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28 涼子のピアノ!

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ガチャ!

ミャウカとロサは我が物顔で入っていった。
おそらく、ビレッドが椅子に座っていて、周りをローカとケシー、そして太陽が囲んでいた。

「ローカ、皆!」
「涼子、なんで巫女服着てるんだ?」
「洗濯してもらってるの」
「あ! この子達って、あの?」
「ローカ、後で説明するから黙っていて。とりあえず、王様、首の後ろを見せていただけますか?」
「首の後ろかね? はて? 前にも似た事があったような」

白とピンクの髪の毛を短髪に整えているビレッドは、立ち上がると、背中を見せてきた。
涼子は背後にまわると首を見た。

「何も書いてませんね」
「そうじゃろう、わしは墨なんて入れないのじゃぞ?」
「なんで、入れ墨があるかもしれないと確認している事が分かったんですか?」
「……だから、前にわしの首の裏にBGの入れ墨があると訪ねてきたもんがおってな」
「その人ってどちら様ですか?」
「名前は……アルト、と言ったかの?」
「アルト、男性ですか?」
「そうじゃったな。もういいかね?」
「あ、はい……知ってる?」

涼子はローカの隣に行くと小声で話しかける。

「知らん」
「名字はなんと?」
「知らないのじゃ」
「これじゃあ、時の手帳がつかえないな」
「お嬢さん、ローカティスとどういった関係で?」
「あ、いきなり失礼しました、ローカさんと交際している岬浦涼子と申します」
「ほう、それはご立派で」
「王様、ありがとうございます」
「ルコが長生きするもんじゃから、国政に新たな風が吹かんのじゃ。涼子殿がお姫様になれば何か変わるかもしれない、期待しておろうぞ」
「はい」
「時に涼子殿の武楽器は何じゃ?」
「ピアノです」
「聴いてみてもいいかい?」
「はい、ウォレット・ストリングス、行きます」


ヤン・ヴァン・デル・ローストの”アルセナール“だ。
涼子は根を詰める。ミスがあっても気にしなかった。音と音のつながりを意識して弾ききった。

パチパチパチ。

ビレッドやローカやケシー、そして太陽が拍手をしてくれた。ミャウカとロサは何かを話し込んでいる。
涼子は緊張の糸が切れたように笑った。

「涼子殿ありがとう」
「いえいえ」
「ゆっくりしていってほしいのじゃ。ローカティス、話に聞いてたけど、よくこのようなべっぴんさんを捕まえおったな」
「はっはっは、そうだな。可愛いよ、涼子」
「人前で可愛いとか言うなよな!」

時間はゆっくり過ぎていき、2時間過ぎると、ネニュファールがやってきた。

「涼子様、お着物が乾きましたよ」
「ありがとう、そろそろ行くか?」
「んね! じゃあな、ジジイ」
「また会いに来るんじゃぞ」
「へいへい」
「長い時間ありがとうございました」
「BGの事が分かったら教えて下さい。それでは」

太陽はドアを後ろ手で閉める。

「……そうだ、涼子ちゃん、吸血鬼ハンターの試験会場聞かなくてもいいのかい?」
「あ、そうだった、浮かれてた。あの、吸血鬼ハンターの試験場ってどうやって行くのか?」
「使いの者を送らせます」

ネニュファールは顔色一つかえずに言った。

「匂いとかで? ハンカチなんて持ってないぞ?」
「その巫女服についた匂いを元に送らせますのであしからず」
「それはいいんだけど、あんた、BGじゃないだろうな?」
「首見ますか?」
「いいや。着替えるぞ」
「では、涼子様以外の皆さん、ここで少々お待ちを」

メイドと執事がたくさんいる応接室のような場所に通されて、涼子は1人、違う部屋に入った。
小さな部屋だった。
ハンガーにかかった服に袖を通す。柔軟剤のいい匂いが鼻をかすめる。

「涼子様、ミャウカ様とロサ様には十分注意してください」

ネニュファールは蚊の鳴くような声で語りかける。

「え?」
「あの2人のために専属になったメイドや執事が毎度、殉職、または失踪しているのです」
「ふうん」
「ハンター試験頑張ってください」
「ありがと」

涼子は着替え終えると、巫女服を畳んだ。

「それじゃ行こうか」

涼子の声にネニュファールはドアを開く。

「皆、おまたせ」
「中庭まで送ります」

ネニュファールは堅苦しいような顔をしている。
中庭まではローカと太陽がいるので案内されるほどではなかった。
バチバチ。
赤い膜を涼子一行がくぐった。

「「「ウォレスト」」」



超絶技巧な”シチリアーノ”だ。
赤い膜は青くなっていく。

「ここは?」
「クライスタルに戻ってこれたわけだよ」

膜を抜けると多くの人のざわめく声が聞こえてきた。

「次はマッサーとやらの店じゃ!」

ローカの大声に周りにいる人が振り向いた。

「ローカ、うるさい」
「はいはーい」

ローカの後を涼子はついて歩いた。
色とりどりの髪や瞳の人に翻弄されながら正幸の店までたどり着いた。
カランと店のドアの鈴が鳴る。1番奥のテーブル席に座った。

「来たな! うまいもん一発かましたる」
「正幸さん、何を作ってくださるんですか?」
「できるまでのお楽しみや」
「俺、卵は食えないよ?」
「わかった」

正幸は奥に引っ込んでいった。

「何がでてくるんだろう?」
「大丈夫、癖強い人だけど、味は保証する」

15分後。

「待たせたな」

正幸の持ってきたのは三つ葉がのっている、ソテーだった。ライスとともに4人分運ばれる。そして、最後に大きな鍋に入った鴨鍋も登場する。

「こんなに奮発したの久々や。残したらアチョーするで」
「これじゃあゆっくりできないだろ」と太陽。
「目の前で感想を聞きたいんや」
「「「いただきます」」」

皆があむあむと肉を頬張る。
涼子はあまり食べたことにない鴨肉に感動する。涙が溢れる。
それはそれは、口の中が宝石箱状態だった。
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