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1章

5話 家庭教師の理由

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何が起きたのか、そんな事は言うまでもなくて、馬車が襲撃されたのよ。
外から戦う声もするし、その中には魔法や武技の名称も聞こえたわ。


「でも変よ、この国は」
「そうなんだよサザンカ様、それが僕のここに来た理由で、グレイランド国があぶないからなんだ」


マエノは、馬車の扉を開けて外に出ようとしたの。
何も確認もしないで、とても無防備だからそれを止めようとしたけど、マエノの笑顔がそれを止めたのよ。


「平気ですよ姫様、待ってて下さい」
「何よあの顔、あんなの見たら安心するしかないじゃない」


グレイランド国は、強い兵士を多く排出してるけど、訓練と試合しかしてなくて、本気の殺し合いは経験がありません。
戦争をしないで、他国と仲良くしていたこの国だから、こんな事も起きなかったの。


「どうして、何でこんなことを」


アタシは、一生分頭を使ったんじゃないかしらって思う程、この時に考えを巡らせたわ。
だけど、どうしてなのかなんて分からなくて、外が気になって仕方なかったわ。


「マエノは無事なの?」


おじさんは強かったかも知れないけど、彼が戦っている所を見たことはなく、見る限り弱そうなの。


「一度外の騒ぎが増したと思ったら、今は静かになったし、どうなったのか気になるけど、怖いのよね」


それでも、アタシは外を見ようと扉を開けたわ、外は人が倒れていてマエノは一人だけ立ってた。
彼が向いてる先には、アタシの知ってる人が座ってて、マエノは剣を向けてるわ。


「どうして、何でアーヤが」
「ふんっ!何を驚いているのか知らないけど、ワタシはこの為に生きてるのよ」


アーヤは、アタシを睨んで何でも持っていてずるいと、アタシたちを憎んでるのが伝わってきたわ。
どうしてそこまで憎まれるのか、マエノは知っているようで、アタシに振り向かずに語り始めたのよ。


「世界は平和だった。争いは無く、奪い合う事をしないで、みんな平和的に話し合いで済んでいた」
「そ、それがどうしてよ」
「それはねサザンカ、じいちゃんたちの恩恵が薄れてきてるんだ。次代が継いできているとは言ってもね」


欲望は日に日に増して行き、話し合いでは済まない、奪い合いを起こしてしまった。
マエノはそれを止めに来たと言い出したわ。


「じゃあ、あたしの家庭教師になったのって」
「そうだねサザンカ、僕は世界の浄化をしに来たついでに家庭教師をしてる。まだ影響の少ないここで、一番受けているあなたの元でね」


影響の少ない場所から、あたしから始めるつもりだったそうなの。
そして、いまそれが始まったと、アーヤの頭に小さなキノコを付けたのよ。


「そんなことしても無駄さ、ワタシは浄化なんてされない」
「それを決めるのは君じゃない、魔族のツノである松茸なのさ」


マエノが言ってるのは、魔族の象徴であるツノの事で、アーヤはそれを持ってませんでした。
アーヤの頭にそのツノをなく、だから分からなかったのだけど、そのツノは黒い何かをアーヤから取り込み始め、アーヤは地面に倒れたわ。
マエノは、穴を掘りアーヤを埋めてしまった。


「ま、マエノ・・・あたしも埋めるの?」
「サザンカは平気だよ、もう浄化は終わってる」
「え!?」


いつそんな事をしたのか、それは教えてくれなかったけど、確かに浄化は終わってるそうなの。
でも、あたしは変わってない気がする、何が違うのかしらね。


「サザンカは危なかったんだけど、それを自分で何とかしたんだよ」
「だ~から、そんな実感ないのよ」
「まぁそうだろうけど、凄い事なんだよ。だからね、僕は浄化をここから始めたんだ」


そしてこれからもよろしく、そんな事をマエノは笑顔で言って来たわ。
周りの惨状を忘れるくらい、彼の笑顔は晴天を見るくらい明るくて暖かかった。


「でもマエノ、敵は浄化できるとしても、命を落とした兵士たちは助けられないの?」
「ああ、それは問題ないです【バーニングリザレクション】」


あたしの知らない魔法を使ったのか、兵士たちが炎に包まれそれが消える時、兵士たちは起き上がり生き返ったの。
あたしは奇跡だと思ったけど、マエノはそんなモノじゃないと言って来たのよ。


「いいえ奇跡よ、人が生き返るなんて神話の中での事よ」
「その神話は、僕の知ってるお話なんですよ」
「ま、まままぁそうでしょうね」


マエノが話していたのは真実で神話だったと知って、あたしはもう混乱したわ。


「そんなに戸惑わないでよサザンカ。今は隣の国に行くことを優先しよう」


マエノは兵士に指示を出し始め、あたしたちは隣の国に馬車を走らせました。
そこは、間違いなく危険で、あたしはとても心配よ。


「それでサザンカ様、しばらくはまたお話が出来ますけど、何か聞きたいことはありますか?」
「様付けとか今更ねマエノ、まぁ良いけど、何を話てくれるのかしら?」
「そうだね・・・じいちゃんたちの様に、僕も他の世界の記憶を持ってるとかかな?」


何よそれ?っと、あたしは聞き返してしまいます。
そして、マエノは訳の分からない事を話し始め、あたしは余計頭が混乱したの。


「特撮ヒーロー?」
「そうなんだよ、じいちゃんたちはその力を持ってここに来た」
「そんで、それを使って世界を浄化していたのね」
「うんうん、やっぱりサザンカは話しが分かるね。僕はそれを継いだんだよ」


マエノは、薄れていく浄化の補強の為に家を出たそうで、力はその為に借りてるらしいわ。
浄化が終われば、マエノは元の場所に帰るらしく、何年でも頑張るそうなの。


「使命ってやつなのね」
「そんな大層なモノじゃないよ、僕はじいちゃんたちの守って来た、この世界を大切にしたいんだ」
「ふぅ~ん」


あたしはそこに入ってない、浄化をされなかったあたしだから分かったの。
ちょっとイラっとしたけど、家庭教師なのだから、あたしが手伝ってあげると、イライラを払う為に宣言したのよ。
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