スイセイ桜歌

五月萌

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第2章 ローリの歩く世界

16 ゴブリンのハン

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 葬式の形態は仏式だ。すでに葬儀場には児童養護施設の職員や同級生、スターリング城の使いの者が来ていた。
 ネニュファールは多くの花と遺影が壁を飾られ、すでに死に化粧されたり、死装束を着せられたりされていて、棺桶に入っている。
 ローリはイセリがしたのだと誰かが喋っているのを聞く。睡蓮の花が添えられている側に、小さなフェレットの人形を棺桶に入れた。ネニュファールの最期を見て思い立って作った手作りの人形だった。
 そして葬儀場に僧侶がやってきた。彼が読経し、皆で焼香を行なわれた。
 ローリは自分が何をしたのか、何を言ったのかよく覚えていないが喪主の役目は果たした。
 隣り合う火葬場に移動する。
 ネニュファールを入れた棺桶は火葬されたようだった。
 橋渡しをスターリング城でネニュファールと関わった者で行われた。
 ローリは火葬場から埋葬許可証を受け取る。骨壷へ納められた遺骨は一旦城へ持ち帰り、四十九日の忌明けまで待つ。
 ドーリーの献杯の挨拶があり、お斎《とき》を皆で食べた。
(味がしない)
 ローリには今生きているこの場がモノクロのような世界に見えていた。

「ご多忙の中、最後までお付き合いして頂きましてありがとうございました。これにてお開きとさせていただきます。今後ともどうか変わらぬお付き合いご指導のほどよろしくお願い申し上げます。本日は、誠にありがとうございました」

 ローリは無表情でルコから教わった言葉を吐き出した。

「ガウカちゃん、この後ローレライと女子服会しよう!」

 ルコは全く動じてない様子でガウカに声をかけた。

「連れション行こうぜ。ローリ」

 太陽がローリにちょうどよく話しかけた。

「太陽君、そのショルダーバックの中に入れてくれるかい?」

 ローリはお手洗いにつくなり懇願した。

「それと、後で皆でトランペットとトロンボーンのためのファンダンゴを弾いてほしいのだけれど、……どうだい?」
「え?」
「廃病院に入ったら、ホールにゴブリン達が集まってきて制圧しようとするだろうから、ファンダンゴを皆で弾いてほしいんだ」
「よくわからないけど、危険な時の切り札ということか」
「そうだよ」
「弾いてみるよ、聴いたことのある曲だから大丈夫だ」
「聴いただけで弾けるとは素晴らしいね!」
「万能ってわけじゃないけどな」
「それでは、クライスタルから来た人と相乗りしてクライスタルまで行ってくれたまえ」
 
ローリは小さく丸くなったと思ったら次の瞬間、風が舞いフェレットに変わっていた。

「ほれ、早く入りな」
 太陽はショルダーバッグにローリを入れた。すぐにチャックを閉める。


十五時。
ここはクライスタルだ。
 リコヨーテでは中庭の世界樹の切り株は人でごった返していた。そして、ローリは見つかることなく、クライスタルまで来れた。
 ローリは美優と太陽と歩いていた。

「十八時四十五分に検問のところで待つってさ」

 太陽はケータイを見ながら言った。

「あと翔斗もファンダンゴ、吹けるって」
「ちょうど練習してたんだ、文化祭で吹くかもしれないから」
「地球じゃ魔法曲にならないんだよな」
「ウォレストって言うと武楽器になるから、そのままの楽器を演奏すれば別に魔法曲にならないよ。そんなことより、露天商でも見て回ろうよ」

