上 下
20 / 26
2章

20話 ヨワヨワ勇者の為に

しおりを挟む
「ねぇフィナ、リキト様とはどうなの?」


アタシがジャガイモのツルを引っ張っていると、横で同じ作業をしてたデードリットが肘でツンツンしてきます。
リキトとはとても仲良くしてるし、デードリットだってそうだから、何を言ってるのか分からなかったわね。


「もうっ!分からないの」
「分かんないわよ」
「これだから鈍感同士はダメなのよねぇ~」


何を言ってるのかをデードリットがヒソヒソと教えてくれたけど、リキトとはしっかりと話してる事で、それこそ何を今さらって感じだったわ。
一緒にいるだけで満足で、アタシたちはいつも一緒なのよ。


「あそこで作業してるリキトも、そう思ってるわ」
「そうかもしれないけどさぁ」
「言いたいことは分かるわデードリット、もう直ぐ繁殖期なんでしょ?」


アタシたち獣人は、緑の月から雪の月までの2ヶ月間、そう言った衝動に襲われるけど、アタシは成人したばかりだから今年が初めてなの。
でも、水の月と火の月で起きる戦いの衝動は起きなかったから、きっと平気と答えておいたわ。


「ちょっとフィナ、それは縄張りが荒らされなかったからでしょ、人種族が大人しいだけよ」
「それだってリキトがいたからでしょ、きっとリキトがなんとかしてくれるわ」
「何でもリキトとか言ってるけど、分からないわよぉ~」


リキトが今優先するのは、心の傷を負ってしまった勇者の女性で、今だって彼女の為にジャガイモを取っているの。
フライドポテトと言う、たっぷりの油で揚げる料理と、チキンナゲットとかを作る準備が進んでるわ。


「ほらぁ~あの子に心が傾いてるのよ」
「そうじゃないわよデードリット・・・例えそうだとしても、リキトが決めた事なら何も言えないわ」
「弱気になってるじゃないフィナ、獣人なら一番を狙う物よ」


アタシはリキトを信じてるだけだし、そうじゃないなら、その対象が相応しいか確かめるだけよ。
それに、リキトと一緒にいると伝わって来るの、アタシをほんとに特別に思ってくれてるの。


「信じてるって事ね」
「そうよデードリット、だから変な事言ってないで仕事しましょ」
「はいはい」


とても大きな(5mくらい)カゴを担いで、アタシたちはリキトの後に続いてあの子の休んでる家に向かいます。
外にカゴを降ろして、リキトが使う分と輸送分に分け、デードリットたちに後者を任せてリキトと家に入ったわ。


「リキト、これを回すの?」
「お願いフィナ、肉をミンチにする機械は人力の方が良いんだ」


リキトに言われて、レバーをクルクルと回し、器具の先から肉がニュルニュル出て来たけど、もうお肉の形をしてなくて、これで良いの?っと不安になります。
その間に、リキトはジャガイモを切って、皮が付いたままで油に投入したの。


「リキトダメじゃない、皮は剥かないと美味しくないわよ」
「これはそれで良いんだよフィナ、半月上のポテトフライに塩を適度に振れば出来上がりだ」


味見にリキトがあ~んってしてくれたのを食べたけど、とってもホクホクで美味しかったわ。
皮がパリッとしてて、剥かないで良いのが納得できたの。


「イモなんて、パサパサで美味しくないのに、これ凄いわ」
「そうでしょ、でもそれだけじゃないよ、ナゲットも美味しいし、一番はハンバーガーだよ」
「ハンバーガー?」


専用のパンも作ったらしく、半分に切って丸く焼いたお肉を挟んでいたわ。
野菜も挟んでて、とっても美味しそうだから、リキトにお願いして味見をさせてもらったの。


「お、美味しい~」
「そうだよねぇ~僕も好きなんだぁ~」


リキトの好きと言う言葉と笑顔を見て、アタシはドキッとしたわ。
そんな可愛いリキトを抱きしめて、もう離したくない気持ちになったの。


「気持ちだけじゃなくて、実際に抱きしめちゃうけどね」
「ちょっとフィナ、今は料理中だよ」


あぶないよっと、身体を細くしたリキトにスルリと逃げられてしまったわ。
その後はアタシも手伝ったけど、準備は直ぐに出来て、お盆の乗せてあの子の部屋に向かったの。


「ねぇリキト、あの子元気になるかな?」
「これを食べれば、きっと元気になるよ」


あの子を元気にする食べ物だから、これがダメだと次を考えないみたい。
でもアタシは、作っててとても楽しかったの。
誰かの為に作るのがこんなに楽しいのなら、ダメでも全然良いんですよ。


