心を掴むのは冒険者の心得!だから俺は引退前に指導する。

まったりー

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1章 知名度アゲアゲ

1話 映像板の評判

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俺の名はリューブ、37歳独身男性で冒険者もそろそろ引退時期ではあるが、仲間を支える為に頑張っている、普通の冒険者だ。


「この場面、リーダーのケンスダに近い映像の方が良いか?」


世界に流せる情報端末、魔法映像板に投稿する映像を編集してる俺は、冒険から戻って直ぐ夕飯も食わずに机に向かって唸っていた。
映像を普通の記録玉で記録すると、遠目の視点でダンジョンでの戦いが良く見えないが、俺の紙スキルで作った映像札を使えば色々な角度から記録できたんだ。


「紙スキルで作った映像札をもう少し増やすか・・・いや、秘匿してる事もあるし、ここはあえて遠目の映像にして、ケンスダの必殺の一撃が全体から見えるようにするか」


俺の参加しているPTは、10つ星まであるランクの7つ星まで来ていて、レベルがそれほど高くないのに順調にランクを上げ、今では10つ星に匹敵する視聴率を持っていた。
秘匿している内容は俺のスキルが関係していたし、7つ星PT【ライジングランサー】は、俺のスキルが育てたと自信を持っていて、この空に浮かぶ島【ダンジョン都市ベベールド】に来て3年、今が一番大切な時期だとも思っていた。


「後は、最後にみんなでガッツポーズの映像を入れてっと」


他の都市島で出会って8年になるが、編集に使っている編集魔法板も俺の紙スキルで作った特注品で、他ではマネの出来ない代物だから、出来栄えを見て笑顔が漏れてしまった。
茶を飲んで一息し、歳を取ってロートルな俺だが、誰にもマネの出来ない特技【気功術】を使っているから辛くはなく、PT仲間のケンスダたち若いメンバーにも引けを取らないから、まだまだ現役でみんなの最高の映像を投稿すると奮起していたんだ。


「よし、ダンジョンの探索映像の編集はこんなもんだろう、早速世界に投稿だ」


この世界は空に浮かぶ島々で構成されていて、移動は空飛ぶ馬車【飛空馬車】を使い、物資などは大型の飛空馬車や飛空艇を使っていた。
その為、遠く離れた島と島で迅速に情報を得られる方法として映像板と言う映像を映せる魔道具を使っていて、色々な番組を見る事が出来、その人気を得られるのは成功者の証だった。


「さて、今回はどれだけの視聴率が取れるかな」


俺の作った専用の魔法編集紙を映像板に繋げ、送信するボタンを押してまたお茶を飲んだ。
視聴者は、俺が休憩している間にどんどんと増えて行き、PTのスポンサーをしてくれている商人たちから伝言が映像板を通して届いたんだ。


「早速新装備の話か、これはまた皆が鍛錬に力を入れないな」


良い装備を使えるのも、このダンジョン都市のある空島で人気があるからで、それにばかり頼っているみんなにはちょっと困っていた。
そんなだから、紙スキルで装備までは作ってないのに困ったものだと思いつつ、みんなに報告に向かったよ。


「レベル上げでも良いんだが、みんなはもっと下の階に進みたいから、俺の意見は聞かないからなぁ」


ダンジョン探索でピンチにでもなれば良いのだが、映像で残るからリーダーのケンスダがそれを嫌がり、ボロボロになる事は他の女性メンバーも反対だった。
ダンジョンの探索なのだから失敗はすると4人に言っても聞かず、そこだけは俺の悩みの種だったんだが、そんな俺に新たな問題が浮上したよ。


「も、もう一度言ってくれるかケンスダ?」
「あなた、耳まで耄碌したの?」
「そう言ってやるなよミューン、リューブは40越えのジジィなんだからな」
「そうだよぉ~おじじは引退するべきなんだよぉ~」


語尾を伸ばして俺を貶して来たシャルガは、早く荷物を纏めて出て行けとか言って来て、俺はさすがにイラっとしたよ。
俺はまだ37だ!っと訂正したんだが、20代のケンスダたちには関係ないようで、どうでも良いから出て行けと言うだけだった。


「俺が抜けたら映像の投稿が出来ないぞ、それでも良いのか?」
「そんな事は外部に依頼すれば良いんだ、俺たちには沢山のパトロンがいるからな」
「分かってないなケンスダ、あの映像は俺だから作れるんだぞ」
「ちがう、魔法玉に記録してるだけ」


無口の魔法士、ルルシャントが否定して来て、俺がメインで持っている魔法玉が一つであることを指摘して来た。
確かに普通の記録用魔法玉は1つしか持ってないが、サポート用に俺が紙スキルで作って使っている映像札は20枚ほどあったんだ。


「そういう事だ、だからお前の様な年寄りは、戦闘でも邪魔だし映像の華やかさが無いからいらない」
「考え直せケンスダ、じゃないと大変な事になるぞ」
「そんな事にはならない、オレたちは今乗りに乗ってるからな」
「ケンスダの言う通りだしぃ~それにぃ~じじぃは口うるさいのよぉ~」


訓練をしようといつも言っていたことをシャルガに愚痴られ、他のメンバーも睨んで来た。
みんなの為に言っていたし、俺自身は鍛錬を怠らずモンスターに攻撃されても自分で何とか対処し、そんな中で映像を残すと言う仕事をこなして来た。


