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第4章 ゆいなの歩く世界
3 ドラゴンの年
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「ありがとうございます。渦巻きが消えてしまう前に入ってください」
太陽は手をひらひらとふる。まるで当然のように。
丸くて赤い濁流が何も見えなかった所から現れた。人1人入れるほどの大きさだった。
「行きますよ」
「ちょっ、まっ」
ゆいなは美亜に手を引かれて、濁流の中に飛び込んだ。
ド!
「いたた」
ゆいなは尻餅をついた。
美亜は華麗に着地していた。そして続けて「早くそこを移動してください。来ちゃう!」と言った。
ドサ!
「わあ!」
「やあああああああ」
ゆいなの上に太陽が押し倒す感じで降りてきたのだが、太陽はゆいなからパンチを食らった。
「いっ」
ドン!
太陽は左側にそれて倒れ込んだ。
太陽が学生服であったためか、ゆいなは目を見開いて、太陽の存在を拒否した。ちなみに美亜も女子の制服を着ている。それは今日が金曜日と言うことを表している。
「平気ですか? 胸とか触られませんでした?」
「今のは不可抗力だ。胸は翔斗な。ごめんなさい、柳川さん。真っ逆さまに落ちるので避けながら飛べばよかったんですが」
「あ……こっちこそ……すみません」
ゆいなは蚊の鳴くような声で言った後、体に付着している土や砂をはらった。
あたりは岩山に囲まれている。夜なので暗い。
遥、アイ、ビオが降ってきて見事に着地した。
太陽達は「パース」と唱えると、箱から赤いギンガムチェックのリボンやら腕輪やらを出した。そして目立たたせるように身につけると、今度は黒くて薄めな円錐状の物を取り出した。そしてそれらは耳につけられた。
「柳川さんにもだわ、はいこれ」
遥は赤いギンガムチェックのフェイスタオルと黒いものを手渡した。
ゆいなは真似するように首にタオルを巻き、耳に円錐状のものを挟んでつけた
「あのう、これって?」
「黒いのは言語翻訳機で彗星証っていうの、ギンガムチェックの方はクライスタルという国のカラーかな」
「へえ」
変な間が流れた。
「それでビオ、それでどうやって月影を使役するんだ?」
「使役したい目標を目をそらさずに、動物たちの謝肉祭の、‘大きな鳥かご’を弾くか、吹くのです」
「そんな近くで目を合わさずにできるのか?」
「誰が近くで見るって言ったのよ」
「え?」
「パース」
美亜が頭部装着型の双眼鏡を箱から出す。そして頭に固定して装着する。
「私も持ってます。パース」
ビオがかっこいいペガサスのあしらった頭部装着型の双眼鏡を箱からとった。
「でもさ、ピアノやハープ弾きながら見てるのは大変じゃないかな?」
「じゃあ、あたしとママで、2匹を使役したらいいんじゃないかしら」
「そうね」
遥は頷くとビオから、頭部装着型の双眼鏡を受け取った。
「ここから見えるはずよ。そう遠くないもの。パース」
美亜は岩石に箱を土台にして登る。
「この光景、まさにスターリングね。ん? 誰かが戦っているわね」
美亜は双眼鏡越しに何かを見ている。
「私も見ていいかな……?」
「もちろん。……パース」
遥は地層の見える崖の下にゆいなを連れて行くと、真下に箱を出してぐんぐん上に伸ばした。
「ひゃあ」
ゆいなと遥は5メートル程の岩に飛び移った。
「説明すると、あっちは山で、こっちが砂漠、で、その先に海があるんだけど」
遥は指を指して言いながら、頭部装着型の双眼鏡をゆいなに渡した。
「あ、戦闘中だ。それにしても数が多いですね」
「味方? 月影?」
「味方の方は20数人くらいで、月影は1,2,3,4,5,6,7,……8体くらい」
ゆいなは身を震わせた。太陽のような照明器具で照らされている周辺に死体が転がっていたり、動物や鳥類、昆虫類の骨や死骸があったからだ。
土を踏んで戦う人や羽をはやして戦う人、戦闘態勢は人それぞれだ。四足の動物の月影は殆どが倒されている。そして重要なのがオーケストラのように演奏している団体が5人と7人と別れて固まっていた。8人が戦っている様子がみてとれる。
「ゴブリンのような生き物は? なんで楽器を吹いているの?」
「ああ、彼らは仲間だ。それにしてもいけるのか? 使役しても始末されたらどうするんだよ」
