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2章 開口

20話 完治して

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ピーピーとアラームが鳴り、俺は目を開けて治療液が排出されるのを待った。
治療液が排出されると、カプセルの中で風が吹き服を乾かしてくれて、俺はやっと外に出る事が出来たんだ。


「リハビリもいらないが、やっぱり身体は重く感じるな」


初めての感覚で動きにくいが、今回の治療中に色々とスキルを覚えたのは怪我の功名だった。
分割思考に魔力吸収と、他にも色々と使えそうでニヤリとしてしまった。


「アンドロイドを同時に動かせるのは助かるな」


自分が何人もいる感じで、動かさなくても使えるようになったんだ。
これが宇宙でも使えていればと思ってしまうが、使えなかったのは仕方ないと、みんなが戻って来るのを待っていた。


「せっかくだ、アイーダたちの為に何か作るかな」


本体では初の顔合わせで、今後はこちらで医者をする予定だから、好感を持てる様にしたかった。
指導もするから甘くし過ぎる訳にもいかないが、メリハリは付けようと気持ちが引き締まったよ。


「とはいえ、喜んでくれるかは分からんけどな」


健康を考えた野菜中心の料理で、トマトの煮込みやピーマンの肉詰めと、健康診断で不足していた栄養素を考えた。
味は良いんだが、好き嫌いはあるだろうと心配したが、家に着いたアイーダたちの顔を見て、そんな不安は消し飛んだよ。


「待ってたぞみんな」
「美味そうな匂いがする」
「そ、そんな事より、どうしてマルセルがもう1人いるんだ」
「その話しは後にしようアイーダ、今日は祝いだから、まずは存分に食おうじゃないか」


家の外に並べたテーブルにみんなが集まり食事が始まったが、誰一人苦手な物がない様で勢いが凄かった。
作ったかいがあったと、俺は凄く嬉しかったぞ。


「良く食べるな」
「これだけ美味いからな・・・なぁマルセル、少し歩かないか?」
「マリーナ?」


かなり深刻そうだった為、俺はマリーナの要望に応えて家を離れて行く。
一体どうしたのかと気になりながらついて行き、アンソンの事だろうとマリーナが立ち止まってから聞いたんだ。


「知ってたのか?」
「アンソンが強くなってるのは、俺の指導が始まってからだからな」
「そうだよな・・・じゃあ」
「ああ良いんじゃないか」


マリーナの言葉を最後まで聞かず、俺は返答したんだが、マリーナはそれを聞いて喜んでくれた。
俺の手を引っ張るマリーナに途中で謝られたが、俺は元々親の様な感覚だし、気にするなと返したよ。


「でもなマルセル、初めてはアンソンにするけど、マルセルにもしてほしいんだ」
「それは浮気と言うんじゃないか?アンソンが悲しむぞ」
「そんな事はないさ、アンソンも分かってくれてる」


アンソンを愛してて、子供は俺のが欲しいと真剣に言われてしまい、俺はどうすれば良いのか混乱してしまったよ。
しかし、ここではそれが普通らしく、強い子供を授けてくれと言われてしまった。


「か、考えさせてくれ」
「無理強いはしないぜマルセル、アンソンといつまでも待ってる」


子供は早く欲しいが、俺の気持ちを優先すると言ってくれるマリーナは、ほんとに乙女の顔をしてて、俺は戸惑ってしまったよ。
家に戻ってもドキドキは収まらず、大人になるのが早すぎとため息が出てしまったな。


「でも、娘の成長は嬉しいから複雑なんだよなぁ」


吹っ切れて楽しそうなマリーナは、更に成長したように見えて、微笑ましいと笑顔が漏れた。
その矛先が俺と言うのが問題なだけで、その時は覚悟を決める。


「娘に手を出すわけだが、異世界じゃ良くある事でもあるんだよなぁ」


複雑な気持ちが更に増して悩みのタネだけど、平和を感じるのは何故だろう。
みんなの笑顔がそうさせるのか、嫌ではなくて楽しいと感じたよ。


「ディーナたちにもそんな体験をさせたいな」


あの子たちはどうしているだろうっと、空を眺めて感傷に浸ってしまったが、それが出来ないのは自分が一番良く分かっていた。
早く連絡をしたい、その気持ちは大きかった。


「っと言う事で、戻ったら治療院を開くわけだが、アンドロイドはそのまま使って、冒険者を続ける」
「アタシたちと冒険者をするのがアンドロイドのマルセルで、エムゼロと呼ぶんだな」
「その通りだマリーナ、そして医者がマルセルだな」


分割思考でそれが出来る事をアンドロイドと並んで証明し、宴会芸の様にふたりで交互に話しを進めていった。
みんなは楽しそうに見ているが、どれだけ動けるかのテストで、空手の演武をしたんだが、俺のリハビリにもなって好評だった。


「後は、手先のリハビリをしたいが、手術をするわけにもいかないからなぁ」


衛生兵の時の様に、戦いで傷を治すわけでもないと、俺は歯医者で少しずつと考えたんだ。
そして、フラグの様だったことに気付かず、ルーオンでは問題が起きていた。


「なっ!?」
「なによあれ!?」


ルーオンに戻った俺たちを待ち受けていたのは、まだ開業してない治療院の前に出来ていた行列だった。
パンデミックを抑える野戦病院の様で、ここは戦場かと思わず叫んでしまったよ。
スラムに残っていた者たちに聞くと、痛を伴わないで歯を治してくれるのが広まったらしい。


「随分早耳だな」
「それだけみんな困っていたんですよ」
「とはいえ、さすがにこの数は捌くのに苦労しそうだ」


これは使えると、準備していたアンドロイドをすべて出し整列させた。
分割思考で俺の動かせるのは最大限5体、出したのは10体で、残りはアイーダたちに使って貰うんだ。


「あ、あたいたちにかい!?」
「そうだぞアイーダ、ナノマシンの認証は済ませてある」
「「「「「い、いつの間に」」」」」


戻って来たら、少しずつ教える予定だっただけだが、アイーダたちが驚き感心してるので、俺の扱うアンドロイドと並んで治療をする様に説明したんだ。


「だ、だけどよ、いきなり本番は無理だろ」
「いきなりはやらせないぞアイーダ」


最初は、俺のアンドロイドの視点で見学できるから、タブレットでの指導から始まる。
見てるだけと思うかもしれないが、アンドロイドと意思共有しているので、今日の夜に睡眠に入った時、睡眠学習が始まり出来るようになるんだ。


「このタブレットと言う板、ほんとに便利だなマルセル」
「ああ、よく見ておけよアイーダ」
「もちろんだマルセル」


アンドロイドが治療を施す映像は、俺が解説をするという指導付きで、アイーダたちは何となく理解してくれた。
本番は先の話だが、現場での作業は何よりも大切な経験値になる。


「でも、口の中は見にくいな」
「そこは考えてるぞアイーダ」


そこで準備するのは、みんなの操作するアンドロイドで、まだそれは出せないが説明は怠らない。
その前段階として、アンドロイドと同期し、指先のドリルで木の彫り物を作ってもらう訓練だ。



「な、何よこれ!?」
「す、凄い」
「手が勝手に動きます~」


見て覚え体で体験する、これが俺の指導方法で、同時に知識もアンドロイドからちょっとずつ頭に送っている。
薬品や道具の名前もいつの間にか覚え、数日すれば一人前だ。


「まぁ、この数を体験できるんだ、下手をしたら明日中には一人前かもな」


それだけの数が並んでいて、最後に数を確認したが550人だった。
それも、かなり重症な虫歯で、アイーダたちは早めに大変な経験ができたわけだ。


「アイーダ、あの数を考えると、明日って増えるか?」
「そうだろうな」
「ここってスラムで人が来ないって話じゃ無かったか?」
「綺麗にし過ぎたのかもな」


街全体を綺麗にしたせいでもあり、つまり俺のせいだとやり過ぎた事を痛感した。
しかし、みんなにアンドロイドを操作してもらうのは決まっていたし、段階を繰り上げたと思う事にした。
その日から、俺たちの治療院は始まり、誰もが知ってるほどに大繁盛していったよ。
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