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上司が私をツボらせようとする件~三十六歳年上の上司が妙な視線を送ってくる
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バスから時折見えるアジサイは、もうしおれ始めていて、ちょっとかわいそうな感じがする。でも、元気なアジサイの花、六割ってところかな。
バスは四車線の広い道に出た。高いビルがそびえ立つ横にあるバス停で降りて徒歩五分ほど。
昨年の春、私は、派遣社員として事務雇用で採用された。
職場見学の時から薄々とわかっていたが、私は上司に苦手意識がある。
ここだけの話、私は背が低い。対して上司は背が高い。悔しいけど、いい歳こいてロン毛で、ちょっとスカしている感じがする。
ネイルカラーの変化や寝癖のついた髪に気が付いてくれるのはうれしいし、正社員と同じように扱ってくれるのはとてもうれしい。
だけど、背が高いし、もうひとつの理由があって、どうにも気に喰わない。
「おはよう」
「おはようございます」
今日は火曜日、私と同じ仕事をしている隣の正社員の方はテレワーク。ひと席空いているが、必然的に上司の顔が見える。
私はあえて上司の顔を見ないようにしている。なぜならば、上司と目が合うと、何かと私を楽しませようとしてくるからだ。
目が合うと、必ず話しかけてくる。狙っているのかどうかはわからないが、とにかく私をツボにはまらせようとする。
上司が私の後ろを通り過ぎた。なんとなく、ドアを開ける音で目を追ってしまう。悔しいけどウエストが細い。なんであの人、あんなにウエストが細いんだろう?
「あの、これ、頼んでいいですか?」
他の社員が話しかけてきた。答えはもちろんイエス。でも、立ったまま話しかけるのでちょっと圧迫感がある。
私は背が低いけど、そのわりに足は長い。だから上半身が短い分、余計に他の人からの圧迫感を感じる。
「いつまでですか?」
「今週中」
「わかりました」
よかった、すぐに立ち去ってくれた。後はメールで仕事は済む。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
実はちょっとだけうれしいことがある。上司はいつも私を笑わせようとするが、たまに本当にツボにはまってしまうのだ。ただ、大方、つまらない。
業務中にそんなことをするのもどうかと思うけど、上司は「福利厚生の一環」と言っている。
確かにこの職場には、福利厚生と言えるものはない。クラブも無いし、ジムなどの優待サービスも無い。最も、派遣社員の私には関係ないけど。
今日も、エアコンの温度設定を三℃ぐらい上げたくなる、もう、ゴミ箱に放り込みたくなるような冗談を言ってきた。
「ワード®の使い方で困ると、『わー、どうしましょう?』ってなるよね」
でも、その態度が健気すぎてちょっとウケる。もう、捨て身と言ってもいいかも。「勇者」と言っていいレベルだ。だから私は、上司と真摯に向き合っている。
しかし、寒いものは寒い。私は、私なりの経験値を使って華麗にスルーした。
「わー、どうしましょうって、おもしろくない?」
おもしろくないです。でも、気持ちはうれしい。
「ワード®だよ、ワード®。わー、どうしましょう、どう?」
さすがに三回繰り返されると笑い……というか、苦笑いが自然と浮き上がってくる。結局、私は「おもしろい」と思ってしまった。
この人のバイタリティは……バイタリティだけは尊敬できる。他はどうかと思うけど。
まあ、なんだかんだと言って、いい職場に派遣されて幸せだなって思っている。
でも、そんな平穏な日常も、突如、崩されることになった。
「ねえ、今度、エクセル®マクロの勉強会で、みんなでエクセル®マクロをいじりまくろうと思うんだけど、参加しない?」
「え、私が参加していいんですか?」
「もちろん。それより、『いじりマクロう』と『マクロ』って、ダジャレっぽくて可愛くない?」
やっぱり寒い。それに、私は理系じゃないし、マクロのマの字もわからない。やっていけるのかな。
「あの、本当に私なんかが参加していいんですか?」
「うん。それより、今のどうだった?」
「勇気があると思います」
どうしてだろう?
この人と話をする時、圧迫感を感じない。でも、マクロなんて、私でもできるんだろうか?