「使役するのが成功したら目の上半分が青くなります。ちなみにこの魔法曲は月影にしか効きません」
「あ!」
「えっ?」
太陽はいきなりのことに驚く。
「ローリ発見! 藍色の髪のフェレットの耳出てる子」
「子じゃないだろ」
「む、砂糖顔イケメンだ!」
ゆいなはローリを観察する。バイオリンを弾いているようだった。
「砂糖顔って、ふふ」
「いや間違ってないと思うけど」
「まあ、ね。でもあんまり変なこと言うとネニュファールに殺されるわよ」
「ね? ねにゅ?」
「ピンク色の髪をした、可愛いメイドの娘ですよ」
「ああ、いました」
ゆいなはネニュファールに少し嫉妬した。
そのネニュファールはライフルのようなもので戦っている。
「ローリの恋人ですよ」
「妻になったんじゃなかった?」
「ローリのママが」
「無駄話は後にしなさい、すぐ使役してローリさん達を助けましょ!」
遥は怒ったように声を荒らげた。そして頭部装着型の双眼鏡を返してもらい、自分につけた。
太陽は祈るように手を合わせた。
「なんの鳥類、昆虫類か決まったら教えてくれ」
「あたしは可愛いてんとう虫にしーようっと」と美亜。
「私はキンケイにするね」
「キンケイの派手な方ですか? 地味な方ですか?」
「メスにするわ」
「地味なの? 派手なの?」
「確かキンケイのメスは地味だったはず」
「二羽いるけど」
「遥さん、地味な方ですよ。派手なの嫌ですよ」
太陽は遥の顔を見やる。
「はあ、そこまで言わなくとも、わかってるって」
遥がため息をつくと手を前に出す。
「「ウォレスト」」
遥にはバイオリン、美亜にはクラリネットが登場した。
頭には双眼鏡のストラップ、目には双眼鏡がセットされている。
「大きな鳥かごよ、せーの」
♪
「美しい」
ゆいなは思わず称賛が口から出た。
高い音が小鳥のさえずりに聴こえる。
2人は全く微動だにせず吹き、弾いている。そして紡いでた音が途切れた。
「そっか、クライスタルには夜だから入れないんだ」
ゆいなは勘が鋭い。
その後、使役した鳥類と、昆虫類を待った。
「ちょっと、ちょっと、派手な方が来てるんですけど!?」
目が慣れてきた太陽はどんどん近づいてくる、大きな翼を持った全体的に赤く、そして黄色いとさかの派手やかな月影のキンケイに肝を冷やしていた。
「あ、私、ちょっと、間違えちゃった♡ あんまりいうからご所望かと思って」
「ええええ!? 間違えちゃった♡、じゃないですよ」
「あと、派手な方がかっこいいかなあって」
「あたしのママはノリがいいから」
「フラグ立ってたからとはいえ、俺はてんとう虫君に乗りますよ」
「悪いね。太陽。てんとうは二人乗りだよ。あたしと体重の同じくらいのアイと乗るのよ」
「わかった、よろしくね」
アイは少し喋ると、再び口をつぐんだ。
「じゃあ、私とビオちゃんと太陽君とゆいなちゃんがキンケイに乗ろう」
「それでは、重量オーバーじゃないですか?」
太陽は頬を赤らめながら、早口で言い切る。
「普通のキンケイが1メートルくらいなんだよ。月影のキンケイは7メートルくらいはあると思うのよ」
「距離的に見ても、キンケイかなり大きいわよ、てんとうの方が断然小さい。それにしても、どうやって乗るのよ。足にロープでも引っ掛けるの?」
「それだ!」
「あらあたし、ナイス?」
「ナイス!」
「ふっふっふ」
太陽に言われた美亜は照れくさそうだった。
そうして使役された月影のてんとう虫と月影のキンケイが目の前に鎮座した。目の色は上が青色で下が赤色だ。
「パース」
太陽は茶色いロープを箱から出した。
「足を出してくれるか?」
「あ、太陽君、私が言わないと命令できないよ、キンケイ、右足をこちらに向けなさい」
「くわーー!」
月影のキンケイは遥と通じ合ったように一鳴きすると足を差し出した。
「心臓止まるかと思った」と美亜。
「さあ」
遥に言われて太陽は長いロープを縛り、さらに2箇所結んで足場を作った
「いちいち鳴かなくていいからね」
遥がいうと月影のキンケイは頷いた。
太陽が月影のキンケイの足にロープを絡める。強く結んだ。
「ちょっと、解けることないわよね?」
「その辺は詳しいぞ。身体もやい結びにしてやるからな」
「なにそれ? あんた、ロープの結び方に詳しいって、どういう性癖よ」
「生物部舐めるなよ、山にも登ることもあるんだからな」