 美優はトランペットを出して、目を輝かせる。

「ローリは?」
「ん? 構わないよ」

 ローリは帽子をかぶり庶民のような格好をしている。

「ところで、勝手に出てきちゃって大丈夫なのか?」
「寝室に手紙置いといたから、平気さ」
「ふーん」
「楽器の店あるよ」

 露天商の一つではバイオリンやフルートなどが安く売られている。
 美優はトランペットを消すと太陽の服の袖を軽く引っ張った。。

「あ、このカスタネット可愛い、ワニ型だよ」

 美優はカスタネットをとると、タンタンと鳴らした。

「タイガツ君に買ってあげよう」とローリはある計画を立てていた。
「そうだね!」

 美優は買おうと手に取る。
「パース」

 ローリが箱の中から、金貨を五枚ほど取り出して、美優に渡す。

「いいの? ありがとう」
「どうってことないよ」

 ローリは両手を大きくふる。
タンタン
 美優は楽しそうにカスタネットを叩く。

「美優、静かにしてくれ」
「ごめん、うるさかった?」
「まあまあな」
「そっか」
「……ローリ、今日静かだな」
「ごめん、少し考え事してたんだ」
「ちょっと太陽」
「なんだよ」
「時と場合だよ、まったくもう」
「いや別に話しかけてもらって構わないよ」
「そうかあ、どうやって廃病院に入るか?」
「金網に穴が空いているからそこから入って、翔斗君はホールに着くとゴブリンに向かっていくと思うから、太陽君に翔斗君を抑えてほしいんだ」
「うーん、ローリって未来がわかるのか?」
「そうだね、秘密にしておくが」
「そんな魔法見たことないけど、本当?」
「廃病院から帰ってきたら、見せてよ」
「わかったよ」
「さあ、この辺を回ろう!」
「食べ物屋が続いてるけど、どうする?」
「全部食べよう!」

 美優は明るく言った。
 クレープ、たこ焼き、肉まん、小籠包、タピオカなど出ている店という店をまわった。

「美優、もう勘弁してくれ、お腹いっぱいだ」
「僕もだよ」
「えーここからが本番なのに」

 美優はスラリとした体のどこに食べたものがあるのか全く感じさせなかった。

「めちゃくちゃ食べるのにどうしてそんなに痩せてるの?」
「体質」
「そ、そうかい」

 ローリが時刻を確認しようと懐からケータイを出そうとした時だった。

「ボヨヨヨ~ン! ただいま十七時四十八分です」

 太陽はFショックで買っただろうゴツい腕時計を見せつけてきた。つまり五時四十八分だ。

「便利だね。僕も腕時計つけようかな」

「ローリも俺とおソロにするか?」

 太陽は美優と同じ腕時計をつけているのだ。

「いや、僕はなるべく目立たなくて頑丈なのがいいな」
「ブレスウォッチがいいんじゃない?」

 絶妙のタイミングで腕時計を売るお店が目に入った。

「ここで買えばいいじゃない!」
「合わせたかのようなタイミングだな、はは」

 太陽と美優は笑いあった。

「すみません! ブレスレットの腕時計ってありますか?」
「コレなんかどうだい?」

 店員のおじさんの見せてきたそれはロリックスの腕時計だった。
 サファイアが豪華に文字盤にセッティングされていてピンク色に輝いていた。

「ではなくて、もっとさりげないおしゃれな物が欲しいのだけれど」
「コレか?」

 細めでシルバーの全体と、文字盤が円錐で薄桃色のナイロンの腕時計だった。

「これにするよ」

 ローリは即決する。

「お支払料金は十万ペドルで」
「このおじさん、足元を見てる!」
「お嬢ちゃん、君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
「いいよ、支払うよ。パース」

 ローリは千枚ほどの金貨を詰めた袋を取り出した。

「まいどまいど」

 おじさんはホクホクした笑みをローリに見せた。
 ローリは時計を合わせてもらい左手に文字盤が外側に見えるように着けた。

「わあ、かっこいい」
「何、ローリのこと褒めてんだよ」
「あ、嫉妬させちゃった、てへ、太陽もかっこいいよ」
「てへ、じゃないよ、まったくもう」
「まったくもう、は私の口癖だよ、まったくもう」
「今は、一八時四分。そろそろ検問に向かうかい?」
「そうしよう!」
美優は笑顔を見せる。
「調子いいな」
「調子のいい鍛冶屋、吹きたくなるからやめて」
「なんでだよ」
「吹奏楽脳になってるんだよ!」
「あっそ」
「あ、ひっどーい、もっとどんな曲弾けるのか気にならない? 私、中学からペット吹いてるんだよ!」
「あーはいはい、じゃあ後で二人の時話そうな」
「うん、わかった」

