金髪女子高生とギターと⑤最期の通学路~彼氏(予定)の過去は伏字だらけだった件

綿串天兵

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変かもだけど助けたいの

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 大学祭に行った翌日の日曜日、また、あたしは旅に出た。とは言っても、あたしの家の近くの駅から電車に乗り、運転士さんから乗り放題切符を買ってひたすら往復するだけ。片道約二十五分。

 いつも、大きな駅に向かう方向しか乗らないので、反対側の景色は興味深い。それに、終点駅は二つあるので、気を紛らわせることができる。

 そういえば、この路線、電車としてはカーブ半径が日本最小らしい。葉寧はねいが言っていた。

 あたしは、電車らしからぬカーブを曲がっていく流れるような景色を眺めながら、昨日、大学祭の帰りに颯綺さつきに言われたことを思い出していた。


  ♪  ♪  ♪


楼珠ろうずさん、今日は、二海ふたみさんにいっぱい甘えてごめんなさい。私、二海ふたみさんのこと、好きです。大好きです。でも、二海ふたみさんとは結婚できないんです」
「どうして?」

「すみません。両親から口止めされていて……法律上の問題で……このことは、二海ふたみさん、知らないはずなので内緒にしておいてください」
「信じるけど、あたしたち、まだ付き合っていないから」
「でも、楼珠ろうずさんと二海ふたみさんは相思相愛です」
「そんなことは……」
楼珠ろうずさん、今のようにウジウジしていたら、誰かに二海ふたみさん、取られちゃいますよ」

 そうだ、はっきりさせないと。あたしはもう、以前のあたしとは違う。

二海ふたみさんの気持ちは訊いてないけど、あたしは二海ふたみさんのことが好き」

 少しの間が空いた。なにか、言いにくそうなことを言おうとしている感じ、男子生徒があたしに告る時と同じ空気。

「あの、今だけは甘えさせてください。もし、一線を越えたとしても許してください。絶対に、結婚はしませんから」

 一線を越える……すごい覚悟している感が出ている。オーラって本当にあるのかも。

「あの、楼珠ろうずさんが彼女で、私は愛人です」
「う、うん」

 うぅ、もう気迫で押されて、思わず返事をしてしまった。


  ♪  ♪  ♪


 電車が終点に到着した。ここは運動公園になっていて、トイレがある。ちょっと座りづかれていたので、電車を降りてトイレに向かった。

 二海ふたみさん、颯綺さつきに迫られたらどうするんだろう?それに、空手部の女の人、二人とも二海ふたみさんの元カノ、あたし、八回も受け入れられるのかな。

 ダメかも。復縁されちゃうかも。だって、受付さんだって、すごく綺麗で優しい人だった。颯綺さつきだってマイナス点をつけるところがない。


  ♪  ♪  ♪


 翌週の木曜日、下校しようと階段を降りていたら、穂美ほのみとよく一緒にいる男子生徒たちの声が一階の方から聞こえてきた。

 階段を下りている途中のあたしには気が付いていないようだ。

「あの口コミの件、やばいんじゃないの?」
「なんか、書き込み元、特定されているらしいじゃん」
「警察に被害届出されたら、まずくね?」

 きっと、しんあい食堂のことだ。

「寺沢に全部、押し付けるのがいいんじゃないかな?言い出したのは寺沢だし」
「頼まれたのは事実だしな。KINEのやりとりも、そういう解釈で不自然じゃない」

 下の階から、トテっトテっという足音が聞こえ、颯綺さつきが階段を登って来た。颯綺さつきはあたしの手を掴むと、二階の廊下まで引っ張っていった。

楼珠ろうずさん、お願いがあります」
「ど、どうしたの?」
「寺沢先輩を助けてください」
「どういうことかな?」

 あたしはわざとシラを切った。

「私、薄々気づいていました。悪いのは寺沢先輩ですけど、何とかなりませんか?」
「どうしてあたしなの?」
「以前、SNS騒ぎを片付けた王女様ですから。それに……」

「それに?」
「私、陸上部のマネージャーで、先輩と同じ中学で、ずっと同じ部活で、あこがれの人なんです。悪い人じゃないんです」

 あたしはとっくの昔から気づいている。でも、ここで穂美ほのみ颯綺さつきを助けて、あたしにとって、いいことがあるんだろうか?
 善人なら間違いなく助ける。でも、あいにく、あたしは善人じゃない。

「ごめん、ちょっと……」

 血の気が引いてその場にしゃがみこんでしまった。あたしなら助けない。でも、きっと二海ふたみさんなら助ける。あの人はそういう人だ。二海ふたみさんに顔向けできないようなことはしたくない。

 その夜、大通り図書館からの帰り、二海ふたみさんに相談した。

「グルになっている生徒がね、穂美ほのみだけを悪者にして先生に相談するって」
「それは楼珠ろうずにとって良くないこと?」
「うん、穂美ほのみ、根はいい子だから。きっと、彼氏が色々とあたしの悪口を言ったんじゃないかな」
楼珠ろうずは優しいね」
「そんなことない」
穂美ほのみさんに直接、その話をしたら?」
「そんなことしたら、今度は穂美ほのみが孤立しちゃう」

 |二海ふたみ《ふたみ》さんは、右手をあごに当て、何か考え始めた。

「なんとかなるかも」

「どうするんですか?」
「ちょっと残酷だけど、穂美ほのみさんのKINEアカウントを削除する」
「そうするとどうなるんですか?」
「相手のKINEでは、『メンバーがいません』とトークに表示されて、証拠隠滅」
「でも、穂美ほのみ、自分でアカウント削除なんて、理由も言わずにするわけないし……」
「スマホを借りればできるよ。ロックされていても。トラブルに見せかけて」

 え?