「謎が解明しました。生物部なのですね?」
ビオは珍しく口を挟む。
「そうだよ。……この鳥達が俺らの仲間だってどうやって知らせればいい?」
「アーガイルチェックの紐でも縛ったらどうですか? もし無ければ私が持っていますよ?」
「そうだな、お願いしていいか?」
「パース」
ビオの箱は透明なクリアケースに金色の細い紐が巻き付いた箱だった。大きさは手乗りサイズだったが、ビオは箱からマジシャンのようにアーガイルチェックの大きめな紐を優雅に出した。2本取り出すと、箱を消した。
太陽はその布のような紐を受け取ると、月影のキンケイの足に取り付けた。
「次はてんとう虫君に紐とロープ結ぼう」
「キモい」
「なんでだよ!」
「アイもそう思うでしょ?」
「うーんと、どうだろうね、うちは別にどっちでもいいというか」
「私はただ言い方に語弊があるように感じます。キモくはないですが可愛らしくはありますね」
ビオも話に割り込んだ。
「可愛くしたくて言ってるわけじゃないよ!」
「まあ? 早くてんとう虫君にロープと紐をつけてもらいましょ。てんとう虫君、さっさと、左足出しなさいよ」
月影のてんとう虫は左にズレて足を伸ばした。
そして太陽は紐をつけた。
「なんかチビって動物とか虐待しそう」
「失礼な。あんたのがハムスターを冬眠させたり、餌やり忘れて共食いさせたりしてそうよ!」
美亜の言葉に眉を上げる人がいた。
「それは美亜のことよね、反省してるの?」
「ママ……、それはもう!」
「やっぱり自分のことだったか……!」
「うるさいわね!」
「いってぇ」
美亜の鋭い蹴りが太陽の左足にヒットした。
「みーあー?」
「ママ。これはね、太陽が挑発して」
「悪い事したと思うなら謝りなさい」
「太陽、わ、悪かったわね」
「悪かったわね? 違うよね?」
「……ごめんなさい」
「太陽君、美亜も反省してるから、許してあげて?」
「そこまで痛くはなかったので大丈夫です」
太陽は明るく言うと、美亜に笑いかける。
美亜は心底嫌そうに眉根を寄せて、太陽を見返す。
遥は美亜の頬をつねった。
「いひゃい、いひゃい」
美亜は涙目で太陽を見た。まるで仲介してもらうつもりのようだった。
「遥さん、時は一刻を争います。ロープで皆の身体を結んで、ローリに願い石の場所を聞いて、あの大穴からリコヨーテに向かいましょう」
「そうだね」
美亜の頬を離すと、遥は太陽の前に立ち、太陽によって月影のキンケイとロープでしっかりと結ばれた。他の皆も月影のキンケイまたは、月影のてんとう虫に身体を繋げられた。
「皆ロープをしっかりと持ってくれ、片結びした足場に足を乗せてくれよ」
「「「はーい」」」
「それじゃあ合図を、美亜、遥さん、よろしくお願いします」
「「今すぐここから飛び立ち、ローリのそばにゆっくりと降り立って!」」
(息がピッタリ。さすが親子だ)
ゆいなはロープを手繰り寄せ力いっぱいつかみ、足場にもしっかり乗った。
月影のキンケイは羽を広げて、離陸した。
羽ばたく度に、ロープは揺れたが人が落ちるほどの強さではなかった。
徐々にテイアにできた大穴まで近づいている。
テイアの大穴の付近にある明かりは4台。四方に光を放っている。
砂漠の皆が囲む中央に、大穴が空いていて、5匹の月影達はそのテイアの大穴を抜けようと連携を見せて降りていく。しかし、手に取るように、ネニュファールを含めた銃兵にそれを阻まれる。結果、月影の血肉は金貨などに変わり、2グループの奏者たちに向けて、舞い上がりながら集まっているのが見て取れた。
♪
「フィリップ・スパークの、ドラゴンの年ね」
太陽の隣で遥が喋った。
「この曲の効能は?」
「弾いている間、ドラゴンを月から降らせないようにし、そしてまた、降ってきているドラゴンを月に返す曲だったと思います!」
ビオは大声で説明した。
「あのゴブリンってリコヨーテ組なんですね」
数体いるゴブリン達は皆アーガイルチェックのヘルメットをかぶっていた。
「おーい、ローリ!」
「ほう? 太陽君? 君たち、どうしてここへ?」
太陽は手をひらひらとふる。まるで当然のように。
丸くて赤い濁流が何も見えなかった所から現れた。人1人入れるほどの大きさだった。
「行きますよ」
「ちょっ、まっ」
ゆいなは美亜に手を引かれて、濁流の中に飛び込んだ。
ド!
