121 / 132
4章 1年3学期
121話 お兄様に会いたくて
しおりを挟む
「ここが、アタシの産まれた村」
アタシことスージィは、ある理由でこの産まれ故郷の村を目標に、一人で旅をしてきました。
「そして、ここがお兄様の産まれた家」
懐かしさも感じない村を歩き、アタシは目的の場所に着きました。
村はそれほど大きくなかったし、丘の上にある家と聞いてたから直ぐに分かったんです。
「でも、教えて貰えるかな」
この家がアタシの産まれた家という訳ではなく、腹違いのお兄様の実家で、アタシの元の家は、既に通り過ぎていて、そこが目的地じゃありません。
この家には、今もお兄様の母親がいて、アタシはお兄様の居場所を聞きに来ました。
「でも、聞かないと始まらない」
ドアの前で、ノックをする体勢のままで、アタシは動かず止まってしまいます。
アタシの父は、この家の女性を裏切って、アタシの母さんの家に来ていました、そしてアタシが生まれると、家を出て行き、アタシと母さんまで見捨てました。
だから、きっと恨まれてるんです。
「やっぱり怖い・・・でも、アタシは会って見たい」
ここで恨まれ、殺されても教えて欲しい、そう思う程にアタシはお兄様に会いたいんです。
アタシの育った村を救い、影の英雄と呼ばれてるお兄様に会いたい。だから覚悟を決めてノックしました。
「は~い」
「うっ!?優しそうな声」
家の中から、とても穏やかそうな声が聞こえ、アタシはかなり緊張が高まったわ。
こんなに優しそうな声の人が、アタシを見てなんて思うのか、とても怖くなったんです。
「あら、どなたかしら?」
「こ、こんにちは」
一言しか言えなかったアタシは、下を向きその先には進めませんでした。
そんなアタシを見て、家の中に招いてくれたんです。とてもやさしく、それでいて綺麗な人で、あたしは怒りが沸き上がって来ました。
「こんな人がいるのに、他の女性に手を出すなんて・・・お父さんはひどい人なのね」
お茶を用意してもらってる間、アタシは観察をして再確認しました。
アタシたちを捨てたあの男は、やっぱりそう言った奴で、ひと目見たいと思っていた気持ちは吹き飛びました。
「さて、ここにどういった用事かしら?」
「あの・・・その」
「そう、言いにくい事なのね」
「すみません・・・でも言います。アタシはスージィと言って、ここにいた男性と他の女性の間に生まれた子供です」
アタシは敢えて隠さずにそのまま伝えます。こうすれば相手は直ぐに理解して、それに怒りを表せば怒られて終わるからです。
それでもお兄様の居場所だけは聞きたい、アタシがここに来た理由はそれだと伝えます。
「そう、あなたはアレシャスに会いたいのね」
「はい、会ってお礼を言いたいんです」
「分かったわ・・・でも、ワタシの知ってる場所は訓練施設だから、きっともういないわよ」
「それでも良いです。その先はまた探します」
女性は怒りもしないで、笑顔でアタシに教えてくれました。
アタシの旅は、まだまだ続くのが確定したのだけど、どうしてそんなに嬉しそうなのか気になって仕方なかった、だから聞いたんです。
「どうして教えてくれるんですか?それも、そんなに嬉しそうに」
「そうね、変よね・・・ワタシは嬉しいのよ、あなたは家族を想って動いている。それは、ワタシがあの子の母親として出来なかった事なのよ」
母親として、何もしてあげられなかったと、凄く後悔している事を教えてくれました。
とても悲しそうな顔で、今までの笑顔との差が凄かったです。
「一緒に行きませんか?」
「それはダメよ、この国の規則に反してしまうわ。それにね・・・あの子に手紙を送っても、向こうからは手紙も届かないから、きっと恨んでるんだわ」
「そんな!?」
母親として何もしてないのだから当然っと、涙が零れたのが見えました。
そこまで思っていても何も出来ない、この人は今までずっとそれを抱えて生きて来たんだと、アタシは凄いと感じましたよ。
「同時に、あの男はダメすぎ、もうお父さんなんて呼ばない!」
