか分かんなくなっちゃった」
「上から見てみましょう」
「それだ! よし! パース!」

 太陽はしゃがむとゆいなの足元を確認して箱を足場にして高く、高く、箱を伸ばしていった。二人乗った箱は空中で止まった。
 太陽が美優を探すも見つからず、諦めかけたその時だった。
 ゆいなは美優と正幸を発見した。

「あそこにいる」
「おしっ! パース」

 箱は小さくなっていく。
 太陽とゆいなを待っていたのはネムサヤだった。

「小春はアリアと待つそうです。正幸さんと美優さんは?」
「こっちです」

 ゆいなは方向感覚を見失わないように走りに走った。そして2人を発見した。
 美優は小石を投げ、ムカデの注意を自分に向けている。

「パース」

 噛みつかれそうになると大きくした箱を盾に、また距離を取る。

「ウォレスト」

シャラララ!
 太陽は武楽器を出すと、グリッサンド奏法をする。出てくる針でムカデの月影に攻撃した。
 しかし攻撃は硬い外骨格で弾かれた。


「この曲、ディスコ・キッドだ」

 周りにわらわらとクライスタルの国のカラーを纏った、色々な服を着た人が出てきて、楽器を鳴らしている。50人近くの人が集まって、円形になって斧で戦う正幸と美優に音楽のエールを送っている。
 ムカデの月影は美優が逃げられないように歩肢で丸め込もうと後ろに蠢く。

「パース!」

 美優は空高く箱で土台を作り、浮かんだ。
 ちょうどその時、振り回していた、正幸のチェロで作られた斧がムカデの月影の頭にドンピシャに当たった。
 ムカデの月影は暴れ狂いながら力を失っていくのが感じ取れ、更に、体液が漏れているのがわかった。頭から足へと外骨格を残して、体は金貨、銀貨、銅貨、装飾品、貴金属、宝石などにどんどん変わったいった。
 曲も照らし合わせるかのように終りを迎えた。

「美優ー!」

 美優は太陽が呼んでも返事がない。
(相当怖かったんだろうな)
 ゆいなが思っていると、「パース」という声とともに太陽が空高く向かっていった。

「マッサー君、大丈夫?」

 ゆいなは正幸を不安気に見た。

「なんや。体裁取り繕ってんじゃねえよ」
「反抗期かな?」
「まあ、倒せたし良い結果で何より。小春とアリアを呼んでくるよ」
 ネムサヤはまとめるようにいうと、爽やかに引き返す。

「あの、あなた方は?」
「クライスタルの西のニヒモ楽団といいます。普段サーカスに携わる演奏をしていますが、たまにこうして援護奏をして金貨を集めています」

 サーカスの長のような黒ひげでチェックの柄のTシャツを着ている人が代表のようだ。

「おい頑固おやじ、わいらの金貨の分は?」
「私はニールです。命あるだけ良かったでしょう。私らは基本的に金品の交換や施しはしません。なぜなら私らがいなければ瀕死になりかねるところでしたでしょう? お互いにウィンウィンです」

 ニールはお茶を濁す。

「なんや、コイツ? ムカつく」
「関西弁が出てるってことは関西人なのね?」

 美優と太陽は箱を小さくして、地面に降り立った。

「ちゃう」
「チャウ・チャウ?」
「美優、それは犬のこと」
「だよねー。ってなんでやねん! どないやねん!」
「うるさい」

 そうツッコミを入れたのは正幸だった。

「日本人でしょ、クライスタルにどうやって来たの?」
「マッサー素直に答えろよ。さっきカロメあげただろ」
「わいは確かに日本に住み、暮らしておるけど。おかんが昔、テイアのことを教えてくれて、その時はただの絵空事だと思ってたけど、おかんをつけてみたら、本当にテイアに行けて。それで置いてあったおかんの楽器を借りて、演奏したんや。家出と同時にな」
「チェロを?」
「ウォレット・ストリングスやろ」
「なんで形態変化で斧にできるの?」
「それは、最近、日本でおかんが戦ってたのを見て、ああ、チェロって斧にもできるのかと思って、わいがやったらほんまに斧になったんや」
「マッサーも絶対音感持ちでしょ?」

 太陽は人差し指を自分に向けて、正幸に向けた。

「せやけど、あんたらに知ってもらってもしょうもない話やな」
「チェロは弾けるの?」
「当たり前やろ。弾けへんようやったらここにおらんよ」
「正幸君の名字は?」
「わいの名字は石橋。石橋正幸」
「石繋がりね、石井太陽君」
「確かにそうだけど」

 太陽は考えるように正幸を見た。
「武楽器の一部分も持ってるってことか」

 太陽が言うと、正幸はチェロのペグをポケットから出した。

「おかんが今頃、困っているところやな。けけけ、いい気味や」

 正幸は悪魔のような笑いを見せた。

「まったくもう、そんなことして、怒るよ?」
「俺も謝るから一緒に謝ろう?」
「嫌や」
「年長者の言うことを聞きなさい」
「美味いもの食わせてくれるならええよ」
「約束よ? 小指貸して」

 美優は小指を上げ、嫌々ながらも小指を上げた正幸と指切りをする。

「楽団の皆さん、ありがとうございました」

 太陽はオーケストラを作ったニヒモ楽団にお礼を告げる。ちょうどネムサヤとアリアと小春が戻ってきた。

「今度こそ行くか!」

 全員は賛同するように頷いた。
 
「私達もついていかせてもらいますよ」

 ニヒモ楽団は一緒に行動するようだ。

「これは心強い」
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