「いたた」
ゆいなは尻餅をついた。
美亜は華麗に着地していた。そして続けて「早くそこを移動してください。来ちゃう!」と言った。
ドサ!
「わあ!」
「やあああああああ」
ゆいなの上に太陽が押し倒す感じで降りてきたのだが、太陽はゆいなからパンチを食らった。
「いっ」
ドン!
太陽は左側にそれて倒れ込んだ。
太陽が学生服であったためか、ゆいなは目を見開いて、太陽の存在を拒否した。ちなみに美亜も女子の制服を着ている。それは今日が金曜日と言うことを表している。
「平気ですか? 胸とか触られませんでした?」
「今のは不可抗力だ。胸は翔斗な。ごめんなさい、柳川さん。真っ逆さまに落ちるので避けながら飛べばよかったんですが」
「あ……こっちこそ……すみません」
ゆいなは蚊の鳴くような声で言った後、体に付着している土や砂をはらった。
あたりは岩山に囲まれている。夜なので暗い。
遥、アイ、ビオが降ってきて見事に着地した。
太陽達は「パース」と唱えると、箱から赤いギンガムチェックのリボンやら腕輪やらを出した。そして目立たたせるように身につけると、今度は黒くて薄めな円錐状の物を取り出した。そしてそれらは耳につけられた。
「柳川さんにもだわ、はいこれ」
遥は赤いギンガムチェックのフェイスタオルと黒いものを手渡した。
ゆいなは真似するように首にタオルを巻き、耳に円錐状のものを挟んでつけた
「あのう、これって?」
「黒いのは言語翻訳機で彗星証っていうの、ギンガムチェックの方はクライスタルという国のカラーかな」
「へえ」
変な間が流れた。
「それでビオ、それでどうやって月影を使役するんだ?」
「使役したい目標を目をそらさずに、動物たちの謝肉祭の、‘大きな鳥かご’を弾くか、吹くのです」
「そんな近くで目を合わさずにできるのか?」
「誰が近くで見るって言ったのよ」
「え?」
「パース」
美亜が頭部装着型の双眼鏡を箱から出す。そして頭に固定して装着する。
「私も持ってます。パース」
ビオがかっこいいペガサスのあしらった頭部装着型の双眼鏡を箱からとった。
「でもさ、ピアノやハープ弾きながら見てるのは大変じゃないかな?」
「じゃあ、あたしとママで、2匹を使役したらいいんじゃないかしら」
「そうね」
遥は頷くとビオから、頭部装着型の双眼鏡を受け取った。
「ここから見えるはずよ。そう遠くないもの。パース」
美亜は岩石に箱を土台にして登る。
「この光景、まさにスターリングね。ん? 誰かが戦っているわね」
美亜は双眼鏡越しに何かを見ている。
「私も見ていいかな……?」
「もちろん。……パース」
遥は地層の見える崖の下にゆいなを連れて行くと、真下に箱を出してぐんぐん上に伸ばした。
「ひゃあ」
ゆいなと遥は5メートル程の岩に飛び移った。
「説明すると、あっちは山で、こっちが砂漠、で、その先に海があるんだけど」
遥は指を指して言いながら、頭部装着型の双眼鏡をゆいなに渡した。
「あ、戦闘中だ。それにしても数が多いですね」
「味方? 月影?」
「味方の方は20数人くらいで、月影は1,2,3,4,5,6,7,……8体くらい」
ゆいなは身を震わせた。太陽のような照明器具で照らされている周辺に死体が転がっていたり、動物や鳥類、昆虫類の骨や死骸があったからだ。
土を踏んで戦う人や羽をはやして戦う人、戦闘態勢は人それぞれだ。四足の動物の月影は殆どが倒されている。そして重要なのがオーケストラのように演奏している団体が5人と7人と別れて固まっていた。8人が戦っている様子がみてとれる。
「ゴブリンのような生き物は? なんで楽器を吹いているの?」
「ああ、彼らは仲間だ。それにしてもいけるのか? 使役しても始末されたらどうするんだよ」
「使役するのが成功したら目の上半分が青くなります。ちなみにこの魔法曲は月影にしか効きません」
「あ!」
「えっ?」
太陽はいきなりのことに驚く。
「ローリ発見! 藍色の髪のフェレットの耳出てる子」
「子じゃないだろ」
「む、砂糖顔イケメンだ!」
ゆいなはローリを観察する。バイオリンを弾いているようだった。
「砂糖顔って、ふふ」