こんな女性の残し、あの男はアタシの母さんと浮気をして、更には姿をくらませた。
あの男も探してもいたアタシは、母さん以外にも女を作っていた事が分かったの。
お兄様の様な、優秀なダンジョンヒューマンを生ませようとしたのよ。ほんとに最低!!テーブルを叩いて怒ってしまいました。
「行きましょうマイナさん、ここにいてはダメです」
「でも規則が」
「そんなのはどうとでもなります!会わないでも近くにいれば、それだけでお兄様も気持ちが軽くなりますよ」
マイナさんは、そうかしら?っと不思議そうです。
でも、アタシはそう思うし、お兄様だって絶対そうです。
「家族は一緒にいるのが良いです」
「あなた・・・もしかしてご両親を?」
「はい・・・母さんは、アイツがいなくなったショックで」
何もかもあいつが悪い、そう思わない日はありません。
だから、アタシはお兄様に会いたいんです。
「たいへんだったのねスージィ」
「いえ、アタシよりも、マイナさんの方が」
マイナさんは、椅子から立ち上がり、アタシを抱きしめてくれた。
母さんの様に暖かくて、とても安心できた、だからお兄様にも必要だと、確信しましたよ。
「じゃあ行きましょう」
「分かったわ、支度をしたら明日にでも出ましょう」
マイナさんの説得が終わり、夕飯の支度を始めたアタシたちですけど、そこで家の扉をノックする人が現れたんです。
アタシは、なんだかイヤな予感がして怖くなったけど、マイナさんは扉を開けます。
「あ、あなた!?」
「よう久しぶりだなマイナ」
あの男が突然現れ、家の中にドカドカと入って来たんです。
アタシを見ても知らん顔で、さっきまで座ってた椅子にドカッと腰を下ろしたわ。
「な、何しに来たのよ!」
「誰だお前、ここは俺の家だ、何しに来たもないんだよ」
「い、今までいなくなってたくせに、あなたのせいで母さんは」
そこまで言っても、男は興味がないみたいで、持っていた酒瓶を口にします。
容姿もひどい物で、こんなの人の血が半分も流れていると思うと、アタシは嫌になりました。
出て行けと言いたいけど、怖くて声にならなかったアタシを、マイナさんは抱きしめてくれました。そしてあの男に言ってくれたんです。
「勘違いしないでケビン、ここはもうあなたの家じゃないわよ。出て行ってくれるかしら」
「何だとマイナ、誰のおかげでこんな良い生活が出来てると」
「ワタシは良い生活なんてしてないわよ。食事も最低限だし、ワタシの愛した子供はここにはいない、これのどこが良い生活なのよ」
早く出て行って!マイナさんの心からの叫びに、男もさすがに立ち上がり帰ろうとします。
でも、ドアノブを掴んで扉を開けたと思ったら、途中で止まって振り向き、酒瓶を振り上げて来たわ。
「思い出したぞ!そのガキ、他の女と作ったガキだ。マイナ、お前が裏で手を回してたんだな」
訳の分からない事を言い始め、酒瓶は振り下ろされます。
マイナさんに当たったら怪我をする、それが分かって、アタシはマイナさんの身体をぎゅっとしたんです。
「ぐわっ!!」
マイナさんの叫び声が聞こえると思っていたアタシは、アイツの声がして、あれ?っと思いました。
目を開けて、アイツのいた場所に向けると、メイド服を着た人が立っていて、アイツは家の端に倒れ込んでいました。
「扉が開いているから何事かと思えば、女性に手を挙げる重罪の現場に出くわすとは、夢にも思いませんでしたよ」
「ぐ、ぐぅ~・・・な、何しやがる」
倒れたままで、アイツはメイドさんを睨みますが、メイドさんはため息を付いて、アタシたちの方に振り返り笑顔を見せてくれます。
「たいへんでしたね、もう大丈夫ですよ」
「あ、あの、あなたは」
「わたくしはダリアと申します。アレシャス様の専属メイドになる為に、国のお仕事を辞めたメイドですわ」
ニッコリと宣言されて、アタシとマイナさんはビックリを通り越し、ぼ~っとしてしまいます。