 美優は犬のように太陽の言うことを聞いた。いつの間にか立場が逆転しているようだった。

「僕の存在忘れてないかい?」
「そんな事ないって」
「ローリはさ、いつからバイオリン弾いてるの?」
「三つの時から半強制的に習ってるよ」
「お母さんから?」
「そうだよ、よく知ってるね?」
「これは太陽から聞いたの。お父さんはボーン奏者なんでしょう?」
「うん、御明答」
「バイオリン奏者でも、こんなに上手い人なかなかいないぞ」
「えっ……と、僕が? 君のピアノもうまいよ」
「そうだよ。俺も、物心ついた頃からピアノ弾いててさ、ピアノがおもちゃの代わりだったんだ」
「え、そうだったの?」
「俺んち基本的に放任主義だったからな、特に妹ができてから何もかまってくれなくて、俺はお婆さんに育てられたようなもんだよ」
「へえ、それは大変だったね」
「ローリ、わかってくれて、ありがとな」
「今の君は立派なピアニストだよ」
 ローリは太陽を認める。手持ち無沙汰で時計を見た。
(十八時二十分だ)
「おっ来た」

 検問のところにおしゃれな前髪を分けた髪型の翔斗と不機嫌オーラのでているタイガツがやってきた。彗星症と国のカラーのものを見につけている。

「予定より早いな! なんかあったのか?」
「俺としては風神さんに早く会いたくてさ」
「ローリ。太陽に変なこと吹き込んだらどうなるかわかってるな」
「変なことってなんだよ! ローリはいいやつだぞ」
「とりあえずここから移動しないと、カフェにでも行って作戦をたてよう」
「門番さん、この子、フェルニカの人だけどクライスタルに入れてくれないかい?」
「身体検査を受けてもらいます。犬にも協力してもらって。フィファ」

 そう門番は言った。
 フィファと呼ばれたもうひとりの門番は体を光らせて犬に変わった。シベリアンハスキーのようだった。

「箱出してみろ」
「パース」
「ワン」

 フィファが一声鳴くと毛が一気に抜けて人間に戻った。

「大丈夫です。禁止薬物は持ち込んだりしてません」
「そうか」
「はい」
「武楽器は?」
「エレキギターです」
「ふむ、この国の誰かを不当に傷つけたら出入り禁止だからな」

 門番の声に全員耳を傾けていた。

「俺は岸本翔斗、クライスタルの兵士だ。パース。七八〇五番の兵士だ」

 箱から手帳を出す。

「あなた達は最近出入りしている太陽さんと美優さんですね。それからリコヨーテの国王様、ご苦労さまです」
「僕のことは内密に来てるから他言無用でお願いするよ」
「はい!」
「門を開けてもらえるかい?」
「門を開けろ!」

 奴隷たちは門を上の小屋から巻き上げ、開けた。

「さあさ、どうぞ」
「ありがとう」
「私についてきて」

 美優は自信ありげに歩き出す。
 美優の父親マリンが経営する、居酒屋風の店についた。

「マリンさんにこの作戦聞かれたら止められないか?」
「大丈夫。お父さん最近耳遠いから」
「大丈夫じゃない気がしてきた」
「いいからいいから」

カラン
美優は先頭になって店に入った。

「お父さん。来たよ~」
「おう。美優」
「五人分コーヒーを用意して」
「あいよ」
「私、ミルク多めで」
「これから入る廃病院のホールにゴブリンがいて、あるスイッチで穴が空くんだ。その道を進むと武楽器とメイホの心臓の入った人形がある。ゴブリンはその部屋の鍵を持っているんだ」
「じゃあそのゴブリン殺すの?」
「僕が話術で鍵を手に入れるから、翔斗君は絶対に追いかけないでくれたまえ」
 