もちろん、派遣社員なのにこんなチャンスをくれることは嬉しいことだけど、大丈夫かな。
「わかりました」
圧迫感の無さに気を取られたのか、思わず返事をしてしまった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マクロ勉強会に参加したものの、私の頭はただひたすら混乱しているだけ。そもそも、「概念」っていうものが全く入ってこない。
しかも、会議室の入り口側に座った例の上司は、余裕の笑みを浮かべている。
上司もマクロのことは全然わからないと言っていた。しかし、元プログラマというだけあって、的確な突っ込みを入れてくる。
主催のファシリテータよりもたくさんしゃべっている。もしかしたら、ファシリテータの振る舞いに不満を感じて、ファシリテータを育てるためにほどよくしゃべっているのかもしれない。
私はマクロ勉強会が終わった後、宿題について上司に訊いてみた。
マクロ勉強会は、最後に宿題を決め、それを次回、発表するという形式をとっている。今回は、まだ、マクロの概念を勉強しているので、上司が宿題を提案した。
「あの、これ、何をやったらいいんですか?」
今の私は、絶対、キュートだ。以前、上司も言っていた。「君の笑顔はプレゼントみたいなものさ」と。でも、どのツラさげて言っているんだろうというのが本音だったけど。
「これは、みんながうまくいかなかったり、思うようにいかなかったりして、あれこれ気づいてくれることが目的なんだ」
え? そういうこと?
さらに上司は続ける。
「このマクロ、三回、似たようなことをするよね。だから、実は一回だけレコーディングして、ソースコードを開くと――」
私は上司に言われるまま、レコーディングしたマクロのソースコードを開き、説明されるがままにパソコンの操作をした。
やることは簡単。ひとつだけマクロを作って、あとはコピー、そして、二か所だけ、短い文字を書きかえるだけ。これで、あっという間に出来上がってしまった。
私だけでは見てもただの英語の羅列にしかみえない。でも、上司が横から指をさすと、なんとなく意味がわかってくる。
プログラミングなんてしたことないけど、よく見ると、英語だけど聞きなれた単語が並んでいる。もしかして、上司、すごいの?
なにかこう、一瞬だけど理解できた気がするし、本当に私の手がこのマクロを追加した。これは間違いのない事実だ。
「これ、みなさんと共有していいですか?」
この問いについて、上司は想定外の斜め上、いえ、斜め北北西プラス三度な回答をした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「君が発見したことにして、課題の意図だけを伝えたらいいんじゃないかな」
どうやら上司は私を英雄にしたいらしい。
「こんな感じで――『これは、私が発見したやり方で、レコーディングミスを減らすことができます』って説明するのさ」
ちょっと優等生っぽい口調で上司は話した。私はそんなに目立ちたくない。それなのに、なんでそんなことを言うんだろう?
「どうしてですか?」
「君にはずっとここで働いてほしいから、色々と活躍してね」
え? 今、「君」って言った? それより、どうして上司には圧迫感を感じないんだろう。
上司は、なんと、小声で「キャラ変」をやり始めた。なんでも、最近、気に入っているアニメで、演劇部の新入部員がキャラクターを切り替えて先輩を楽しませるというストーリー。
小悪魔系の演技には耐えることができたけど、ツンデレ系には負けた。私は思わず口を押えてしまった。
上司はマジ、ロン毛。それをほどいてツインテにしたから。
不覚にも私はツボにはまってしまった。さらにクール系、バレー部の先輩系と、訳のわからない展開が腹筋の震えを加速させる。
笑い声はあえて抑える。腹筋が全力で声を出さないようにがんばっている。震えているのが脳まで伝わってくるけど、ここは我慢。