そこにアイツが起き上がり、酒瓶を振り上げて来たんですが、ダリアさんがスカートの下に隠していた、数本のナイフを投げ、アイツは壁に縫い付けられたんです。
「す、すごい!?」
「これくらい当たり前ですよお嬢様・・・それで、あなた様がアレシャス様のお母様ですね」
マイナさんに跪いたダリアさんは、ほんとに綺麗で見惚れてしまいました。
誰かに敬意を見せると言うのは、こうあるべきと伝わって来たんです。
「ああ、頭を上げてください!ワタシはそんな事をされる立場では」
「いえ、これはわたくしの決意の証なのです。あなたの息子様であるアレシャス様には、とても助けられ感謝しているんです」
「それならワタシではなく、息子のアレシャスに」
「それは当然です。ですがお母様にも尽くすのは当然ですわ」
ダリアさんのお話を聞いている間に、いつの間にか、アイツは他のメイドさんにより拘束されていました。
他にもメイドさんがいたの?とも思いましたけど、ダリアさんの仲間なので当然と答えを出したんです。
そして、落ち着く為にも椅子に座って状況をお話すると、ダリアさんは静かに怒り始めます。
「道を踏み外した哀れな男、アレシャス様とは偉い違いですね」
落ち着いている様に見えるけど、目が燃えている様で怖かったです。
事情をある程度話すと、今度はダリアさんの番になり、どうしてここにいるのかを聞きました。
「先ほども申しましたが、アレシャス様のメイドになる為に王都に向かっている途中で、こちらにはお母様をお迎えに来ました」
「わ、ワタシですか!?」
「はい、アレシャス様は訓練施設で、お母さまを幸せにしたいと、いつも言っていました」
それはウソだと、マイナさんは取り乱しました、いままで落ち着いた感じがウソの様になり、お兄様に恨まれてると、さっきの話を語ったんです。
「お母様、平民からなら当然の事ですよ、その程度では、アレシャス様は怒りもしません」
「で、でも、手紙を送ってても、返事は届かないんでよ」
「それはそうです、全て止められますからね」
ダリアさんは、そう言ってポケットから手紙の束を出して、テーブルに置いてニッコリします。
その手紙は、お兄様がマイナさんに書いた物だったんです。
「アレシャス様も知らなかった事ですが、手紙は途中で処分されます。だからわたくしは、アレシャス様の手紙を送らずに保管していました」
訓練施設で書かれた手紙が山に積まれ、ダリアさんは、これでも恨まれてますか?っと質問してきます。
手紙の量からも分かりますけど、そんな事は絶対ないと、アタシは確信しましたね。
「ですのでわたくしたちは、アレシャス様の幸せの為に迎えに来たのです」
一緒に王都に行きましょうと、ダリアさんに提案されて、アタシとマイナさんは戸惑います。
お兄様がいる場所が分かって嬉しいですけど、さすがに王都に行けば知られてしまいます。
「強制的に離されますよ」
「それには及びません、わたくしたちがいれば何とかなります」
「「えっ!?」」
「わたくしたちは、アレシャス様の専属メイドですよ、只者ではないのです。それに・・・きっとアレシャス様がなんとかしてくれますわ」
お兄様に迷惑が掛かる、そう思ったアタシは、反対しようと口を開きます。でも、その話をしていたダリアさんの表情を見て止めたんです。
彼女は満面の笑みを浮かべていて、お兄様の喜ぶ顔しか見えてません。
「それでお兄様が喜ぶんですか?」
「そうですよ、あなたも近くで接していれば分かるようになります・・・っと言うか、あなたは何者ですか?」
そう言えば、お兄様もアタシを知らないのを忘れていました。
自己紹介の後、ダリアさんは更に笑顔を上げてくれたけど、どことなく怖さが加わったように見えました。
これでお兄様は喜ぶのか、正直不安でしたけど、とても強い味方が出来て頼もしかったです。
次の日、アタシとマイナさんは、メイドさんたちと旅に出発しました。そこでは訓練施設でのお兄様のお話が聞けて、とても楽しい物でしたよ。
アタシことスージィは、ある理由でこの産まれ故郷の村を目標に、一人で旅をしてきました。
