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1章

12話 木の上の農場 

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「すまんミエカル、もう一度言ってくれるか」


獣人殿たちがリキト様の所に滞在している間、わたくしは上司に報告に戻ったのだが、信じられないのか書類を見返しながら聞き返して来た。
何度言われても同じだし、報告書にも同じことが書かれていて、前のわたくしが間違っていたと報告したんだ。


「信じられないでしょうが、わたくしは見たのです」
「ふむ、土を使わない木の畑に、枝や葉で作った牧草地か、読めば読むほど信じられんな」
「それだけでなく、牛や豚の肉は元より乳を加工した品もありました」


季節関係なく育つ作物に、元気の良い動物たちがいて、あそこはまさに楽園だった。
そう言っても信じてもらえず、わたくしは机を叩いて勢いを付けたよ。


「これは全て現実の事で、証拠となる品も持参しました」
「そうなのだが、木の上の農場と言われても信じられないぞ」
「その証拠も持って来たでしょう、苗も必要な資材も今は研究機関にありますし、獣人殿たちが今滞在しています」


獣人殿と言ったわたくしを、上司のエンテル様が嫌そうな顔をして見て来た。
これが前の自分だと思うと、リキト様が怒ったのも分かる気がしたよ。


「リキト様は、平等を愛しています、獣人であろうとも関係ないのです」
「そう言うがなミエカル、あいつらはケダモノだぞ」
「いいえ違います、支え合う仲間です、そのような言葉は不適切ですよエンテル様」
「う、うむ、そうだな」


わたくしがこの考えを変えて見せる、そう決意してわたくしはエンテル様に忠告もした。
持参した品物を調べれば、それだけの敬意を示した方が良いのは明らかで、それが無くてもリキト様は素晴らしいお方だ。


「彼は、間違っていたわたくしたちに、暴力ではなく祝福でもてなしてくれたのです。どうか改めてください」
「そうだな、勇者様の支援も考えないといけない今、マナの多い品はとても助かる、良くやってくれたミエカル」


エンテル様に退出を指示されたわたくしは、そうではないんだと言いたかったのですが、今はこれ以上無駄と、部屋を出て次に向かったのです。
ですが、途中の食堂が騒がしくて気になって覗くと、一緒に戻った部下たちが囲まれ、リキト様の話に花が咲いていたよ。
極秘の事もあるのに、リキト様の名前まで出していて、止めなければいけない状態だったんだ。


「お前たち、極秘案件を話すとは、処罰を覚悟しろよ」
「ミエカル隊長、だってこいつらがリキト様の料理を信じないんですよ」
「そうですよ、あれほど素晴らしい食事を信じないなんて、万死に値します」


そう言ってくるエメルとファジーだが、他の者たちは証明しろと無責任にも言ってくる。
しかし、それが出来るのはリキト様だけで、同じ料理を作ってもダメなのだ。


「お前たち、そう思うなら下に行く申請をしろ」
「そ、それはちょっと」
「すみません」


その程度の覚悟しかない者が、これだから人種族はダメなのです。
周りのやつらの罪はそれだけでなく、リキト様を疑った、それはほんとに罪だと言えた。
どうしてやろうかと思っていたら、部下の2人であるエルノアとイースラが厨房から現れ、とても大きな肉の塊を焼いて持って来たんだ。


「お、お前たち!?その品は」
「許可は貰っていますよミエカル隊長」
「そうです、これはリキト様からの指令で、みなに広めてくれと言われていたんです」


流石リキト様と言える手際で、肉を切り分けている二人を見守ったが、自分も早く指令を遂行したくなりました。
わたくしがリキト様から言われたのは、苗をこちらに植えて育てる事で、自分の部屋は今、沢山の苗に占領されているのです。


「「「「「う、うめぇ~!?」」」」」


リキト様を知らなかった者たちは、肉を食し驚きの声を発し、それを聞きつけて食堂に人がどんどんと集まって来て、その者たちも肉の美味さに舌鼓を打ったのです。
そうだろうと、わたくしたちはドヤ顔を決めたが、これはまだまだ序の口で、リキト様の料理とは比べ物にならない。


「また食したいな」
「物資は降ろしましたし、直ぐにいきましょうよ」
「そう言う訳にもいかんのだエメル、報告は終わったが、まだ苗の配布が残っているし、ビニールハウスの製造もしたい」