私は十秒以上かな、口元を押さえて我慢した。
初めて見る上司の自然なロン毛、それに加えてツインテ。これに負けた。悔しいけど「敗北」の二文字しか思いつかない。
しかも、上司と目が合うたびにあのやり取りを思い出し、思わず腹筋に力が入り、自然と口を手で押さえてしまう。
私は数回深呼吸をし、ちょっと落ち着くとグループチャットで上司の意図を他のメンバーに伝えた。
なるべく、私なりの言葉を選んで。送信前に読み直すと、なんだか上司を尊敬している雰囲気を感じる。
でも、そんなことない。私にとって上司はただの上司。それ以上でもそれ以下でもない。業務の指示をしてくる、そして私はそれに応える、それだけの関係。
なんとなく、自分のやっていることが嫌になって来た。
上司に個別に教えてもらいながら、他のメンバーよりもはるかにランクアップしてしまった、ただの派遣社員の私。まるでカンニングだ。
あ、でも、マクロ勉強会は理解さえできたらカンニングし放題って言ってたな。
それにしても上司のギャグ、マジ、寒いんだからさ。あ、でも、最近、暑くなってきたらエコかも。ま、その辺りはちょっとだけ褒めてあげよう。
そんなこんなで、上司とのやりとりが増えて気づいたことがある。これはちょっとうれしいこと。
上司はいつも私に話しかける時、膝立ちになって話しかける。
そうか、この人、私に圧迫感を与えないように膝立ちになって話しかけているんだ。
しょうもないギャグばっかり話してうっとおしい上司だけど、もしかしたら私のこと、すごく気遣ってくれているのかもしれない。
これに気が付いてから、急に気持ちが楽になった。
そうだ、私には、このしょうもない上司がいる。どんなことがあっても、きっと、この上司なら私を守ってくれる。
仕事が終わり、オフィスから外に出ると、外はかなり蒸し暑くなっている。バス停に立っていると、たくさんの車が通り過ぎていき、ちょっと排気ガスのにおいがする。
私はもっとこの会社でがんばってみようと、心中にある賽銭箱に、気持ちだけの百円玉を投げた。でも、私をツボにはめたいだけの上司には、適切に対処してあげる。
覚悟しておきなさい。いつか私がツボにはめるんだから。
----------------
数ある小説の中から読んで頂き、ありがとうございます。
本エピソード中に出てくるアニメは「疑似ハーレム」です。今期もおもしろいアニメがたくさん放映されていますが、あまり期待していなかったのに、観たら、もう、ツボにはまっちゃって。
それで、本作品を書いてみました。
おもしろいなって思っていただけたら、いいね!して頂けると、転がって喜びます。さらに、お気に入り追加してくださると、スクワットして喜びます。
それではまた!
バスは四車線の広い道に出た。高いビルがそびえ立つ横にあるバス停で降りて徒歩五分ほど。
昨年の春、私は、派遣社員として事務雇用で採用された。
職場見学の時から薄々とわかっていたが、私は上司に苦手意識がある。
ここだけの話、私は背が低い。対して上司は背が高い。悔しいけど、いい歳こいてロン毛で、ちょっとスカしている感じがする。
ネイルカラーの変化や寝癖のついた髪に気が付いてくれるのはうれしいし、正社員と同じように扱ってくれるのはとてもうれしい。
だけど、背が高いし、もうひとつの理由があって、どうにも気に喰わない。
「おはよう」
「おはようございます」
今日は火曜日、私と同じ仕事をしている隣の正社員の方はテレワーク。ひと席空いているが、必然的に上司の顔が見える。
私はあえて上司の顔を見ないようにしている。なぜならば、上司と目が合うと、何かと私を楽しませようとしてくるからだ。
目が合うと、必ず話しかけてくる。狙っているのかどうかはわからないが、とにかく私をツボにはまらせようとする。
上司が私の後ろを通り過ぎた。なんとなく、ドアを開ける音で目を追ってしまう。悔しいけどウエストが細い。なんであの人、あんなにウエストが細いんだろう?