「そんなことできるんですか?」
楼珠ろうずさ、平川くんと話できるかな」
「はい、前にKINE交換してます。音声通話しますか?」
「ああ、頼むよ」

 あたしは、平川くんに電話をかけた。

「もしもし?あ、楼珠ろうずです。二海ふたみさんが話したいって……じゃあ、替わるね」

 二海ふたみさんにスマホを渡すと、簡単な挨拶のあと、何やら難しい話を始めた。

「平川くんの家に、使ってないスマホで、シムロック解除しているやつある?」

「ないか……じゃあ、俺のを楼珠ろうずに持たせるから、説明するね」

 三分ほどかな、何やら平川くんと二海ふたみさんはスマホをあたしに返してくれた。あたしは、このスマホを絶対に捨てない。


  ♪  ♪  ♪


 そして翌日、授業が終わり、ほとんどの生徒が教室を出るのを見計らって穂美ほのみに声をかけた。

穂美ほのみ、言いにくいんだけど、あたしのこと、嫌いだよね」

 穂美ほのみは立ち上がり、あたしをにらんだ。

「いつから気づいていたの?」
「保健室の時だよ。四月のこと」
「そんなに前から? どうしてわかったの?」
「あの時、あたしが、『髪の毛を黒く塗られた』って言っただけなのに、『墨汁』って言ったから」

 穂美ほのみは口元を固くした。舌打ちをしたのかな。

「他にもあるよ」
「なによ」

「図書室でのいたずら。あれ、穂美ほのみでしょ」
「……証拠はないわ」
「そうね。偶然、キーワードゲームの仕掛けを知っていて、さらに偶然、あたしが中学生時代にいじめられていたことを詳しく知っていた人ね。すごい確率」
「そ、そうね」
「そうなると、五人に絞られるわ」
「他に気づいていた生徒がいるかもしれないわよ」

 あたしは穂美ほのみの反応を無視して話を続けた。

「夏休みのイベントの時、あたしが出演するのを知っていたのは、穂美ほのみだけなの」
「そんな……葉寧はねいさんとかは?」
「他のみんなは、スイッターであたしの写真が炎上したから、『楼珠ろうずは出演しない』と言って友だちを誘ったの」

「あの時、土下座した男の人たちは?」
「あれはサプライズ。予定通りのね」

「それから、しんあい食堂の口コミのこと」
「あれは、私、知らないから!」
「『あれは』、なの?」

 穂美ほのみは何も答えず、うつむいたまま震えている。

華琵はなび、あ、ギターを教えている子、あの子がしんあい食堂の子って知っているのは、穂美ほのみだけだから」

「でも、学校とは関係のない誰かがやったって可能性だってあるよ」
「そうね。警察沙汰になればはっきりするかも。調べたら特定できるって」

 穂美ほのみの顔から血の気が引いていくのがわかった。そうか、こんな風に見えるんだ。日焼けしているのに、少し青白くなっている。

「そうよ。私、中学の時、駅前の塾に通っていたから、色々な学校の子たちと知り合いで」
「駅前のところ、レベル高いもんね」
楼珠ろうずのこと、最初は教えてくれなかったけど、あなたと一緒に仲良く写っている写真を送ったら、教えてくれたわ」

「そう」

「食堂も、この付近で『食堂』っていう名前のお店は一軒だけだったから。ごめんなさい、全部、私です。あの、都合のいいお願いってことはわかっているけど、このことは他のみんなには言わないでください」
「うん、言うつもりだったら、こんな時間に話さないよ」
「その、都合よすぎるよね、こんなに酷いことをしておいて」

「帰ろうか。歩きながら話そ。その方が気持ちも少しは楽になるよ」
「うん」

 あたしたちは、下駄箱で靴を履き替え、自転車置き場へと向かった。

「あたし、中学校の時、学校の対応も悪くてさ、すごく辛くて寂しくて」

 穂美ほのみはうなずいた。

「そんな思いを穂美ほのみにして欲しくないなって」

 穂美ほのみはあたしを見つめた。何かを我慢しているような表情。目にはすぐにでもこぼれそうなぐらい、涙がたまっている。

「ひとつお願いがあるの」
「何でも聞くわ」

「パン屋ジョンドで、生クリームパンとチョコラスクを買ってきて欲しいの」
「そんなことでいいの?」

「今日、華琵はなびが東門の前で待っているから、食べながら歩いて、穂美ほのみを『頼りになるお姉さん』って紹介したいの」

「そんな……」

 これで、これからの話を断りにくいように流れが変わる。全て二海ふたみさんから授かったシナリオ。

「大丈夫。あの子、口コミの犯人、知らないから。それに、華琵はなび、陸上部で穂美ほのみのことを知っているの。憧れている人が実は悪い人だったって知ったら、華琵はなびもへこむよ」
「そうね。わかった」