部下たちが手伝うと言い出し、苗の分配を急ぐ事になり、そこにいた奴らも手伝うと言ってくれたんだ。
場所は実験施設と、食料を普通に作っている畑が対象で、まずは研究機関だ。


「邪魔するぞ」
「おやおや、人種のお偉いさんがこんな所に、何の様じゃな?」


研究施設に足を踏み入れると、背の低い小人族たちがこちらを睨んで来た。
前のわたくしなら、この視線にイラつき、この者たちを下に見て命令していたが、今はそんな事はしない。


「実は、軍の指示でこの作物を調べてほしい」
「ふむ、普通の苗に見えるが」
「これは、今話題のマナが宿った苗だ」
「な、何じゃと!?」


小人族は苗を真剣に見始め、苗の凄さを実感し始めたよ。
本来研究機関でも、人種なら独自に研究をするモノで、他種族は手伝い程度に留まるモノだから、どうしてと言ってきたのは当然だ。


「そなたらをこの国一と見込んで頼む、この苗を調べて量産できないか試してくれ」
「ほうほう、人種であるそなたがワシらに頼むとは、余程の事じゃな」
「いやそうではないのだ、今までのわたくしたちは間違っていたのだ、この衰退した世界で支え合わねばならなかった」


今まですまなかったと、わたくしは頭を下げ研究を頼んだ。
直ぐに信じて貰えないと思ったんだが、小人族は直ぐに了承してくれたのだ。


「許してくれるのか?」
「ワシたちはもとよりそのつもりじゃった、そちらが勝手に偉ぶっていただけじゃよ」
「そうだったのか、わたくしたちはほんとに分かってなかったのだな、これからは態度を改める」
「そうしてくれると助かるのう」


勝手にとは言っていたが、迷惑は掛けていたのは言うまでもなく、わたくしは謝罪を更に伝え、同時にビニールハウスの資材も提供したのだ。
リキト様の技術があれば、ここでも同じ様に作物が育ち、食料不足も改善される、それを体現させる為ならば、わたくしの頭などいくらでも下げるぞ。


「季節関係なく育つそうだから、期待している」
「すごい事じゃな、任してくれ」
「頼んだ、もし人種の研究者が何か言って来たら、わたくしが仕置きをするゆえ、直ぐに知らせてくれ」


事前に言ってはあるが、気に入らないと思っている者はいるだろうから、上司のエンテル様経由でも伝える事になっていた。


「そこまでするのじゃな」
「ええ、上司は渋っていましたが、協力こそが力なのです」


人種は先を考えていなかった、国王陛下も案じていたのに、わたくしたちは分かっていなかったんだ。
研究施設を出て、わたくしは考えを次に進めたが、問題が山積みで頭が痛くなってきたよ。


「先を見てる王族もいる、あのお方とどう接触するかに掛かっているでしょうね」


次期国王を継ぐのはそのお方が良いのだが、継承権は6番目で一番のお方は以前の自分と同じ思想だ。
その方もリキト様に教育してもらうのが早いが、正直気分を害してしまうから勧めたくない。


「以前の自分がどれだけ愚かだったのか、どうにか自らで分かって貰えないだろうか」
「無理ですって隊長」
「そうですよミエカル隊長、ジェンヌ様にお願いした方が早いです」


自分たちもリキト様のおもてなしがあってこそ、その心の広さと清らかさに心を染められた。
リキト様なしではそれは叶わないし、それだけわたくしたちは腐っていたのだ。


「仕方ない、ジェンヌ様に接触出来る何かを探すか」
「そうですね、幸いリキト様から料理を教わりましたから、それを披露する機会がきっとあります」
「その手があったな、では次の船には絶対に乗らなければならんな」
「「「「はい」」」」


こうして、自分たちの指針は決まり、リキト様の為に動く事が出来たのだ。
勇者の支援が先とエンテル様には言われたが、とても遠くにいて顔も知らない存在よりも、自分はリキト様に尽くしたかった。


「容姿も可愛いですしね」
「こらエメルッ!可愛いだけじゃないだろ、フワフワで香りも素晴らしかった」


エメルとファジーが、とんでもない事を言ってきて、エルノアとイースラもそれに同意した。
自分もそう思うが、尊敬する心の方が高く、運搬を手伝っていた者たちが変な目で見ていて、急いで広めたくなっていたよ。
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