スイセイ桜歌

五月萌

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第1章 太陽の歩く世界

18 水見ユウキの呪い

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「そっか、じゃあ皆姿消せていけるね、ガウカがバテないといいけど」

 違うブースに入った。

「本日はありがとうございました」

 美優は大きな声で言うと視線を巡らせた。そして頭を下げる。

「リコヨーテに行く人を決めてあるみたいなので、そうではない人は解散をお願いします」
「また今度スウィングしようぜ」

 そう言うと何人もの人がその場を去っていた。

「魔法曲の薬はどうなってるんだ?」
「約二百ミリリットルで約二十分だ。六リットルはあるから三十回分使える。一リットルの水筒は持ってきた」
「私も持ってる」と美優。
「うちも」とアイ。
「あうっ」とアスも手を上げた。
「誰かの水筒で回し飲みして、空いた水筒に再び入れる」
「そうだな、時間もあまりないし。向こうにいるリコヨーテに行きたい人連れてくるよ」
「とりあえず、ガウカに飲ませて、皆を送ってもらおう」
「大人三人が限度って言っていたけど」
「俺、美優、美亜にするか」
 
 太陽は何も考えずに口走る。

「なんでだよ、俺と風神さん、美亜ちゃんだろ」
「あのな、付き合っているんだから」
「だったら、俺とお前と風神さんな」
「ゆずらないな、わかった、美優もそれでいい?」
「いいけど、嫉妬して喧嘩しないでね。落ちたくないから」
「こんなやつに嫉妬しないから、俺のほうが包容力あるからな」
「あーはいはい」
「おい、太陽いい気になるなよ」

 睨む翔斗を背に、太陽は反対側にあるブースからガウカを呼びに行く。

「ガウカ、太陽、美優、翔斗、美亜、ササ、ルイ、遥、マリン、仁、ルフラン、リンド、ジェイノ、アイ、アス、アルケー、マリンが呼んだ人たち五人も来るだろう、……二十二人か」

 太陽はリコヨーテに来るだろう人を数える。美優達のいるブースに戻ると、早速水筒に水のような薬を入れていた。
「美亜、俺たちがリコヨーテに行ったら、武楽器出せばガウカの位置分かるから」
「はあ? そんなの知らないわよ」
「マリンが呼んだ人もガウカに乗っていくんだろ。ガウカに二十分以内に戻ってこられるのか?」
「リコヨーテの中に下ろすから問題ない」
「公園があったはず、水の大場公園」
「そこならトイレで隠れながら飲めるな」
「マリンが呼んでくれた人、皆、鳥類の半月らしくて、ガウカに乗らずに帰れるって、ほら小さくなれるでしょ、コウモリとかの半月だって。ギルドのところで待つって」
「そしたら、十七人か」
「美亜と遥さんとササ、子供のサイズだし他に二人は乗れるんじゃない?」
「四回分で無理にでも乗って来させるから、八十分はかかるな。四回分だ」
「今から公園の場所教えるから。この場所から外までついていって、空が見えるだろうから、そこから飛んでいこう。折り返して、その場所で待ち合わせしてもらって、そこで薬補給して、またリコヨーテまで送ってもらうのでいい?」
「了解したのじゃ」
「じゃあ行こう」
 
 太陽と美優、翔斗、ガウカ、美亜は身を翻して外へでた。公園まではすぐで、トイレまで向かう。
 美優は口をつかないように浮かせ水筒から薬を飲んだ。
 太陽も同じ様にして薬を飲んだ。

「この水筒は美亜が持ってきてくれ」
 太陽は慎重に薬を飲む。
(薬の味はレモン果汁の味がした)
 体が消えていく。
(痛みもない)
 美優の姿は下の方から透明になったらしい。
 太陽は肌で魔法の凄さを学んだ。
 
 美優、ガウカ、翔斗、太陽の四人は水筒の中の姿を消す薬を飲むと、水筒を美亜に手渡した。

「この水筒は美亜が持ってきて。あとギルドに居る人を連れてキノコ人間のところまで案内してな」
「わかったわよ」
「行くぞ、ガウカ、美優」
「翔斗もいるぞ」
「あら、声はするのね」
 美亜が驚くのをよそに、太陽は視えていないことに関心した。
「手繋いでいこう?」
「そうだな」
「んよし! 行くか、風神さん」
「やめて、おっぱい触らないでくれる?」
「後で、やり玉に挙げるからな」
「冗談ですってば」
「美優の胸触った罰はあとで受けてもらうからな」

 太陽は翔斗の頬をつねる。
 ガウカの姿は龍へと変わったらしい。
 太陽はガウカに触れた。
 全長四メートル、縦幅四メートル、横幅六十センチははありそうだ。
 緑色の毛で覆われている白い竜は尻尾のほうから乗れそうな高さだった。
太陽は決死の覚悟で這いずる尻尾からガウカの背に乗っかった。角をつかんで落ちないようにした。
 