「でも、一応、スマホは預からせて。穂美ほのみが東門に来るまで」
「ええ、いいわよ。何ならパスコードも教えるわ」

「それはいらない。預かるだけでいいよ」
「じゃあ、行ってくる」

 そう言い残すと、穂美ほのみは自転車にまたがり、東門とは反対の方向へ走っていった。合流するまで、十分以上はかかるはず。

 二海ふたみさん、すごい。二海ふたみさんのシナリオ通り。東門まで走っていくと、華琵はなびが手を振っていた。

華琵はなび、お待たせ。あ、ちょっと待ってね。平川君、これ」
「はい。でも、本当にそんなこと、できるのかな」

 葉寧はねいには、平川君との関係がばれると面倒だからと説明して、先に帰ってもらった。
 あたしは華琵はなびに見えないように少し離れてから、穂美ほのみのスマホと二海ふたみさんのスマホを渡した。

「こっちのスマホのパスコードは、四五六八三七六七三だから」
「了解です」

 鈴木君は、二つのスマホを持ち、カバーを外している。そして、クリップを取り出し、伸ばした。

「えっと、四、五、六、八、三、七、六、七、三……と」

 鈴木君がこっちを見て、ニヤニヤっと笑った。早くしないと、穂美ほのみが戻ってきちゃうよ。

「もう、どうしたの? 急いでよ」
楼珠ろうずさん、どうしましたか?」

 あ、華琵はなびもいたんだった。

華琵はなび、後で寺沢てらさわ穂美ほのみさんが、すごくおいしいもの持ってきてくれるって」
「え? あの、陸上部の寺沢てらさわ穂美ほのみさんですか? とても楽しみです!」
「もう少ししたら来るから、ちょっと待っていようね」
「はい、わかりました」

「完了です」

 五分で終わったみたい……すごく長く感じたから。でも、二海ふたみさんのスマホの時計で時刻を確認すると、五分しか経過していなかった。

 少し経って、穂美ほのみが自転車を走らせてやってきた。平川君は背中を向けて、事がどう動くのか気にしているようだ。

「あ、穂美ほのみ華琵はなび、待ってるよ」
「ごめんごめん。華琵はなびちゃん、これ、みんなで一緒に食べながら帰ろうよ」

 穂美ほのみは自転車から降りると、左手に持った袋を器用に広げた。

「寺沢先輩、初めまして。前回の大会、観てました! うわー、すごくおいしそうです。私、甘いもの好きなんです」
「好きなの選んでね」

 穂美ほのみは、あたしにも生クリームパンをくれた。袋を開けて半分にちぎり、穂美ほのみの口の前に持っていった。

「一緒に食べようよ」
「あ、でも……」

 穂美ほのみは、左手に袋、右は自転車を支えているので、両手がふさがっている。あたしは、穂美ほのみの口に生クリームパンを押し込んだ。

 そして、スマホを見せると、穂美ほのみのバッグに入れてあげた。

 甘いものは人の気持ちを柔らかくする、誰かが言ってたっけ。

 これで、穂美ほのみのKINE、送信相手のデータも全部、消えたはず。もう、穂美ほのみは裏切られることはない。

 そして、穂美ほのみもあたしに仕掛けてくることもない。

 ふわっと、ちょっと冷たい風が吹き、華琵はなびの髪が揺れた。いつもこの歩道で感じる、油っぽいにおいのする風ではなく、秋の始まりを感じさせる憂いのある風だ。

 そうか、西から風が吹いているから、排気ガスのにおいがしないんだ。

 あたしは、今度こそ本当に平和な学校生活を送れることを確信した。きっと、この三年間で最高のクラスになるんじゃないかな。

「きゃっ」

 華琵はなびが耳を押さえた。

 ゴロゴロッという、地面まで振動するような大きな音が上から聞こえてきた。

 空を見上げると、真黒な雲が広がっている。さっきまでは晴れていたのに。ところどころ光っているから雷雲かもしれない。

「あれ? なんだろう?」

 あたしたちは、光に包まれた! もしかして雷の中なの?



   ----------------



あとがき
数ある小説の中から読んで頂き、ありがとうございます。

「金髪女子高生とギターと」シリーズはこれで完結です。

できたら、パスコードの謎を解いていただけるとうれしいです。

KINEのくだりは、ちょっとリアルすぎてやばいので、あえて詳しくは書いていません。実際に、テスト(ワタクシ、ガジェットギークでもあります)してみました。


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それではまた!
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