「そして、ここがお兄様の産まれた家」
懐かしさも感じない村を歩き、アタシは目的の場所に着きました。
村はそれほど大きくなかったし、丘の上にある家と聞いてたから直ぐに分かったんです。
「でも、教えて貰えるかな」
この家がアタシの産まれた家という訳ではなく、腹違いのお兄様の実家で、アタシの元の家は、既に通り過ぎていて、そこが目的地じゃありません。
この家には、今もお兄様の母親がいて、アタシはお兄様の居場所を聞きに来ました。
「でも、聞かないと始まらない」
ドアの前で、ノックをする体勢のままで、アタシは動かず止まってしまいます。
アタシの父は、この家の女性を裏切って、アタシの母さんの家に来ていました、そしてアタシが生まれると、家を出て行き、アタシと母さんまで見捨てました。
だから、きっと恨まれてるんです。
「やっぱり怖い・・・でも、アタシは会って見たい」
ここで恨まれ、殺されても教えて欲しい、そう思う程にアタシはお兄様に会いたいんです。
アタシの育った村を救い、影の英雄と呼ばれてるお兄様に会いたい。だから覚悟を決めてノックしました。
「は~い」
「うっ!?優しそうな声」
家の中から、とても穏やかそうな声が聞こえ、アタシはかなり緊張が高まったわ。
こんなに優しそうな声の人が、アタシを見てなんて思うのか、とても怖くなったんです。
「あら、どなたかしら?」
「こ、こんにちは」
一言しか言えなかったアタシは、下を向きその先には進めませんでした。
そんなアタシを見て、家の中に招いてくれたんです。とてもやさしく、それでいて綺麗な人で、あたしは怒りが沸き上がって来ました。
「こんな人がいるのに、他の女性に手を出すなんて・・・お父さんはひどい人なのね」
お茶を用意してもらってる間、アタシは観察をして再確認しました。
アタシたちを捨てたあの男は、やっぱりそう言った奴で、ひと目見たいと思っていた気持ちは吹き飛びました。
「さて、ここにどういった用事かしら?」
「あの・・・その」
「そう、言いにくい事なのね」
「すみません・・・でも言います。アタシはスージィと言って、ここにいた男性と他の女性の間に生まれた子供です」
アタシは敢えて隠さずにそのまま伝えます。こうすれば相手は直ぐに理解して、それに怒りを表せば怒られて終わるからです。
それでもお兄様の居場所だけは聞きたい、アタシがここに来た理由はそれだと伝えます。
「そう、あなたはアレシャスに会いたいのね」
「はい、会ってお礼を言いたいんです」
「分かったわ・・・でも、ワタシの知ってる場所は訓練施設だから、きっともういないわよ」
「それでも良いです。その先はまた探します」
女性は怒りもしないで、笑顔でアタシに教えてくれました。
アタシの旅は、まだまだ続くのが確定したのだけど、どうしてそんなに嬉しそうなのか気になって仕方なかった、だから聞いたんです。
「どうして教えてくれるんですか?それも、そんなに嬉しそうに」
「そうね、変よね・・・ワタシは嬉しいのよ、あなたは家族を想って動いている。それは、ワタシがあの子の母親として出来なかった事なのよ」
母親として、何もしてあげられなかったと、凄く後悔している事を教えてくれました。
とても悲しそうな顔で、今までの笑顔との差が凄かったです。
「一緒に行きませんか?」
「それはダメよ、この国の規則に反してしまうわ。それにね・・・あの子に手紙を送っても、向こうからは手紙も届かないから、きっと恨んでるんだわ」
「そんな!?」
母親として何もしてないのだから当然っと、涙が零れたのが見えました。
そこまで思っていても何も出来ない、この人は今までずっとそれを抱えて生きて来たんだと、アタシは凄いと感じましたよ。
「同時に、あの男はダメすぎ、もうお父さんなんて呼ばない!」
こんな女性の残し、あの男はアタシの母さんと浮気をして、更には姿をくらませた。
あの男も探してもいたアタシは、母さん以外にも女を作っていた事が分かったの。