 美優も同じ様に乗った。翔斗も龍の毛をつかんで乗った。

「美亜、水筒の件は任せたぞ」
「わかってるわよ」

 美亜は来た道を折り返して戻っていった。
 ガウカが地面を蹴って飛び立つ。いきなり登っていった。

「太陽っ」

 美優は太陽を背中を思い切り抱きしめた。

「か、風神さん」

 翔斗は美優の肩に手をまわした。

「ちょっと、私にベタベタ触らないでよ」

 美優は翔斗の腕に噛みつく。

「いてて、わかったから」

 翔斗は美優の肩に手を置くだけにした。
(落とされる気がしない)
 太陽は座っていて不思議な安心感を覚えた。ジェットコースターより安全な気がした。
 ガウカは大体の地理を予測しようと少し高めに翔んだ。
 時間は予定していたよりずっと早く降りていた。ゴルフ場の空いているスペースに食い込むように着陸した。
 美優は上空から地上を見下ろしていた。空は暗い。

「時間がもったいないわ」
「そういえば、キノコの人間の呪いを解くんだった、ラ・フォリアはその後だ」
「翔斗、ここで次来る人達の案内役をしてもらいたいんだけどいいよね? ここからこっち側に歩いていけば町につくから。全員連れてきてね、よろしくね?」

 美優の歯に衣着せぬ発言で翔斗は驚きながら頷いた。

「ガウカ、ここまで来るのに十分位かかった。正確に言うと七、八分だけど。気をつけていくんだぞ」
 太陽はケータイで時間を確かめる。
 一九時三分。全員がつくのは遅くなりそうだ。時間が押している。
 ガウカは一声鳴くと、再び翔んでいった。

「行こう」

 太陽は美優を先導して暗がりを歩いていく。
 翔斗に見えなくなってからは手を繋ぐ。美優の方から太陽の手を絡めた。
 太陽はドキドキしながら歩く。
 ゴルフ場の次は、広い土地のドッグランのような場所があり、ペットショップも完備されている。

「半月もこういう所来るのかな?」
「楽しめそうね」

 リコヨーテに入ることができたようだ。

「この町の兵士や住民がいるところまでまで行けば何とか分かるだろ」
 太陽は大きな建物を目指して歩き始めた。日本と同じ空模様で、滴る汗がそれを物語っていた。畑が多数みられ、この世界は豊かな土地を作っている。
「ここは田舎みたいだな」
「城までもう少し、頑張ろう」

 太陽は鏡を取り出して自分の様相を確認した。

「もう薬の効き目は切れているな」
「そのほうがかえってよかったかも」
「そうだな」

 坂を登ると栄えている城下町にたどり着いた。
 牛の角のようなものが生えている人とすれ違う。
 太陽は威圧されて気がして声がかけられなかった。

「あ、うさたんだ」

 赤と茶のオッドアイの、茶白のロップイヤーラビットが木の陰から出てきた。

「ねえ君、城までの道、教えてよ」

 美優は物怖じせず話しかけるも、うさぎは飛び跳ね、逃げる。

「このままついてこいってことかな?」

 美優は太陽の手をひくと、うさぎを追い、速歩きをし始めた。整備されている道になっていた。道路のある閑静な住宅地が続く。しばらく歩くと本屋、ゲームセンターが目に入った。

「リコヨーテにもゲーセンなんてあるんだな」
「都会のようなもんだしね。もともと地下にあった」

 うさぎを追いつつ、歩いていくと、大きな城の影が見えてきた。地下で支えていた柱もあった。

「ありがとう、うさたん」

 美優はうさぎを抱え込むようにして抱き上げた。うさぎから放たれる光が身を包んだ。

「ぼ、ボクは一応男なんですけど」

 茶色いシャツに白いパンツを着た色白の少年が姿を現した。うさぎの耳は消えておらず、長い茶髪の髪型だ。そしてまつげが長くて目が大きく、唇は薄い。一見すると少女に見える。茶色と赤色のオッドアイだ。
「苦しいです」
  ウサギの少年は美優に抱きしめられていて胸が当たっていて窒息しそうになっている。
  美優はすまなそうに体を離した。
  太陽はあることに気がついた。
(クライスタルで見た浮浪児だ……小綺麗になっている!)

「君、名前は?」
「ボクの名ですか? チャシロとでも呼んでください」
「チャシロは武楽器持ってる?」
「ぼ、ボクはチェリストなんです」
「ラッキーね、太陽」
「あのさ、この後時間ある?」
「散歩する時間位ですね」
「いやそれかなり暇だろ」
「無きにしも非ずです」
「行こう、一緒に!」

 太陽はチャシロの両手を掴んだ。

「ど、どこにまさか、とって食うつもりですか?」
「違うよ、ここからユウキのもとまでだよ」
「ユウキ?」


 強風が吹いている。夏の海のような潮風だ。
 太陽達が来た場所に、エクとチラルが待っていた。
 キノコには薄いガーゼのような布が被せられ、風に飛ばされないようにおさえられていた。