 コーヒーが運ばれてくるまで皆コソコソ話し合った。

「おまたせ、コーヒーだよ」
「プハー、やっぱりお父さんの作るものは美味しいものしかない」

 美優は自家焙煎したコーヒーに砂糖とミルクを入れ、一気に飲む。

「ローリ、飲まないのか?」
「猫舌でね」
「フェレットなのにか、ははは」
「熱いうちが美味しいのよ?」
「まだ時間あるからね」
 
 ローリは腕時計を見る。針は六時四十二分つまり一八時四十二分を指していた。

「ここから十分くらいあるよ、目的地まで」
「後五分待っててくれたまえ」
「しょうがないわね、まったくもう」
「タイガツも猫舌か?」
「別にそんな事ない」
「じゃあなんで飲まないんだ?」
「香りをだな」
「あのう、なんだろう、嘘つかないでもらっていいですか?」
「翔斗」

 タイガツは翔斗を一にらみして、コーヒーを飲み干した。
 ローリもまけじとコーヒーを飲んだ。

「じゃあ出発しよう、ここは私が持つから」
「俺が払うよ、彼氏なんだから」

 太陽は美優の頭に手をおいた。

「金貨十枚出してくれる?」
「一杯二百円なのか安! パース」

 太陽は動揺しながら箱を出した。

「お父さん、また来るね!」

 美優が店を出ていく。
 太陽は箱を出して会計した。

「廃病院か、なんか怖いな」
「太陽まさか日和ってるの?」
「普通に怖いだろ。太陽さんさんでも」
「太陽だけにか」
「そういう意味ではないよ」
「今から入る病院ってね、精神病院だったんだって。患者同士で喧嘩して死んだ人や、殺人犯の精神異常者もここに来て何者かの呪いで死んだ人もいるんだって。死人が相次ぐ中でこの病院は閉鎖されて……、そしてね、取り壊そうとした工事の関係者も謎の心臓麻痺で死にまくっているらしくて、ついには壊すことを反対するイタコに言われて取り壊さずにそのままになったの。それで有名な肝試しのスポットなんだって」
「やめてくれ。怖いの苦手なんだ」
「意外、太陽、怖いの苦手なんだ!」
 美優は囃し立てるように言った。
「もうすぐ着くよ」
「作戦通り頼むよ」
「おう」
「ローリ、眠たそうだけど大丈夫?」

 太陽は心配そうにローリを見ている。

「平気だよ」

 ローリは何でもなさそうに振る舞った。
 隣に腕を組んでいるのは美優と腰に手を当てているタイガツ、そして岸本翔斗。全員上を見上げている。
 目の前を見た。
 立入禁止の文字が書かれているも、金網に人一人通れる穴が空いている。
 いかにも、どうぞ入ってくださいといいたげだ。

「行こうか」

 太陽は金網の穴に滑り込むように入っていく。

「いっ」

 ローリは要領悪く、金網に引っ掛けて頬に傷ができていた。
「ローリ、絆創膏いる?」

 美優はリュックの中からポーチを取り出す。

「このくらいどうってことないよ」

 ローリの言葉通り傷口が治り血が蒸発する。

「わざと引っ掻いたのか? ローレライ」

 タイガツは挑発するかのように言った。

「違うよ。それと今の僕はローリだ」
「はいはいわかりましたよ、ローリ様」
「太陽君、どうして君はこの危険人物を連れてきたんだい?」
「いや、強いし、俺的には信用してるから」
「はあ、先が思いやられる」
「タイガツの事悪く思わないでくれよ、ローリ」

