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3章 1年1学期後半

72話 ここがダンジョン?

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どうなっているんだ?それが俺の感想だった。
それはみんなも同じだろうが、ここはほんとに死闘を繰り広げるダンジョンなのかと疑問しか生まれない。


「空には太陽があって、浜辺がとても綺麗だ」


今俺たちはアレシャスのバカンスダンジョンに来ている。
空は青く雲一つない青空で、海の様な湖が広がっている。


「なぁモンドル、これは夢なのだろうか」
「そうだなサイラス、ここは天国だろうな」


俺の見ている方角とモンドルは違っていて、応えが違うと俺もモンドルの視線に合わせると、そこには水着を着ているシェネルたちがいた。
いつものローブとは違い、身体のラインが良く分かってドキッとした。


「確かに天国だな」
「ああ、あれは良い物だ」


モンドルが天国と言ったのも頷けた。
俺も見とれてしまい、水場で遊ぶ為の道具を落としてしまった。


「いやそうではなくて、ここはダンジョンなんだぞモンドル」
「良いじゃないかサイラス、ここは楽しもうぜ」


休みの為に来たのだからとモンドルは言うが、俺は気になって仕方ない。
シェネルたちの姿と同じくらいと言っても良い今の状況はおかしいのだ。


「モンドル、お前は気にならないのか」
「気にならないわけないだろサイラス。だけど今日はバカンスを楽しむために来たんだぞ」


モンドルもシェネルたちは水場で遊び始めるが、俺はそんな気持ちにはなれず、アレシャスの元に向かった。
アレシャスは呑気に椅子を倒して寝ているぞ。


「リクライニングチェアだったか?まったくお前は」
「やぁサイラス、楽しんでる?」


飲み物をストローと言う道具を使って飲んでいるアレシャスは、ほんとに呑気に返事をして来た。
メイドが俺にも飲み物を進めて来るから、受け取り飲むととても美味くて、一気に飲み干してしまった。


「さすがアレシャスの出すモノだな、美味かった」
「お褒め頂き有難うございます」


先ほどの昼食も信じられないほど美味くて、夕食も楽しみだとみんなで話していた。
しかし、ここはダンジョンであるはずのない場所なんだ。アレシャスにそこを聞くと、ニコリとするだけだった。


「笑ってる場合かアレシャス、ダンジョンヒューマンは1つしか持てないはずだ、どうして作れる」
「どうしてと言われてもね、僕は作れるんだよサイラス」


簡単に言ってくるが、そんなはずはないと反論した、複数のダンジョンを持てるダンジョンヒューマンなんて聞いた事がない。
どうしてその事を黙っているのかと、俺は信じられなかったぞ。


「この事を国が知れば、お前は確実に王族入りだ!どうして黙っている」


恐らくだが、アレシャスは保護され子孫を増やす事に専念する事になるだろう。
これが継承出来れば、この国は更に繁栄するだろう。それほどの事だと俺は伝えたんだ、しかしアレシャスは嫌そうな顔をする。


「どうしてそんな顔をするアレシャス。これは王族になるチャンスだぞ」


国が知れば、最初の相手は王族との結婚活動だろう。そうなれば王族よりも上の存在と言っても良い程の待遇が約束される。
どうしてそれを拒むのか理解できなかった。前にもアレシャスは言っていたが、どうしても理解できない、アレシャスは天才と言う奴なんだろう。


「天才って、言い過ぎだよサイラス」
「複数持てるのは才能だぞアレシャス、それだけでも子孫を残すには十分だ」


今すぐ報告すべきと伝えると、今までで一番嫌そうな顔をして来た。
のんびりと過ごしたいとアレシャスは言うが、これは国の重大事件でそれどころではない。


「俺たちが報告するとは思わなかったのか?」
「思わないから招待したんだ、サイラスたちは義理堅いからね」


にこやかなのが黒くなっていく感じを受けるが、報告をしないのは当たっている。
本人が嫌がっているんだ、そんな事を恩人にさせるわけにはいかない。


「どうしても嫌なのか?」
「のんびり過ごせるなら良いけど、立場上それは無理だからね」


決意は固そうで、だから説得をしているわけだが、どうせその内世間に知られるだろうと諦めたよ。
アレシャスのダンジョンはそれだけすごい、だから俺も焦らずにいる、専属騎士になった俺たちはそれに従うだけだ。