お兄様の様な、優秀なダンジョンヒューマンを生ませようとしたのよ。ほんとに最低!!テーブルを叩いて怒ってしまいました。
「行きましょうマイナさん、ここにいてはダメです」
「でも規則が」
「そんなのはどうとでもなります!会わないでも近くにいれば、それだけでお兄様も気持ちが軽くなりますよ」
マイナさんは、そうかしら?っと不思議そうです。
でも、アタシはそう思うし、お兄様だって絶対そうです。
「家族は一緒にいるのが良いです」
「あなた・・・もしかしてご両親を?」
「はい・・・母さんは、アイツがいなくなったショックで」
何もかもあいつが悪い、そう思わない日はありません。
だから、アタシはお兄様に会いたいんです。
「たいへんだったのねスージィ」
「いえ、アタシよりも、マイナさんの方が」
マイナさんは、椅子から立ち上がり、アタシを抱きしめてくれた。
母さんの様に暖かくて、とても安心できた、だからお兄様にも必要だと、確信しましたよ。
「じゃあ行きましょう」
「分かったわ、支度をしたら明日にでも出ましょう」
マイナさんの説得が終わり、夕飯の支度を始めたアタシたちですけど、そこで家の扉をノックする人が現れたんです。
アタシは、なんだかイヤな予感がして怖くなったけど、マイナさんは扉を開けます。
「あ、あなた!?」
「よう久しぶりだなマイナ」
あの男が突然現れ、家の中にドカドカと入って来たんです。
アタシを見ても知らん顔で、さっきまで座ってた椅子にドカッと腰を下ろしたわ。
「な、何しに来たのよ!」
「誰だお前、ここは俺の家だ、何しに来たもないんだよ」
「い、今までいなくなってたくせに、あなたのせいで母さんは」
そこまで言っても、男は興味がないみたいで、持っていた酒瓶を口にします。
容姿もひどい物で、こんなの人の血が半分も流れていると思うと、アタシは嫌になりました。
出て行けと言いたいけど、怖くて声にならなかったアタシを、マイナさんは抱きしめてくれました。そしてあの男に言ってくれたんです。
「勘違いしないでケビン、ここはもうあなたの家じゃないわよ。出て行ってくれるかしら」
「何だとマイナ、誰のおかげでこんな良い生活が出来てると」
「ワタシは良い生活なんてしてないわよ。食事も最低限だし、ワタシの愛した子供はここにはいない、これのどこが良い生活なのよ」
早く出て行って!マイナさんの心からの叫びに、男もさすがに立ち上がり帰ろうとします。
でも、ドアノブを掴んで扉を開けたと思ったら、途中で止まって振り向き、酒瓶を振り上げて来たわ。
「思い出したぞ!そのガキ、他の女と作ったガキだ。マイナ、お前が裏で手を回してたんだな」
訳の分からない事を言い始め、酒瓶は振り下ろされます。
マイナさんに当たったら怪我をする、それが分かって、アタシはマイナさんの身体をぎゅっとしたんです。
「ぐわっ!!」
マイナさんの叫び声が聞こえると思っていたアタシは、アイツの声がして、あれ?っと思いました。
目を開けて、アイツのいた場所に向けると、メイド服を着た人が立っていて、アイツは家の端に倒れ込んでいました。
「扉が開いているから何事かと思えば、女性に手を挙げる重罪の現場に出くわすとは、夢にも思いませんでしたよ」
「ぐ、ぐぅ~・・・な、何しやがる」
倒れたままで、アイツはメイドさんを睨みますが、メイドさんはため息を付いて、アタシたちの方に振り返り笑顔を見せてくれます。
「たいへんでしたね、もう大丈夫ですよ」
「あ、あの、あなたは」
「わたくしはダリアと申します。アレシャス様の専属メイドになる為に、国のお仕事を辞めたメイドですわ」
ニッコリと宣言されて、アタシとマイナさんはビックリを通り越し、ぼ~っとしてしまいます。
そこにアイツが起き上がり、酒瓶を振り上げて来たんですが、ダリアさんがスカートの下に隠していた、数本のナイフを投げ、アイツは壁に縫い付けられたんです。
「す、すごい!?」
「これくらい当たり前ですよお嬢様・・・それで、あなた様がアレシャス様のお母様ですね」