「それなのにお前らは・・・ああ分かった、もう勝手にしろ、俺はもうお前たちの面倒は見ないからな」
「元から面倒なんて見て貰ってない、さっさと出て行け」
「魔法とスキルと武技のスクロールを無償で渡し、お前たちはそれのおかげで強くなったはずなんだが、その事も忘れてしまったんだな・・・ああ分かったもういい」


より良い映像を残す為に支援して来たのに、どうなっても知らないぞっと、俺はケンスダの部屋から出て怒りながら自分の部屋に戻ったんだ。
荷物を紙スキルで作った収納紙に包んでポケットに入るサイズにし、10分も経たないうちに出て行く準備を済ませたよ。


「そう言えば、あいつらに収納紙も渡していたな・・・この借り家もいつまで借りられるのかな」


映像の人気は品質が命であり、それが落ちればあっという間に変わると言うのに、何も分かってないとそそくさと部屋を出たんだ。
家を出る時、2階の窓からケンスダたちが見えたが、外にいる俺には見向きもしなかったよ。


「あれだけ言われて怒りは収まらないが、29から一緒に頑張って来たのに・・・なんだか悲しいな」


またこうなるのかっと、悲しい気持ちを抱いて歩き出したが、こういった時は酒に流すに限ると思い、俺はその足で行きつけの酒場に向かった。
しかし、酒場に入り酒を注文して待つ間、店に設置されていた大型の映像板を見て、俺の投稿した内容が流れていたが、あれだけの熱意がすっかり冷めていて悲しくなったよ。


「客が騒いでいるあれも、1つの魔法玉では無理だし、あいつらはもう迫力ある投稿も出来ない・・・まったくどうしようもないな」


魔法玉は、掲げた正面10mくらいの映像が記憶できるが、モンスターの攻撃に迫力を持たせる為、俺はあえてモンスターに接近して攻撃を受け、投稿用の映像を作っていた。
気功術のおかげでダメージは無いが、ケンスダたちでは出来ない芸当で、さらに20枚の映像札であらゆる方向から記録した映像と合わせて編集しているから、同じモンスターと視聴者は錯覚して迫力ある映像に誰もが喜んで見てくれていた。


「ケンスダたちが鍛錬してしっかりと戦えれば、次からは映像札を改良した映像折り鶴を気の力で飛ばし、より迫力ある映像を撮る予定だったが、もうそんな必要もないな」


俺の努力も知らずあれだけ言ってもダメだったし、スポンサーが減っていく未来が見えたんだが、注文した酒を受け取り一気に飲み干してガッカリした。
お代わりとつまみを注文すると、顔見知りの店員に心配され、今日はどうしたのかと声を掛けて貰ったよ。


「ありがとうマリアナ、ちょっと嫌な事があってな」
「リューブさんにしては珍しいね、アタシで良ければ相談に乗るよ」
「ああ・・・実はライジングランサーをクビになってな」
「え?・・・嘘でしょ」


つまみを出しながら驚かれ、俺はつまみを掴んで口に放り込んで【モグモグ】と口を動かしながら頷いた。
本当の事と分かって酒を注ぐ手が止まっているマリアナは、俺の催促でやっと酒を注いでくれたが、まだ信じてない様子だった。


「信じられない、本当なの?」
「ああ・・・だからかなりショックでな」
「それはそうでしょう、あの人たちバカじゃないの」
「俺もそう思うが、俺といるのが嫌とか、なかなかひどい文句を言われてな」


はははっと笑いながらも、俺の目からは涙が零れて来てしまい、マリアナに心配されるからグラスを勢いよく上げ、酒を一気に飲んで誤魔化したよ。
だが、マリアナは分かっていたのかさらに心配してくれて、奢りと言って新たに酒を注いでくれた。


「ありがとうマリアナ」
「アタシにはこれくらいしか出来ないから・・・それで、これからリューブさんはどうするの?」
「そうだなぁ・・・仲間を新たに作るのも難しいからなぁ」


歳を取っているから勧誘は来ないし、俺個人の知名度は無いに等しいから、俺一人が誘っても断られるのは分かっていた。
それに、ケンスダたちの様に嫌われるのも嫌なので、仲間を作らずに出来る仕事を探すとマリアナに伝えたよ。


「それなら、ここで働いてみる?アタシは大歓迎よ」
「酒場のバーテンか・・・マリアナのお誘いは嬉しいが、俺にはちょっとな」
「そう言うと思ったわ・・・だったら、一人で出来る何かをするしかないのね」
「そうなんだが、冒険者しかやった事がないからな」


それ以外何も出来ないと酒を飲んで考えたが、マリアナが映像の編集も出来ると提案してくれた。
編集が出来ても、一人でダンジョンの奥深くは難しいと返したんだが、マリアナは違う考えを持っていて俺はそれしかないと思ったよ。


「新人用の訓練映像か」
「そうよリューブさん、それならあいつらもリューブが正しかったことが分かるし、人気が上がれば見返す事も出来るわ」
「そうだな、ちょっとやってみるよマリアナ」


お礼を言ってマリアナに酒を奢り、その日は朝まで飲んで酒場で目を覚ましたよ。
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