「いや間違ってないと思うけど」
「まあ、ね。でもあんまり変なこと言うとネニュファールに殺されるわよ」
「ね? ねにゅ?」
「ピンク色の髪をした、可愛いメイドの娘ですよ」
「ああ、いました」
ゆいなはネニュファールに少し嫉妬した。
そのネニュファールはライフルのようなもので戦っている。
「ローリの恋人ですよ」
「妻になったんじゃなかった?」
「ローリのママが」
「無駄話は後にしなさい、すぐ使役してローリさん達を助けましょ!」
遥は怒ったように声を荒らげた。そして頭部装着型の双眼鏡を返してもらい、自分につけた。
太陽は祈るように手を合わせた。
「なんの鳥類、昆虫類か決まったら教えてくれ」
「あたしは可愛いてんとう虫にしーようっと」と美亜。
「私はキンケイにするね」
「キンケイの派手な方ですか? 地味な方ですか?」
「メスにするわ」
「地味なの? 派手なの?」
「確かキンケイのメスは地味だったはず」
「二羽いるけど」
「遥さん、地味な方ですよ。派手なの嫌ですよ」
太陽は遥の顔を見やる。
「はあ、そこまで言わなくとも、わかってるって」
遥がため息をつくと手を前に出す。
「「ウォレスト」」
遥にはバイオリン、美亜にはクラリネットが登場した。
頭には双眼鏡のストラップ、目には双眼鏡がセットされている。
「大きな鳥かごよ、せーの」
♪
「美しい」
ゆいなは思わず称賛が口から出た。
高い音が小鳥のさえずりに聴こえる。
2人は全く微動だにせず吹き、弾いている。そして紡いでた音が途切れた。
「そっか、クライスタルには夜だから入れないんだ」
ゆいなは勘が鋭い。
その後、使役した鳥類と、昆虫類を待った。
「ちょっと、ちょっと、派手な方が来てるんですけど!?」
目が慣れてきた太陽はどんどん近づいてくる、大きな翼を持った全体的に赤く、そして黄色いとさかの派手やかな月影のキンケイに肝を冷やしていた。
「あ、私、ちょっと、間違えちゃった♡ あんまりいうからご所望かと思って」
「ええええ!? 間違えちゃった♡、じゃないですよ」
「あと、派手な方がかっこいいかなあって」
「あたしのママはノリがいいから」
「フラグ立ってたからとはいえ、俺はてんとう虫君に乗りますよ」
「悪いね。太陽。てんとうは二人乗りだよ。あたしと体重の同じくらいのアイと乗るのよ」
「わかった、よろしくね」
アイは少し喋ると、再び口をつぐんだ。
「じゃあ、私とビオちゃんと太陽君とゆいなちゃんがキンケイに乗ろう」
「それでは、重量オーバーじゃないですか?」
太陽は頬を赤らめながら、早口で言い切る。
「普通のキンケイが1メートルくらいなんだよ。月影のキンケイは7メートルくらいはあると思うのよ」
「距離的に見ても、キンケイかなり大きいわよ、てんとうの方が断然小さい。それにしても、どうやって乗るのよ。足にロープでも引っ掛けるの?」
「それだ!」
「あらあたし、ナイス?」
「ナイス!」
「ふっふっふ」
太陽に言われた美亜は照れくさそうだった。
そうして使役された月影のてんとう虫と月影のキンケイが目の前に鎮座した。目の色は上が青色で下が赤色だ。
「パース」
太陽は茶色いロープを箱から出した。
「足を出してくれるか?」
「あ、太陽君、私が言わないと命令できないよ、キンケイ、右足をこちらに向けなさい」
「くわーー!」
月影のキンケイは遥と通じ合ったように一鳴きすると足を差し出した。
「心臓止まるかと思った」と美亜。
「さあ」
遥に言われて太陽は長いロープを縛り、さらに2箇所結んで足場を作った
「いちいち鳴かなくていいからね」
遥がいうと月影のキンケイは頷いた。
太陽が月影のキンケイの足にロープを絡める。強く結んだ。
「ちょっと、解けることないわよね?」
「その辺は詳しいぞ。身体もやい結びにしてやるからな」
「なにそれ? あんた、ロープの結び方に詳しいって、どういう性癖よ」
「生物部舐めるなよ、山にも登ることもあるんだからな」
「謎が解明しました。生物部なのですね?」
ビオは珍しく口を挟む。
「そうだよ。……この鳥達が俺らの仲間だってどうやって知らせればいい?」