マイナさんに跪いたダリアさんは、ほんとに綺麗で見惚れてしまいました。
誰かに敬意を見せると言うのは、こうあるべきと伝わって来たんです。
「ああ、頭を上げてください!ワタシはそんな事をされる立場では」
「いえ、これはわたくしの決意の証なのです。あなたの息子様であるアレシャス様には、とても助けられ感謝しているんです」
「それならワタシではなく、息子のアレシャスに」
「それは当然です。ですがお母様にも尽くすのは当然ですわ」
ダリアさんのお話を聞いている間に、いつの間にか、アイツは他のメイドさんにより拘束されていました。
他にもメイドさんがいたの?とも思いましたけど、ダリアさんの仲間なので当然と答えを出したんです。
そして、落ち着く為にも椅子に座って状況をお話すると、ダリアさんは静かに怒り始めます。
「道を踏み外した哀れな男、アレシャス様とは偉い違いですね」
落ち着いている様に見えるけど、目が燃えている様で怖かったです。
事情をある程度話すと、今度はダリアさんの番になり、どうしてここにいるのかを聞きました。
「先ほども申しましたが、アレシャス様のメイドになる為に王都に向かっている途中で、こちらにはお母様をお迎えに来ました」
「わ、ワタシですか!?」
「はい、アレシャス様は訓練施設で、お母さまを幸せにしたいと、いつも言っていました」
それはウソだと、マイナさんは取り乱しました、いままで落ち着いた感じがウソの様になり、お兄様に恨まれてると、さっきの話を語ったんです。
「お母様、平民からなら当然の事ですよ、その程度では、アレシャス様は怒りもしません」
「で、でも、手紙を送ってても、返事は届かないんでよ」
「それはそうです、全て止められますからね」
ダリアさんは、そう言ってポケットから手紙の束を出して、テーブルに置いてニッコリします。
その手紙は、お兄様がマイナさんに書いた物だったんです。
「アレシャス様も知らなかった事ですが、手紙は途中で処分されます。だからわたくしは、アレシャス様の手紙を送らずに保管していました」
訓練施設で書かれた手紙が山に積まれ、ダリアさんは、これでも恨まれてますか?っと質問してきます。
手紙の量からも分かりますけど、そんな事は絶対ないと、アタシは確信しましたね。
「ですのでわたくしたちは、アレシャス様の幸せの為に迎えに来たのです」
一緒に王都に行きましょうと、ダリアさんに提案されて、アタシとマイナさんは戸惑います。
お兄様がいる場所が分かって嬉しいですけど、さすがに王都に行けば知られてしまいます。
「強制的に離されますよ」
「それには及びません、わたくしたちがいれば何とかなります」
「「えっ!?」」
「わたくしたちは、アレシャス様の専属メイドですよ、只者ではないのです。それに・・・きっとアレシャス様がなんとかしてくれますわ」
お兄様に迷惑が掛かる、そう思ったアタシは、反対しようと口を開きます。でも、その話をしていたダリアさんの表情を見て止めたんです。
彼女は満面の笑みを浮かべていて、お兄様の喜ぶ顔しか見えてません。
「それでお兄様が喜ぶんですか?」
「そうですよ、あなたも近くで接していれば分かるようになります・・・っと言うか、あなたは何者ですか?」
そう言えば、お兄様もアタシを知らないのを忘れていました。
自己紹介の後、ダリアさんは更に笑顔を上げてくれたけど、どことなく怖さが加わったように見えました。
これでお兄様は喜ぶのか、正直不安でしたけど、とても強い味方が出来て頼もしかったです。
次の日、アタシとマイナさんは、メイドさんたちと旅に出発しました。そこでは訓練施設でのお兄様のお話が聞けて、とても楽しい物でしたよ。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。


積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる