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03 王都への帰還

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 都に戻り、西門をくぐったときには、とっぷりと日が暮れていた。

 ちょうど夕飯時なのだろう。
 民家からは夕食の支度をする匂いが漂い、食堂や酒場には客足が増え、通りには串焼きなどの屋台が出ている。

 酒場の窓から、太いソーセージにかぶりつき、ビールを飲み干す男が見え、屋台では棒に刺して回しながら焼く豪快な肉料理が売られている。

 食欲をそそる匂いに、思わず腹が鳴る。
 夕飯はこの辺で取るのもいいな、と考えながら、王立警察署に向かった。

「お疲れ様」
 リンディに出迎えられた俺たちは、テーブルとソファのある応接間に連れて行かれた。

 村から簡単に連絡したが、そこで委細を報告した。

「こっちも連絡を受けてから改めて調べたんだけど、オークのダンギにはゲザン鉱業から暴行の被害届が出されてるわね。その会社が絡んだ話の通り、ルイーザは国土管理局に土地の調査を依頼してたみたい」

「国土管理局?」
 アキノが聞いた。

「王立の機関で、ルーゼニア王国の土地はそこがすべて管理しているの。調査も採掘も事前にここに手続きしないといけないし、採掘目的で土地を売買するなら、調査結果を伝えて許可書を出してもらわないといけないの」

 リンディは法規に詳しいようだ。
 警察なのだから、当然といえば当然か。

「勝手に地面ほじくり返して、妙なものが出てきても困るでしょ」

 冗談ではなく、調べずに地面を掘ったら何が出るか分かったものではない。

 お宝なら儲けものだが、凶悪な魔物が地中に封じられている可能性だってある。

 現に鉱山から溢れ出てきてしまったモンスターを倒してくれという、大人数で取りかかった大規模な仕事もあった。

 ああ、あの依頼を出したのが他ならぬ国土管理局だったな。

「それで、ルイーザが出した依頼はどうなっているのだ?」
 とリュウド。

「なかったことになったみたい。依頼者である彼女が死んじゃったから。ああいうのって、依頼した人に不慮の事態が起こるとキャンセルされちゃうものなの」

 そうそう死因が特定できたのよ、とリンディは羊皮紙の書類を手に取った。

「致命傷になったのは鋭利な刃物による傷で、正面から斜めにばっさりやられて、トドメにお腹を一突きね。見回りの途中だったから、防具は小手ガントレットと簡単な胸当てくらいしか付けてなかったみたい。傷口から見て、凶器は一般的なロングソードかそれに類似したもの。この手の武器はいくらでもあるから、特定は難しいわね」

「魔法による麻痺もあるんじゃなかったか?」
「そう、背中と右足の膝下。剣と魔法が同じ者の仕業か分からないけど、犯行は複数人によるものよ。色んな方向からの殴打痕が多数あったの」

「滅多打ちにされてたっていうの?」
 顔をしかめるアキノに、リンディは唇を噛みながら頷いた。

「斬られた傷で身動きの取れないところを棍棒や拳で打ちのめされたり、蹴られたんだと思う。これで分かったのは、やっぱり犯人はオークじゃないっていうことね」
 リンディは握り拳を作る。

「拳でできたと思われるあざの形と大きさが、明らかに人間サイズだったの」

 オークの拳は成人男性の物と比べて、倍はある。
 それで殴り付ければ、あざも相応の大きさで出来るはずだ。

「ルイーザは相当な剣の達人だったと聞く。体に麻痺が出ていようと、死に至るほどの斬撃を与えるには、斬るほうもそれなりの腕が必要になるはずだ」
 刀剣を扱うリュウドの言葉だけに説得力があった。

「だよなあ。剣の使い手か」
「騎士団で聞いてみたらどうかな?」
 アキノの提案に俺は首肯しゅこうした。

「騎士の資格には一定以上の剣術が求められるからな。腕に覚えがある剣士の情報は自然と集まる」

「騎士団なら警察うちから伝手つてがあるわよ。今夜これからはさすがに無理だろうけど、明日にも話を聞けるように連絡しときましょうか」

「そうしてくれ。あっ、そうだ」
「なに?」

「村長から手掛かりになりそうな物を預かってきたんだ」
 バッグから小さな木箱を出して、差し出した。

 リンディは蓋を開けて、中にある布の切れ端を確認する。

「ルイーザが死んだときに握ってたらしいんだ。何か分かりそうか?」

「その辺で売ってる衣類の切れ端だろうけど、スパッと刃物で切られたみたいね。彼女が剣で切ったのかしら? 彼女の装備品と同じように、これも魔法捜査研究所の魔法薬分析検査に回してみる。何か染み込んでたり付着していれば、犯人に繋がるかもしれない」
 彼女は慎重に蓋をしめた。


「容疑が晴れたなら、これでダンギとその仲間は釈放だろ?」

「そうなるけど、今すぐ警察から出すのは危ないかもしれない」

「危ないって何が?」

「広場の騒ぎが色んな所に飛び火してね。犯人であろうとなかろうと、オークの村を討伐してやるって騒ぎ立ててる連中が出てきてるのよ」

 人と共存を望むモンスターへの迫害は根強く残っており、そんな奴等は残らず殺してしまえと主張する者はまだまだ多い。

 その層が今回の件を受け、活発化しているわけか。

「オークを半ば無理矢理引っ張ってきたが、今度は放せないってことか。何だかお粗末なことやってるな、ここの警察は」

「ええ、お叱りごもっともです。悪いけど、もう少しだけこの不甲斐ない警察の代理を務めてちょうだいよ」

 騎士団に顔を出して良い時間は約束が取れ次第連絡する、と言われ、俺たちは警察署を出た。


 仕事帰りと思われる王都民が加わり、通りにはさっきよりも人通りが多くなっていた。

 行き交う人の流れを見ながら、ふと南門に目をやると、冒険を終えてきたと思われるパーティーが入って来る。

 疲弊しきった彼らは、飯だ飯だ、と手近な食べ物屋に駆け込んでいった。
 ああして明日へのかてにありつけるのも、命懸けの冒険から無事生還できた証だ。

 グゥ~グキュルル

 隣から大きな腹の虫の鳴き声が聞こえた。
「わ、私たちもご飯にしよっか」
 照れながら、アキノが言った。
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