「アーガイルチェックの紐でも縛ったらどうですか? もし無ければ私が持っていますよ?」
「そうだな、お願いしていいか?」
「パース」
ビオの箱は透明なクリアケースに金色の細い紐が巻き付いた箱だった。大きさは手乗りサイズだったが、ビオは箱からマジシャンのようにアーガイルチェックの大きめな紐を優雅に出した。2本取り出すと、箱を消した。
太陽はその布のような紐を受け取ると、月影のキンケイの足に取り付けた。
「次はてんとう虫君に紐とロープ結ぼう」
「キモい」
「なんでだよ!」
「アイもそう思うでしょ?」
「うーんと、どうだろうね、うちは別にどっちでもいいというか」
「私はただ言い方に語弊があるように感じます。キモくはないですが可愛らしくはありますね」
ビオも話に割り込んだ。
「可愛くしたくて言ってるわけじゃないよ!」
「まあ? 早くてんとう虫君にロープと紐をつけてもらいましょ。てんとう虫君、さっさと、左足出しなさいよ」
月影のてんとう虫は左にズレて足を伸ばした。
そして太陽は紐をつけた。
「なんかチビって動物とか虐待しそう」
「失礼な。あんたのがハムスターを冬眠させたり、餌やり忘れて共食いさせたりしてそうよ!」
美亜の言葉に眉を上げる人がいた。
「それは美亜のことよね、反省してるの?」
「ママ……、それはもう!」
「やっぱり自分のことだったか……!」
「うるさいわね!」
「いってぇ」
美亜の鋭い蹴りが太陽の左足にヒットした。
「みーあー?」
「ママ。これはね、太陽が挑発して」
「悪い事したと思うなら謝りなさい」
「太陽、わ、悪かったわね」
「悪かったわね? 違うよね?」
「……ごめんなさい」
「太陽君、美亜も反省してるから、許してあげて?」
「そこまで痛くはなかったので大丈夫です」
太陽は明るく言うと、美亜に笑いかける。
美亜は心底嫌そうに眉根を寄せて、太陽を見返す。
遥は美亜の頬をつねった。
「いひゃい、いひゃい」
美亜は涙目で太陽を見た。まるで仲介してもらうつもりのようだった。
「遥さん、時は一刻を争います。ロープで皆の身体を結んで、ローリに願い石の場所を聞いて、あの大穴からリコヨーテに向かいましょう」
「そうだね」
美亜の頬を離すと、遥は太陽の前に立ち、太陽によって月影のキンケイとロープでしっかりと結ばれた。他の皆も月影のキンケイまたは、月影のてんとう虫に身体を繋げられた。
「皆ロープをしっかりと持ってくれ、片結びした足場に足を乗せてくれよ」
「「「はーい」」」
「それじゃあ合図を、美亜、遥さん、よろしくお願いします」
「「今すぐここから飛び立ち、ローリのそばにゆっくりと降り立って!」」
(息がピッタリ。さすが親子だ)
ゆいなはロープを手繰り寄せ力いっぱいつかみ、足場にもしっかり乗った。
月影のキンケイは羽を広げて、離陸した。
羽ばたく度に、ロープは揺れたが人が落ちるほどの強さではなかった。
徐々にテイアにできた大穴まで近づいている。
テイアの大穴の付近にある明かりは4台。四方に光を放っている。
砂漠の皆が囲む中央に、大穴が空いていて、5匹の月影達はそのテイアの大穴を抜けようと連携を見せて降りていく。しかし、手に取るように、ネニュファールを含めた銃兵にそれを阻まれる。結果、月影の血肉は金貨などに変わり、2グループの奏者たちに向けて、舞い上がりながら集まっているのが見て取れた。
♪
「フィリップ・スパークの、ドラゴンの年ね」
太陽の隣で遥が喋った。
「この曲の効能は?」
「弾いている間、ドラゴンを月から降らせないようにし、そしてまた、降ってきているドラゴンを月に返す曲だったと思います!」
ビオは大声で説明した。
「あのゴブリンってリコヨーテ組なんですね」
数体いるゴブリン達は皆アーガイルチェックのヘルメットをかぶっていた。
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しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
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