心を掴むのは冒険者の心得!だから俺は引退前に指導する。

まったりー

文字の大きさ
上 下
20 / 63
1章 知名度アゲアゲ

20話 昔の約束

しおりを挟む
みんなの背中を押して、俺は表情を殺してかなり困っていた。


「あの、リューブ師匠・・・どうしたんですか?」
「そうよ、背中を押すのは止めてよ」
「ああ、すまないな2人とも、ちょっと急ぎで宿に戻りたくなってな」


俺がこの世界に来たばかりの頃、若かったから色々やっていて、昔の仲間に会う事は避けていたんだ。
アイツが今だに探しているのは知っていて、いつもは100キロまで気の索敵をして避けていた。


「仲間の一人の近くにいれば、探知を使えない事態でも何とかなると思ったんだが、少し考えが甘かったかもしれない」


独り言をつぶやき、みんなを押すのを止めてゆっくり歩き始め、俺は昔の事を思い出していた。
みんなも聞きたそうにして来たから、少し恥ずかしいとは思ったが、話す機会と思って部屋で話し始めたんだ。


「俺はな、こことは違う世界から来たんだ」
「そ、それって」
「リューブ師匠」
「光の英雄?」
「世間ではそう言われてるな」


異世界から召喚された者は、こちらではそんな風に呼ばれていて、必ず何か大きな事を成し遂げていた。
俺の場合は魔王の討伐で、色々とやり過ぎてしまったから、名を変えて普通の冒険者をしていたと告白した。


「本当のお名前ってなんて言うんですか?」
「森澤龍って言うんだ、ここではリュウって呼ばれてた」
「リュウって・・・もしかして、神人リュウですか?」


マリューナの問いに頷き、魔王を倒して世界を救った英雄だった事を話した。
だが、魔王を倒す時、俺は仲間と別れて単騎で向かい討伐していて、その時の仲間の一人がさっき見てしまった女性の大剣使いケーオンだった。


「あの時の仲間は弱くてな、訓練する時間もなかったから、俺は単騎で向かったんだ」
「でも、世間では魔王と相打ちだったって」
「世間体を守る為だろう、PTで倒した事にした方が世界の反応が良かったし、俺も隠れるつもりだったから都合が良かった」


あの時の俺は、気を最大限に上げていて髪の色や瞳の色も違ったから、それを解除すれば見つからなかった。
それでも、問題の仲間が探しているのを知っていたから、名前も変えてずっと隠れていたんだ。


「魔王を倒してから18年経つから、油断もあったな」
「どうして隠れていたんですか?英雄ならそんな事をしなくても」
「メメル、俺は仲間を裏切って単騎で魔王に向かって行ったんだ、信じていた仲間は怒ってるだろう」


あの時、四天王が俺たちの滞在していた街に進軍していて、説得する時間もなかったから、俺は夜遅くに抜け出しそのまますべてを終わらせた。
ケーオンが今も探しているのは知っていたし、申し訳ないとは思っていたが、世界は平和だし俺の様な存在はひっそりとしているのが良いと思っていたんだ。


「昨日少し張り切り過ぎて気の調整が出来てなかったから、急に目の前に仲間がいて驚いたんだ」
「そうだったんですね、無理をしていたんですね」
「無理と言うかな、覚醒させるのはそれだけ大変なんだ」
「無理をしていたんですよね?」


メメルがかなり怒っていたので、俺はこれもみんなの為だからと強調させた。
だが、メメルだけでなく全員に詰め寄られ、どうして言わないのだと問い詰められてしまったから、俺は素直に謝ったよ。


「今日拠点探しをするのも、リューブ師匠は体調が良くないからね」
「そこまでではないぞブラヌ、11階からなら問題はない」
「でもそうしなかった・・・それって、ワタシたち全員を守れると確信を持てなかったんですよね、そういう事ですよねリューブ師匠?」
「うっ!確かに守るだけなら無理だがなメメル、みんなは訓練の為にダンジョンに行くんだ、それなら話は変わってくるんだぞ」


それを入れれば全然余裕だが、それでもダンジョンに行かなかったのは安全の為で、無理をしていた事を俺はまた謝ったよ。
師匠として情けないところを見せてしまったが、この後はそうならない様にするつもりだった。


「悪い事をしたなら謝らないといけない、俺も良い加減過去と向き合わないといけないな」
「リューブ師匠は悪くないじゃないですか、きっと平気ですよ」
「そうだと良いが、ケーオンは探すのを止めなかった最後の一人だからな」


それだけ怒っているんだろうと思っていて、だから俺は再会してビビったんだ。
そして、気の探知を今も使ってないのは、ケーオンと戦いになるかもしれない事を危惧して、出来るだけ気を残しておきたかったんだ。


「きっと、拠点探しに同行するだろうから、その時が来たらマリューナがみんなを守ってくれ」
「そんなに激しい戦いになるんですか?」
「可能性の話だ、今の俺にはそれだけ余裕がない」