「しかしなアレシャス、あれを見てもイヤなのか?」


シェネルたちをダシに使わせてもらう作戦を考えた俺だが、アレシャスは可愛いねぇっと、軽く返してくるだけだ。


「寝取りたいとか思わんのかお前は」
「思わないね、みんな可愛いけどそんな風には見てない」


どうしてそんな反応が返ってくるんだと突っ込んだが、俺たちの視線に気づいたのかシェネルたちがこっちに来る。


「サイラス何をしていますの?」
「シェネル、サイラスが遊び方を分かってないみたいなんだ、良かったら教えてあげて」



シェネルを使ったのは、俺ではなくアレシャスも同じだった。
シェネルに手を引っ張られ俺は水場に向かうが、その中にモンドルもいるのは気になったぞ。


「美味ですわね」
「こっちも美味しいですよ」
「アタシはこの甘いのが好きです」


困っていたのは最初だけで、俺もここの楽しさに負け遊びつくした。
水場で泳いだり、シェネルたち飲み物を飲んだりと楽しんでしまったんだ。


「ここが天国か、確かに当たっているかもしれない」


1人で呟いてしまったが、何も考えず遊ぶ事がこんなにも楽しいとは知らなかった。
もしかしたら、アレシャスはこんな日常を過ごしたいのかもしれない。
そんな考えが浮かんだが、アレシャスはメイドとイチャイチャしていた。あれもそうなのかと思うが、それは分からない。


「使用人と親しくか、あれも楽しい事に繋がっているのかもしれないな」


日常を楽しく、きっとそれがアレシャスの求めている事なんだ、俺たちとは違うのかもしれない。
それが分かれば俺も楽しめるかもしれない、シェネルたちと遊んでそう思うようになった。


「美味いですわね、シャンティこれはなんて料理ですの?」
「これはですね、カルパッチョと言って、新鮮なお魚の料理なんですよシェネルさん」
「生がこれほどなのですわね、とても美味しいですわ」


メイドの獣人といつの間には仲良くなり、親しそうに話しているシェネルたちを見て、俺はそれに気づいた。
その場を楽しむのに爵位は関係なく、逆に邪魔にしかならない。
みんなが平等で楽しく過ごせるこの時間は、胸の奥が暖かくなりホッとした。これがアレシャスの欲している事だと理解したよ。


「普通の生活か・・・悪くないな」


アルコールの入っていないワインを飲み、俺もそれに従うと決めた。
今日ここから、本当の騎士契約を決めたんだ。どんな事があってもアレシャスを守ると誓い、本人にも伝えた。
アレシャスはそれを受け、とても晴れやかな笑顔をして来た。


「サイラス、それを決めるのはまだ早いよ、卒業までまだまだあるんだ」
「そうだが、俺の考えはきっと変わらない。前なら違っただろうが、ここにきて分かったよ、恐らくみんなも同じだ」


モンドルもシェネルたちも笑顔を絶やさず、変わったのが分かった。


「アレシャス、俺たちはお前に会うまでは性格で問題視されていた。しかし今は嘘の様に変われたん」


あの時の俺たちは、肩の力が入り過ぎていた、それだけ俺たちも爵位を気にしていたんだ。
アレシャスと一緒にいて、それが重要ではないのが分かった。それが良かったんだと確信し、感謝しても足りない恩を感じているんだよ。


「俺は誓うぞアレシャス、この事は死んでも言わない」
「それは違うよサイラス」


命を賭けて仕える主を守るのが騎士の務めだ。しかしアレシャスは否定してきて、悲しそうな顔をしてくる。
秘密よりも大切な物があり、そっちを守る様に言ってきて、俺たちが大切だと真剣な顔で言われた。


「しかしだなアレシャス」
「僕は皆がいなくなるのは嫌だよ。それが自分の秘密の為とかもっと嫌だっ!だからねサイラス、抵抗しないで言ってくれて構わない、これは僕からの命令だよ」


主に尽くすとか、国を大切にする誓いは聞いた事があるが、逆は初めて聞いた。
そしてその言葉がとても心に響いて、俺はアレシャスの前に跪いていた。


「ちょっ、ちょっとサイラス!?」
「アレシャス、お前はやっぱりすごい奴だ、だから俺はお前について行くぞ」


世間は否定しているが、きっとその内分かるだろう。俺が今理解した様に、きっとその内世界が変わる、そんな気がしてならないが、今はまず食事を楽しみたい。
アレシャスの一押しを聞き、楽しくて暖かな食事を始めた。これが世界に広がれば、きっとそこは笑顔の絶えない場所になる、アレシャスが変えてくれると信じて疑わなかったよ。
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