「太陽、やっと戻ってきた」

 エクはキノコに被せたガーゼを取った。

「エーアイ」

 ユウキはぶつぶつと言っている。

「このうさぎの半月は?」
「さっき、出会ったチェリストだ」
「こ、こんばんは、チャシロです」
「時間が惜しい、呪いを解こう。チャシロ、このキノコの呪いを解くようにエレジーを弾くんだ」
「な、なんの呪いですか? 流石にキノコから人に変えるのは不可能ですよ」
「エーアイと言わないと爆発する呪い。特定の人と目を合わせたり触られたりすると爆発する呪いだ。ウォレット・ストリングス」

 太陽はピアノを出した。

「そ、そういうことですか。ウォレ」

 チャシロは黄色みがかったチェロを出すと目つきが変わった。
 太陽はチャシロと視線を合わせると弾き始めた。

 太陽は鍵盤に指が当たってしまい、何箇所かミスをした。チャシロは完璧だった。
(ユウキは治ったのだろうか)

「ユウキ、十分間、エーアイというのやめてもらっていいですか?」
「わかったがもうすでにやめている。体が熱くて効果があるようだ」

 太陽はケータイを見る。
 十九時二十九分だ。

「十九時三十九分まで待とう」
「ぼ、ボクは帰っていいですか?」
「これから皆でラ・フォリアを弾くんだ」
「あの曲は、呪いの曲ですがいいんですか?」
「人が大勢であればあるほど、とられる寿命は短くなり、一人の人を長寿の人に変えさせる曲だと伺ったんだ」
「へえ、それならボクも弾く」
「ありがとう」
「いや、散歩にも飽きてきたし」
「ところでその耳は消せないのか?」
「えっと、消すこともできるけど、体力使うから……。この目の色も人の原型なら自由です、完全な月影風になったらオッドアイになりますが」
「彼らの内の何人かはフェルニカ兵だ、これから来る人もそうだ。あまり半月ということがバレると良くない」

 太陽はこそこそ話をするようにチャシロの耳に語りかける。

「わかりました」

 チャシロは目の色を茶色の目に戻し、耳も人間のものになった。彗星証がつけてあった。
 周りはカンテラが頼りになっているが、暗くなっている。

「カンテラもっと増やせないのか?」
「俺が買ってきます」

 エクとチラルはそう言うと、どこかに走っていってしまった。。
 しばらく静寂の間になる。

「そろそろ十分経つな」

 太陽は心臓がはち切れんばかりであった。

「十九時三十八分……三十秒、……十秒」

 美優は腕時計を見ている。
 二人は目を閉じてカウントダウンし始めた。

「九、八、七、六、五、四、三、二、一」

 太陽は目を開いた。
 結果、爆発しなかった。
 美優は安心したかのように座り込んだ。
 少し遅れて、カンテラを両手で持ったエクとチラルが戻ってきた。

「遅いよ」
「呪いは解けた、あと残りは人間の分身を作ることだな」

 太陽はユウキの毛を抜いた。恐ろしく簡単に抜けた。

「先に分身を作る?」
「いや皆がきてからでいいよ」
「いや弾こう。時間がもったいないから」
「分身の曲、目覚めよと呼ぶ声あり」
 ♪
 アンサンブルは波長が不思議と合っていた。

 ユウキの分身はできた。かっこいい顔と体つきをしている。
 太陽はケータイを取り出す。眠っている分身のユウキの局部を隠すようにハンカチを置いた。
 時刻は二十時過ぎた。

「そろそろ来るな」
「皆ちゃんと来れるかな」
「どうだろう」

 五分過ぎた。

「あ、なんか大勢の足音が聞こえる」
「やっと来たか」
 ドスンドスン、バタバタ

 それはフラッシュモブに参加してくれた人と、新たに加わった数名の、大勢の足音だった。多くのカンテラで周りは一気に明るくなった。
「一斉に集まりすぎかもしれない」
「早いとこ、ラ・フォリアを弾いてみよう、ウォレット・ストリングス」

 太陽はピアノを出す。

「待って、まだ分身のこうべとユウキのこうべを入れ替えてない」
「ナイフで切るのか?」
「ああ、僕がなんとかしよう、ウォレ」

 ルフランはオーボエを持ち、繊細かつ絶妙な加減で左右に引っこ抜く。すると二刀流のロングソードに変わった。

「たあっ」
 ルフランは簡単に分身の首を落とした。

「ええい」

 ユウキの首は片手で、刈り取るように切った。ルフランは一度武楽器を消し、再度出現させる。キノコの頭を横たわる分身に頭と体をくっつけた。
「皆さんお集まり頂いて誠にありがとうございます」
「早く、太陽!」
「これから、ラ・フォリアを演奏します、お願いします」
「「「「ウォレスト」」」
「「「「ウォレ」」」」
「「「ウォレット・ストリングス」」」
「コンミスの遥さん、お願いします」

 太陽は皆が武楽器を出すのを見届けた。
 遥は始まる指揮をして曲が始まった。

 大規模なオーケストラだった。皆一人一人の気合が分かる、そんな演奏だった。
 演奏し始めてしばらく経って終盤を迎えた時だった。
「やめろ! ラ・フォリアを弾くな!」
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