他人の気を覚醒させると言うのはそれだけ大変で、あの人数はかなり無理があった。
休めば良いと思っていた俺の失策であり、責任もあるから気が済むまでケーオンの攻撃を受ける気でいた。


「し、死なないでよねリューブ師匠」
「それは無いと言いたいが、ケーオンがどれだけ怒っているかによるよブラヌ」
「ダメよ、リューブ師匠はアタシの旦那様になるのよ」
「それは先が長いな」


はははっと笑う俺だが、宿で待機していても気が気ではなく、ブレイスが迎えに来て一緒にいたのが同僚のメリッソだったからとても安堵した。
しかし、最初の物件の前に来て、その気持ちが一気に冷めてしまったよ。


「リュウ、久しぶりだな」
「ははは、随分おばさんになったなケーオン」
「ほう、誤魔化すと思ったが、開き直ったか?」
「まぁ、一目見てリュウと呼ばれたからな、もう誤魔化せないと思った」


髪も目も黒く、おまけに歳も取ってるのにダメだったと、俺は笑って返したんだが、ケーオンは背中の大剣を抜き闘気を溜めて来た。
その一撃を受けたら、今の俺でも1週間は寝込むだろうと覚悟する程で、横のみんなはかなり引きつった顔をしていた。


「ケーオン、みんなは関係ないから離れるまで待ってくれるか」
「勝手にしろ、アタシはまだ準備が出来てない」


更に闘気を溜め、昔の数倍は強いと思いながらみんなと距離を取った。
離れる俺を見てみんなは祈り始めてしまい、俺もいよいよとなったから覚悟が出来たよ。


「喋れなくなりそうだから今言う、ケーオンすまなかった」
「その謝罪、何に対してだ」
「一人で討伐に行った事と、今までずっと逃げていた事すべてだ」


俺の言葉が終わると、ケーオンの準備も終わった様で、闘気を最大に上げたままで俺に突撃して来た。
まともに受ければしばらく意識はないだろうと、目を閉じて衝撃を受けて倒れたんだが、俺の意識は刈り取られる事は無く、ダメージもそれほどではなかったんだ。


「どうなってるんだ?」


どういう訳か、倒された俺の腰にはケーオンが抱き着いていて、顔を胸にぎゅうぎゅう押し付けてきていたよ。
ケーオンの突撃は、最初に見ただけで目を閉じていたから気づかなかったが、大剣は最初の場所に捨てられていたよ。


「おいおい、ケーオンどういう事だよ」
「どうもこうもないっ!もう離さないからなリュウ」
「それは分かったが、怒ってたんじゃないのか?」
「怒っているさ、だが剣で斬り付ける様な感情があるわけじゃない、どうしてあの時一人で行ったんだ、アタシたちはそんなに頼りなかったのか?」


仲間だと思っていたのは自分たちだけかっと、絞めつけていた手を離し俺の胸を叩いて来た。
そして、ずっと探していたのはそのことを聞いた後、好きだと告白する為と言われたよ。


「俺だって好きだったよ、だからケーオンたちには死んでほしくなかった」
「確かに、あの時魔王と戦っていたら死んでいたし、四天王にすら敵わなかったよ、でも一人で行かなくても良かったじゃないか、約束しただろう」
「いいや、あの時一人で行かなければ誰かが犠牲になっていた、俺もあの時はまだまだだったからな」


仲間の4人を守りながらとか絶対に無理だったと伝えたら、頼りなくてごめんとか謝られてしまった。
魔王を倒したら結婚しようと約束したが、それを守らず勝手に出て行くような男に謝る必要はないし、済んだ事だからもういいっと、ケーオンの頭を撫でたんだ。


「相変わらずだなリュウ、もうアタシはおばさんだぞ」
「頭を撫でるのに歳は関係ないさ、撫でたいから撫でたんだ・・・それに、俺はリューブだ」
「そうだったか・・・それで、アタシの告白の答えは貰えないのか?」
「ああ~それは考えさせてくれ」


ケーオンは魅力的だし、大人でもあるから俺もかなりドキドキだが、ケーオンを受け入れない理由は他にもあって、それは俺の心の奥深くに刺さっていた。
ケーオン以外の昔の仲間も同じで、刺さっている気持ちと結婚の約束は、天秤に掛けても刺さっているモノの方が重かった。


「とはいえ、約束を守らない大人をみんなに見せるのはよく無いんだよなぁ~」
「答えは今欲しいなリューブ、拠点の選択がそれで変わるだろう」
「それはそうかもしれないがなケーオン、さすがに直ぐには決められない」
「だったら、大きめの拠点を見るぞ、アタシはもう離れないんだからな」


やれやれと思いながら、拠点は中規模のモノの中でも、施設のすっごく整った物件に決まった。
しかし、その間ずっとケーオンが俺の腕にしがみ付いて来て、マリューナたちからジッと見られていたよ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...