 翔斗がローリを諌める。

「基本的にフェルニカの者は信用していないのだけれど、君が守りたい者なら僕が守るよ、ついてきて来てくれることへの借りだ」

 追体験したとおりに喋っているローリ。

「借りだとか考えなくていいよ。お前は俺の友達だからな、友達の友達も友達だ。仲直りしてくれ、ローリ、タイガツ」
「おう、……ローリ、俺はたしかに悪いことばっかりして信用ならないと思うけど、少なくとも今日だけはダチでいてくれ」
「タイガツ君、そこまで言うなら頼ることや頼られることをしても構わないよ。悪いことはお互い様だ」
「これでみんな仲間だね! メイホをやっつけてゴブリンたちを助けよう!」
「美優、声大きいよ」
「地下があってそこにいるはずだから大丈夫よ」
「そうじゃなくてだな」
「メイホと昔戦ったことがあるんだけれど、彼女の心臓はうさぎの人形に入っているのだよ。それを潰しておかないと収集がつかなくなる」
「わかった。人形だな」
「それじゃあ全軍突撃だ!」
 美優は走って、廃病院内に入った。

「美優まって」

 太陽、ローリとタイガツと翔斗も、美優に続いた。追体験で見たとおり、院内はたばこ臭い。ここはそこら中に、空き缶の中や床にタバコの吸い殻がある。殻になったビール瓶も転がっている。

「誰もいないね」
「ローリ」
「もうすぐだ」

 ローリの声は反響している。

「翔斗君、水が落ちてくる」
「え、あ、本当だ!」

 翔斗はおでこに落ちた水を手で拭った。
 ホールに入った。そして真ん中辺りに彼はたしかにそこにいた。立っていた。背は低く、緑色の肌を極力見せないようにローブをフードから全身へ着込んでいる。目は両方とも赤い。

「お前たチ、この建物からデテイケ、いや、頼むからデテイッテクダサイ、お願いシマス」

 ゴブリンを追いかけるのはローリだった。

「待ってくれたまえ、ハン君、マスターから人形の様子を見てくるように言われているんだよ」

 ローリの片目は赤かった。彼は見開いた。

「ハイ? マスターガ?」
「ああ。鍵を貸してくれるかい?」
「どうしてオレの名前を知っているのダ?」
「メイホ様の新たな奴隷だからだよ」
「人間を引き連れてるのに、奴隷かナ?」
「魅了の魔法がかかっている、証拠に君を見ても驚かないだろう?」
「確かニ、わかりましタ」

 ハンは首から下げた鍵をローリに渡した。

「ありがとう」

 ローリは感謝の言葉を述べた。

「ここで待っているからな」
「パース」
 ローリは箱の中からロープを取り出すと柱にきつく結んで、落とし穴にゆっくりと降りていった。 足が地面につくとカンテラとマッチを箱から出して、暗い道をほのかな明かりで進んでいった。
「ニーベルング」

 指輪から時の手帳を取り出した。
 最後のページに書いてある行く順序を確認しながら進んでいった。
 最後の扉の鍵を回してダイアルを合わせる。

「やっと、やっと、メイホを倒すことができる」

 ローリは扉を開いた。
 そこには人形はなく、武楽器の一部もなかった。

「な、なぜ?」

 ローリは道順を間違ったかもしれないと戻る。しかし、道順は間違っていなかった。

「ニーベルング」

 一度、ロープで戻ることにする。

 ファンダンゴが聞こえてきた。
 ロープを完全に登りきって穴から這い出た。
 ゴブリンたちが二人一組で踊っている。ファンダンゴのリズムに合わせてビートを奏でている。
 タイガツはカスタネットを叩いている。
「ローリ、あなたハンの中に入って見たのでしょう? そういう事されるとわかっちゃうのよね、私のハートアンドステッキは無敵だから」

 メイホの声がどこからともなく聞こえる。

「どこだい?」

 ローリは探した。いた、ファンダンゴを踊っているメイホ。

「いい作戦だけど、もうすぐ切れるわよ、この魔法曲」
「あと五分保ってくれ! ニーベルング」

 時の手帳に今日の日付にメイホと書いた。青い炎が周りを囲んだ。
 急いで持ってきたのかが匂いでわかった。バラの匂いだ。
 ここは追体験したハンとメイホ達の元いた場所だ。もちろん数体のゴブリンも占拠しているだろう。
 世界が暗転する。
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