「あの、これ、頼んでいいですか?」
他の社員が話しかけてきた。答えはもちろんイエス。でも、立ったまま話しかけるのでちょっと圧迫感がある。
私は背が低いけど、そのわりに足は長い。だから上半身が短い分、余計に他の人からの圧迫感を感じる。
「いつまでですか?」
「今週中」
「わかりました」
よかった、すぐに立ち去ってくれた。後はメールで仕事は済む。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
実はちょっとだけうれしいことがある。上司はいつも私を笑わせようとするが、たまに本当にツボにはまってしまうのだ。ただ、大方、つまらない。
業務中にそんなことをするのもどうかと思うけど、上司は「福利厚生の一環」と言っている。
確かにこの職場には、福利厚生と言えるものはない。クラブも無いし、ジムなどの優待サービスも無い。最も、派遣社員の私には関係ないけど。
今日も、エアコンの温度設定を三℃ぐらい上げたくなる、もう、ゴミ箱に放り込みたくなるような冗談を言ってきた。
「ワード®の使い方で困ると、『わー、どうしましょう?』ってなるよね」
でも、その態度が健気すぎてちょっとウケる。もう、捨て身と言ってもいいかも。「勇者」と言っていいレベルだ。だから私は、上司と真摯に向き合っている。
しかし、寒いものは寒い。私は、私なりの経験値を使って華麗にスルーした。
「わー、どうしましょうって、おもしろくない?」
おもしろくないです。でも、気持ちはうれしい。
「ワード®だよ、ワード®。わー、どうしましょう、どう?」
さすがに三回繰り返されると笑い……というか、苦笑いが自然と浮き上がってくる。結局、私は「おもしろい」と思ってしまった。
この人のバイタリティは……バイタリティだけは尊敬できる。他はどうかと思うけど。
まあ、なんだかんだと言って、いい職場に派遣されて幸せだなって思っている。
でも、そんな平穏な日常も、突如、崩されることになった。
「ねえ、今度、エクセル®マクロの勉強会で、みんなでエクセル®マクロをいじりまくろうと思うんだけど、参加しない?」
「え、私が参加していいんですか?」
「もちろん。それより、『いじりマクロう』と『マクロ』って、ダジャレっぽくて可愛くない?」
やっぱり寒い。それに、私は理系じゃないし、マクロのマの字もわからない。やっていけるのかな。
「あの、本当に私なんかが参加していいんですか?」
「うん。それより、今のどうだった?」
「勇気があると思います」
どうしてだろう?
この人と話をする時、圧迫感を感じない。でも、マクロなんて、私でもできるんだろうか?
もちろん、派遣社員なのにこんなチャンスをくれることは嬉しいことだけど、大丈夫かな。
「わかりました」
圧迫感の無さに気を取られたのか、思わず返事をしてしまった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マクロ勉強会に参加したものの、私の頭はただひたすら混乱しているだけ。そもそも、「概念」っていうものが全く入ってこない。
しかも、会議室の入り口側に座った例の上司は、余裕の笑みを浮かべている。
上司もマクロのことは全然わからないと言っていた。しかし、元プログラマというだけあって、的確な突っ込みを入れてくる。
主催のファシリテータよりもたくさんしゃべっている。もしかしたら、ファシリテータの振る舞いに不満を感じて、ファシリテータを育てるためにほどよくしゃべっているのかもしれない。
私はマクロ勉強会が終わった後、宿題について上司に訊いてみた。
マクロ勉強会は、最後に宿題を決め、それを次回、発表するという形式をとっている。今回は、まだ、マクロの概念を勉強しているので、上司が宿題を提案した。
「あの、これ、何をやったらいいんですか?」
今の私は、絶対、キュートだ。以前、上司も言っていた。「君の笑顔はプレゼントみたいなものさ」と。でも、どのツラさげて言っているんだろうというのが本音だったけど。
「これは、みんながうまくいかなかったり、思うようにいかなかったりして、あれこれ気づいてくれることが目的なんだ」
え? そういうこと?
さらに上司は続ける。
「このマクロ、三回、似たようなことをするよね。だから、実は一回だけレコーディングして、ソースコードを開くと――」
私は上司に言われるまま、レコーディングしたマクロのソースコードを開き、説明されるがままにパソコンの操作をした。
やることは簡単。ひとつだけマクロを作って、あとはコピー、そして、二か所だけ、短い文字を書きかえるだけ。これで、あっという間に出来上がってしまった。
私だけでは見てもただの英語の羅列にしかみえない。でも、上司が横から指をさすと、なんとなく意味がわかってくる。
プログラミングなんてしたことないけど、よく見ると、英語だけど聞きなれた単語が並んでいる。もしかして、上司、すごいの?
