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10 血染めの調理場
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「ラジオ体操お願いします」
「はーい」
「ラジオ体操第一!」
優陽は体操しながら、今度は桜歌に電話しようという気になった。体操は深呼吸して終わった。
「クッキングに参加される方はホワイトボードに名前を書いてください。今日は鶏肉の照り焼きと付け合せのサラダを作ります」
百合香は気だるいように声をだした。
前を舞桜が通りかかる。
「あ、く、熊野君、クッキングって何するの?」
「ああ、皆でおかずを作って食うんです」
「タダで?」
「クッキングでお金をとるとは聞いたことありませんよ」
「食えるんなら、クッキングしようかな」
優陽は前にあるホワイトボードに名前を書き加えた。
先着6人までだったので、急いで書いて正解だった。
「クッキング参加される方ー」
葉子は笑顔が板についている。
「皆さん。これどうぞ」
集まった6人にエプロンとバンダナが配られた。
「優陽君、なんか新婚さんみたいね?」
小春が耳元で囁いた。
「ッ! 変なことを!」
「優陽君と料理できて嬉しいわ」
「だから! 僕は! 石塚さん助けてください」
優陽は好きな人がいることを物申したかった。
「2人は仲良いのね? 皆さん石鹸で手を洗いましょう」
葉子はさっさとスルーして皆に手を洗うように指示している。
「それじゃあ、二組に分かれてください」
優陽達はA班とB班に二組に分かれた。
「まず、A班は鶏もも肉の黄色い油をとる時には身や皮を傷つけないように、包丁をねかせてこそげとるように、取り除いてください。B班はホワイトボードに書いてある通りにタレを作ってください」
それから、色々して焼くことになった。付け合せのサラダとともに皿にあけた。
「石塚さんの手料理かー」
優陽は思っていたことを口にした。
「いや、皆さんの共同制作ですよ」
ド!
葉子に小春が体当たりしてきた。
「あなたがいけないのよ。優陽君に色目使うから。母子ともに死ね」
小春の手には包丁が握られていた。刃先は赤く染まっていた。
「石塚さん!」
優陽はもう一撃加えようとする小春に、すんでのところで葉子の前へと立ちふさがった。すると手の平を軽く切られた。
一瞬、戸惑う小春。
走ってくる清掃員の中年の男性。その男性が手速く小春を羽交い締めにした。
「何しとんじゃ、ワレ、いてこましたろか!?」
大きな関西弁がその場に流れた。
葉子のお腹にヌメッとした赤いものが流れているのわかる。
「あなた、もしかしたら……石橋正幸さん?」
「アカン! バレてもうた!」
「誰か、警察と救急車!」
優陽はめったにあげない大声をだした。
近くに警察署と病院があるため、10分もかからず、警察官と救急隊員がやってきた。
「このバッグ? ……この薬はなんだ?」
「至急検査を!」
強面の男が簡易検査をし始めた。
「……陽性だ。シャブの反応がある」
警察官が言った。
どうやら小春は覚せい剤を吸引したらしい。
優陽はその場で手の治療を受けた。
少し痛い。
「石塚さん、平気ですか?」
「心配しなくても大丈夫です。そこまで深い傷じゃないから」
無理に笑おうとする葉子は担架に乗せられて、運ばれていった。
それにしても、石橋正幸というのは、確か桜歌の旦那さんだ。
「なんで石橋さんが働いているんですか?」
「わいは美優ちゃんに頼まれているだけなんや。太陽のことは海外にでも行っているんとちゃう?」
「それなら、そう言うはずですよ。でも母さんは知らないの一点張りで。家に墓があったんです」
正幸はハッとする。
「ちょっと優陽借りるな。優陽、ついてき!」
デイケアの横の階段を降りて外に出た。
「石塚さんの父親って太陽父さんなんですか?」
「せやな、やっと話すときが来たようやな。実はな、26年前に美優ちゃんと太陽は離婚しているんやって」
「離婚?」
「太陽が再婚したのはマグロ漁船で一緒に働いていた仲間の女性なんや。その子は葉子の母親や」
葉子が異母兄妹で結婚することができないということが現実味を帯びてきた。
「僕の名前のこと言われてないけど旧姓に戻ったんすかね?」
「あー、日本では離婚後の子供の名字は元父親の名字にしても、母親の旧姓にしてもいいんやで。多分優陽の名は変わってないぞ」
「家の地下にあった墓はどういうことなんですか?」
「それは美優ちゃんに承諾をえてから話すわ」
「……僕が聞いてみます」
「それができれば1番やな」
「ところで、石塚さんの子供の父親は誰なんですか?」
「それはわいにはわからへんな」
「それも石塚さんのいる病院で聞いてみます」
「わいがここで優陽を見守っていることは内緒な」
「何故ですか?」
「これがいいんや」
正幸は右手で親指と人差し指で丸を作る。
「わかりました」
「おおきに」
「今日は早退します。石塚さんがどうなったか見に行きます」
優陽はデイケアに戻ると、スタッフに帰ってもらうように言われた。事件の影響で全員一度、帰ってもらうことになっていた。
「手が痛そうだけど大丈夫?」
俊が心配そうに聞く。
「そこまで痛くないんで大丈夫です」と優陽は強がる。
「明日、来れなそうだったら連絡してください」
「はい」
外に出ていった優陽は美優と話す前に、桜歌と桜歌の子供に隣で聞いてもらうことにした。万が一危害が加えられそうだったときのためだ。
優陽はケータイに登録した桜歌の名前をタップする。
『もしもしぃ? 優陽君?』
