心を掴むのは冒険者の心得!だから俺は引退前に指導する。

まったりー

文字の大きさ
上 下
35 / 63
2章 知名度広がる

35話 ダメダメ村長

しおりを挟む
今頃、ダンジョンではリューブさんたちが頑張っているんだろうなぁっと、倒れていた村人を集めてスープを配りながら思っていました。


「あ、ありがとうございます」
「良いんですよ、僕たちは冒険者ギルドからご依頼を受けてきました」
「そうだったんですね・・・じゃあ、村長が」
「いえ、ご依頼は薬草の採取で、村には様子を見る為に寄ったんですよ」


スープを受け取った女性は、何やらホッとしている感じでした。
普通は村長が出した依頼を受けている方が良いはずなのに変と思って、どうしてそんな顔をするのかと聞く事にしたんです。


「僕は商人のキンブルと言います、村長とお話は出来ますか?」
「それが・・・この村の村長は逃げてしまったんです」
「逃げた・・・じゃあ今の責任者は」
「ワタシです、ティターナと申します」


年齢は僕と同じで20代前半で、とても苦労しているのか疲れた顔をしています。
他の村人もそうですが、食糧難と言うのが良く分かるほどに痩せていたから、スープ以外にリューブさんが用意したパンも追加したんです。


「今は食べましょう、食料は沢山持ってきましたからね」
「でも、ワタシたちには報酬を払うほどの余裕はありません」
「ティターナさん、僕らは様子を見に来たんですよ、これは奉仕です」


貰えるのならそれでも良かったけど、何もないなら今後に期待するのが商人のやり方で、僕は今村を1つ手に入れたのと同じになりました。
ニッコリとしながらどうしてこうなったのかを聞いたのですが、村長は食糧難が始まった初期の頃にいなくなり、それでも頑張っていたら魔素が溢れて倒れてしまったんだ。


「まさに、泣きっ面にハチと言う事ですか」
「はい、村長がいなくなった後も何とかしていたのですが、急に動けなくなってしまったから何も出来ませんでした」
「そうでしたか、じゃあ責任者のティターナさんと取引です」


今、村には世界で1箇所しか採取が出来ない希少な品が取り放題で、それを売ってほしいとお願いしました。
ダンジョンのせいで魔素が溢れた事もお話して、今後は国が優先的にこの村を管理するから、その前に稼ぎたいと僕の心境を伝えたんだ。


「国が管理・・・それって保護と言う事ですか」
「元からそうだったんだけど、そういう事です」


リューブさんが咲かせたあの花は、ダンジョンのある場所で取れると言う訳ではなく、勇者が作り出した奇跡の品だったんです。
その花からは魔力の籠った蜜が取れ、色々な薬の材料として広まっています。


「いまだに誰も代わりの物が作れない奇跡の花、それがここで取れるようになったんですよ」
「だから国が管理するのは分かりましたけど、ワタシが責任者と言っても、正式に引き継いだわけじゃないので、それを聞いたらあの村長は戻って来ると思います」
「ああ、利益を独占されそうなんですね、それなら問題ありません」


既に王族であるサリーヌ様が管理することが決まっているし、元村長が何を言っても逆らえません。
僕が先に採取しようとしているのは、リューブさんに許可を貰い生産体制を作る為であり、村を救う口実だったんだ。


「王都に戻れば書面も作られますし、手順だけが残っているだけですよ」
「王族って、そんな偉い人がここに来ていたんですね」
「たまたまでしたが、最初にこちらに来て良かったです」


予定では、4ヶ所の村に行くはずだったので、他の村の援助をここでする事になりそうです。
魔素花の蜜は人ではいるので、他の3ヶ所から労働者を借りると言う事も考えたよ。


「そういう事なので、ご安心くださいティターナさん」
「そうなんですね・・・でも、他の村はとても遠いですから、宿泊施設とか大変な建設が待っていますよ」
「それも問題ありませんし、移動もこれを使います」


リューブさんから貰った紙で、ペーパークラフトと言うそうです。
変わった鳥の形をしているそれは、僕を乗せて飛ぶ事が出来たんだ。


「そそそ、空を飛ぶんですか飛空馬車でもないのに?」
「これで僕は王都に戻ります、今の責任者のあなたも来ていただけますか?」
「それは問題ありませんが、これに2人は乗れませんよ」
「2人なら余裕ですし、労働者を運ぶのはまた別のペーパークラフトです」


さぁ行きましょうっと、ティターナさんに手を貸して僕はペーパークラフトを操作して空を飛びました。
この旅の間にリューブさんに教えて貰っていたけど、今思えばリューブさんはこの旅が始まる前にこうなると知っていたのが良く分かったよ。