「でも、やっぱり喜んだ顔は見たいわ」
「そうだねフィナ」


ふたりで扉をノックして部屋に入ると、目を真っ赤にしたあの子がベッドに座っていたわ。
まだまだ掛かりそうな不安が漂っているけど、リキトはお盆のままで彼女に渡したのよ。


「これ」
「そうだよ、ハンバーガーセットを作ってみたんだ」
「あ、ありがとう」


彼女は泣きながら食べ始めてくれて、リキトの狙い通りな展開が見れたの。
食事が終わると、やっと落ち着いた彼女から名前が聞けたわ。


「代々木マホさん」
「はい、槍の勇者と言う事になってます」
「へぇ~槍の勇者なのね」


とても強いはずの勇者様だけど、どう見ても弱そうなの。
だから、彼女は見捨てられたんだと空気が漂ってしまい、アタシは他のお話に変えたくなりましたよ。


「そ、そう言えば、マホさんの好きな食べ物って何ですか?」
「あ、アタシですか!?」
「うん、リキトと一緒に作ってきてあげる」
「そんな・・・悪いですよ」


遠慮がちなマホさんだったけど、何とか好きな物を聞けたわ。
名前はラーメンと言って、パスタやソバの様に細い食べ物みたいなの。


「なるほど、それは僕も食べたいね」
「じゃあ作りましょ」
「あ、あの・・・アタシも一緒に」


元気になったのか、料理作りに参加する事になったけど、マホさんはとっても不器用だったわ。
野菜は切れるけど危なっかしいし、お皿は手滑られて落としてしまったわ。


「ご、ごめんなさい」
「僕がキャッチしたから平気だし、気にする事はないよマホ」
「まだ手の感覚が戻ってないのよマホ」
「違うんです、アタシは前からこうだったんです」


とても落ち込んでしまい、これじゃせっかく前を向けても、また戻ってしまうの。
でも、それをリキトが黙って見てる訳もなく、マホの手を取りジッと見始めたわ。


「あの、どうしました?」
「マホ、君さえ良かったら、ここで働いてみない?」
「ここでですか?」
「うん、ここで働けば君の不器用さは改善できる、僕が直してあげるよ」


簡単に言って来たそんな提案だけど、マホさんは喜んで受け入れたわ。
そこから数日、リキトの教育が始まったのよ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」 前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。 軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。 しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!? 雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける! 登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。

【完結】元・おっさんの異世界サバイバル~前世の記憶を頼りに、無人島から脱出を目指します~

コル
ファンタジー
 現実世界に生きていた山本聡は、会社帰りに居眠り運転の車に轢かれてしまい不幸にも死亡してしまう。  彼の魂は輪廻転生の女神の力によって新しい生命として生まれ変わる事になるが、生まれ変わった先は現実世界ではなくモンスターが存在する異世界、更に本来消えるはずの記憶も持ったまま貴族の娘として生まれてしまうのだった。  最初は動揺するも悩んでいても、この世界で生まれてしまったからには仕方ないと第二の人生アンとして生きていく事にする。  そして10年の月日が経ち、アンの誕生日に家族旅行で旅客船に乗船するが嵐に襲われ沈没してしまう。  アンが目を覚ますとそこは砂浜の上、人は獣人の侍女ケイトの姿しかなかった。  現在の場所を把握する為、目の前にある山へと登るが頂上につきアンは絶望してしてしまう。  辺りを見わたすと360度海に囲まれ人が住んでいる形跡も一切ない、アン達は無人島に流れ着いてしまっていたのだ。  その後ケイトの励ましによりアンは元気を取り戻し、現実世界で得たサバイバル知識を駆使して仲間と共に救助される事を信じ無人島で生活を始めるのだった。  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...