『叔母さん、また話が変わってきたんですけど』
優陽は両親の離婚と葉子の異母兄妹の事を話した。家の下に墓があった事も説明した。
「はーい」
「ラジオ体操第一!」
優陽は体操しながら、今度は桜歌に電話しようという気になった。体操は深呼吸して終わった。
「クッキングに参加される方はホワイトボードに名前を書いてください。今日は鶏肉の照り焼きと付け合せのサラダを作ります」
百合香は気だるいように声をだした。
前を舞桜が通りかかる。
「あ、く、熊野君、クッキングって何するの?」
「ああ、皆でおかずを作って食うんです」
「タダで?」
「クッキングでお金をとるとは聞いたことありませんよ」
「食えるんなら、クッキングしようかな」
優陽は前にあるホワイトボードに名前を書き加えた。
先着6人までだったので、急いで書いて正解だった。
「クッキング参加される方ー」
葉子は笑顔が板についている。
「皆さん。これどうぞ」
集まった6人にエプロンとバンダナが配られた。
「優陽君、なんか新婚さんみたいね?」
小春が耳元で囁いた。
「ッ! 変なことを!」
「優陽君と料理できて嬉しいわ」
「だから! 僕は! 石塚さん助けてください」
優陽は好きな人がいることを物申したかった。
「2人は仲良いのね? 皆さん石鹸で手を洗いましょう」
葉子はさっさとスルーして皆に手を洗うように指示している。
「それじゃあ、二組に分かれてください」
優陽達はA班とB班に二組に分かれた。
「まず、A班は鶏もも肉の黄色い油をとる時には身や皮を傷つけないように、包丁をねかせてこそげとるように、取り除いてください。B班はホワイトボードに書いてある通りにタレを作ってください」
それから、色々して焼くことになった。付け合せのサラダとともに皿にあけた。
「石塚さんの手料理かー」
優陽は思っていたことを口にした。
「いや、皆さんの共同制作ですよ」
ド!
葉子に小春が体当たりしてきた。
「あなたがいけないのよ。優陽君に色目使うから。母子ともに死ね」
小春の手には包丁が握られていた。刃先は赤く染まっていた。
「石塚さん!」
優陽はもう一撃加えようとする小春に、すんでのところで葉子の前へと立ちふさがった。すると手の平を軽く切られた。
一瞬、戸惑う小春。
走ってくる清掃員の中年の男性。その男性が手速く小春を羽交い締めにした。
「何しとんじゃ、ワレ、いてこましたろか!?」
大きな関西弁がその場に流れた。
葉子のお腹にヌメッとした赤いものが流れているのわかる。
「あなた、もしかしたら……石橋正幸さん?」
「アカン! バレてもうた!」
「誰か、警察と救急車!」
優陽はめったにあげない大声をだした。
近くに警察署と病院があるため、10分もかからず、警察官と救急隊員がやってきた。
「このバッグ? ……この薬はなんだ?」
「至急検査を!」
強面の男が簡易検査をし始めた。
「……陽性だ。シャブの反応がある」
警察官が言った。
どうやら小春は覚せい剤を吸引したらしい。
優陽はその場で手の治療を受けた。
少し痛い。
「石塚さん、平気ですか?」
「心配しなくても大丈夫です。そこまで深い傷じゃないから」
無理に笑おうとする葉子は担架に乗せられて、運ばれていった。
それにしても、石橋正幸というのは、確か桜歌の旦那さんだ。
「なんで石橋さんが働いているんですか?」
「わいは美優ちゃんに頼まれているだけなんや。太陽のことは海外にでも行っているんとちゃう?」
「それなら、そう言うはずですよ。でも母さんは知らないの一点張りで。家に墓があったんです」
正幸はハッとする。
「ちょっと優陽借りるな。優陽、ついてき!」
デイケアの横の階段を降りて外に出た。
「石塚さんの父親って太陽父さんなんですか?」
「せやな、やっと話すときが来たようやな。実はな、26年前に美優ちゃんと太陽は離婚しているんやって」
「離婚?」
「太陽が再婚したのはマグロ漁船で一緒に働いていた仲間の女性なんや。その子は葉子の母親や」
葉子が異母兄妹で結婚することができないということが現実味を帯びてきた。
「僕の名前のこと言われてないけど旧姓に戻ったんすかね?」
「あー、日本では離婚後の子供の名字は元父親の名字にしても、母親の旧姓にしてもいいんやで。多分優陽の名は変わってないぞ」
「家の地下にあった墓はどういうことなんですか?」
「それは美優ちゃんに承諾をえてから話すわ」
「……僕が聞いてみます」
「それができれば1番やな」
「ところで、石塚さんの子供の父親は誰なんですか?」
「それはわいにはわからへんな」
「それも石塚さんのいる病院で聞いてみます」
「わいがここで優陽を見守っていることは内緒な」
「何故ですか?」
「これがいいんや」
正幸は右手で親指と人差し指で丸を作る。
「わかりました」
「おおきに」
「今日は早退します。石塚さんがどうなったか見に行きます」
優陽はデイケアに戻ると、スタッフに帰ってもらうように言われた。事件の影響で全員一度、帰ってもらうことになっていた。
「手が痛そうだけど大丈夫?」
俊が心配そうに聞く。
「そこまで痛くないんで大丈夫です」と優陽は強がる。
「明日、来れなそうだったら連絡してください」
「はい」
外に出ていった優陽は美優と話す前に、桜歌と桜歌の子供に隣で聞いてもらうことにした。万が一危害が加えられそうだったときのためだ。
優陽はケータイに登録した桜歌の名前をタップする。
『もしもしぃ? 優陽君?』
『叔母さん、また話が変わってきたんですけど』
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