「凄い、これなら王都まで直ぐですね」
「そうですねティターナさん、1時間といった所なので、これからの流れでも決めましょう」
「はい、まずは商業ギルドですよね」
「そうです、そこで生産の件をお話して、工場などの申請をします」


同時に、サリーヌ様が管理する書面も申請し、ダンジョンと村がサリーヌ様の物となるんだ。
それさえ出せば、国王様ですらも簡単には手を出せなくなり、村を捨てた村長が出てきたら笑ってやろうと思っていたよ。


「まぁ王都にいればだけどね」


そんな事は無いと思っていたけど、僕たちが王都に到着して商業ギルドに申請を済ませて帰る時、偶然にもその元村長と入り口で鉢合わせしたんだ。
ティターナさんが驚いて村長と呼んだ事で気づかれたけど、それで済むわけもなくティターナさんが怒って叫んだんだ。


「な、何を言う、ワシは村を助けるために一人でここに来ただけじゃ」
「2月も経ってるんですよ、冒険者ギルドに申請もしないで何を助けるんですか」
「お、お前の様な小娘には分からぬ、ワシはもっと複雑な事をしているのじゃよ」


準備が出来て商業ギルドに訪れたと主張してくるけど、明らかに目が泳いでいるし嘘なのが分かりました。
もう関係ない者なので、ティターナさんにも無視してほしかったけど、怒りの感情が抑えられなかったのは分かるので助ける事にしたよ。


「ちょっと良いですか」
「なんだお前は」
「僕はキンブルと言う商人ですが、そもそもあなたには関係ないんですよ」
「ど、どういう事だ、ワシはあの村の村長だぞ」


それは逃げる前の話であり、もう申請したので違うとしっかり伝えました。
そんな物が受理されるわけがないと言うけど、王族からの申請なので絶対に受理されるし、王都周辺の街や村は管理者のいない国専属だったんだ。


「国から王族のサリーヌ様個人になったんですよ」
「そ、そんな話聞いてないぞ」
「それはそうです、先ほど決まりましたからね」
「そ、そんな馬鹿な」


自分の物を取られたように悔しがってくるので、元村長が村の為に考えた政策を提示する様に聞きました。
ここに来た理由がそれだと先ほど言っていたので、何も無い訳がないと追及したら、何も言わずに顔を赤くして怒ってきたよ。


「怒っても変わりませんよ、早く言ってみてください、それがないなら今までの事が嘘であなたは逃げた事になります、それは責任問題ですから処罰は覚悟してくださいね」
「そ、それは」
「そもそもですね、誰にも言わずに村を出たら不審に思われるのは当たり前です」


2月前の出来事なら尚更であり、結果が出てないから何も言えないと指摘しました。
歩きで片道1日の場所なのだから、依頼を出すなり出来たはずと更に言ってやったんだ。


「そんな人は、サリーヌ様が管理する村には必要ありません、もうティターナさんがいるのであなたは王都で勝手に暮らしてください」
「い、言われなくても、ワシはもう関わらない」
「それを聞いて安心しました、じゃあ魔素花の件はティターナさんと話しますね」
「な、何だと、今なんと言った」


ワザと聞こえる様に言ったら、見事に釣れて僕はニヤニヤして説明をしました。
莫大な利益を得られると知り、元村長は話が違うと言って来たけど、関係ないと突き放してやったんだ。


「わ、ワシは村長だぞ」
「元が抜けていますし、そもそも村人を見捨てる様な人、僕が許しませんよ」
「お、お前に許して貰う必要はない」
「いいえ、サリーヌ様が管理するあの村は僕が取り扱う事が決まっていますから、商人としてあなたは許せないんですよ」


誰かの為に動くのなら、誰にも言わずに一人で動く事はあるかもしれませんが、こいつは自分が助かる為に逃げ出したんだ。
商業ギルドに来たと言う事は、何らかの商売をしているのが予想され、僕はそれを潰す為に今こいつを釣ったんだよ。


「先ほどから何事ですかな?」
「ああ、商業ギルドの方ですね、この方がなにやら言いがかりをつけてきまして、王族のサリーヌ様が管理する政策に歯向かおうとしているんですよ」
「それは問題ですね、ちょっとあなたこちらに同行してもらえますか」
「ななな、何故ワシが」
「それは当然です、王族に歯向かうと言う事は国に歯向かうと言う事ですよ」


元村長が連れていかれ、僕は作戦が成功してせいせいしていました。
これで懸念していた邪魔者はいなくなり、迅速に進めるのが確定したんだ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...