なにかこう、一瞬だけど理解できた気がするし、本当に私の手がこのマクロを追加した。これは間違いのない事実だ。
「これ、みなさんと共有していいですか?」
この問いについて、上司は想定外の斜め上、いえ、斜め北北西プラス三度な回答をした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「君が発見したことにして、課題の意図だけを伝えたらいいんじゃないかな」
どうやら上司は私を英雄にしたいらしい。
「こんな感じで――『これは、私が発見したやり方で、レコーディングミスを減らすことができます』って説明するのさ」
ちょっと優等生っぽい口調で上司は話した。私はそんなに目立ちたくない。それなのに、なんでそんなことを言うんだろう?
「どうしてですか?」
「君にはずっとここで働いてほしいから、色々と活躍してね」
え? 今、「君」って言った? それより、どうして上司には圧迫感を感じないんだろう。
上司は、なんと、小声で「キャラ変」をやり始めた。なんでも、最近、気に入っているアニメで、演劇部の新入部員がキャラクターを切り替えて先輩を楽しませるというストーリー。
小悪魔系の演技には耐えることができたけど、ツンデレ系には負けた。私は思わず口を押えてしまった。
上司はマジ、ロン毛。それをほどいてツインテにしたから。
不覚にも私はツボにはまってしまった。さらにクール系、バレー部の先輩系と、訳のわからない展開が腹筋の震えを加速させる。
笑い声はあえて抑える。腹筋が全力で声を出さないようにがんばっている。震えているのが脳まで伝わってくるけど、ここは我慢。
私は十秒以上かな、口元を押さえて我慢した。
初めて見る上司の自然なロン毛、それに加えてツインテ。これに負けた。悔しいけど「敗北」の二文字しか思いつかない。
しかも、上司と目が合うたびにあのやり取りを思い出し、思わず腹筋に力が入り、自然と口を手で押さえてしまう。
私は数回深呼吸をし、ちょっと落ち着くとグループチャットで上司の意図を他のメンバーに伝えた。
なるべく、私なりの言葉を選んで。送信前に読み直すと、なんだか上司を尊敬している雰囲気を感じる。
でも、そんなことない。私にとって上司はただの上司。それ以上でもそれ以下でもない。業務の指示をしてくる、そして私はそれに応える、それだけの関係。
なんとなく、自分のやっていることが嫌になって来た。
上司に個別に教えてもらいながら、他のメンバーよりもはるかにランクアップしてしまった、ただの派遣社員の私。まるでカンニングだ。
あ、でも、マクロ勉強会は理解さえできたらカンニングし放題って言ってたな。
それにしても上司のギャグ、マジ、寒いんだからさ。あ、でも、最近、暑くなってきたらエコかも。ま、その辺りはちょっとだけ褒めてあげよう。
そんなこんなで、上司とのやりとりが増えて気づいたことがある。これはちょっとうれしいこと。
上司はいつも私に話しかける時、膝立ちになって話しかける。
そうか、この人、私に圧迫感を与えないように膝立ちになって話しかけているんだ。
しょうもないギャグばっかり話してうっとおしい上司だけど、もしかしたら私のこと、すごく気遣ってくれているのかもしれない。
これに気が付いてから、急に気持ちが楽になった。
そうだ、私には、このしょうもない上司がいる。どんなことがあっても、きっと、この上司なら私を守ってくれる。
仕事が終わり、オフィスから外に出ると、外はかなり蒸し暑くなっている。バス停に立っていると、たくさんの車が通り過ぎていき、ちょっと排気ガスのにおいがする。
私はもっとこの会社でがんばってみようと、心中にある賽銭箱に、気持ちだけの百円玉を投げた。でも、私をツボにはめたいだけの上司には、適切に対処してあげる。
覚悟しておきなさい。いつか私がツボにはめるんだから。
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数ある小説の中から読んで頂き、ありがとうございます。
本エピソード中に出てくるアニメは「疑似ハーレム」です。今期もおもしろいアニメがたくさん放映されていますが、あまり期待していなかったのに、観たら、もう、ツボにはまっちゃって。
それで、本作品を書いてみました。
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